Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

2回目の聞香会の夜、楔の永田さんがコンプロット10を持って来られた時、その物の良さに、居合わせた人は一同息を呑みました。
木目にあまり良い反応を示さない女性方の反応も良好で、永田さんは手応えを感じたのではないかと思います。

これはル・ボナーの松本さんが、チェザーレ・エミリアーノというブランドの万年筆の空箱を加工してペンボックスにしていたものが原型になっていて、それがこんなに美しいものに形を変えてできあがったものです。
松本さんの万年筆への情熱が永田さんにインスピレーションを与え、永田さんの情熱で松本さんが動いたという、楔とル・ボナーのコラボレーション企画です。
行き付けのバー、バランザックのカウンターで、松本さんが永田さんに万年筆を入れるケースを作るべきだと熱弁をふるっておられたのが、コンプロット10誕生の始まりだと思います。
美しい木目を広い範囲で必要とするため、かなり高価になることが事前に分かっていましたが、永田さんのこだわりと熱意を理解してくれるお客様は、きっとおられると思いました。

少し変わった形は、ケースを開いた時に指を挟まないように配慮された形であり、四角いものよりも概観に変化があり、このケースをおもしろいものにしていると思います。
もともとこの形は釣り道具の毛ばりを入れるフライケースとしてあったもので、そのサイズを拡大したものです。
大きくすることにより、金具、磁石の耐久性の強化が図られているとともに、より木目を美しく取りにくくなっていて、木目の美しさにこだわる永田さんを苦しめたところです。
余程の良材でないとこれだけの大きさで、木目の美しいものが得られることはなく、どうしてもそれが価格に跳ね返ってきます。

木を組み合わせる指物(さしもの)ならコストもさほどかからず、量産も可能で、木取りに苦労することもなかったかもしれませんが、永田さんは削りだす刳り物(くりもの)にこだわり、そうでなければ自分が作る意味がないとまで言っていました。
木目が美しい、滑らかに磨かれた完成品を前にして、それは理解できるような気がしました。

木目の美しい外装だけではペンケースとしては不完全で、ペンを保護する内装も重要であることは言うまでもありません。
そこにはル・ボナーの松本さんが担当した内装があり、このケースの魅力を引き上げています。
ピッグスキンの裏革を敷き詰めた内装に可倒式の仕切りがあり、ブッテーロのベルトで固定できるようになっています。
仕切りとベルトがペンの太さに合わせて動かせるため、様々な太さのペンを収納し、固定することができます。
さらに中でペンがカタカタと動くこともなければ、向かい合ったペン同士が当たることもありません。

10本を収納することができるペンケース。
たくさん持っている人には物足りない数ですが、自分のコレクションの全てを入れるのではなく、たくさんあるコレクションの中から今一番のお気に入りを10本だけ選んで、特別なケースに入れておく。
このケースを開いた時、木のフレームの中のピッグスキンに守られた10本のペンへの愛情はさらに強くなるのだと思いました。

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨cid=Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨keyword=%A5%B3%A5%F3%A5%D7%A5%ED%A5%C3%A5%C810″ target=”_blank”>Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):ウォールナット

好きなインク選び

好きなインク選び
好きなインク選び

当店では万年筆を買われたお客様が一緒にそのペンに入れるインクを買われることが多く、万年筆を選ぶ時と同じくらい、あるいはそれ以上の時間をかけてインクの色選びをされる方をよく見ます。

それくらいインクというのは多くの人にとって、こだわり所であり、自分の個性が発揮できるところでもあるのだと思います。
万年筆の軸の色に合わせたり、季節感を出したり、仕事でテンションの上がる色にしたりなど、様々な理由でインクの色を選ばれているようです。
そんなふうにインクの色で迷われている所を見るのは皆様のこだわりを感じることができて、とても参考になりますし、楽しい時間でもあります。
万年筆を使われている皆様にはインクの色でもっと遊んでもらいたいと心から思っています。

そんなことを言いながら、私は最近自分が一番インクの色にこだわっていないのかもしれないと思い始めました。
その時々で使っているインクの色が違いますし、全てのペンに同じ色のインクを入れてしまうため、色々な色を使い分けることもしていません。
今まで様々な色のインクを使ってきて、結局自分の答えは色にはないということが分かってきました。

私のインクへのこだわりは、色ではなくその「性質」でした。

よく伸びるインクという表現が皆様に伝わるかどうかわかりませんが、そのよく伸びるインクを私は好んで使っています。
よく伸びるインクというのは、サラサラと流れるインクというふうに言い換えることができるかもしれません。
そのようなインクはスルスルと書き味が良く、その書き味の良さを感じたいがために、私はいつも伸びるインクを使います。
よく伸びる代わりに、乾きが遅かったり、にじみが大きかったり、色がつまらなかったりしますが、そんなことは全く気にしません。
万年筆からサラサラと滑らかにインクが流れてくれることだけを望んで、よく伸びるインクを使い続けています。

インクの色を変えて「色」を楽しむ。インクの性質を変えて「書き味」を楽しむ。インクには色々な楽しみ方があるのかもしれません。

私が現在よく伸びるインクとして把握しているのは、セーラーブルー、セーラーブルーブラック、パイロットブラック、パイロットブルーブラック、パイロットブルー、そして当店オリジナルインク朔です。

画像は当店スタッフ私物インク(一部)です。

息子へ贈る万年筆

息子へ贈る万年筆
息子へ贈る万年筆

中二の息子が卒業式で送辞を読むということで先生からお誘いを受け、卒業式を見に行ってきました。
大勢の人を前にしても堂々として落ち着いていて、送辞を読み上げながら涙ぐみ声を詰まらせる「余裕」を見せる彼のしゃんと伸びた背中を見ながら、その成長にとても驚いてしまいました。

親馬鹿になりますが、彼は成績も良く、生徒会の活動でも活躍しているいわゆる優等生で、両親には似ませんでした。
わが家ではダイニングテーブルで仕事や勉強をすることが慣わしとなっていますので、彼のストイックと思えるほどの勉強量はいつも見ていましたし、その彼の直向さに私も逆に影響を受けています。
そんな息子に今までちゃんとした万年筆を贈ったことがなく、周りの人に万年筆の良さを広めようと努力されている皆様から見ると意外に思われるかもしれません。

私自身、万年筆を使う人を一人でも増やすということをライフワークとすると宣言しておきながら、自分の息子に万年筆を使わせることができていないことは非難の的になっても仕方ないことです。
しかし、自分が仕事としているものを贈ることへの照れもあって、息子を洗脳することから逃げている訳です。
その息子が志望する高校に入学した時に万年筆を贈りたいと最近思い始めました。
彼の書く量を見ていて、より書くことを楽にしてあげたいという思いと、書くことを楽しむことができる道具万年筆が、私が彼に教えることができる唯一のことだと思いました。
私は小学校高学年でプラチナプレピーを使っていましたが、その後発展していかなかったのは、書き味の良い万年筆の存在を教えてくれる人がいなかったからでした。
だから彼が使うかどうかは別にして、書きやすい金ペン先の万年筆を贈りたいと思いました。
どんなものがいいかいろいろ考えましたが、ラミー2000を思いついたとき、一番ふさわしいような気がしました。
ラミー2000はその存在がいろいろなことを物語ってくれていて、親から息子への無言のメッセージになると思ったのです。

1966年に2000年まで通用するものという目標を掲げ、企画、デザインされたラミー2000は目標通り2000年をとっくに過ぎた今でも古臭さを感じさせず、感覚の新しい若い人からも支持されています。
発売当時、黒いボディに金色の金具の万年筆が主流で、ペーパー加工された銀色の金具の万年筆などなく、かなり異端的に思われたラミー2000は全く売れなかったそうです。
それでもラミーは2000の素晴らしさを信じて辛抱強く作り続け、時代が追いついてくるのを待ちました。
今ではそんなことが嘘のようにラミー2000は現代のデザインに自然に馴染むものになっています。

ラミー2000からは、彼が仕事をするようになった時に、先を読むことや、他人に惑わされないオリジナリティを持つことの大切さ、自分が信じたことを貫く頑固さを持ち続けることを教訓として感じ取ることができると思っています。

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」
神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

私はいつも何か新しい世界を知って、仕事の幅と奥行きを持たせたいと思って本を読みます。
今まで本を読んで偶然知った世界が仕事の役に立ったこともありましたし、新しい世界の扉を開けることでもありました。
本を読むことは、自分への楽しみであり投資でした。
本から刺激を受けて、仕事に役立てることは皆さんも同じだと思います。

万年筆にも同じことが言える人がいるのかもしれません。
万年筆1本あればとりあえず用は足りますし、せいぜい用途別に持ったとしても、字幅を揃えて3本くらいあれば充分です。
しかし、物から与えられる刺激、インスピレーションを感じる人が、その万年筆は仕事の役に立つと思うなら、手に入れなければならない理由になると思います。
この本の著者神谷利男さんもそれぞれの万年筆からインスピレーションを与えられたこともあったのだとこの本を読んで知りましたし、万年筆から刺激を受けて良い仕事ができるということは確実にあると思います。
初めてこの本のゲラ刷りを神谷さんから見せていただいた時、写真や絵に惹きつけられましたが、ゆっくり時間をかけて読ませていただいて、その文章の私的世界は、時にはビジネス書であり、時には生き方を教えてくれる本でした。

会社の社長であり、グラフィックデザイナーであり、二人の息子さんの父親であり、夫である神谷利男という人からより良い仕事をしたいと思っている人へのメッセージだと思えるくらい、様々なことを教えてもらうことができて、もっとクリエイティブでありたいと思える刺激が受けられる本でした。
非常に凡庸な言い方ですが、この本をただの万年筆の本だと思いながら読んだ人は、その内容の深さに嬉しい驚きを覚えるでしょう。

この本には、見た事もないような珍しい万年筆や、誰も知らなかったような万年筆の知識などはありません。
そもそも神谷さんには、自分のコレクションの万年筆の、こういうところが良いなどという万年筆を批評する気持ちなどなく、様々な万年筆から得ることができた仕事にも生きたインスピレーションを本という形で私たちに教えてくれました。
より良い仕事をしたいと思っておられる方には、とても刺激になる本で、ただの万年筆の本にはない、著者の生き様から、自分たちの生き方を教えられる本だと思っています。

いつも目の前にあるものに夢中で、子供のように話がポンポン飛ぶ神谷さんに会うといつも刺激を受けますが、この本でもさらに奥深い刺激を受けました。

モンテグラッパ エンブレマ

モンテグラッパ エンブレマ
モンテグラッパ エンブレマ

万年筆の価値は書き味や実用性だけで決まるわけではなく、そのデザインなどから来る「持つ喜び」もひとつの価値だと考えています。そういう意味からも、モンテグラッパの言うライティングジュエリーという言葉に共感しています。

「ライティングジュエリー」というコンセプトに近いことを数々のメーカーが挑戦してきた経緯もありますが、なかなか定着するまでには至っていないように思います。しかし、モンテグラッパはライティングジュエリーと堂々と言える、数少ないブランドだと思います。
モンテグラッパはそういう意味でも気になるブランドで、このペン語りではネロウーノに続き2回目の紹介になります。

先日、大和出版印刷さんが出品する商業ポスターのコンテストに、当店を題材とすることが決まった時、モンテグラッパの万年筆を使いたいと思いました。
モンテグラッパのその物たちが放つ力強い魅力と華やかさが写真映えすると思ったことに加え、当店もモンテグラッパのように独自の道を行く存在感を持ちたいと思ったからでもあります。
時代や流行を追いかける訳ではなく、他のブランドを真似るわけではなく、モンテグラッパはいつもモンテグラッパらしくありました。
そんなモンテグラッパの中でも、最もモンテグラッパらしいのがエンブレマです。

実際のペンやカタログを見ていても、このエンブレマが最も強烈な個性を持っていることが分かっていただけると思います。そのインパクトがエンブレマをポスターの中心に据えた理由だと思いますし、私がモンテグラッパらしさを感じるところです。
エンブレマはスターリングシルバーの金属部分とマザーオブパールを練りこんだ美しいセルロイドのボディを持っています。
スターリングシルバーは、モンテグラッパのポリシーでもある表面加工をしていないもので、時間を経過するごとに、使い込むごとに渋い色合いへと変化していき、とても良い風合いに変わります。
美しく輝くセルロイドは、他のメーカーでは見られないもので、シンフォニー、ミヤなどにも使われています。
モンテグラッパのセルロイドからは、万年筆黄金期へのノスタルジーなどは感じられない、その輝きを実現するために必要な現代の素材という想いを感じ取ることができます。
ペンは非常に小さな工芸品なので、細部に目を凝らさないと意匠の違いとか、特長を掴みにくいところがありますが、エンブレマにはそんな顕微鏡的な見方は必要ないと思っています。
離れて見てもその美しさは伝わってきますし、セルロイドの輝きが人目を引くのに充分なものだと思います。

あえて実用面に関するリポートは何もしておりませんが、インクの引っ張りの良いエボナイトのペン芯とともに必要十分な性能を見せる硬めのペン先のフィーリングは、書き味ではなく、万年筆を持つ喜びを見出す人のためのペンだというメッセージが込められているように感じます。

試筆用紙を作りました

試筆用紙を作りました
試筆用紙を作りました

当店で試し書きしていただくための用紙を作りました。
お店で万年筆を試す時に、売場に備えられている紙が日頃使っている紙とかけ離れているので、戸惑われた経験をお持ちの方は多いと思います。
万年筆売場などにある紙は、調子の悪い万年筆でも書き易くしてしまいますし、インクの出も多く感じます。
表面に不自然な加工がされているものが多く、言わば万年筆を売るための紙になっています。
それでは万年筆の調子が分かりませんし、買って帰って家で試したら、全然違っていたということもよくあるようです。
当店オリジナルの試筆用紙は大和出版印刷さんの協力を得て作りました。
ペンの引っ掛かりが少なく、インクにじみが適度で、不自然な感じでないものという万年筆用の紙としての希望に適うものを大和出版印刷の多田氏にお願いして、いくつか候補を挙げてもらい、その中から選びました。

皆様がよく使われる一般的な上質紙と何ら変わりなく、万年筆の良否を判定するのにとても適した紙だと思います。
中央下に小さく当店のロゴを1枚1枚全てに印刷し、その入り方もとても気に入っています。
B5サイズで、長辺をレポート用紙のように糊綴じしています。
この手のものは短辺を綴じるものが多く、非常にユニークなものになっていますが、ペンを試すのに良い大きさだと思います。
店でペンを選んでいただくための試筆用紙ですが、販売もさせていてだくことにしました。
価格は300円で100枚綴じです。
こういった用紙を机に置いておくと、メモ用紙代わりに使うことができて、ご自分の万年筆の調子を確認する時にちょっと書くのにもとても便利です。
そんな光景が他所で見られるのかどうかは分かりませんが、自分が持っている書きやすい万年筆を他の人に書いてもらって、その書き味に共感してもらうといった時にもとても便利だと思います。

Pen and message.オリジナル試筆紙

ラミー サファリの価値観

ラミー サファリの価値観
ラミー サファリの価値観

サファリは価格が安く、ドイツ本国では学童用に作られたということで、初めて万年筆を使う人だけのペンと考えがちですが、それだけでは惜しい気がします。
サファリには独特の価値観、スタイルがあり、特にデザインにこだわりを持っている若い人には重厚ではないこのペンのあり方は共感できるものだと思います。
価格は安いけれど、好きで使っている、こだわりを感じさせるペンがサファリです。

サファリと言えば、価格が安いのに全く売れない万年筆というのが4,5年前までの販売側のイメージでした。
ラミーはドイツではモンブラン、ペリカンなど数々ある筆記具メーカーを凌ぎ、最も多くのペンを売っているメーカーであることを聞いていましたが、何かピンと来なかったのを覚えています。
サファリが長い間日本で売れなかったのは、万年筆を使う年齢層に関係があるのだと思います。
万年筆といえば、年配の人のためのペン、エグゼクティブのための高尚なものというイメージが万年筆を使わない人にはあったと思われますし、実際に万年筆を使っている人はある程度の年齢になっている人ばかりで、万年筆といえば金ペン先の柔らかい書き味が醍醐味だという固定観念があったのかもしれません。
そんな万年筆の土壌の中では、サファリは売れないと思いますし、理解されないのかもしれません。

しかし近年、発売後20年以上経っていたサファリの人気に火がつきました。
サファリのようなペンが売れるというのは、ペンの業界として非常に喜ばしいことで、万年筆を使う若い人が増えているということを裏付けています。
やっとサファリのデザインを使いこなすことのできる新しい感覚の人たちが万年筆を使うようになったと思いました。
サファリには機能的な工夫がいくつもあり、それが見所でもあります。
グリップのくぼみはそこに指を沿わせると、正しい位置で持つことができ、ペン先も最も書きやすいところが紙に当たるようになっていますし、ボディに空けられた楕円形の穴はインク残量を確認することができる窓になっています。
針金のようなクリップは厚手の生地、例えば鞄のストラップ、デニムのポケットに挟んでも広がらない頑丈さを持たせています。
ターゲットを正確に設定し、それに合った商品開発をすることで発売から短期間での目標達成を目指すラミーの考え方が、製品の価格を引き下げるのにも役立っていると思われます。
日本のメーカーがこの価格で万年筆を作ると、ユーザーに妥協を強いることが多いように感じてしまうのはとても残念です。
プロダクトデザインの考え方、マーケティング、対象マーケット全てが違うのかもしれませんが、万年筆の文化を広める気持ちの違いを感じずにはいられません。

ペリカン「ポーラーライト」と大人たちとの時間

ペリカン「ポーラーライト」と大人たちとの時間
ペリカン「ポーラーライト」と大人たちとの時間

とても有り難いとことですが、この店には本当に素敵な方々が万年筆を買いに来てくれます。
そんな毎日の中で、この青年のことは私だけでなく、そこに居合わせたお客様方全員がもう一度会いたいと思ったのではないかと思います。

羽織、袴の若い男性がご来店されたのですが、その場に居合わせた大人たちは彼に対する興味を隠さず、今出会ったばかりのその青年に気さくに話しかけていました。
後から考えるとそれは彼がその店の雰囲気に馴染むのにとても役立ったと思います。
万年筆を選び始める前に、彼はこの店の雰囲気にも周りの大人のお客様にも慣れて、とてもリラックスできるようになっていました。
私は彼の和装を見て、日本製の和の趣がある中屋万年筆、漆塗り万年筆の元祖パイロットのカスタム845、予算の幅を考慮してセーラープロフィット、若者が好みそうなビスコンティなどを選んで彼の前に並べました。
比較的太めのペン先のものを考えているとあらかじめ聞いていましたので、中字の万年筆を用意しました。
彼はそれらをゆっくりと試しながら、一本ずつそのペンの良いところをコメントしていましたが、そんなところにも彼の若者にはなかなかできない気配りを感じました。
そんなやり取りの中で分かったのは、デザインに関しては若者らしくカラーのあるきれいなものがいいと思っていることと、ずっと使うことのできるしっかりとした実用性を持っているもの、書き心地、持ち心地の良いものを選びたいと思っていることでした。
彼が最後の最後まで、迷ったのはカスタム845と彼のリクエストでリストに加えたペリカンポーラーライトでした。

パイロットカスタム845はとてもオーソドックスなデザインで、黒色のボディに金色の金具という万年筆らしい重厚さに憧れたということと、一見するとプラスチックに見えるボディが実はエボナイトに漆塗りという日本的な美学のあるところに惹かれたようでした。
でも、ポーラーライトの素直にきれいと思えるボディと書き味の良さによって、気持ちが固まったようでした。
そのポーラーライトのMはペリカンのコンディションの良い万年筆がそうであるように、紙に触っていないかのような一切の抵抗のない滑りの良さと、インクが湧き出すような感覚がありました。
ボディにもアルミ素材が使われていて、金属なのにその絶妙なカーブによって柔らかいと錯覚する持ち味がありました。
北欧から見える美しいオーロラを表現したというボディカラーは様々な緑色で描いていますが、彼が持つとその緑色の一番濃い部分がとても渋い日本的な色に感じ、茶道具のように見えました。
よくお客様と話していて、その万年筆のことがとても好きになってしまうことがありますが、彼が選んだポーラーライトがとても好きになりました。

万年筆が決まった後、彼は居合わせた大人たちを相手に彼が早くもライフワークにしたいと思っている香道や自分のことについて話しました。
大人たちは17歳という若さでこんなにもしっかりとしていて、自分の意見をはっきりと言えて、でもとても爽やかでかわいいとさえ思える若者らしさも持っている彼にすっかり魅了されていました。
彼が、自分の話をこんなに聞いてくれた人たちに会えたのは初めてでとても楽しかったと言って帰った後も、私たちはその快い余韻に浸り、自分たちが17歳だった頃の思い出までいつまでも話していました。

ル・ボナーのペンケース

ル・ボナーのペンケース
ル・ボナーのペンケース

タフで骨太な仕様のものに強く惹かれますが、このペンケースの魅力はそれだけでなく、使い込むことで分かる、使っていくうちに増してくる愛着というものも持っています。
私が今まで見てきたペンケースは、ほとんどが高価で上質で繊細な革は使っていましたが、その作りは頑丈だとは言えないものでした。
新品の時、とても美しくしっかりとしたものが、1年もするとクタっとしてしまうことにがっかりしていました。
ペンケースというものは使い込むとただ古くくたびれてしまうものだと思っていましたが、作る人が変わると一生ものにもなり得るということを知りました。
それは革小物職人と鞄職人の違いということよりも、目指すものの違いなのかもしれないと思うようになりました。
どこかの下請けで仕事を請け負っているわけではない独立系の職人は、自分の名前をかけて作るその作品が全てで、その作品の評価が運命を分けてしまいます。
それだけ物作りに真剣になり、全身全霊をかけて行われます。
その独立系の鞄職人の物作りの姿勢がこのペンケースの一番の見所になっているとも言えます。

それは革の縁の処理にも表れています。
革小物職人が作ったものの多くは、へり返しという革を薄く削いで折り返して縫う処理をしていますが、このペンケースはコバ磨きという処理をしています。
へり返しは新品の時、繊細で美しく見えるかもしれませんが、薄くした革は擦り切れやすく、縁が擦り切れてしまうと修復が難しく、使えなくなってしまいます。
コバ磨きの処理でしたら、染料を塗って磨き上げることで、縁を元通りに復元することができます。
このペンケースに使われているブッテーロという素材は滑らかな手触りと使い込むごとに艶を増す上質で強い素材で、こまめに磨くことで表面がとても艶やかになり、美しい光沢を放ちます。
乾いた布で日常的に磨くことも有効ですし、濡らした布を硬く絞って磨き上げるのも革の艶を復活させるのに役立ちます。
そんな風に大切に使うことにも、無造作にハードに使うにも耐え得る素材だと思います。
そんな素材、ブッテーロを背中合わせに2枚重ねて、ペンケースとしては最高の強度を持たしています。
オーバークオリティとも言える仕様のため、フラップ部などは硬くさえ感じますが、使って馴染ませていく楽しみがあります。

私はこのペンケースの3本差しを2つ持っていて、それぞれにお気に入りのペンを入れて、毎日交換して使っています。
そう考えると3本差しというのはちょうど良く、細字、中字、太字と持って歩くことができるので、仕事に行くときこのペンケースを1つ鞄に入れるといいわけです。
自分の持っているペンを全て持ち出すことのない私にとって、この3本差しのペンケース、なくてはならない存在になっています。
モンブラン149までの大きさを入れることができるスペースがありますので、このペンケースに入らないペンは少なく、どのペンも適度にホールドしながら、取り出しもしやすくなっています。

直して使うことが前提になっている鞄職人のペンケース、大切な万年筆を安心して預けることができる、長年使うのに値するクオリティのものだと思います。

ル・ボナー ペンケース

プラチナ ブライヤー

プラチナ ブライヤー
プラチナ ブライヤー

あまりコレクションする習慣のない私が、初めて字幅を揃えて持ちたいと思った万年筆がこのプラチナブライヤーでした。

私が万年筆を仕事にするようになった時にはすでにあって、特に目立った存在ではなくあまり省みられることのないものでしたが、使ってみてその良さが分かりました。

それはデザインなどからは想像することのできなかった満足感、使うたびに喜びを感じることのできるものでした。
私にとってこの万年筆はあまり人が使っていないものを使いたいと思って使い始めた、憧れの存在というものではありませんでしたが、万年筆観を変えてくれるものになりました。
プラチナの万年筆はどれも、文字を書くのに必要最低限のインク出で、硬めのペン先で滑りを出すという味付けが頑なに施されています。
それはもしかしたらお店での試し書きでは良さが分かりにくいものかもしれませんが、万年筆を実用の道具として使っている人の多くが、ご自分の万年筆のインク出が多過ぎることに多少なりの不満を感じていることを考えると、とても実用的な仕様だと思います。

ヌルヌルといった書き味は持ち合わせていませんが、使うための万年筆を頑固に作り続けているのがプラチナです。
ブライヤーという素材は、多くの万年筆メーカーが取り組んできた比較的よく使われてきたものですが、現在継続して定番品として作っているのはプラチナだけだと思います。

シャクナゲ科の植物の杢の部分は、木目が複雑に渦巻いていて面白い模様を呈しますが、硬さもあるため、万年筆などの筆記具にも適している素材だと言われます。
ブライヤーは熱にも強く、筆記具に使われるずっと以前からパイプのボウル(葉をセットする部分)に使われる素材でした。
強度だけでなく、使い続けることで手の油で磨かれてとても美しい光沢を見せることから、見て、磨いて、吸って楽しむパイプ文化を形作ったのはブライヤーという素材があったからだと思います。
この万年筆に使われるブライヤーは拭き漆という技法によって仕上げられています。
漆を布につけて、拭くように素材に馴染ませる技法で、手触り、光沢が自然な風合いに近いこの万年筆の良さに一役かっている技法です。
実用的な文字を書くためのプラチナのペン先システムと、見て、磨いて楽しむことができるブライヤーのボディ、女性のお客様は実際少数ですが、男性のための万年筆がこのプラチナブライヤーだと思います。

手帳書きにインク出をさらに絞ってペンポイントを細くした細字、ノート書き用に中字、太い文字が欲しい時に使う、インク出をできるだけ多くして、筆記角度に合わせてペンポイントに面を作った太字と用意して、どのペンも布でピカピカに磨き上げて、3本差しのペンケースに入れて持ち歩きたいというイメージを持たせてくれる万年筆だと思っています。

プラチナ ブライヤー