あまりコレクションする習慣のない私が、初めて字幅を揃えて持ちたいと思った万年筆がこのプラチナブライヤーでした。
私が万年筆を仕事にするようになった時にはすでにあって、特に目立った存在ではなくあまり省みられることのないものでしたが、使ってみてその良さが分かりました。
それはデザインなどからは想像することのできなかった満足感、使うたびに喜びを感じることのできるものでした。
私にとってこの万年筆はあまり人が使っていないものを使いたいと思って使い始めた、憧れの存在というものではありませんでしたが、万年筆観を変えてくれるものになりました。
プラチナの万年筆はどれも、文字を書くのに必要最低限のインク出で、硬めのペン先で滑りを出すという味付けが頑なに施されています。
それはもしかしたらお店での試し書きでは良さが分かりにくいものかもしれませんが、万年筆を実用の道具として使っている人の多くが、ご自分の万年筆のインク出が多過ぎることに多少なりの不満を感じていることを考えると、とても実用的な仕様だと思います。
ヌルヌルといった書き味は持ち合わせていませんが、使うための万年筆を頑固に作り続けているのがプラチナです。
ブライヤーという素材は、多くの万年筆メーカーが取り組んできた比較的よく使われてきたものですが、現在継続して定番品として作っているのはプラチナだけだと思います。
シャクナゲ科の植物の杢の部分は、木目が複雑に渦巻いていて面白い模様を呈しますが、硬さもあるため、万年筆などの筆記具にも適している素材だと言われます。
ブライヤーは熱にも強く、筆記具に使われるずっと以前からパイプのボウル(葉をセットする部分)に使われる素材でした。
強度だけでなく、使い続けることで手の油で磨かれてとても美しい光沢を見せることから、見て、磨いて、吸って楽しむパイプ文化を形作ったのはブライヤーという素材があったからだと思います。
この万年筆に使われるブライヤーは拭き漆という技法によって仕上げられています。
漆を布につけて、拭くように素材に馴染ませる技法で、手触り、光沢が自然な風合いに近いこの万年筆の良さに一役かっている技法です。
実用的な文字を書くためのプラチナのペン先システムと、見て、磨いて楽しむことができるブライヤーのボディ、女性のお客様は実際少数ですが、男性のための万年筆がこのプラチナブライヤーだと思います。
手帳書きにインク出をさらに絞ってペンポイントを細くした細字、ノート書き用に中字、太い文字が欲しい時に使う、インク出をできるだけ多くして、筆記角度に合わせてペンポイントに面を作った太字と用意して、どのペンも布でピカピカに磨き上げて、3本差しのペンケースに入れて持ち歩きたいというイメージを持たせてくれる万年筆だと思っています。