この万年筆は1本ずつ非常に丁寧に作られたものだと思いました。
クッキリとエッジの立った、磨き抜かれたボディ。金張りの3本のキャップリング。トップのホイールに天然石オニキスが奢られたクリップ。
この万年筆のオリジナルは1936年、創業者のアルマンド・シモーネがオマスの陣頭指揮を執っていた時に作られたもので、私は8年ほど前に復刻されたオマスエクストラトランスルーセントを見たのですが、忘れられない万年筆としてずっと頭の片隅に残っていました。
夏になると透明のボディのデモンストレーターが各社から発売されますが、これほどのものを見ることはあまりありません。
このトランスルーセントは、「遊び心のある万年筆を最高の素材を使って作り上げ、実用品を超えた万年筆を作るメーカー」として、その後の私のオマスの印象を決定付けたと言っても過言ではありません。
その後日本代理店の不在により市場から姿を消したオマスの復活を待ち望んでいました。
この万年筆を見て思い付いた印象をキーワードにすると、「作り込む」ということでした。
透明で柄入りの万年筆のボディはもっと価格を抑えることができるアクリルボディでも作ることができます。
でもそれをオマスはしないだろうことは予想がついていて、この辺りにオマスの価値があるように思っています。
今回復刻されたエクストラルーセンスに、当店が選んだペン先は14金のエキストラフレックスニブで、これは往年のオマスに付けられていた非常に柔らかいペン先で、筆圧に気を付けないと引っ掛かりが出てしまいます。
しかしそのボディ同様に書くことを楽しめるものになっていて、遊び心を存分に刺激してくれる万年筆に合ったものになっています。
遊び心を感じさせてくれる万年筆をもう1本。
ビスコンティオペラマスタークリスタルをご紹介いたします。
もちろん明言はされていませんが、この万年筆はシェーファーのトライアンフ型のペン先のついた万年筆へのリスペクトが感じられます。
シェーファーのトライアンフ型ニブは現在作られていませんが、マニアックな仕様が多かったシェーファー独特の仕様のひとつでした。
独特の形のペン先ですが、とても書き味の良いもので、成功していた仕様のひとつでした。
筒状で、地金はネジを切ってボディに装着する構造になっているほど厚く、表面の刻印が薄く裏側に写るものが多い現代のペン先とは、真逆のものです。
素材の厚さは、万年筆においては良い結果をもたらすことが多く、トライアンフ型ペン先の書き味も良いフィーリングのものでした。
オペラマスタークリスタルのペン先は、素材こそ最近のビスコンティが取り組んでいる新素材のうちのひとつクローム18というものが使われていますが、とても厚く、ネジが切られている構造は同じで、書き味もシェーファーのものに近いと思いました。
ペンポイントは少し上に反ったような形状をしていて、これによりペン先を開きやすくし、弾力のある書き味に仕上げています。
このペンポイントの恩恵は変化のある美しい日本字を書く役にも立っています。
ペン先に装着して、ストローのようにして吸入させることができる、シュノーケルデバイスはインクが少なくなったボトルインクも楽々と吸入させることができるものです。
引き上げておいた尻軸を軸に戻すように押し込むことで、大量のインクを一気に吸い上げる劇的な「ダブルタンクパワーフィラー吸入」とともにインク吸入の儀式を厳かなイベントにしてくれる演出をしてくれます。
これをいかに格好良く所作するのかも、大人の遊び心なのかもしれません。
*画像の万年筆はオマスの「エクストラルーセンスリミテッドエディション」です。