粋な文房具

粋な文房具
粋な文房具

意外に感じる人もいるかもしれませんし、上手くいかないこともあるけれど、実は粋でありたいと思っています。
非常に曖昧な概念で、これが粋なのですとなかなか具体的な指し示せるものではありませんので、深く考えると哲学的な話にさえなってしまうかもしれません。

でも私が目指す粋ということをなるべく簡単な言葉で言い換えるなら、少し違うかもしれないけれどスマートでありたいというところでしょうか。
いろいろ誤解を受けたり、たまに天邪鬼と言われるけれど、それは粋でありたいという気持からだったのです。

「粋の構造」(九鬼 周造著岩波文庫)。妙な図形が描かれた表紙に、そしてその題名に惹かれて読んだ本でした。
「粋の構造」は粋という言葉を精神的に、感覚的に、外見的に定義していて、その本によると粋というのは日本語独特の言葉であって、外国にはそれに近い意味合いの言葉はありますが、しっくり当てはまる言葉がないそうです。
日本語の粋は「iki」であって、どんな言葉にも言い換えることができないのです。

赤瀬川原平氏の「無言の前衛」からの引用ですが、粋と似た存在の言葉に「渋い」という感覚がありますが、渋いという感覚もその言葉も他の言語に当てはめることができないそうです。
物の在り方、美的感覚を表現した言葉である「渋い」は粋と同じではないけれど、非常に近いところもあるのだと、日本人には感覚的に分かるようです。
渋いという美的感覚は茶道の世界で最も大切にされた感覚だと思いますが、もちろんそれ以前から存在した感覚で、日本人の精神性にだけ存在するものなのです。
生き方や態度、物腰は粋でありたいと思っているのと同じように、自分が持つものも粋な物を持ちたいと思っていますし、何か物を作る時、粋という言葉を大切にしたものを作りたいと思っています。

粋なものというのは、これもまた具体的に表現することのできないものですが、例えばWRITING LAB.で作ったサマーオイルメモノートは粋を目指したものだと思います。
装飾のない素材を切り取っただけの設えですが、その素材には実は良質で手触りの良い丁寧に作られた革が使われている、そしてそんな誰も使っていないこのメモ帳を使うことが粋だと私は思っています。

私たちが最も大切にしている書くということを粋にこなすためのものを作りたいと思ったのです。
サマーオイルメモノートのようにシンプルで飾り気がないけれど実は良い素材を使っている、強いこだわりを持って作られているけれど、こだわっていないように見せる感覚は、粋という言葉からイメージされる物を作ろうとする時に1つの大切な要素になると思います。

木の杢を愛でる感覚も粋な心持ちからくるものだと思っています。
全て整っていて、個体差のない工業製品ではなく、ひとつひとつが違っていて自分なりの見立てをして、虫食いさえ景色と見て楽しむ。

工房楔の銘木カッターナイフ。
文房具として当たり前のものであるカッターナイフを木で仕立てる。
しかもただの木ではなく、杢の美しい銘木を纏わせる。
文房具にこだわる人なら、このカッターナイフの粋さ加減を理解してくれると思っています。

それぞれの素材によって、木目が違い、杢の出方も違う。使い込んだり、丹念に磨いたりしたときの艶の出方もそれぞれ違いますので、ある特定の素材を自分のものとしてそればかりを集めたり、様々な素材の違いを楽しむために様々なものをコレクションしたりと、それぞれの人が自分なりの楽しみ方を杢に持っている。
自分なりの楽しみ方、向かい合い方をそれぞれの人が持っているというのは、杢も万年筆も同じかもしれません。

万年筆を使う、書くことを大切にする心も粋だと私は思っていますし、粋に万年筆と付き合っていきたいと思っています。

⇒WRITING LAB. サマーオイルメモノート
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