ブランド名や分かりやすい意匠ではない、一見してどこのものか分からないけれど、質の高いものがいいと思うようになりました。
そういうものは意外と少なく、私の身の回りではル・ボナーの鞄や革製品がそれにあたります。
大切な友人だからその作品を使いたいという想いももちろんあるけれど、その質の高さから使う喜びを初めて教えてくれたものでもありました。
海外メーカーの万年筆はデザイン的な特長もありますので、ある程度万年筆を知っていれば、たいていどのメーカーのものであるかは分かります。
そういう主張のあるデザインが特長でもあって、惹かれる部分でもあるけれど、一見どこのメーカーか分からないデザイン的な特長を排した質感の高いものも万年筆にはあって、そういうものも良いと思うことがあります。
日本のメーカーの万年筆の多くがそうですが、その中でも今回は高い次元での質感の高さを追究した万年筆パイロットカスタム743を取り上げてみます。
国産万年筆は、2万円クラスでも実用的に完璧だと思いますが、3万円のカスタム743はさらに上の上質な書き味の良さを追究したものです。
2万円のカスタム742との違いはペン先のみ(ペン芯も含む)で、カスタム743は15号という大きなペン先を備えています。
カスタム743を知って、ペン先は柔らかければいいものではないと思いましたが、それはこのペン先が柔らかさと同時に粘りの強さのようなものを持っていたからです。
それはオーソドックスなFやMのペン先でも使い込めば感じることができるけれど、柔らかさを追究したフォルカンペン先でも顕著に表れます。
フォルカンは、筆圧をかけすぎるとすぐにインクが途切れてしまう筆圧のコントロールが要求されるペン先ですが、同じペン先でもカスタム742より743の方がインクが途切れにくいし、はるかに使いやすい。
最初に感じる柔らかさはあまり変わらないかもしれないけれど、筆圧をかけた時にインクが途切れず踏ん張ってくれる範囲が大きい。
そういう意味では一番カスタム743の15号のペン先の粘りを感じることができると思います。
カスタム743は、デザイン的には一切の特長を排して、無個性であることに徹した実用万年筆で、それを私は超実用万年筆と言えるものだと思っています。
凝った意匠や色柄ではなく、手で感じる書き味、それも特別上質な書き味のみに特長を出した万年筆。
それを使っている人だけに感じることができる、密かな喜びをもたらしてくれるものだと思っています。
書き味の良さを味わいながら、書くことを楽しみたい人から、究極の書く道具を求める筆記試験の受験生の方まで自信を持ってお勧めできる、誇るべき日本の万年筆だと思っています。