世界恐慌を生き抜いたWAHL-EVERSHARP・デコバンド


万年筆の見所というか、楽しみ方は様々あります。それは人によって、そのペンによって違うけれど、ウォール・エバーシャープのデコバンドは、その見所をいくつも備えた万年筆だと思っています。

デザインはウォール・エバーシャープの1920年代のものを受け継いでいて、それをオーバーサイズ化しています。そのクラシックでゴツゴツしたデザインは、今の万年筆が滑らかなデザインの新幹線だとしたら、デコバンドは蒸気機関車のようなデザインをしています。

1920年代は好景気だったと言われた時代。アメリカの万年筆業界にとってもウォール・エバーシャープにとっても黄金時代で、美しく、凝った万年筆が多く発売されていた時代でした。これは資料を読んでの想像になりますが、時代が違うとはいえ、1929年に始まった世界恐慌に突入してもなお、新製品を発売し続けたから各社生き残ったのだと思う。

そんな姿勢を私はこれからの何年も続くであろう厳しい時代を生き抜くお守りにしたいと思いました。

ウォール・エバーシャープはアメリカのペンなので変な言い方なのかもしれないけれど、デコバンドこそ日本の文字を美しく書くのに最適な万年筆ではないかと思っています。筆圧の変化に鋭く反応してくれる柔らかいペン先で、文字は筆で書いたように濃淡や強弱が出て、勢いを持ちます。

私は字が下手だけど、デコバンドで書いた自分の文字が一番好きで、こんな私の文字さえ良く見せてくれるデコバンドの力にいつも感心します。毛筆はコントロールが難しいけれど、18金ペン先は筆ほどの扱いにくさはないので、書くことを楽しく感じる心の余裕を持たせてくれます。

アルファベットを書くカリグラフィのテクニックでこの万年筆を使う場合、相当大きくフレックスさせることもあるようですが、日本人はペン先を大きく開かせて書くことを好まない人が多いという話を聞いたことがあります。

たしかにFのペン先を筆圧をかけて開かせてBBくらいの太さまで書くようなことを私たちは好みません。デコバンドはそこまで力を入れてペン先を開かせなくても、充分に線に抑揚をつけることができます。

デコバンドのペン先には字幅の種類がなく、2種類の書き味のペン先、スーパーフレックスニブとフレキシブルニブがあります。この2種類のペン先の違いは、柔らかさの違いです。

スーパーフレックスニブはそっと紙にペン先を置いた瞬間からその柔らかさを感じるペン先で、より柔らかい書き味、多めのインク出を楽しむ仕様です。フレキシブルニブはしっかりとしたバネ感があり、太めの線を表現するには少し筆圧をかける必要がありますが、スーパーフレックスニブよりも扱いやすいペン先です。

また、柔らかさを感じるためにはボディの重量も大きく関係していて、軽すぎるとその柔らかさを感じにくい。デコバンドはボディだけの重量でも44gあり、ペン先の柔らかさを活かしています。

インク吸入はゴムチューブの力によって行われますが、このゴムチューブは頑丈な真鍮のカバーによって覆われていて、この構造がデコバンドの重さの理由になっています。

ちなみにゴムチューブは長年使って吸入量が少なくなってきたり、吸入しなくなった時は当店で交換することができます。消耗部品の交換を日本国内でできるということはお預かりする期間を短くすることができて、修理費用を安く抑えるメリットになっています。

タフな仕様のデコバンドのくびれのない円筒形ボディは実際のサイズよりも大きく見えますが、モンブラン149とほぼ同じサイズで、充分実用でお使いいただけると思っています。

ウォール・エバーシャープデコバンド、書斎や仕事場のデスクにあって、書くものに合わせてモンブラン149、ペリカンM800などと使い分けたい万年筆です。

⇒ WAHL-EVERSHARP・デコバンド万年筆