コンチネンタル クラシックインスピレーション1985

阪神淡路大震災から30年が経ちました。当時私は文具店に勤めていて、落ちてしまった三宮センター街のアーケードを無感覚で見ていたのを覚えています。三宮に長い距離を歩いて出てくるまでにひどい光景を見続けて、アーケードが落ちていたり、ビルが傾いているのが異常な光景に見えなくなっていました。

命を落とされた方、けがをされた方、家族を失われた方、お家を失われた方など、大変な想いをされた方が大勢おられたので、そんな状況でも仕事をしていられた自分は恵まれていたと思います。今あんな地震が来て、世の中が万年筆どころではなくなったら、またたくさん人が犠牲になってしまう。そして自分の生活も立ち行かなくなるし、絶対に来てほしくないと思っています。

震災後30年経って、私の20代、30代、40代があっという間に過ぎたことを思うと人の人生の短さを改めて思い知ります。

あの日から30年もの間、文具/万年筆の業界で仕事をしてきました。

これは長くやってきた者の特権かもしれませんが、今までたくさんのペンを見る機会がありました。

それぞれのペンは私と同じ万年筆の仕事に携わった人たちがそれぞれの短い人生の時間で生み出した品々で、それら一つ一つが100数十年の近代万年筆の歴史を形作ったのだと思うと、とても大切なものに思えます。

そういった過去に生まれた万年筆のある時代までは実用品の雰囲気があって、良い万年筆を持つと自分の仕事が良くなると思わせるようなロマンがありました。震災当時の、30年ほど前の万年筆にはその雰囲気が残っていました。

安心して使うことができる現代の仕様でありながら、そんな過去の万年筆の雰囲気を持ったものを作りたいと思って、オリジナル万年筆を企画しました。

製作は上海にある当店の協力工場で、完全機械製作により寸分の狂いもなく作られています。
この工場での万年筆作りはとても近代的で、コンピューター制御の機械によってほとんど作り込まれて、組み立てや仕上げの最終の磨きのみ手作業でしています。

ハンドメイドでの工程を多く残しているヨーロッパや日本での万年筆作りとかなり違っています。

昨年8月に上海と近郊の町泰興に行って工場を時間をかけて見てきました。

オリジナル万年筆がどんな工場で作られているのか自分の目で確かめておきたいと思いました。
お客様に安心して使ってもらえる万年筆を作るために誤差、個体差のない確かなモノ作りは必要なことでしたし、こんな時代だからこそ手に入れやすい価格で作りたいと思っていましたので、中国の良い工場とやり取りすることが必要なことでした。

中国の工場とは本当に頻繁にやり取りしていて、現地に行ったこともあって人と人との付き合いをすることができました。
言語が違うのにこれだけ密にやり取りできるのはテクノロジーのお陰でした。

オリジナル万年筆コンチネンタルクラシックインスピレーション1985は、万年筆がまだ机上の主人公だった時代のアメリカンクラシックな雰囲気を持つ万年筆を現代に生きる人たちのために作りたいと思って製作しました。

黒いキャップはエボナイト削り出し。琥珀柄の軸は廃番になっていたアクリルレジンをこの万年筆のために再生産していただいて、削り出しています。
現在完成しているもののペン先は14金に、エボナイトペン芯仕様です。
吸入方式はカートリッジ/コンバーター両様式です。カートリッジはヨーロッパサイズのものが使用できますが、コンバーターは専用で径の太い中国サイズになります。

一部明日(1/18)からの東京での出張販売にお持ちしますが、まだまだ十分な本数が出来上がってきておらず、品薄状態です。
春頃にはまとまって入荷する予定ですし、スチールペン先仕様も出来上がる予定です。

オリジナル万年筆コンチネンタルクラシックインスピレーション1985

こんな万年筆があったと誰かが思い出して話題にしてくれるような、万年筆の歴史の一部になれたらと思い発売いたします。

工場のある泰興の街並み

工場外観
古い建物の中にある最新式の機械
出来上がった部品を1点ずつ手作業で磨く
組み立ての工程
組み立て工場内観
金ペン先の刻印

雑記用の手帳

photo by N.Takada(BAGERA)

私はダイアリーやシステム手帳など、書き残すための手帳をいくつか持っていますが、何でも書くための「雑記用の手帳」も重要な1冊です。

きっと皆さんも同じような用途のものを持っておられるのではないかと思います。

そういう手帳は、ちょっとメモしたりデータを書いたり、何かの文章の下書きを書いたりするために使っています。

最終的にはそこに書いたものをパソコンで清書したり、ダイアリーや手帳に書き直したりしています。

私は上着のポケットに入るようなサイズの手帳を特にこれと決めずに使っていますが、それを大学ノートなどでしている人もよく見ますので、ノートでされている方が多いのかもしれません。

ダイアリーやシステム手帳は何となく華やかな存在ですが、こういう雑記用の手帳はこだわりなくその辺にあるペンで何でも書く、最も使う頻度が高いものだと思います。

今私の雑記用の手帳は何のこだわりもなく、文具店を巡るのも好きなので、なくなったタイミングでふらっと入った文房具屋さんにある手帳を買って使っています。中には万年筆のインクと相性がよくないものがあったりして、失敗することもありますが、気にせず使います。

でも一番よく使う雑記用の手帳なので、良いものがあればより楽しく使うことができるとは思います。いつも持って歩くので、ある程度小さい方がいいし、文章の下書きも書くので小さすぎても使い辛い。

バゲラさんのベビーバッファローの革を使ったシリーズの文庫本カバーで、文庫サイズ(A6)のノートを包んで雑記用手帳とすると、使うのがとても楽しくなると思いました。

ちなみにこの文庫本カバーはサイズ調整がない、サイズ固定式のカバーです。

バゲラさんはその方が本にピッタリでデザインも使用感もいいものができる、と最初から固定式をイメージされていたようで、私も大賛成でした。

固定式のブックカバーを作る時は、具体的に何かの本をイメージしてそれに合わせて作ります。何の本に合わせるかという話になった時に、ヘミングウェイの新潮社文庫「移動祝祭日」がピッタリ入るように作ることになりました。

私の中ではバゲラの高田さんご夫妻の雰囲気が、華やかな雰囲気を持っていたアーネスト・ヘミングウェイと重なるところがあったし、ヘミングウェイが無名時代を過ごしたパリの街がお二人に合うような気がしたからでした。

そうして選んだサイズですが、「移動祝祭日」の本は特別厚くも薄くもないので合うサイズの文庫本はたくさんありますし、これに合うノートも結構あると思います。

この文庫カバーか「移動祝祭日」の本を持って、文房具店でノートを探すのも楽しいと思います。私が見つけたものを申し上げると、ダイゴーのダイアリーE3020とE8440がピッタリでした。

厚みがある程度あるそのダイアリーは1か月1ページのマンスリーダイアリーなので、8割から9割のページはフリーの横罫ページでメモ帳として使うこともできます。

下書き用だけどこういう雑記用ノートがあると、前に書いたものがページをめくると書いてあってとても便利で、私は読み返すことがよくあります。

雑記だからとバラバラにいろんなものに書くよりも、決まって書く手帳やノートがあると色々便利だし、一番使う用途のものなので、今年は少しこだわってみたいと思います。

⇒BAGERA(バゲラ)ベビーバッファロー革文庫本カバー

オリジナル革のシステム手帳

皆様、今年一年は良い年だったでしょうか?

私は11月頃にまだ1か月残っているにも関わらず、今年1年活発に活動できてとても良い年だったと、何かで言いました。

しかし、最後まで分からないもので、12月に体調を崩して、今日までほぼ棒に振ってしまいました。

私のフォローをして店に大きな穴を空けずに営業してくれたスタッフ2人の有難さを改めて思い知りました。

スポーツの試合でもそうですが、終わるまで何が起こるか分からない。体調を崩すなんて最悪の終わり方だと思いました。

逆に静かな一年でも健康に、毎日着実に過ごせた方が余程実りある一年だったと言えるのかもしれませんし、その方が自分らしいような気がします。ガツガツしても結局ブレーキを掛けざるを得なくなったら仕方ないのだと思い知りました。

そんな中ではありますが、今年最後に渋くて良いものができました。

当店オリジナル革を使って、クロコアクセントの付いたバイブルサイズシステム手帳です。

オリジナルの革を作ることになったのは、当店が近年オリジナルの革製品のメインの革として使っていたサドルプルアップレザーのクオリティが落ちてきている、と革職人さんから連絡があったことから始まりました。

今は良いけれど、このままだとサドルプルアップレザーでオリジナルの革製品を作るのは難しいかもしれないということでしたが、なかなか代わりとなる革が見つかりませんでした。

そんな時、革職人さんが地元兵庫県内のタンナーさんに掛け合ってくれて、使い込むうちにサドルプルアップレザーのようなエージングをしそうな革を鞣しててもらえることになりました。

そして出来上がったオリジナルの革「オーガニックオイルドレザー」はタンニン鞣しで、エージングで艶が出るようにオイル分が多めになっています。

新品の状態では、落ち着いた雰囲気のマットな質感の革ですが、手触りが柔らかくて、良い素材だということが分かります。

最初にまずこの革でオーバーサイズ用のペンケースレザーケースLを作りました。商品になると更にその良さを実感することができたので、第二弾として今回はバイブルサイズのシステム手帳を作っていただきました。

リング径が細すぎるとほとんど紙を挟めないし、太すぎると重くなります。今回作ったのは中間の15mm径で、持ち運びもできるいいサイズだと思っています。

派手さはないけれど、正確な仕事で、手間を惜しまずできることは全てされている職人さんの腕と良心が感じられる、長く愛用できるシステム手帳です。

今回が今年最後のペン語りとなります。今年1年本当にありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

*新年のペン語りは1/10(金)更新です。

バイブルサイズシステム手帳オーガニックオイルドレザー×クロコベルト

オマスフェア(~2025.1.19まで)

かなり以前のことになりますが、イタリアボローニヤを訪ねて万年筆メーカーオマス本社を訪ねたり、ポルティコの回廊が続く街で文具店巡りしたことがあります。

ボローニャは街の中に大学の教室が点在していて、街自体が大学の機能を持っているそうです。大学の街だからなのか、自治意識が高い街でもあります。

中央からの行政の押し付けを嫌い、戦時中には街からイタリア軍とナチスドイツ軍を市民が闘争の末追い出すことに成功しています。

そんな自治意識が高く、自由と反骨の気風のあるボローニャだからこそ、オリジナリティのあるオマスのような万年筆が生まれたのかもしれません。

オマスは今はアメリカの会社がオーナーを務めていますが、今もイタリアの工場で作られています。

今のオマスは現代的で洗練されたものになっているけれど、私たちがボローニャを訪れた時に感じた主流への反骨心であるオマスらしさは、大切にしているように思います。

独特の美しいシルエットで、オマスの中では比較的抑えた価格のオジヴァ。

オマスから引き継いだセルロイドを使い、細部まで作り込んだパラゴン。

オーソドックスな円筒形のフォルムながら、オマスらしさに溢れたボローニャコレクション。

オマスの現在のオーナーは元々万年筆コレクターで、オマス愛が高じて新生オマスを立ち上げることになったそうです。

今の万年筆業界を動かしているのは、そういう好きだからやる、というエネルギーだと思います。だから今の時代らしいメーカーの生まれ方ではないかと思いますし、そういう単純なビジネスの利害だけでない力が一番強いのだと思います。

元々のオマスが廃業せざるを得なくなったのは、当時のオマスの親会社がビジネスとしての万年筆に見切りをつけたからだと聞いていますので、万年筆やオマスへの愛情からオマスを運営している現在のオーナーに出会えてよかったと思います。

ボローニヤを訪ねる前にボローニャについて知りたいと思って本を探しました。

その時に井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」を見つけました。

書かれて10数年が経ちますが、面白おかしくおしゃべりのような文体で書かれていますが、内容が充実していて著者のボローニャへの憧れというか、愛情のようなものが感じられるとても面白い本です。

井上ひさし氏は小説を執筆する時に、遅筆として知られていました。

その内容と直接関係のないことにまで及ぶ膨大な量の下調べを、小説を書くたびにしていたためですが、ボローニャ紀行を書く時にはボローニャについて調べた資料がたくさんあったそうです。

1月19日(日)までオマスフェアを開催しています。 期間中オマスのペン(万年筆)をお買い上げ下さった方に、このボローニャの街について知ることができる最良の本だと私が思った本井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」の文庫本をプレゼントいたします。

⇒オマスTOP

綴り屋さんによるオリジナル仕様万年筆

職人さんや作家さんを急かしてはいけない。

早く納めてもらうことよりも良いものを作ってもらうことが一番大事だから、それは重々心得ています。

しかし、約束の期日よりも遅くなってお客様にご迷惑をお掛けすることは店として避けなくてはいけません。

今回の企画は、軸を作る綴り屋の鈴木さんだけでなく塗師さんも絡んでいて、塗りの仕事がかなり立て込んでいると聞いていましたので、年内に出来上がってホッとしています。

今年7月から8月にかけて予約を受け付けて、受注製作としていましたオリジナル万年筆朧月(おぼろづき)が完成し、ご注文下さったお客様にお渡し始めています。

綴り屋鈴木さんがエボナイトを削り出して、有名革メーカーの仕事もしているjaCHRO(ジャックロ)レザーの岩原裕右氏が漆塗りを施してくれています。

当店限定色の山吹色の下地に柔らかい感じのするうるみ色を表面にグラデーション加工で塗った特別な色の万年筆です。

ペン先は当店オリジナルの14金ペン先です。

上海の協力工場で製作されたペン先、ペン芯、ソケットなどを当店で調整、加工、組み立てています。朧月の場合、受注時にオーダーして下さった仕様に加工、調整して軸にセットしてお渡ししています。

鳳凰の図柄は当店で発案、図案化した完全なオリジナルです。鳳凰は日本的で高貴なイメージのモチーフでもあるし、私たちの大陸の文化への憧れも込めたものです。綴り屋さんの軸とよく合っていて、これ以外に考えられなかったと思っています。

受注製作のシリーズは今回だけでなく、今後も継続していく予定です。

実は朧月と一緒にもうひとつのオリジナル仕様の万年筆も製作してもらっていました。

漆黒の森溜塗テクスチャー万年筆のオリジナル仕様、オリジナル色です。

当店オリジナル仕様は、溜塗の味が出るテクスチャー部分をキャップのみにして、ボディ部分は滑らかな形状にしてもらっています。

オリジナル色の、山吹色の下地にうるみ色の上塗りはまろやかな上質なこのモノに合った色だと思っています。

これにもオリジナルのペン先をつけて販売しています。

オリジナルペン先はFでも結構太めになりますので、ご要望に応じて様々な研ぎ出しの対応をしています。

とても良いもので、私たちも大いに気に入っていますが職人さん方の多忙により定番的に作り続けることはできず、不定期に発売することになります。

⇒綴り屋 漆黒の森溜塗テクスチャーPen and message.仕様 山吹×潤み色(オリジナル色) オリジナルペン先

オリジナルペン先の字幅、研ぎ

委託販売とペン先調整

いろんなモノの値段が高くなって、モノの売れ方が変わってきています。

私は革靴が好きで、お金を貯めて買ったりしていましたが、最近の値段の上がり方は異常だと思っています。

こんなに極端に上がってしまったら、革靴に見切りをつけて、靴の趣味を止めてしまう人も出てくるかもしれない。

そう思っていたら、ある靴磨き職人さんが売る中古の靴は飛ぶように売れていると聞きました。

ほとんどの靴が中古の現状の状態のまま売られているのに対して、そのお店では中古の靴をメンテナンスして、きれいに磨いて販売しているので特に人気があるそうで、ジョンロブを定価の4分の1くらいの値段で販売しているようです。

きっとそのお店の靴磨きやメンテナンスの腕が認められているから、中古靴の人気があるのだと思います。

当店も委託販売で中古品の販売をしています。お客様がお預け下さったものの買い手を探して、次の買い手を見つけるというものです。

買い手が見つかれば、ペン先を調整して快適に書ける状態にしてお渡ししているのですが、安心して買えるとよくお客様に言っていただきます。

中古の万年筆の良いところは、より安い値段で高級な万年筆が買えるというところで、万年筆を趣味として使い続けてもらうためにも必要なことだと思っています。(と言っても万年筆は靴ほど中古であるデメリットがないので、定価の4分の1にまで下げることはないけれど)

開店当初、ペン先調整と委託販売とは別々に考えていましたが、靴磨き職人さんの中古靴の販売と同じように実は繋がっていました。

ペン先調整をしていることが、委託販売という中古販売のアドバンテージになっています。

中古販売の万年筆のペン先調整をする場合、前の持ち主の書き癖や書き方に合わせた調整を消し、なるべく自然な筆記感になるようにします。ペン先調整をしているかどうかも分からないような調整を心掛けています。

私はそれを奥ゆかしい調整と呼んでいるけれど、奥ゆかしい調整は三角研ぎなど、研ぎが前面に出る調整とは違う考え方で、そこにも調整士のセンスや理性が表れると思っています。

私の場合は、今まで見てきたたくさんの書きやすいペン先の記憶の中から、そのペンの一番書きやすいペン先の記憶を呼び起こして、それを再現するようにしています。

万年筆も革靴の心配をしている場合ではなくなってきています。調整の力で万年筆がいまの値上げ風潮の中、沈まないよう努力していきたいと思っています。

何でも書く・何でも貼っておくオリジナル正方形ダイアリー

神戸ペンショーが終わるといよいよ年末、という気分になります。

イベントに次ぐイベントで、1年間息つく暇なく駆け抜けてきたと今年は特に思います。でももっとハードに過ごしている590&Co.の谷本さんのような人もいますので、これくらいで大変だったと言うと笑われてしまうかもしれません。

でもきっと来年も、今年のような一年にしてしまいそうです。

あまり次の予定のことばかり考えると疲れてしまうので、普段は今のことに集中するようにしています。

お客様もそろそろ年末が近づいてきたと思われるようで、神戸ペンショーでも正方形のオリジナルダイアリーがよく売れていました。

特長的なカレンダーレイアウトで、スケジュールの確認のしやすいマンスリーダイアリーはお勧めで、使っていただきたいですが、ウィークリーダイアリーの方が人気があります。

やはり日々あったことを細々と書いたりできるのはウィークリーダイアリーなので、書くことが好きな人達に選ばれているということなのかもしれません。私も書くことが好きなのもあるけれど、必要もあってこのウィークリーダイアリーに何でも書いています。ここに書いておいたことで、何度助けられたことがあったか分かりません。

ウィークリーダイアリーに後から読みやすいようになるべくきれいな字で書くには、国産細字の万年筆くらいが細さに余裕があっていいかもしれません。

私はいい加減に色々なペンで書くけれど、プラチナセンチュリーの細字がこのダイアリーの5ミリ方眼にはちょうど収まって使いやすい。

プラチナの万年筆の良いところは、ペン先が硬めで書いた文字に濃淡が出ないところだと思っています。

私の場合、ペン習字や手紙などには濃淡が出てもいいですが、手帳には濃淡が無い方が好みです。均一な太さで文字を刻み付けていきたいと思っているので、プラチナセンチュリーでなくても、硬めのペン先の万年筆、例えばステンレスペン先の万年筆でもいいのかもしれない。

オリジナルダイアリーの場合、インクによる滲みは殆どなくて、こういうところも良い紙だと思っています。

私はさまざまなノートや手帳を使い分けられる方ではないので、捨てたくない紙片、例えば旅の切符とかメモ帳の1ページなどもウィークリーダイアリーに貼り付けるようにしています。

今年、正方形ダイアリーと合わせて使っていただこうと思い、書き味が選べる下敷きとして有名な「Teriw THE MAT(テリューザマット)」とコラボして、正方形のTeriw THE MAT を作りました。

下敷きとしては高級になるかもしれないと思っていましたが、筆記だけでなく、スタンプを押すときにもきれいに押しやすいと好評です。

間に紙を挟んでおけるファイルにもなっていて吸取り紙も1枚付属していますので、スタンプした後にも役立つと思います。私も使っていますが、やはり絶対あった方がいい。

当店で扱っているダイアリーはオリジナルの正方形ダイアリーだけです。紙面を確保しながらも鞄に入れて持ち運べるサイズ、万年筆のインクで滲みや裏抜けしにくい紙質など、このダイアリー以外はもう考えられないと思います。

12月下旬になってしまいますが、革カバーがもう一度出来上がってきます。

あまり聞いたことがないけれど、革自体をオリジナルで製作していただいたので、その革を使います。最初にできたレザーケースLはすでに販売を始めていて、名前は「オリジナルオーガニックオイルドレザー」としています。

出来上がりが楽しみです。

長く作り続けている正方形のオリジナルダイアリー、ゆっくりですが周辺のものも充実してきています。このダイアリーの使い方について情報交換できる人がもっと増えたらいいなあと思っています。

⇒オリジナル正方形ダイアリー

⇒オリジナル仕様 Teriw(テリュー) THE MAT KOBE158SQ Ver.(下敷き)

⇒オリジナル レザーケースLオーガニックオイルドレザー

ラミーについて

いろんな機会に恵まれて、ラミーについて考えています。

ラミーは1930年に創業して、パーカーのドイツでの販売代理店をしていたそうです。

ヨーロッパのほとんどのメーカーのカートリッジインクの差し口が共通のヨーロッパ規格を採用しているのに、ラミーがパーカー規格なのはこの時の関係によるのなのかもしれません。

アウロラもイタリアのパーカー販売代理店をしていました。

アウロラのカートリッジインクの差し口もパーカー規格で、ラミーとアウロラ、パーカーのカートリッジの差し口が同じ口径なのは偶然とは考えにくく、やはり輸入代理店をしていたことと関係あるのかもしれません。

ちなみにラミーのカートリッジインクには尻尾のような部分があって、インクが減ってカーリッジのインクがなくなってもこの尻尾部分のインクは残ります。

そして書けなくなった時にペンを軽く振ってあげるとカートリッジ尻尾内のインクがカートリッジ内に補充されて、また書くことができるサブタンクのようになっています。

ラミーは1952年に初めてのオリジナル万年筆を発売しました。

蚤の市など中古市場でその一部をたまに目にすることができますが、文字フォントなどにユニバーサルなものが使われていて、先進的な部分も垣間見られますが、まだはっきりとラミーの方向性が確立されているようには見えません。

ラミーが今のラミーのデザインの考え方にたどり着いたのはさらに時代を下らなくてはならず、1966年でした。

ラミー2000を工業デザイナーゲルト・ミュラーとともに開発した時でした。

ラミー2000は2000年になっても通用するデザインの万年筆を作りたいという願いを込めて作られた万年筆でしたが、2024年の今でも古さを感じさせない、現代の万年筆の定番とも言える存在になっています。

ラミー2000で独自の万年筆作りの法則を見出したラミーは、その後も機能はデザインと完璧に調和し、機能に関係しない装飾を放棄するという考えに基づいたペン作りを続けています。

今年ラミーを日本の三菱鉛筆が買収したという話に業界は沸きましたが、ドイツに行った時も何人かの人にそのことを言われました。皆さん比較的好意的に受け止めているようでした。

私はとてもロマンのあることだと思っていて、ラミーが三菱鉛筆の力を得て、どのように変化していくか楽しみにしています。

たしかに近年のラミーは苦しんでいたように見えました。

新たに発売されるのは定番品の色違いの限定品ばかりで、それらもマンネリ化していてすごく欲しいと思うようなものは少なくなっていました。

シャープで先鋭的なデザインは当時は新しく見えたけれど、定番として存在するだけで、テコ入れされず古臭く見え始めている。

サファリは安価な万年筆の中の名品で、たまに使うとやはり良いと思うけれど、以前はサファリの独壇場だったこの分野も、カヴェコなど魅力的なライバルが次々と誕生して、サファリはなす術もなくシェアを奪われていたように見えました。

こうして見ると、近年のラミーは相当に苦しんでいたように思えます。三菱鉛筆はそのテコ入れが大変だと思うけれど、ラミーの良さを生かした、世界を驚かせ楽しませてくれるモノを発売してくれると思っています。

新生ラミーが本格的に動き出すのは来年1月からです。

ラミーのモノ作り哲学の言葉とそれを実践したペン作りが好きで、とても面白いと思っていますので、当店もラミーに力を入れていきたいと思っています。

⇒LAMY トップ

美しい文字を書くためのペン

最近あまり見かけなくなりましたが、デスクペンというものがありました。

ボールペンタイプもありましたが、多くは万年筆でした。軸が尻尾のように長く先に行くほど細くなっているのが特徴です。

ペン先はたいていスチールで、あまり書き味は良くないはずなのに妙に書きやすく、不思議と(自分としては)きれいな文字が書けました。

そしてかなり経ってから、デスクペンが書きやすかったのはバランスが良かったからだと、思い当たりました。

全体的に軽いペンでしたが、長い尻尾がバランスにおいて重要な役割をしていて、コントロールしやすくしています。

万年筆はやはり、天秤のようにバランスがとれていないとコントロールしにくいのだと思います。

デスクペンにとても似た使用感で、コントロールしやすく、自分なりに美しい文字を書くことができると思ったものが「綴り屋月夜クラシックブラック」という万年筆でした。

細めの総エボナイトの長めの軸で、軽いけれどバランスが良い。組み合わされるスチールペン先がなぜか柔らかい書き味で、強弱がつけやすい。まさにこれはペン習字のためのペンだと思いました。

きれいな文字を書きたいと思っておられる方にはお勧めいたします。

同じクラシックブラックで14金の当店オリジナルペン先仕様も作りました。

書くことにおいてはスチールペン先モデルでも充分ですが、当店オリジナルペン先をシンプルな軸で比較的手軽に使っていただきたいと思いました。

カヴェコにも交換用の金ペン先が別売で用意されていて、需要があるようです。これはシンプルな軸で本格的な金ペン先を使いたいという人が多いことの裏付けなのだと思います。

様々な好みがあると思うけれど、私の場合は豪華な軸でなくてもペン先は金であって欲しいと思う方です。同じように思う人のためにも、綴り屋さんのシンプルな軸で金ペン先仕様を作りたいと思いました。

このクラシックブラックのように、軸が極端にシンプルでありながら金ペン先がついた万年筆は何かを物語っているようで凄みさえ感じます。

こういう万年筆の在り方を追究してみても面白いかもしれません。

 オリジナルペン先を作ったのは、ペン先調整をする店として、さまざまなペン先の研ぎ、調整にお応えしたいと思ったからでした。ペン芯はエボナイト製で、量産品にはない仕様になっています。

ペン先の鳳凰の図案も大陸から伝わってきて日本で育まれた文化を表していて、そういうものを好む当店を象徴するものにもなっていると思っています。

⇒綴り屋 月夜 クラシックブラック:スチールペン先

⇒綴り屋 月夜 トップ

人生を変えてくれるバゲラの革製品

個人的な古い話で恐縮ですが、まだ若いと言えるときに万年筆と出会って、私の人生は変わりました。

若いと言っても、結婚していて子供もいたけれど、その時の自分が何を考えて仕事をして毎日過ごしていたのかはあまり覚えていません。毎週の休みだけを楽しみにして、家族との時間を何よりも大切にしていたと思います。それも幸せな生き方だったと思うし、あのままでも良かったかもしれないけれど、そうしたらきっと今ここにはいなかったと思います。

万年筆と出会って、それで書くことに夢中になって、万年筆を使うことや見たり触ったりすることが好きになりました。

好きで触っているうちに万年筆を仕事にしたいと思うようになりました。万年筆というモノ、これを使う人が好きで、いつまでも関わっていたいと思ったからでした。

これが自分が生涯できる唯一の仕事だと思ってやってきましたが、改めてやはりそうだったと思います。あまり考えずに直感で飛び込んだけれど、そういう勘は当たるのかもしれません。

この店を始めた時、自分の力で生きていかなければいけない、という覚悟は持っていませんでした。割とぼんやりしている方なので、そういう自覚は後から気付いて持ち始めたと言うと恥ずかしいけれど。

バゲラさんは、自分たちのセンスと持てる技術を信じて独自の道を歩んでいる、別格の存在の革工房ですが、きっと始まりは私と同じように革が好きで仕方がなかったのだと思っています。お二人からは今もそんな雰囲気を感じるし、ご自分たちのモノ作りを楽しんでおられることがよく伝わってきます。

オーダー専門の工房として、顧客の要望に応えてひとつひとつの革鞄、革製品を作ることはセンスや技術にたくさんの引き出しがないとできないことだと思いますが、一緒に仕事させていただいて、その引き出しの多さに今だに驚かされます。

バゲラの高田さんご夫妻がこんなものを作ってみましたと、革製品を持ち込んで下さる今の関係は当店の宝だと思っています。

最新作は縫製せずに接合部を強力に接着した、形や構造を工夫した、価格を抑えたもので、袋物中心のシリーズです。柔らかく、使い込むと艶が出てくるベビーバッファローの素材で作られた、シンプルで高田さんたちも日常的に愛用しているものを製品化したものです。

これはシンプルな、構造から考えるモノ作りを得意とする高田和成さんが作ってくれています。

現在品切れ中のものもありますが、年末には入荷する予定です。

夏頃から作っていただいているブックマークも、ベビーバッファロー革のシリーズも、バゲラさんの革製品に興味を持っていただくきっかけになるものだと思っています。

私が最もバゲラさんらしい作品だと思っている3本差しペンケースが入荷しました。

クロコ、黒桟革、アンティークゴート革などを組み合わせて、ミシンでは不可能な手縫いによるこま合わせ技法を用いて作られています。

バゲラさんの革作品の一番の魅力は、普通の人生を送っている自分の生き方を変えてくれるような気がするところだと思っています。

このペンケースに相応しいと思えるペンを3本選んで持ち運ぶと、きっともっとクリエイティブな仕事ができるようになるのではないかと思ってしまう。

もともとの性格はどうしようもないけれど、私はパワーのある豪快な不良性のある人間になりたかった。

バゲラさんのモノには、もしかしたらそんな人間になれるのではないかと思わせてくれる魅力があります。

⇒BAGERA 3本用ペンケース(ペンケース3本以上収納TOP)

⇒BAGERA ベビーバッファローシリーズ(机上用品・革小物TOP)