今までM1000という万年筆と何となく距離を置いていたようなところがあって、それは書くための実用性から少し離れたところにこの万年筆がいると思っていたからでした。
M1000に対する私のその印象は今でも間違ったものではないと思っていますが、なぜ万年筆を使うのかということをよくよく考えると、それは実用性だけを求めてのことではありませんでした。するとM1000を避ける意味はなく、使い手とM1000にはそれぞれの付き合い方があるということを多くのお客様方に教えていただきました。
私がM1000をかわいそうにも黙殺している間も、何人ものお客様が店にないM1000をオーダーして下さり、その都度取り寄せで対応していました。
今は同僚とも言える駒村氏もM1000の3Bをオーダーしてくれて、使ってくれていますが、M1000の3Bで原稿用紙に書くのが良いと言います。
文筆業ではない彼が原稿用紙に物を書くという発想に驚きましたが、確かに原稿用紙のマス目に細字寄りの万年筆で書くとバランスが取りにくく、書かれた文字もあまりサマになりません。太めの万年筆の方が合っていると思います。
それに原稿用紙の紙は非常に質が良いので、3Bのようなインクがたくさん出る万年筆のインクもよく吸収してくれます。
万年筆の字幅の中でも最も太い3B、そしてその3Bの中でもペン先が柔らかく、たくさんインクが出るM1000の筆跡が最も太く、そして書き味が良い。
私も以前から原稿用紙を上手に使いこなしたいと思っていましたので、M1000の3Bが急激に気になり始め、ついに手に入れて今年を象徴する1本にしました。
ブログでも書きましたが、万年筆に名前などの文字を彫刻することをしてみたいと思っていましたので、何か書く時にいつも心掛けたいと思っている「切り口を変えて考える(Think,shift the angle)」という言葉を彫刻してもらいました。
書いていて本当に楽しい万年筆、使うよりも先に書きたいという欲求が来る万年筆で、万年筆を使い始めたばかりの頃の気持ちを思い出させてくれます。
この万年筆に書くために原稿用紙に何か書きたいと思い、ブログやホームページの下書きを電車の中で立ったまま書く時以外は、M1000で原稿用紙に書くようになりました。
この万年筆と原稿用紙の組み合わせのもうひとつの私にとっての魅力は文豪気分を味わえるというところ。
実際にM1000を愛用した文豪を知らないけれど、この豪快な万年筆と文豪という言葉がすごく合っているような気がしています。
ペリカンの代表的なボディカラー緑縞ではなく黒軸を選んだところも私らしいと思ったりして、とても気に入っています。
その存在は当然知っていて、お客様との話に出たり商品として扱ったりしていたM1000が自分にとってとても近い存在になって、毎日手にしたい万年筆になりました。
さすがに3Bは太すぎて実用性があるとは言い難いですが、他の字幅も(たとえEFでさえも)豪快に使えて、その書き味を楽しむことができるのではないかと思っています。