最近はペン先の研ぎについて書くことが多くなっていますが、少しずつ共感を得られるように書き続けたいと思っています。
万年筆のペン先の研ぎにはこだわりたいと思っていて、ルーペでペンポイントを見た時、あるいは拡大写真を撮った時、それが美しくあって欲しい。
ほとんどの人が気にしない部分で、言われてみないと、もしかしたら言われてもわからないかもしれないけれど、研ぎの美しさはその書き味にきっと影響を及ぼしているはずなのです。
最近研ぎにこだわったペン先が少なくなってしまい、とても残念です。
研ぎの美しさを捨てた場合、 ペン先からインクが出て文字が書く機構自体は変わらなくても、書き味の質が違うものになっているのではないかと思います。研ぎにこだわってよく調整された万年筆の書き味には潤いがあって、書いていて気持ちが良い。 ルーペで見える景色はもちろん雲泥の差です。
いつまでもそれを味わっていたいと思える書き味を持っているけれど、研ぎが適当な万年筆の書き味は、強引に例えるなら棒にインクをつけたような書き味で潤いがない。その差は万年筆を使った事が無い人にでも分かると思います。
ペン先調整は、書けなかったりインクが途切れたりする万年筆を書けるようにするだけでなく、書き味に潤いを与えることも重要な役割です。
ペンポイントの形はメーカーによって本当に様々で、それぞれの特長的な書き味を作っています。
ペン先を調整するようになって様々なメーカーのペンポイントをルーペで見ましたが、最も美しいと思っていたもののひとつにセーラーの長刀(なぎなた)研ぎがあります。
ペンを寝かせて書くと太く、立てて書くと細く書ける。そのような書き分けができるのは日本の文字を美しく書くためであり、その良い書き味でさえ美しい文字を書くという結果の次についてきたものに過ぎません。
長刀研ぎのペンポイントの形を私は墨を含んだ筆のようだと思っています。根元がふっくらとしていて、先端に行くほど鋭くなっていく。
最先端はペンポイントの腹側と背中側の線が合流して点になっていて、その精密さに、ペンポイントにも図面があるのではないかと思えるほど、美しくデザインされています。
長刀研ぎは筆記角度によって太さが変わりますので、字幅はかなり立てて書いた時の一番細い線で表記されています。長刀研ぎのFM(中細)の場合、立てて書いた線が中細の太さです。立てずに書くと太字くらいにはなりますので、思ったより太いと思われるかも知れません。
セーラー長刀研ぎ万年筆は、ネットでの販売が禁止されていますので、店頭での販売だけになっています。当店にも少し在庫がありますので、興味のある方はメール(pen@p-n-m.net)でお問い合わせ下さい。
今の時代にネット販売をしないなんて、と少し思いますが、店頭で試し書きしてから購入してもらいたいというセーラーのこだわりの表れなのだと理解しています。