研ぎと調整

インクが出なかったり、引っ掛かって書きにくいペン先を書きやすくする。その万年筆の性能を100%引き出して、ご依頼主の好みに合わせてペン先を整えるのが、ペン先調整です。

万年筆は、ちゃんと整えたらどんなペンでもある程度気持ち良く書けるようになりますが、インクが普通に出て、引っ掛からずに書けて、途切れずに書ける調整だけでは少し足りないと思っています。

書き味はペン先のタッチだけで成り立っているわけではなく、ペン先の寄り加減、ペン先とペン芯の合わせ加減など様々な要件から成り立っています。

それらの書き味を構成する複雑な要件を組み合わせて、その万年筆を使う人の要望に合わせる。おまかせと言われたら、一番良いと思えるようにして、調整士のセンスを表現する。

自分が唯一できるクリエイティブなことが、この書き味を作るということだと思っています。

でもたとえペン先調整をして自分が一番書き味が良いと思ったり、ペンポイントが美しく仕上げることができたと思ったとしても、それが使う人の好みに合っていなかったら、調整の本来の目的から外れてしまいます。自分の思い込みや視野の狭さを省みることも必要です。

「研ぎ」は、細く書けるようにしたり、縦横差を出したり、書ける線を変化させるために、ペンポイントを削ることです。

ペン先調整において、研いでペンポイントの形を整えることもありますが、私は前述した「研ぎ」と、調整のための研ぎとは区別しています。

当店の調整カウンターには、木製の万年筆ケースコンプロット4ミニに、様々な研ぎを施した4本のペリカンM800ストーンガーデンがあります。

それらはペン先を研ぐことで本来書ける線とは違う線が書けるようにしたもので、ペン先調整をお待ちいただいている間に試していただいたり、出張販売に持って行ったりしています。

ある程度万年筆を持っている人は、人と違ったものを持ちたいと思うようで、これらの特別な研ぎをオーダーして下さる方もおられます。

三角研ぎはペンポイントを正面から見て二等辺三角形、横から見たら直角三角形に近い形に研いだもので、立てて書くと細い線が書けて、寝かせて書くと太い線がヌルヌルとした書き味とともに書くことができるというものです。

その研ぎを作るのに時間はかかるけれど、オーダーされる方が多く、よくしています。

そのメーカー本来の書き味を味わうことはもちろん万年筆の楽しみですが、時には変わったペン先を所有することもまた楽しい。

それぞれの万年筆はメーカーが作ったもので、販売したら保証書以外当店の名前はどこにも入っていません。でもそこには書き味という目には見えない、手で感じるか、感性で味わうものが付加されています。それが当店で販売する万年筆だと思っていて、より深い味わいを書き味で表現できるようにしていきたいと思っています。

無心になれること

普段はあまり家に居る時間がないけれど、たまたままとまった時間家に居る時に没頭できたのが、自分だけのシステム手帳のダイアリーを作るというものでした。

既製のダイアリーは非常によく考えて作られているけれど、水曜日が休みという自分の生活のサイクルにはどれも合いませんでした。これだけ仕事の仕方が多様化してしまうと、既成のダイアリーがジャストフィットする人の方が少ないのではないかと思っています。

休みの水曜日の欄をできるだけ小さくして、他の曜日に当てるようにした方が限られた紙面を有効活用できる。特に小さなミニ5穴システム手帳において、無駄なスペースを作らないというのは私にとって厳守したいルールです。

ダイアリー作りのベースとなる用紙は、そら文葉のフレックスダイアリーや当店のオリジナルミニ5穴リフィルなどがいいと思います。

当店オリジナルリフィルは万年筆の極細くらいで枠内に書ける4mm方眼で極上の書き味を持つ、Liscio-1紙を使用しています。極細の万年筆なのにヌルヌル書ける快感は手帳を書くことを楽しくしてくれます。

そら文葉のデザイナーかなじともこさんはもともと自分で線を引いたり、パソコンで作ったりしてオリジナルリフィルを自作されていましたので、そら文葉にもそういう自由度が入り込める余地が残されています。

フレックスダイアリーは基本的に方眼罫ですが、時間表記に使える数字が入っていたりして、ダイアリーとして使うための演出がちゃんと盛り込まれています。

そら文葉の用紙は、バイブルサイズリフィル筆文葉とは違っていて、薄めの紙を使用しています。リング径の細めのミニ5穴リフィルになるべくたくさんの枚数を収めることができるようにという配慮からですが、薄めだけどギリギリ裏に透けないくらいの厚みは保っています。

罫線を引く時、私の場合、かなじともこさんと同じように色鉛筆で線を引いています。

水性ボールペンやサインペンだと定規で引いた後に線が流れてしまったり、かすれてしまうことがよくありました。シャープペンシルのカラー芯の消せるタイプのものを使うと間違えた時に消すことができるのでお勧めです。

色鉛筆で引いた線は、柔らかく良い風合いに感じられるのも私は気に入っています。

日付などの数字は、連結して使うことができるゴム印「エンドレススタンプ」の6号という一番小さなものが良いと思います。スタンプ台は黒でもいいですが、どうせなら好きな色を使って、祝日などを赤で押すとより使いやすい、完成度の高いものになります。

ネットなどでカレンダーを調べて、間違えないように慎重にリフィル1枚ずつ線を引いて、スタンプを押して、ダイアリーリフィルを作る時間は、面倒に思えるかもしれないけれど、集中できる楽しい時間になっています。

*Pen and message.オリジナルM5リフィル 4mm方眼罫(Liscio-1紙仕様)

*智文堂M5リフィルそら文葉(そらもよう)

ANTOU(アントウ)~完成させる楽しみ~

台湾のデザインステーショナリーブランドのANTOU(アントウ)が入荷しました。

このブランドは台中市の隣の彰化を拠点として、ステーショナリーのみならずテーブルウェアなども扱っています。

デザインステーショナリーというと、他を寄せ付けない完成された世界観を有するものをイメージしますが、このANTOUは、使う人が組み合わせたり、工夫することで完成するところを狙っているように思えて、ユーザーの創造力を刺激します。

書き味や使い勝手は素晴らしいけれど、デザインや装飾で使う気になれない国産のペンはたくさんあると思います。

ANTOUの「マルチアダプタブルペン」は、芯のサイズ・形の制約を受けず、油性ボールペン、ゲルインクボールペンなどほとんどのボールペン芯を使用することがでる、まさに夢のペンだと言うと、言いすぎでしょうか。

たまたまたその替芯を使うことができたという部分はありますが、様々なメーカーの替芯を使えるようにしたいという発想。当たり前ですが、文具メーカー、筆記具メーカーでは絶対に実現しない商品です。

私たちのような文具が好きな人間ならいつもそんな風に思うけれど、台湾でも同じように思う人がいて、それを形にしてしまうとは。

ANTOUのペンはアルミ素材を厚めに削りだして、サテンフィニッシュを施して、少しザラザラした粗い触感を残して仕上げられています。キャップはマグネット式で、開け閉めも素早くできて、ストレスがありません。

リフィルを交換する時は、キャップを閉めて、キャップごと回転させて口金を外します。芯を口金で掴んで固定しますので、長さ、形に制限されず、多くのものに対応できる仕組みです。

販売時、ゼブラのゲルインクボールペンの芯がセットされていますが、自分が最も愛用したいリフィルを装着することで、このペンは完成します。

そして、そうやって完成したこのペンは他のモノでは代わりが利かないものになります。

光沢を持たせて仕上げられている波型のトレイや小物入れは組み合わせて使うことができますし、この上に木や革の素材のものがあってもおかしくない。むしろそういう異素材のものがある方がしっくりくるような気がします。

私が目盛り好きで、目盛りはデザインモチーフとして最高だと思っているからかもしれませんが、ペントレイを兼ねた定規も面白い存在で、デスク周りの雰囲気を変えてくれるものだと思います。

ANTOUは、アートディレクターイェン・チェン氏と金属製品の加工で高い評価を得ているダイキャスメタル社との共同プロジェクトです。そしてANTOUとは彰化郊外の小さな工場が点在する地域の名前でもあります。

ダイキャスメタル社はいち早く欧米との仕事を始めて、評価されてきた30年以上の経験を持ちますが、本拠地であるアントウを活性化するために他の工場とノウハウを共有して、地域の技術向上に取り組んでいます。

ANTOUが世界的な仕事を請け負う地域になればという願いがこのプロジェクトには込められていて、このペンに込められているのは文房具好きの夢だけではないのだとお伝えしたいと思いました。

⇒ANTOU(アントウ)

リフィル遊び

私たちが手帳に求める機能は、スケジュールだけでなくメモを書いたり、覚書を書いておいて必要な時にそれを見たりなど様々だと思います。手帳の中でもシステム手帳なら、それぞれの用途に合わせてリフィルを選んで、カスタマイズすることができる。

私は昔からその使いこなしについて考えることが好きで、いくらでも考えていられます。そういう楽しみがシステム手帳にはあります。

同様にボールペンの替芯の選択肢が多いということも、自分がそのボールペンをどう使うかを考えて、それに合わせて芯を選べる楽しさがあります。

工房楔とのコラボ企画こしらえは、パイロットカスタム742・743の首軸を装着することができる万年筆銘木軸ですが、これに使うことができるボールペンユニットがあります。

三菱シグノ、ゼブラサラサ、ペンテルエナージェルなどの芯を使うことができて、こしらえをキャップ式のボールペンとして使うことができます。ただ、こしらえは時期によって若干ですがサイズが異なりますので、今のところパーツだけの販売をしていません。(店頭か出張販売などにお手持ちのこしらえをお持ちいただけましたら、実際合わせてみて販売させていただきます)

それらの替芯は同形のものが多く、色数も線幅もかなりの種類があって、多くのバリエーションの中からお気に入りのモノを見つけて使うことができます。万年筆と違って、これらのゲルインクのボールペンの替芯は値段も安いので、手軽に交換できるところもいいところです。

こしらえ用ボールペンユニットよりもさらに多くの芯に対応するのが、工房楔のMペンです。

Mペンはマグネット式のキャップを持つ水性ボールペンですが、尻軸にネジが切ってあり後ろのパーツが緩みますので、多少の長さであれば調整することができます。

こしらえ用ボールペンユニットで使うことができる芯は全て使うことができますが、それらに加えて、芯やチャックの形状が特殊で互換性がないとしていました、パイロットのフリクション(消せるボールペン)やパイロットのジュースアップ(通常のゲルインクボールペン)の芯も使うことがきます。

特にフリクションは様々な用途を思い浮かべることができるけれど、万年筆や銘木で目が肥えてしまうと、デザインや素材もこだわりたくなります。フリクションも、それぞれが銘木を使った1点もののMペンで使うことができます。

まだホームページには掲載できていないですが、台湾のメーカー「ANTOU(アントウ)」にも様々な芯を使うことができるマルチなボールペンがあります。

芯を口金で掴むことによって、替芯本体の形に左右されず多くの替芯を使うことができる。これは私の知る限り一番多くの種類の芯を使うことができるボールペンです。

ANTOUはたくさんの芯に対応した構造以外にもこだわって作っている感じがする仕上げの良さ質感の良さががあって、好感の持てる物作りをしています。

たくさんの安価で質の良いボールペンが発売されていて、それら全てをリフィルとして活用できるこれらのボールペンに今の流れを感じています。

⇒Pen and message.オリジナル銘木万年筆軸 こしらえ(工房楔・春の新作ページ)

⇒工房楔・Mペン