最近オリジナルインクのCigarをよく使っています。黒に近い緑色が紙の上で変化して、乾くと黄色味を帯びたオリーブ色のようになるインクです。
少し秋っぽいかなと思うこともありますが、少し前からオリーブグリーンの色に急激に惹かれ始めて、気がついたらオリーブ色のものが結構身の回りに集まってきています。
今まで偏って好きな色というのがなかったので、見つかってちょっと喜んでいます。
手紙を書いていて、まだインクが乾かないうちに手が触れてしまって、擦れてしまうことがあります。右利きで縦書きを書くときは特に注意しなくてはいけない。私の場合は、擦れてもあまり気にせずそのまま行ってしまうこともあるけれど。
Cigarは乾くとオリーブ色になりますので、どこからが乾いていなくて、どこまでが乾いているのかすぐに分かりますし、粘度の高いインクは乾きが遅いことが多いですがCigarはそれほど粘度も高くなく、乾きも早いようです。
いつまでも乾かないインクは紙面が汚くなるので避けたい。私にとって乾きの早さも重要です。
以前はお客様へのお手紙に、黒かブルー以外は有り得ないと思っていましたが、もう若くないし、こういう色も許されるかと、徐々に厚かましくなってきました。
インクの色と歳なんて関係ないと思われるかもしれないけれど、私たちの世代が万年筆を始めた頃は、ほとんどのメーカーが基本の3色(ブラック、ブルー、ブルーブラック)しか発売していませんでした。シェーファー、オマスがグレーを発売していたことが珍しかった。あまり売れていなかったけれど、シェーファー、オマスの多色展開は時代を先読みしていたのかもしれません。
当時、インクは万年筆メーカーが自社の製品のために作るもので、インク専業メーカーも少なかった。そんな時代に万年筆を使い出したので、万年筆のインクは3色のうちのどれかという固定観念から抜け出せずに今まで来ました。
でもいろんなインクの色を楽しみながら使う人も多くおられて、最近は薄めの色が流行っていると聞きました。台湾系のインクやエルバンのインクに薄い色のものが多いですが、ガラスペンと合わせると涼しげで、今の季節にいいかもしれません。
台湾は暑いので、日本以上に涼しげなものを好むのかもしれませんが、食べ物の味付けも上品で薄味なものが多いと聞きますので、インクの色も薄いのが台湾風なのかもしれない。
日本風な色として、当店のオリジナルインク冬枯れは12年前に自信を持って世に出しました。文字がはっきり読める範囲で薄くした黒で、当時濃い黒を求める人は多かったけれど、薄い黒を求める人はいなかった。
でも、薄くしたことでノートいっぱいに書いてもうるさくならないし、文字の濃淡が出るし、流れが良くて書き味は良いと、いい効果ばかりでした。黒の濃度の中に、色彩と同じくらいの景色を見出すのが日本風なのかもしれません。
いつの間にか黒の話になりましたが、万年筆は今では仕事で必要なものではなくなって、趣味的な道具だったり、自分の生き方や志向を表すファッションの一部という要素が強くなっています。
だからこそありきたりな色のインクでなく、自分の好きな色、自分を表現する色のインクを使って欲しいと思います。