木の万年筆を直感的に好ましく感じる人は多いと思います。
木の自然な手触りや、使い込むと光沢を増すボディに愛着を持って使う、万年筆の理想を見るからだと思います。
でも木の万年筆の楽しみ方はまだあって、私は佐々木商店のつやふきんを使っていますが、美しい光沢に磨き上げるということも木の万年筆ならではのものです。
万年筆は自分の想いや考えを紙に記す、書くということを書き味を楽しみながらできる、言わば個人的な、自分の内面を見つめ直す作業の中で使われるものであるから、それはどちらかと言うと個人的なものだと思っていました。
磨いて光沢を出した万年筆はもちろん自分の楽しみでしていることですが、それは必ず人に見せたくなる。
その場合の万年筆は、個人的なものではなくて、そのモノ自体がコミュニケーションの中心にあるように思います。
木の万年筆を磨いて美しい光沢を持たせるということは、他の人にその美しさを見せて「きれいですね」と言ってもらいたい。
そんな他の人とのやり取りを想像しながら磨く楽しみのある木の万年筆を2本ご紹介いたします。
カスタム楓(かえで)。かなり以前からパイロットの定番品としてモデルチェンジをしながら今も作られている万年筆です。
イタヤカエデという材をボディに仕立てています。
何をしても手堅いパイロットらしく、木のボディにヒビや割れが生じないように樹脂を含浸させています。
しかし、表面はナチュラルなままですので使っていくうちに磨かれたり、手の油を吸って光沢が出る余地が残されていますし、元々かなり変化しやすい性質なのか、使いこむだけで艶がでてきますので、磨き甲斐のある素材だと言えます。
またカスタム楓は他のパイロットの万年筆とかなり書き味が違っていて、それは磨く楽しみのあるボディという趣味的な要素と釣り合いを持たせた仕様と言える柔らかいペン先を装備しています。
この柔らかいペン先を利用して美しい文字を書くことも可能です。
筆圧を掛けると線は強調され、力を抜くと線はスッと細くなる。強弱をつけてじっくり文字を書くことを可能とする万年筆なのです。
そんな文字を書く楽しみを持たせているのが、カスタムカエデの万年筆として味付けです。
21000円という実用一辺倒の国産万年筆が揃う価格帯の中で、かなり異色ですが、無視できない趣味的な書く楽しみ、磨く楽しみのある万年筆だと思います。
そして52,500円という国産ハイエンドモデルが揃う価格帯の中で格の違いを見せ付けているのが大型の万年筆カスタム一位(いちい)です。
その名前から縁起の良い木と言われている一位の木を圧縮して、密度の高い、キメの細かい万年筆のボディに相応しいものにしています。
そのまま使える材ではなく、使えるようにするために圧縮するというのは何か強引な力技という気もしないではないですが、その加工のおかげで木の感触を残したままで、ヒビや割れ対策を実現しています。
カスタム楓と違う方法で、木を万年筆のボディに使うデメリットである割れ対策をしたことにパイロットの技術の幅を感じます。
カスタム一位のキメの細かいボディのスベスベした手触りはとても気持ちよくて、この万年筆をより上質なものに感じさせてくれますし、使い込んだり、磨いたりした時の艶の出方は相当美しいと予感できます。(昨年発売されたばかりの万年筆なので、予想になりますが)
カスタム一位は、パイロットの名作万年筆だと多くの人が評価するカスタム845のボディの素材違いとなっていて、ボディサイズ、ペン先などのボディ以外はカスタム845と共通になっています。
カスタム845はパイロットが世界に示す、書くことにおいて完璧な万年筆のひとつの形で、世界に示すために日本らしい素材の仕上げである漆塗りがボディに施されているのだと想像します。
パイロットが世界に示す、書くことにおいて完璧な万年筆の書き味は非常に弾力の強いものになっています。
私は一位や845の書き味をバネみたいだと表現していますが、バネのようにビョンビョンと跳ね返りの強い書き味はハードな筆圧で、早く書くことに適した仕上げだと思っています。
カスタム845の木軸バージョンである一位もまたパイロットが世界に示す、書くことにおいて完璧な万年筆なのです。
磨く楽しみのある木軸の万年筆ということで、カスタム楓とカスタム一位という2つの万年筆をご紹介しましたが、文字を書くことを楽しむ楓、ハードに使う実用の道具に木の余裕を持たせた一位、というふうに個性や狙いが違っていて面白いと思っています。
*「つやふきん」は商品自体を卸されていませんので、そのまま商品として購入したものをお分けしています。店頭のみの扱いになりますのでご了承下さい。