私たちの身のまわりには安く買うことができる大量生産品があります。
それらによって生活が便利でコストのかからないものになった代償として、それらの品の生産国である隣国の塵芥が日本に飛んでくるのはとても皮肉なことだと思います。
本当は自国で作られた、理想を言うなら、ひとつひとつ丁寧な手仕事で作られたものに囲まれて暮らしていきたいと思っているけれど、私たちの暮らしは最早そこには戻ることが出来なくなっているのか。
でも大切に思って、こだわっている筆記具くらいはそういうものを使っていたいと思います。
その製品を作ることで、どれくらいの利益を生むかを計算されたものよりも、使う人がどれだけ喜びを得られるかを考えて作られたもの。
工房楔の永田さんはひとつひとつのものの木目や木の方向を読んで、それぞれのものが一番良い木目が出るようにモノを作っています。
大きめに切った材をペンに削り出していく時、木目が一番美しくなるところで止めます。
仕上げの磨きもツルツルにしていいもの、ある程度の粗さを残した方が良いと思えるものなど、その材に合った手触りを残したり、磨き上げたりしています。
永田さんは木については語るけれど、こういったことについては、聞かないと教えてくれない。
それが永田さんの美学だと気付いた時、非常に共感しました。
語らないところに、実はこだわっている部分があって、語らない所に一番大切なことがあるのだと教えられたのでした。
工房楔のシャープペンシルは細身で、作り手の理性が感じられる抑えた雰囲気を持っています。
何の変哲もない姿のペンというのは、こういうものを言うのだろうと思いますが、普遍的な誰にでも扱いやすいもの、でも当然大量生産、大量消費を目的としない、一人一人のために作られた優しい気持ちから生まれたもの。
工房楔のシャープペンシルでこれからいつも思い出すであろう大切にしたいエピソードがあります。
医大の受験を控えた関東の高校生の方が、一昨年当店のネットショップで花梨のシャープペンシルを購入して下さいました。
スタッフKが窓口となり、メールで何度かやり取りさせていただいて、当店の姿勢や工房楔の商品について理解していただいた末にシャープペンシルをお送りしました。
数ヵ月後、工房楔のシャープペンシルで受験し、合格することができたと報告してくださいました。
さらに、当店を訪ねるためだけに新幹線に乗ってわざわざ神戸に来て下さいました。
大学1年間で5回ほど神戸に来てくれた彼は、息子より1つ年上なだけで、文字通り息子のように感じられる存在で、他人には思えない。
彼が受験勉強やその後の勉強で酷使していた工房楔のシャープペンシルはヒビ割れし、色も手の汗を吸って変色したものを楔の永田さんがヒビを補修し、磨きなおしてとても美しい姿に生まれ変わらせました。
シャープペンシルがまた新品みたいになった時、エージングが元に戻ってしまったと思う人もいるかもしれないけれど、永田さんはそういうことも理解して、新品のようにしてみせた。
手に入れて、使い込んで、何かあった時修理に出して直してもらう。
ペンはモノでしかないけれど、そこに想いがこもることで、ペンを購入された時のお客様と私共のやり取りなどの記憶が伴い、ただのモノでない、より大切にできるモノに感じられます。
全てのものがそういう想いに応えられるわけではなく、工房楔のシャープペンシルのような味わいを持つようなものがそのひとつなのだと、永田さんに、今は医大生になった彼に教えられたのでした。
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