書店の理想と書皮

書店の理想と書皮
書店の理想と書皮

WRITING LAB.の活動を一緒にしている駒村さんの山科のお店River Mailから、以前駒村さんの伯父さんとお母さんがされていた本屋さんのブックカバー 書皮(しょひ)が出てきました。
River Mailは10年ほど前に閉店したその本屋さん「本のこまむら」を改装してできたインディアンジュエリー/ステーショナリーのお店で、京阪電車京津線四宮駅から南すぐの場所にあります。

今昔の面影を偲ぶのは難しいけれど、四宮駅から南方向に四宮商店街があって、道の両側に商店が軒を連ねていました。
「本のこまむら」ができたのは昭和40年代前半で、商店街も賑やかに人が行き来していたそうです。
小さな駅、小ぢんまりとした商店街に、四宮神社があり、山が近くに見える京都と大津という都市に挟まれた田舎町の風情が感じられる町が四宮です。

「本のこまむら」の書皮にはおもしろい逸話があります。
オープンの告知に配ったチラシの中に伯父さんは長新太さんが「星の牧場」という絵本で描いた絵を入れました。
そのチラシがどう廻ったのか分かりませんが、東京におられた長さんの知るところとなり、長さんから絵を無断で使っていることを指摘する手紙が届きました。
伯父さんは長さんに参考書、百科事典や絵本の子供の本中心の本屋を成功させたいと長さんに夢を語り、それに共感した長さんが絵を書皮に使うことを承諾してくれました。

その話を駒村さんから聞いて、伯父さんの情熱、それを意気に感じた長さんの心の広さ、その時代のおおらかさ全てに心を打たれました。

私たちが高校生くらいの頃までは、たくさんの本屋さんがありましたが、様々な娯楽が出来て本を読む人が減り、コンビニができてジワジワと減っていきました。
とどめはインターネットで、安く、早く本を買うことができるようになったことで、個人経営の本屋さんが激減しました。

個人経営の本屋さんそれぞれに理想があって、それを目に見える形で表現したのが書皮で、お客はその書皮を纏った本に誇りを持って、例えば電車の中で鞄の中から取り出す。
世の人の大半はいつしかどこで買ったという誇りのようなものを持たなくなって、店の提案ではなく、インターネットの情報や人気投票というランキングで本を選ぶようになって、少しでも安くて早い本を読むようになりました。

こだわりがあって提案のある個性的な本屋さんで本を選ぶ機会を逸したのは、私たちがそういう本屋さんを利用しなくなったのが原因で、私も大変後ろめたく思うのです。
本のカバーで最も使いやすいのは、本屋さんが掛けてくれる書皮で、何の出っ張りもなくて、手の収まりが良い。

余談ですが、書皮を片側のページだけ表紙にはめて、反対側は巻き込むだけで客に渡す本屋さんが多くなりました。
時間がかかるし、ハードカバーなどは特に手間なのも分かるけれど、私は両側の表紙にしっかりと書皮を通してもらいたいと思います。
学生時代垂水東口の本屋さんで4年間アルバイトをしていたけれど、書皮はかならず両側の表紙に通してお客様にお渡ししていました。

話は戻りますが、誇りを持って使うことができる書皮が私の周りに少なくなって、それではとWRITING LAB.で革で書皮を作ろうということになりました。
栃木レザーの上質な、色合いもWRITING LAB.らしい色気のあるクリーク革を極限まで剝いて、薄くしたものを張り合わせています。
反対側は本の厚みによって折り目を入れる場所が異なりますのでフリーにしています。
折りたい所に指で少量の水をつけて折っていただくと折り目がつきやすく、ついた折り目も水をつけて押さえていただくと消えやすくなります。
上質な革をあえて薄く紙のように使うのは、とても贅沢な使い方ですが、革を使うことでしか、個性的な本屋さんのこだわりの書皮に代わるものを作ることは不可能だと思いました。

ブックカバーとは少し違う素材感をぜひ試してみて下さい。