国産万年筆の書き味

万年筆というものはそれぞれの国柄が表れていて面白いものだと思っています。イタリアのメーカーはイタリアらしい万年筆を作るし、ドイツのメーカーの万年筆はドイツらしいものに感じます。日本の万年筆も同様です。

そして、その国が発展期にある時、経済とか情勢と無関係に思われる万年筆も比例して活気があることはさらに面白いことだと思います。

1920、30年代のアメリカ、1950年代のドイツ、1960年代の日本、そして今の台湾というように、国に勢いがある時ちゃんと万年筆も黄金時代を迎えている。

そのように考えると日本の万年筆はピークを過ぎているということになるけれど、より成熟した存在になっているという言い方、捉え方ができます。

そして、それこそが日本の万年筆の生きる道であるけれど、私たちはそれを海外のお客様方に伝えられずいるような気がします。

日本の万年筆は、海外の万年筆のようにデザインに分かりやすい個性があるわけではないけれど、書き味に違いがあって、それはデザインの違いよりもより、深い万年筆の楽しみ方だと思っています。

私も分かりやすいデザインの違いよりも、微妙な書き味の違いを感じたり、自分が好きな書き味を味わいながら筆を滑らせている方が楽しい。

今この手元にパイロットカスタム74とセーラープロフィット21という実用本位の万年筆があります。どちらも私にとっては非常に書きやすい。

同じ書きやすいでもそれぞれ違いがあって、パイロットカスタム74はどんな筆記角度で書いても同じように滑らかに書ける。大きなペン先のカスタム743ほどではないけれど、書き味も非常に柔らかい。

セーラープロフィット21は、カスタム74に比べて芯のある書き味。快感はカスタム74の方が上だけど、もしかしたらプロフィットの方がきれいな文字が書けるのかもしれません。

書き味を味で例えると、甘口のカスタム74、少し辛味のあるプロフィット21といったところかもしれません。

日本の万年筆メーカー3社、パイロット、セーラー、プラチナの書き味にはそれぞれ個性があり、その書き味こそがそれぞれのメーカーからのメッセージがあって、世界的に見ても日本のメーカーのそれぞれの書き味には個性があり、大いに存在価値があると思っています。

メーカーを横断して、それぞれを比較したり、特徴を挙げたりすることができるのは複数のメーカーを扱っている専門店だけなので、専門店は日本の万年筆の繊細な書き味の違い、味わい方を伝える責任があります。

そして、調整士の仕事は、各メーカーの個性的なこの書き味を引き出すことなのだと思います。

日本の万年筆の分かりやすいデザインの部分、例えば蒔絵や漆塗りのペンだけが海外の人に伝わって、評価されているという現状を変えないと、日本の万年筆は正しく評価されているとは言えないのかもしれませんが、書き味の微妙な違いを伝えることはなかなかに難しいことなのかもしれません。

調整士がペン先調整によって理想の書き味を追うことができるのは、いくつもの理想の書き味を知っているからです。

それを私は微妙な書き味を持った日本の万年筆で覚えました。

誰に聞いても、海外でペン先調整を仕事にしている人は、ほとんどいないと言います。

同じ字幅なのに硬いものと柔らかいものがあったり、中字と細字の間に中細がある国に生まれたから、より完璧な書き味を求めるようになった。

日本の万年筆の書き味の違いを伝えるとともに、ペン先調整で万年筆が書き味を引き出すことができるということを伝えていかなければならないと思っています。