作家たちの傍らにあった小判型のペントレイ

作家たちの傍らにあった小判型のペントレイ
作家たちの傍らにあった小判型のペントレイ

ずっと以前にある方からペントレイを作ってみてはどうかとご提案いただいていました。
その方から見せていただいた1枚の写真にはある机上の風景があり、その中にペントレイも写っていました。
かなり使い込まれていて、汚れて、傷だらけでしたが、いかにも愛用品という感じがしました。
そのペントレイは伊丹十三さんが生前愛用していたもので、鉛筆で原稿も絵も描いていたという伊丹さんらしく、数本の鉛筆とモンブランのピックスペンシルと消しゴムが置かれていました。
作家の書斎の写真などをいくつか見ると確かにこの手のペントレイがあって、そこにきちんとあるいはバラバラと彼らの仕事道具が横たわっていました。
最近このような木でできた大きめのペントレイを見ることがなくなってしまいましたので、作っていた会社か職人さんが止めてしまったのかもしれません。

でも私がイメージするペントレイというと、このように少し大きめで、いくつもの筆記用具をいつでも手に取るようにしておけるもの、そして傷だらけで鉛筆の黒鉛の汚れやインクの染みなどがついているものでした。
伊丹十三さんは自分の身の回りに置いておくものや道具にとても強いこだわりを持っていて、厳選したものだけを使っていたということでしたので、きっとこのペントレイも数多くのものの中から選び抜いた、最も使いたいと思ったものだったのでしょう。

その写真を見せて、工房楔の永田さんに同じ形のものを作って欲しいと伝えていました。
私が昨年の楔さんのイベントの時に丸型の作業椅子をお願いするより前のことだったと思うので、出来上がってこないところを見ると、ペントレイのことは忘れてしまっているのかと思っていましたが、先日のイベントの時に作って持ってきて下さいました。

万年筆用としてよく売られている革のペントレイよりも大きめで、安定感があって道具としてとても使いやすそうで、長い新しい鉛筆もたくさん入れておくこともできます。
こんなペントレイを傷だらけになるまで長年愛用して仕事し続けることができたら、とても幸せだと、生前様々な活動をしてどの分野でも高い評価を得ていた伊丹十三さんの人生を思いました。

伊丹十三さんだけでなく、パソコンのなかった昭和の時代の文筆家の傍らにはこんな形の大きなペントレイが似合います。

Pen and message. 2nd Anniversary キーホルダー完成

Pen and message. 2nd Anniversary キーホルダー完成
Pen and message. 2nd Anniversary キーホルダー完成

シルバーアクセサリー作家きりさんによる当店の2周年記念キーホルダーが限定30個で出来上がりました。

当店のロゴである羽根ペンのモチーフはそのままに、とても精巧に作られたオニグモのモチーフは小さな力作と言えます。
アクセサリーの題材に日本のクモ、オニグモをモチーフとするところが、きりさんらしいと思っています。
図案化したものや、意匠を凝らしたものもいいですが、こうやって作り込まれた完成度の高さを感じるものに、私は魅力を感じます。

シルバーアクセサリーでモチーフをリアルに表現する時にクモなどの昆虫は最適で、細部まで作りこむということにこだわっています。
このキーホルダーはシリーズ化して、継続していきたいと思っていて、コレクションする楽しみも当店の創業記念キーホルダーの楽しみになればと思っています。

きりさんのシルバーアクセサリーは当店がオープンした時から扱っています。
和風のモチーフに細部まで手の込んだ作りで、あまり安いとは言えない価格(1点ものなので仕方ありませんが)であるにも関わらず買っていかれたり、オリジナルデザインのリングをオーダーされる方もおられて、その世界観は独特だと思っています。
和風のオリジナルデザインを手掛ける一方、ペリカン用羽根ペンクリップも作るという、当店のお客様を理解した柔らかさも持っているシルバーアクセサリー作家です。

店が継続するためには様々な要素が必要です。
まずお客様に来ていただかなくてはいけませんし、採算も取れなければいけません。協力してくれる人たちも必要です。
そんな中、きりさんのようにともに行動してくれる人、協力してくれる人の存在は不可欠です。
そんな人たちの協力と、買って下さるお客様がいるからこそ、当店はオリジナル商品などの独自の商品を発売することができていると思います。
まだオープンして2年ということで、それを記念して何かを作るということはとても照れくさいのですが、お店や会社にとって、時を重ねることがそれほど重要なことだということで、お付き合いいただけたら嬉しく思います。

吸入式であるということ セーラープロフィットレアロ

吸入式であるということ セーラープロフィットレアロ
吸入式であるということ セーラープロフィットレアロ

私は吸入式の万年筆もカートリッジ式の万年筆も使っていますが、吸入器の動きがスムーズな万年筆は使っていて気分が良く、ついついそれに手が伸びてしまいます。
万年筆を道具として使っている人は、多かれ少なかれ万年筆のどこかにこだわりを持って使っていて、それがデザインである人や書き味である人など様々です。
国産として久々のピストン式吸入機構を持つ万年筆プロフィットレアロで表現したセーラーのこだわりはその万年筆の魅力を高めてくれていて、プロフィットレアロに強く惹かれる人もたくさんおられるのではないかと思います。

セーラーが5年前に発売した創業95周年限定万年筆「レアロ」はキングプロフィットをベースとした、大きなペン先を持つ吸入式万年筆でした。

それまでセーラーは長刀研ぎペン先やクロスポイントなど、非常に書きやすいけれど、たくさんインクを使う万年筆が多く、コンバーターやカートリッジではすぐにインクがなくなってしまうので、大容量のインクを吸入できる吸入式の万年筆の開発を多くの愛用者から期待されていました。

時計は機械式であって欲しいと時計が好きな人が思うように、万年筆愛用者は万年筆に吸入式を求めるのかも知れません。セーラーはそのような万年筆にマニアックなこだわりを持つ人たちに支えられてきたので、その開発は急務だと、外部にいる私たちでさえ思っていました。

とっておきの吸入式を限定万年筆の目玉としてしまったことで、多くの人の声に応えることができないのではないかと思っていましたが、セーラーは定番の中心的万年筆プロフィット21の吸入式万年筆プロフィットレアロを発売しました。

プロフィット21は非常にオーソドックスな外観を持った万年筆です。しかし、誰でもペン先を滑らせた瞬間に分かるその書き味の良さで、それを愛用している方々だけでなく、万年筆を販売する立場の人間からも支持を得ていました。
ベーシックな万年筆を探されているお客様にお勧めすると、その書き味を喜んでもらえるプロフィット21は非常に有り難い存在だったのです。

プロフィット21は数年前と比べると少し硬く感じられるペン先に移行しているようですが、その書き味の良さは健在で、そこに吸入機構を備えたことで、セーラーも吸入式万年筆の必要性を感じているということが分かりました。
海外の万年筆、ペリカン、アウロラ、モンブラン、ラミー、ビスコンティなどは吸入式機構を実用万年筆に採用していて、珍しいものではなくなっていますが、国産万年筆ではなぜか吸入式は少なく、定番として作られている実用万年筆ではパイロットの大容量のインクを吸入できるカスタム823くらいしかありません。
それだけ日本の万年筆は、その売れ行きが悪くなってしまって、一番癖がなく無難なカートリッジ、吸入式の両方に対応した両用式が実用的には十分だということで作られてきたのだと思います。
インクを入れるという事は同じでも、その過程を楽しむ、それが吸入式の万年筆の良いところで、大人の心のゆとりを感じられる万年筆だと思います。

セーラー:プロフィットレアロ