勝負万年筆のケース

勝負万年筆のケース
勝負万年筆のケース

勝負万年筆を作りなさいとある人がアドバイスしてくれました。

その言葉にどんな根拠があってどんな意図があるのかは別として、それはなるほどと思い当たることがありました。
常用している13本の万年筆は字幅の細いものだけに手帳用という役割はありますが、どれを使うかというのはその時の気分次第で、どの万年筆が13本の万年筆の中の主役なのかはっきりしていませんでした。

そんな万年筆への対し方は色々な事への反省であって、ひとつひとつのことに対して、自分の意図や狙いを明確に伝えてはっきりさせなくてはいけない。
その第1歩が勝負万年筆を作るということなのだと思いました。
勝負万年筆というと、万年筆1本だけ持って出るという状況で選ばれるべきもので、ただ気持ちよく書けるということだけでなく、自分の精神的な支えになってくれる杖のような役割も担っているはずです。

万年筆を持って出るというふうに考えた時に、私は旅に出るということを考えます。長期間の旅に出る時に私がその1本だけを持って出ようと思うものは、インクがたくさん入って、タフな性能を持った大きな万年筆です。

ペリカンM1000、モンブラン149、デルタピストンフィリングなどの万年筆は、大きいけれど私は自宅の机のみで使おうとは思わない。
小さなペンは携帯に向いていてポケットに差し易いけれど、小さいので作りが繊細です。それに対して大きなペンはインクはたくさん入るし、頑丈にできている。そして何よりも守り刀然としている。

支えてくれるだけでなく、自分の身を守ってくれる短刀に近い存在が前記の大きな万年筆です。
そしてそういった勝負万年筆は胸ポケットに差したりするものではなく、ペンケースに収めて持ち出すことは、皆様感覚的に分かっていただけると思います。

ペンケースはペンを収納して、保護しながら持ち運ぶものですが、ただ入れ物だけの役割かというとそうではないと思います。
入れ物だとすると、最小限の大きさで最大本数の万年筆を持ち運べることがその性能になりますが、それだけではない。
自分がいかにその万年筆を大切に思っているか、そのペンケースから万年筆を取り出す所作から、自分が最も大切に思っている、書くという行為は始まっている。そういう時のペンケースは1本差しでなければならないと思いました。
それはそうで、自分の勝負万年筆が他の万年筆と一緒に入っていたら可笑しいような気がして、主役にはそれなりの場所を用意しなくてはいけない。

現在勝負万年筆を収めたいと思うペンケースをイル・クアドリフォリオの久内(きゅうない)さんが作ってくれて、6月2日(土)にお披露目予定です。

昨年末から、WRITING LAB.として久内さんたちと打ち合わせをしていて、かなり時間がかかりましたが、色々試行錯誤して下さり出来上がりました。
シガーケースタイプの1本差しペンケースで、フィレンツェ伝統のブセット(熱ゴテ)による絞り技法に、パテーヌ(色付け)したペンケースは、美しい光沢と滑らかな手触りに仕上がっています。

文字入れや特別色のオーダーもでき、それぞれの勝負万年筆に合った仕様にできるところも面白いと思っています。

*画像はサンプル画像です。入荷しましたらホームページでご案内させていただきますので楽しみにお待ち下さい。

刀匠 藤安将平の卓上小刀

刀匠 藤安将平の卓上小刀
刀匠 藤安将平の卓上小刀

私たち物作りや販売に携わる人間は、常にこういうものを見て、その姿形だけでなく、物作りの作法を肝に命じておかなければならないと思っています。

私たち販売者が作法に則ったものをお客様に紹介ければ、作法は失われていきます。
世の中何でもありで、常識にとらわれてはいけないという言い方もありますが、それは時勢など移り変わるものに対してで、物作りに対しては外してはいけない道理がありますし、守らなくてはいけない作法があります。

それらは明文化されているわけではありませんが、日本人が皆潜在的に持っている、そのDNAに刷り込まれているものなのかもしれません。

作法の姿形を知るのに伝統工芸のものは良いお手本になってくれます。それらを見ることによって、身近に置くことによって、無作法なことをしないようにしたいと思っています。
私たちは刀鍛冶の仕事をすごいと思うし、日本刀に美しさや芸術性を認めて良いイメージを持っています。

誰もが素晴らしいと思うけれど、最も生活から遠いもののひとつが日本刀だと思いますし、私も刀匠という仕事の人が存在していることにリアリティを持てませんでした。
でもその仕事を知って、後世に伝え残していかなければいけない技術だと思いました。

この卓上小刀は、正倉院にも保管されている刀子(とうす)をルーツに持つ、武士が刀とともに携帯した小柄小刀の刀身を短くし、現代でも持ち歩けるようにしたものです。
刀身は鋼の中の厳選された部分である玉鋼(たまはがね)。
朴の木(ホウノキ)の鞘の鯉口部分(鞘の入り口)は花梨、柄頭は櫨(ハゼ)、柄は黒柿の真黒と全てに最高の素材が使われています。

こういった行き届いたものを見て、触ることは万年筆を知ることにも繋がると思いました。

例えば本体を鞘に仕舞う時、コクンと鞘が本体をつかむような感触がわずかに手に伝わりますが、これはキャップの締まり具合のお手本になる。
切りやすい刃物ならカッターナイフの方が簡単に手軽に切れるかもしれませんし、手入れも刃を折って捨てるだけです。
でも何度も例えば紙を切ってコツがつかめてくると、切れ方に「味」があることが分かります。
この味を知ると今まで使っていたものがとても味気のないものに感じられる。

書きやすい筆記具ならいくらでもあるし、万年筆の中にも手軽に簡単に気持ち良く筆記できるものがあります。
でもそれらの中でも味を持っているものはどれくらいあるのだろうかと考えます。
実用的な理由があって使われる素材や製法など、万年筆作りでも考えなければならないものだと思います。

この小刀は、福島県の刀匠藤安将平(ふじやすまさひら)が鋼の鍛錬から鞘の設えまでの全ての仕事をしたもので、日本刀の技術、素材をそのままに、文房具としての刃物に仕立てたものになっています。

藤安刀匠は、人間国宝・宮入行平の高弟で、師の遺志であった日本刀が最も優れていた室町時代以前の刀「古刀」の再現を目指して日々作刀に打ち込まれています。

池波正太郎氏は「万年筆は現代人の刀だ」と言った。腰にある刀によってその武士の品格を見られたように、持っている万年筆によってその人の品格を見られる世の中であって欲しいと思うのは、万年筆店だからこその願いなのかもしれません。

でも私は真剣に、万年筆は我々現代人の刀で、我々の文化的作業である書くということをいかに大切にしているかを表す道具で、精神的には武士の刀と大きく離れてはいないと思っています。

万年筆店に刀鍛冶が作った小刀がある理由はそんな願いと、物作りの作法のお手本を身近に置いておきたいというところなのです。

粋な文房具

粋な文房具
粋な文房具

意外に感じる人もいるかもしれませんし、上手くいかないこともあるけれど、実は粋でありたいと思っています。
非常に曖昧な概念で、これが粋なのですとなかなか具体的な指し示せるものではありませんので、深く考えると哲学的な話にさえなってしまうかもしれません。

でも私が目指す粋ということをなるべく簡単な言葉で言い換えるなら、少し違うかもしれないけれどスマートでありたいというところでしょうか。
いろいろ誤解を受けたり、たまに天邪鬼と言われるけれど、それは粋でありたいという気持からだったのです。

「粋の構造」(九鬼 周造著岩波文庫)。妙な図形が描かれた表紙に、そしてその題名に惹かれて読んだ本でした。
「粋の構造」は粋という言葉を精神的に、感覚的に、外見的に定義していて、その本によると粋というのは日本語独特の言葉であって、外国にはそれに近い意味合いの言葉はありますが、しっくり当てはまる言葉がないそうです。
日本語の粋は「iki」であって、どんな言葉にも言い換えることができないのです。

赤瀬川原平氏の「無言の前衛」からの引用ですが、粋と似た存在の言葉に「渋い」という感覚がありますが、渋いという感覚もその言葉も他の言語に当てはめることができないそうです。
物の在り方、美的感覚を表現した言葉である「渋い」は粋と同じではないけれど、非常に近いところもあるのだと、日本人には感覚的に分かるようです。
渋いという美的感覚は茶道の世界で最も大切にされた感覚だと思いますが、もちろんそれ以前から存在した感覚で、日本人の精神性にだけ存在するものなのです。
生き方や態度、物腰は粋でありたいと思っているのと同じように、自分が持つものも粋な物を持ちたいと思っていますし、何か物を作る時、粋という言葉を大切にしたものを作りたいと思っています。

粋なものというのは、これもまた具体的に表現することのできないものですが、例えばWRITING LAB.で作ったサマーオイルメモノートは粋を目指したものだと思います。
装飾のない素材を切り取っただけの設えですが、その素材には実は良質で手触りの良い丁寧に作られた革が使われている、そしてそんな誰も使っていないこのメモ帳を使うことが粋だと私は思っています。

私たちが最も大切にしている書くということを粋にこなすためのものを作りたいと思ったのです。
サマーオイルメモノートのようにシンプルで飾り気がないけれど実は良い素材を使っている、強いこだわりを持って作られているけれど、こだわっていないように見せる感覚は、粋という言葉からイメージされる物を作ろうとする時に1つの大切な要素になると思います。

木の杢を愛でる感覚も粋な心持ちからくるものだと思っています。
全て整っていて、個体差のない工業製品ではなく、ひとつひとつが違っていて自分なりの見立てをして、虫食いさえ景色と見て楽しむ。

工房楔の銘木カッターナイフ。
文房具として当たり前のものであるカッターナイフを木で仕立てる。
しかもただの木ではなく、杢の美しい銘木を纏わせる。
文房具にこだわる人なら、このカッターナイフの粋さ加減を理解してくれると思っています。

それぞれの素材によって、木目が違い、杢の出方も違う。使い込んだり、丹念に磨いたりしたときの艶の出方もそれぞれ違いますので、ある特定の素材を自分のものとしてそればかりを集めたり、様々な素材の違いを楽しむために様々なものをコレクションしたりと、それぞれの人が自分なりの楽しみ方を杢に持っている。
自分なりの楽しみ方、向かい合い方をそれぞれの人が持っているというのは、杢も万年筆も同じかもしれません。

万年筆を使う、書くことを大切にする心も粋だと私は思っていますし、粋に万年筆と付き合っていきたいと思っています。

⇒WRITING LAB. サマーオイルメモノート
⇒工房楔・カッターナイフ(机上用品TOP)cbid=2557546⇒工房楔・カッターナイフ(机上用品TOP)csid=5″ target=”_blank”>⇒工房楔・カッターナイフ(机上用品TOP)

思考の道具 キャップレス

思考の道具 キャップレス
思考の道具 キャップレス

大して難しいをことを考えるわけではないためか、机に向かって考えながら書くよりも、立ったまま書く方が集中力が発揮できるような気がします。
これは立った姿勢の方が体中の血のめぐりが良いからなのではないかと思っています。
外山滋比古先生が「思考の整理学」の中で言われていた、脳も体の一部なので体の血の巡りがよくなると脳も活性化されて当然だという説を信じているということもあります。

立ったままで書くことに一番適した場所だと私が思っているのは電車の中です。
電車の中で書き物がはかどると言う人は多く、周りの人皆が知らない人なので話しかけられたりせず、思考を妨げられず書くことに集中できるからなのだと思います。

同じ理由でカフェなども書き物に適した場所なのかもしれませんが、カフェで立ったまま書き物をしているのはあまりにも奇異に見られてしまう。
そういえば最近では勉強を禁止しているカフェもあるようです。
書き物が勉強にあたるかどうか議論しても仕方なく、そういうお店ではやはり書き物はし辛い。

ちなみに電車の中で書き物をするときに車両の揺れで文字が乱れるのを気にしてはいけません。机に向かった状態と同じわけにはいかないのですから。
また、電車で座席に座ることができて、これでいつもの状態に近いコンディションで書き物ができると安心してはいけない。
例えば膝の上に机のように鞄を置いて、その上に大判のノートを広げて書こうとしても、電車の振動が紙面に伝わって非常に書きにくい。
ノートなどは手に持ったままで書く方が電車の中での書き物を少しでも快適にするための必要条件です。

立った姿勢であるいは座っていても書きやすいノートとしてWRITING LAB.のメモノートは非常に使いやすいし、私はそのためのノートだと思っています。
短い辺が綴じてある縦長で、ハガキサイズという表紙も中紙も後ろに折り返せるしなやかさのある最小のサイズ、底革は厚くしっかりしたものを使っているなど、立ったままで書くという目的のために全ての素材サイズが機能を持っている。
電車の中で立ったまま書くためには吊革を持たずに揺れに耐えられる足腰と足の位置取りも大切なことです。
無闇に踏ん張らず膝を柔らかく振動を吸収するようにする。
理想的な足の位置取りは走っている時は進む方向に向かって、止まる時や走り出す時は進行方向に垂直にすると、かなり快適に電車の中で快適に書くことができます。
足の位置を移動させることが無理なら、進行方向に対して斜めに構えるとカーブの揺れにも、発車停車のショックにも耐えられる。
ちなみにこういう時の鞄はシュルダーストラップ付に限りますね。

余計な話が続いてしまいました。
電車の中や立ったままの姿勢で使いやすいメモ帳/ノートとして、WRITING LAB.のサマーオイルメモノートがあるわけですが、同じくそのような条件で使うのに適した万年筆はパイロットのキャップレスだと多くの人も同意して下さると思います。
キャップを外さなくてもいいということは片手でノートを持った状態でも書き始めることができ、仕舞うことができる。
キャップレスシリーズは何種類かのものがありますが、それぞれ役割が違うと私は思っています。

立ったままや電車の中などで書くための携帯用にはキャップレスデシモが最適で、キャップレスが50年近い歴史の中でたどりついた答えだとさえ思えます。
スリムで軽いアルミ製のボディを採用していて、持ち歩くことが前提に考えられているのは、このキャップレスデシモだけなのです。
今まで中間の色のボディだけでしたが、黒、赤など定番売れ筋の色や極細のペン先の追加など、キャップレスデシモの商品力はかなり高まっています。

キャップレスの機能の効用は外出時だけではありません。
例えば会議や打ち合わせの席で人の話を聞いて書く、また聞いて書くということを繰り返すような時。
でもそういう席でガチャガチャと音を立ててペン先をノックして出すのが無粋だと思う人にはキャップレスフェルモがあります。

キャップレスフェルモはノックではなく、尻軸を回転させることでペン先を繰り出しますが、ノック音を出さずにスマートにペン先が出てきます。
ボディのバランスも先端に重心があって立てて筆記するのに向いているノック式のキャップレスに対して、フェルモは少し後ろに重心がありますので中心部周辺を握って寝かせて筆記する人にも向いています。
ボディカラーも落ち着いた色のものが用意されていて、思考のためという個人的な道具であるキャップレスデシモに対して、フォーマルなものに仕上がっています。

万年筆を使いだすと何でも万年筆で書きたくなりますが、すぐに書き出せる機能性が増えると、ますます万年筆を使えるシーンが多くなったと思います。

⇒パイロットキャップレス(パイロットTOPへ)cbid=2557105⇒パイロットキャップレス(パイロットTOPへ)csid=13″ target=”_blank”>⇒パイロットキャップレス(パイロットTOPへ)

Cigarのある生活 オマスのローカル色

Cigarのある生活 オマスのローカル色
Cigarのある生活 オマスのローカル色

当店5周年を記念したオリジナル万年筆“Cigar”を手に入れて1ヶ月近くが経ちましたが、毎日嬉しく使っています。

スターリングシルバーに金張りの金キャップにこだわったため、キャップの重い万年筆になりました。
どうしてもキャップをつけて書きたいと思っている私は、握る場所を色々試行錯誤の末に、首軸のグレカパターン(ラーメン模様)上辺りを握ると良いことが分かりました。

こんな表現をしていいのか分かりませんが、乗りこなすのに時間がかかる車を乗りこなせたような喜びを万年筆で味わいました。

万年筆は自動車とともにそのお国柄をよく表している製品のひとつだと思っています。そしてイタリア製の万年筆は、さらに地域性も現れていると思います。

例えばアウロラのあるイタリア北部の古都トリノは、イタリア最大の工業都市で、フィアットなど世界に名立たるイタリア企業が軒を連ねています。
アウロラの万年筆作りはイタリア製らしい美的感覚に優れたものになっていますが、インテリジェンス漂う抑えた感覚を持ったものに仕上がっていると思っていて、そこにスイス国境に近いトリノという街らしさ、半分イタリアらしく、半分スイスやドイツの物作りに似た部分が出ている。

それに対して南部ナポリにある、私が最もビジネスの上手い会社だと思っているデルタは一目で伝わる美しい色合いと形を持っています。
北部の万年筆メーカー、アウロラ、モンテグラッパにない明るさがそこにみとめられます。
大陸内にあるトリノほどではないけれど、イタリア半島の北部に位置するボローニヤにあるオマスも、北イタリアらしい物作りをしていますが、アウロラのそれとは少し感じが違います。

抑えの利いたわずかな装飾に独自の機能やこだわりを盛り込んだオマスの万年筆は、中央政府から独立した考えで独自の発展を遂げた工業都市ボローニヤの街の感じやイタリア人の機能へのマニアックなこだわりを感じ取ることができて面白いと思っています。

例えばオマスのトレードマークである12面体のボディは、机の上に置いた時に転がらないというメリットがあります。
六角形や八角形の断面を持つ万年筆は角が手に当たる感じがありますが、12面体では断面が丸のものに近い握り心地です。

角があることで、ペン先の向きが安定するというのもメリットで、角数が多いとその微調整が利きやすい。
製造効率的には、断面は丸の方が作りやすく、角が多くなるほど難しくなると思いますが、この12面体のボディの恩恵は非常に大きくオマスの万年筆の魅力に寄与しています。

クリップも魅力のひとつです。
日本や他の国万年筆でいつも不満に思うのはクリップの機能性です。
クリップの形状がジャケットやシャツの布地を傷めそうですし、その硬さも硬すぎる。
イタリアのメーカーはクリップの形状と硬さが良く、服を傷める心配がない。
オマスの万年筆もクリップ先端にホイールをつけて、ポケットに通すときにそれが回転するようになっていますし、硬さも硬すぎず、柔らかすぎず適度な力でポケットを挟んでくれます。

それらは書く機能においてあまり関係のないことかもしれませんが、万年筆を日常的に使う時に、その日持って出掛けるかどうか決定付ける大切な要因のひとつだと思っています。
夜リラックスした時間を過ごしている時に、旅行で完成した旅ノートとCigarの万年筆を片手にGoogle Earthでボローニヤの街を懐かしく見ることがあります。
市中に世界最古のボローニヤ大学が点在していて学生たちが行き交う、夕方になると大人の男たちがお洒落をして街に出てきて、そこここで楽しそうに立ち話をしている。
そんなボローニヤの街の適度なローカルな感じと、モンブランやペリカンのように世界中で何百万本も万年筆を売っている大規模メーカーとは違う、万年筆の世界において適度にローカルな存在であるオマス、こういうところにも私は味わいを感じます。

⇒限定生産品Pen and message.オリジナル万年筆「Cigar」
*少量ですが在庫ございます。

旅ノートのススメ

旅ノートのススメ
旅ノートのススメ

一昨年のヨーロッパ旅行の時、ライフの本麻ノートに書き込んだり、地図を貼ったりしていた旅ノートはいまだに宝物です。

そのノートのページをパラパラとめくると当時の旅のシーンや気持ちが鮮明に思い出され、もしかしたら写真よりも自分には合っている記録なのかもしれないと思っています。
ヨーロッパの旅ノートが一番充実しているのはプラハのページで、一人で別行動をしたので、公園のベンチやファーストフード店でノートを書く時間ができたからでした。

プラハの街には私が探すステーショナリーを見つけることはできないと諦めて、散策に切り替えて街中歩き回りました。
フリータイムの締めくくりに訪れたタワーは観光市街地から遥か遠くに見えていて、そこまで冒険しようと、闇雲に路面電車を乗り継いでたどり着いたダウンタウンの中にありました。

タワーからの眺めを1時間くらい東西南北くまなく見て、プラハの街の景色を目に焼き付けたいと思いました。

ヨーロッパ旅ノートの成功は、ノートは用途別の方が良いということを私に教えてくれました。
たどり着くのにものすごく時間がかかった答えだったけれど、厚く立派な手帳に人生の全てを書き連ねるのではなく、用途によってノートを替える方が自分には合っていると悟りました。

ゴールデンウィークに旅を計画されている方も多いと思いますが、特別な旅のために、それが特別に思えない旅でも、旅ノートはその旅を特別なものにしてくれるのではないかと思いますので、ぜひお勧めします。

ノートはあまり大きくない方が手荷物に入れやすいのですが、あまり小さいと地図や切抜きを貼ることができないので、B6からA5サイズ辺りが適当かと思われます。
ライフのポケットノートはページ内にあるポケットが、バラバラになるチケットなどの小紙片を入れておくのにちょうど良いし、本文がポケットによって3つのセクションに分かれているので3つの旅の記録にしても良いし、目的地別に分けることもできる。
紙質は大変滑りがよく、気持ちよく書くことができますが、インクによってはわずかに裏抜けするものがありますので、気になる方はブルーブラックなどのインクを使う工夫が必要ですが。

大和出版印刷のCIROの正方形ノートなどはしっかりとして製本とモノとしての魅力から、何かに使いたいと思っていましたが、1つの旅だけでなく、出る度に持っていくような長い年月付き合えるような用途である旅ノート適しているかもしれません。

こういった旅ノートに書く万年筆は、やはりプラチナのブライヤーです。
プラチナのブライヤーを旅ノートに使い出したのは、(1)インクとの相性によってはにじみが出る本麻ノートににじまず書けるプラチナのブルーブラックを、手軽に持ち運べるカートリッジで使うことができるということ、(2)キャップの仕様が、取り出してサッと書いてすぐにしまえる勘合式であるなど、実用的に考えた結果でした。
でもそれに加えて、ブライヤーという木の風合いなども旅に合っていると思い、私にとっての旅万年筆はプラチナのブライヤーと決まっているのです。

数ヶ月前、アウトドア雑誌Be-PALに当店が紹介されましたが、旅=冒険と万年筆は決して無関係ではないと思っています。

大切な毎日のために~工房楔・デスクトレー発売~

大切な毎日のために~工房楔・デスクトレー発売~
大切な毎日のために~工房楔・デスクトレー発売~

朝、少し余裕を持って早めに準備ができた時、その日の服装選びに時間が掛けることができるのと同じように、その日1日使うペンを選ぶのにも時間を掛けることができます。
時間がないと、昨日と同じペンを胸ポケットに差すことにもなるし、インクがちゃんと入っているかどうかを確認する余裕もなくなります。
インクがなくなって書けない状態にしたままにしておくのはとても辛いので、インクが少なくなるとすぐに入れたいと思いますし、朝胸ポケットにペンを差す前に確認もしておきたい。
朝自分の机に向かって、その日1日の行動や会う人などから、胸ポケットに差すペンを選ぶ。
時計など、決まって身に付けたり、ポケットに入れるものを入れたりする。
時間に余裕がないと、忘れ物をしてしまうこともあって、そんな日は1日中不愉快な想いをします。
とても短いけれど、大切な時間。
それは家にいる時の自分から、外での自分にギアチェンジするためのとても大切な時間なのではないかと、最近いい大人と言われる年齢になってから気付きました。

そんな朝の大切な時間のために、工房楔のトレーは役に立つ良い時間を提供してくれるものだと思います。
机の上にペンが11本並ぶワイドトレーがあって、所有万年筆の中からその日の1本を選ぶ。
11本ワイドトレーの上に重ねたフリーのスリムトレーやハーフトレーの上に、前の日帰宅した時に置いた時計やポケットの中のものを忘れずに入れる。
トレーの横に置いている香水も香りを選んで少し吹き掛ける。

置くスペースが少なければ、ハーフの5本用ペントレーとフリートレーを使うと省スペース化が可能なので、トレーを重ねて朝の時間のための場所を作ることができます。
楔の銘木デスクトレーは夜一人の時間のためだけのものではなく、朝の時間のためでもあります。

出かける直前に起き出して大急ぎで支度をするのではなく、余裕を持って起きて、銘木ペントレーに向かって1日をイメージしながらペンを選ぶ時間、持ちたいものですね。

⇒工房楔 銘木デスクトレーcbid=2557546⇒工房楔 銘木デスクトレーcsid=5⇒工房楔 銘木デスクトレーpage=2″ target=”_blank”>⇒工房楔 銘木デスクトレー

WRITING LAB.オリジナルインク Quadorifoglio(クワドリフォリオ)

WRITING LAB.オリジナルインク Quadorifoglio(クワドリフォリオ)
WRITING LAB.オリジナルインク Quadorifoglio(クワドリフォリオ)

私たちがボトルインクの売り場に行くとつい気になって見てしまったり、他の人が使っているインクの色がいつも気になるのはなぜなのだろうと思います。
人によって理由が違うのかもしれませんし、何か決まった理由があるのかもしれない。

でもひとつ言えるのは、私たちは常にもっと良いと思える、今の気持ちに合ったインクの色を探しているということなのだと思います。

万年筆メーカーやインク専業メーカーからたくさんの種類のインクが発売されていて、インクの色は本当にたくさんあります。今のところ存在しないインクの色は、万年筆用として作ることのできない金銀白くらいなのではないかとさえ思えます。
日本中の万年筆を扱っているお店からオリジナルインクも発売されていますので、とうの昔に万年筆の筆記に適した色は出尽くしていると思っています。

でもこのオリジナルインクは、販売する側としてもぜひ企画したいものなのです。

オリジナルインクは、自店のこだわりや、万年筆においての世界観を表現する重要なものだと思っています。
色の選択、名前、ラベルのデザインなど。
オリジナルインクに込められたこだわりからお客様はそのお店の世界観を感じとることができる。
当店と山科のインディアンジュエリー・ステーショナリーショップRIVER MAILとの共同企画のブランドWRITING LAB.もとうとうインクを作りました。

先述の私のオリジナルインク観通り、そこにはWRITING LAB.のこだわりや世界観が込められています。
インクの名前Quadorifoglio(クワドリフォリオ)はイタリア語で四つ葉のクローバーという意味です。
私たちがWRITING LAB.の色とした色は葉の緑だったし、幸運のお守りとしての四つ葉のクローバーのイメージが、仲間たちで集まってひとつひとつのモノについて話し合って作り出したり、そういった集まりにおいての出会いからモノが出来上がるWRITING LAB.の感じをよく表していると思っています。

Quadorifoglioの名前は革製品を一緒に企画して作っていこうとしている久内(きゅうない)さんご夫妻の工房の名前で、お二人との出会いもこのインクの名前の由来になりました。

久内さんご夫妻はフィレンツェで革製品作りの修行をして、現在神戸に工房を構えて活動されています。
ご主人の淳史さんは靴職人、奥様の夕夏さんは絞り技法の革小物を作っておられます。

久内さんとは、当店の本当に近くの旧居留地にベラゴというアトリエ兼工房を構える鞄職人牛尾龍さんを通じて知り合いました。

ル・ボナーの松本さんに教えてもらって、RIVER MAILの駒村さんとともにベラゴさんに飛び込んだのが昨年の夏で、少しずつ親交を温めながら、久内さんを紹介していただくに至りました。
ちなみにベラゴさんの商品も少しずつ扱っていきたいと思っています。

ベラゴの牛尾さんとQuadorifoglioの久内さんご夫妻は、4月18日(水)~24日(火)神戸大丸1Fで開催されるイベントに出展されていますので、ぜひ見に行ってみてください。
カンダミサコさんも5月2日(水)~8日(火)、同イベントの後半に出展されています。

出会いがあって新しく立ち上げたWRITING LAB.の標榜する世界観は、笑顔になれるもの、幸せを提供されるものとしてこのオリジナルインクに込められています。

⇒WRITING LAB.オリジナルインク クアドリフォリオ

工房楔の机上用品 ペントレー

工房楔の机上用品 ペントレー
工房楔の机上用品 ペントレー

WRITING LAB.で工房楔の永田さんに依頼して作ったもらった机は、木工家永田篤史のこだわりを表現したモニュメントのような存在になっています。

この机の存在が永田さんがライフワークとしている木の良さや杢のおもしろさを多くの人に伝えるために一役かってくれると私は思っています。
この机は、ここで仕事もできるし、趣味を楽しむこともできる。コンパクトな一人の時間を楽しむための空間をこの机が作り出せたらと思っています。

当店が関係しているものなので、万年筆をより楽しむための仕掛けをしていきたいと、もちろん考えています。

ひとつの机の理想的な形を作っておいて、それを活用するための机上用品を今後作っていこうと、机を作ってもらう時に話し合っていましたので、今回ご紹介するペントレーはその机で遊ぶための机上用品第1弾ということになります。

天板が開くライティングデスクの収納スペースの中にこれらのトレーを組み合わせて入れることによって、収納スペースをトレーできっちりと埋めることができます。
このペントレイも、今後発売していくつもりの机上用品もこの机にあることをイメージして作りますが、それぞれ単体で使うことも可能です。

ただ机上用品を企画する上で、何の机もイメージせずに作るよりも、こういった実際に存在する机をイメージしながら作っていった方が良い結果が得られると思っています。
トレーは、ウォールナットの無垢材でできていて、コンプロットなどに見られる刳りもの(くりもの:材料をくり抜いて作る)ではなく、指物(さしもの:組み合わせて作る)で作られています。
平面に革を敷いて、ペンなどのそこに置くものに傷がつかないようにしていますが、ここにはピッグスエードを貼りました。

ライティングデスクの天板裏に仕組まれたブッテーロのデスクマットがウォールナットの材質に合わせてワイン色になっていますので、このピッグスエードもワインにしています。

また、トレーにはいくつか種類があります。

ペンを11本並べることができるものは、万年筆店として当店が永田さんに最も熱望していたもので、万年筆を何本も持っている方には必需品だと言えます。
11本以上お持ちの方も、これを何段でも重ねることができますのでお重箱のようにペンを保管することができます。
仕切りのついていないフリーのトレーも大変便利です。
万年筆以外の、例えば時計やアクセサリーなどのものを保管しておくにの便利ですし、フリートレーを机上に置けば、そこで万年筆の手入れなどする時にも便利だと思います。
フリーのトレーにはワイドとスリムがあり、スリムは机上で使用中のペンを仮置きするペントレイとして使うことができます。
ちなみにこれらのトレーは、WRITING LAB.のライティングデスクには2段重ねて入れることができるようになっています。

このような形のペントレーは他にもありますし、万年筆を並べて保管する形態としてはオーソドックスなものかもしれませんが、質の良いウォールナットは使い込んだ時に美しい艶を持ちます。

長く愛着を持って使うことができる、というのも永田さんが作る机上用品の良いところだと思っています。

*今回の発売は11本ペンを並べることができる「ワイド・11本用」です。フリーのものやサイズ違いは4月中の入荷予定になっています。
*画像はWRITING LAB.オリジナルライティングデスクに組み合わせたものです。サイズがぴったりと収まるようになっています。

⇒工房楔 ペントレー・ワイド(11本用)

アウロラ マーレ・ティレニア

アウロラ マーレ・ティレニア
アウロラ マーレ・ティレニア

万年筆メーカーは、ルパンⅢ世の峰不二子のようだと思うことがあります。
特にアウロラは万年筆メーカーの中でも峰不二子度合いが一番高い。

どういうことかと言うと、例えば先日発売されたばかりの480本限定のマーレ・ティレニアは、前作マーレ・リグリア、85周年記念レッドとベースは全く同じで、色違い、装飾違いのモデルですが、マーレティレニアに魅力を感じる人は多い。
もちろんマーレ・ティレニアの万年筆自体の魅力もありますが、レッド、マーレ・リグリアを持っている人なら尚更マーレ・ティレニアが欲しくなる。
内容は全く同じだと思っていても、色違いで持ちたい、揃えたいと思ってしまう。

万年筆を実用で使いながらも、でも趣味のものとも言える人の弱いところを熟知している。そしてお客様は万年筆メーカーがそれを知って、突いてくることを知っている。
峰不二子は最終的に欲しいものだけ手に入れてどこかにいってしまうことを知りながらも、次元と五右衛門になじられながらも騙される振りをするルパンとの関係。
峰不二子には、ルパンをそういう気持ちにさせるだけの魅力があって、ルパンにはそれに乗っかってやれるだけの大人の男の余裕がある。

それは筋書きが分かって楽しんでいる大人の男女のプレイで、万年筆メーカーとお客様方との限定品をめぐる関係もまたそのように感じます。
マーレ・ティレニアのベースとなる万年筆は、バランスやフィーリングにおいて相当高いポテンシャルを持っていて、アウロラもそれに自信があるから同じ筐体で大切な限定品のシリーズを出してきているのだということは、言うまでもありません。

しかしアウロラは、定番の万年筆を少し変えるだけでとても魅力的に見せる方法をよく知っています。
代表的なオプティマと男っぽいシンプルな88とは、ペン先をはじめとする多くの部分でパーツを共用しながらも、全く違う性質のものに見せていて、製品の安定性と同時にモデルの充実をそれによって実現しています。
そういう感覚に優れたメーカーなのかもしれません。

レッドやマーレ・リグリアの色違いと言われても仕方ないマーレ・ティレニア、明るすぎず深すぎないグリーンのチョイス、ハードな使用でも滑らかな良い書き味を損なわない適度に硬いペン先など、非常に優れた万年筆で名品だと多くの方が賛同してくださるのではないでしょうか。