万年筆は書くことを楽しくしてくれる筆記具だけど、当店は万年筆だけにこだわっているわけではありません。仕事ではボールペンを使う機会の方が多いという人がほとんどだし、外出先ではボールペンの方がやはり手軽に使える。
ボールペンはその選択によって仕事を楽しくしてくれるものではないかと思っています。
スーパー猛暑と言われる今夏、万年筆だけでなく少し肩の力を抜いて涼しい気持ちで、超定番はなく、当店らしいボールペンの提案をしてみたいと思いました。
仕事の道具として選ばれることの多いボールペンですが、少しは遊び心がある方がいい。
地図が好きで、地名や山河の名前を聞いただけで萌える私ならこういうものを使ってみたいと思い、選んだものがモンテグラッパのボールペンでした。
「ドゥカーレ」は少し大きめのボディで、とても堂々としたボールペンです。
ヴェネツィア近郊のヴェネツィアングラスの産地ムラノ島へのオマージュとして作られたドゥカーレムラノマーレは深みのあるブルーとベージュのアクリルレジンで、ガラスのような輝きのある美しさです。
こんな美しいボールペンをモンテグラッパは作ることができるのだと、衝撃を受けた1本でした。
「フォーチュナモザイク」は、美しいモザイクアートの3つの都市をテーマにそれぞれの都市をイメージしたボールペンです。
モンテグラッパのペンに対して実用的なことについて言及するのは野暮に思えるけれど、丸みのあるボディが意外と手にフィットして、とても使いやすいところも特筆すべきところだと思いました。
「バルセロナ」。美しく区画されたその街の全体像自体がアートのようですが、他のペンでは見られないターコイズブルーのモザイク模様はグエル公園の建造物をイメージしたのかもしれません。
「マラケッシュ」は、モロッコの神秘的な街の風景が目に浮かびます。街中にあるモザイクアートを透明感のあるブルーのモザイク模様で表現しています。
「ローマ」は、モノトーンのモザイク模様で、ローマのモザイク画やローマが舞台となった古い映画をイメージして表現されているのか、とてもピッタリなイメージです。
それぞれのペンを手にして、テーマになったそれぞれの街に思いを馳せる。それもひとつの大人の遊び心で、モンテグラッパの提案する遊びに大いに共感します。
普段の生活や仕事の中に旅をイメージさせるものがある。
ペンならそれをさりげなく取り入れることができると思っています。
モンテグラッパは汎用性の高いパーカータイプの芯を使用していて、好みの書き味の芯を自分で選ぶこともできるので、道具として自分の理想に近付けることができるというところもポイントです。
⇒モンテグラッパ「ドゥカーレ ムラノ マーレ ボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・ローマボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・マラケッシュボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・バルセロナボールペン」
価格に見合った価値のためのペン先調整
イベントで出張販売しました札幌・福岡でも多くの方から求められていると実感したのはペン先調整でした。
それだけ多くのお客様が書けない、あるいは書きにくい万年筆を手にしてお困りなのだと思います。
最近では、万年筆を使われる方の実情に合った、太いペン先を国産万年筆の細字くらいに細くする細字研ぎ出しもかなり多くなっています。
万年筆はけっして安いものではありません。
ペン先が14金で1万円以上もするのに、書けなくていいはずがないし、5万円以上もするのに、ステンレスのペン先の万年筆と同じようにただ書けるだけではいけない。
誰でもそうだと思いますが、私も買い物をする時、そのモノにその値段の価値があるかどうか考えます。
価格に見合った価値があるかどうかは、私の場合高いお金を払ったというマイナスよりもそのモノから享受できる喜びが上回るかです。
お金を貯めてたまに、私としては高い靴を買います。
JMウエストンのゴルフは、とても高価な靴です。
昔はそんなに高くなかったという人も多いけれど、自分にとってその靴が喜びを与えてくれるからそれでいいのだと思います。
これからこの靴を自分の足に時間をかけて馴染ませていくのだという希望のある喜びが履くたびに感じられる。色違いでもう1足欲しいと思う。
私にとってゴルフは値段に見合った価値を提供するものになっています。
使い始めた万年筆が価格に見合っていると思ったらその人はきっと2本目、3本目と万年筆を買ってくれるだろう。
でもせっかく思い切って買った高価な金ペン先の万年筆が、子供用の安価なスチールペン先の万年筆よりも書いていて楽しくなかったら、きっと高い万年筆を買うことがバカバカしくなってしまう。
万年筆を使い始めた人がそう思わないように、当店で販売する万年筆は価格に見合ったものだと思ってもらえるようなペン先調整をしています。
それは特別なことではないし、改造と言われるものでもない。
ペン先をルーペで見て正しい状態にするだけ。そして正しい状態の範囲内で、その万年筆を使われる方の書き方やお好みに合わせる。それは万年筆を販売する店として当然のことだと思っています。
もし前述の靴がいくら上質なモノであっても、お店の人からもう1サイズ大きいものがピッタリだと勧められていたりしたら、今のフィット感は得られなかったので高い買い物になっていた。
万年筆のペン先調整も、お客様にピッタリの靴をお勧めすることと同じだと思っています。
福岡でのイベント「Pen and 楔 2017」を終えて
福岡県南部の記録的な豪雨の翌週で、どういう状況かよく分からないまま迎えた福岡のイベントでした。訪れた三日間は雨は降っていませんでしたが、すごい湿度で神戸とは全く違い、もちろん6月末に訪れた北海道とはあまりにも違う蒸し暑さでした。
重い調整機のカートを引いて地下鉄から地上に上がった時には、すっかり汗だくになっていました。
会場のほぼ隣にあるホテルに早めのチェックインをして、ちょうど永田さんとも行き会って、15時過ぎからギャラリートミナガさんで準備を始めました。
永田さんはさすがにイベント慣れしていて、自前のテーブルまで用意して完璧な売り場作り。今回のイベントで永田さんから学ぶことは非常に多いだろうと2月の下見の時に思っていましたが、それは正しかった。
永田さんの仕事振りを見て、出張販売のノウハウや自分ができていない様々なことがよく分かりました。
準備はいくらしても終わりがありませんでしたが、翌日の朝からも時間をいただけるとのことで、18時に切り上げました。
ギャラリーの女性オーナーの富永社長が誘ってくださり、とても美味しい魚料理をご馳走になりました。
富永社長は今まで出会ったことのないタイプの方で、生粋のお嬢さまでした。
私と永田さんはご飯をおかわりしながらも、完全な接客モード。
どこか緊張感のある雰囲気で始まった夕食でしたが、徐々に打ち解けることができて、富永社長との距離が少し縮まったような気がしました。
イベントが終わった時には富永社長が「あなたたちはクセのない本当に良い人たちなのね」と言って下さいました。
2日間お客様と接する私たちを見ていてそのように思われたようで、素直に嬉しかった。
福岡でのイベントの雰囲気は、当店で年2回開催している工房楔のイベントに近いものでしたが、札幌のイベントとはかなり違っていました。
気候、地形も含めてそれは違う国のようだったと思っています。
札幌のイベントでは初めてお会いするお客様が多かったのに対し、福岡では知り合いのお客様が多く、札幌と福岡の距離の違いを実感しました。
どちらのイベントでも、ペン先調整・字幅変更などの調整が一番求められていたと思いますが、札幌のお客様は当店が提供する商品やオリジナル商品に興味を持って下さっていて、どんなものがあるのか見に来て下さったように思いました。
それに対して、福岡では商品も見に来て下さっていましたが、私がどんな人間なのかを見に来られた方が多かったように思います。
イベントごとに新しいものを用意して、それをお客様に見せ続けている工房楔の永田さんのように、私も毎年開催すると決めたイベントに毎回来ていただけるよう、準備をしなければならないと思います。
そして、札幌・福岡のイベントに来て下さったお客様に次のイベントまでの一年、気に掛けていただけるように、興味を持ってもらえる情報を発信し続けなければならない。
イベントで多くの出会いがあってとても良かったけれど、新たな苦しみと戦いも始まったように思います。
福岡では、来年も7月14日(土)15日(日)、「Pen and 楔 福岡展」を開催することを決めて、ギャラリートミナガさんに予約をして帰ってきました。
*最後になりましたが、先日の九州地方北部の集中豪雨により被災された皆様には、謹んでお悔みとお見舞いを申し上げます。
KA-KU奈良店でのペン先調整応援
万年筆の仕事が、ペン先調整が自分がやるべき仕事で、これからもこの仕事をして生きていくとのだと思っています。
だからこの仕事で世の中の役に立ちたいと思っていました。
自分の店だけでなく、他所のお店でも万年筆を使う人を増やすために役立つ仕事が出来たら、という私の想いをKA-KUさんが理解してくださり、顧客サービスを目的としたペン先調整会を奈良店さんで初めてすることができました。
KA-KU奈良店でお買い上げいただいた万年筆は無料で、他店で買われた万年筆は3500円で調整するという、当店と同じ条件での調整会でした。
KA-KUの店頭でも、来店された方に調整会があることをお声掛けして下さっていましたが、調整に来て下さったお客様方に伺うと、チラシを見たという方がほとんどでした。
KA-KU奈良店は、大和西大寺にある近鉄百貨店の筆記具売場という役割で、今回の催しを近鉄百貨店さんが新聞に折り込みするチラシに掲載してくれていました。
調整会に来て下さったお客様の多くは、1本の万年筆を長く使っておられる方で、書きにくいなど何らかの事情があって使わなくなっていた引き出しの奥の万年筆を、また使いたいと思っておられるところに、チラシの記事を見てご来店下さったのでした。
当店のお客様でわざわざ私の顔を見に来て下さった方もおられ、当店の今までと違う試みとして見守られていることも分かりました。
この調整会でもとても楽しく仕事することができましたし、万年筆を使う人を増やすことに役立つ活動だと思いましたので、機会があればぜひまた行きたいと思っています。
奈良市内も西大寺辺りは、平地の中に家々が密集していなくて、ゆったりとした風景。ショッピングセンターのすぐ隣は、広大で四方の門以外何もない。でもそれがかえって往時の都の風景を想像させる平城京跡で、すばらしいロケーションです。
当店にも来ていただきたいですが、KA-KU奈良店さんにもぜひ行っていただきたいと思います。
この記事は7月7日(金)に書いていて、明日7月8日(土)9日(日)は福岡ギャラリートミナガさんで、工房楔との共同イベント「Pen and 楔」を開催しています。
どうぞ、ご来場下さい。
*工房楔共同イベント「Pen and 楔」
7/8(土)9(日)11:00~18:00(最終日16:00)
ギャラリートミナガ
福岡市中央区大名2丁目10-1