原田マハの小説「リーチ先生」を読んで、バーナード・リーチの活動に興味を持ちました。
リーチはイギリスで高村光太郎と知り合い、アーティストとして日本にやってきました。そして日本の陶芸と出会い、陶芸家になることを志します。その手助けをしたのは、西洋美術を吸収して日本独自の芸術を開花させようと試行錯誤していた、高村光太郎、柳宗悦をはじめとする白樺派の芸術家、富本憲吉、濱田庄司などの陶芸家で、当時新進気鋭の人たちでした。
リーチは彼らの影響を受けながら日本と西洋の架け橋となり、日本の美術界に多大な影響を与え日本美術の開花に貢献しました。
日本の美術界が西洋のものを吸収、消化して、独自のものを生み出そうとしていた頃、1911年(明治44年)にセーラー万年筆は広島県呉市に誕生しました。
美術界だけでなく、万年筆の業界もきっと西洋のものである万年筆を吸収して、模倣したり試行錯誤しながら日本独自のものを生み出そうとしていたのだと想像することができます。
そして日本の万年筆メーカーは日本人の繊細な感覚を生かして、素晴らしい書き味のものや、伝統工芸である蒔絵を軸に取り入れたものを世界に示し、その地位を確立していきます。
激動の時代を生き残り、日本最古の万年筆メーカーとして現代に存在しているセーラー万年筆の歴史は、日本の万年筆の歴史そのものです。
先日、セーラー万年筆110周年記念謹製万年筆「プレミアム」「くろがね(黒金)」「しろがね(白銀)」が発売になりました。装飾がほとんどなく、直線のシルエットの、潔いほどシンプルな造形の万年筆です。
しかしこの万年筆からは、西洋の文化と日本の融合、伝統的な万年筆作りと現代のテクノロジーの融合を感じます。
「しろがね」は、表面処理をしていない、磨き抜かれたスターリングシルバーの軸で、既に万年筆の軸の素材として認知されている従来の素材である銀を贅沢に使っています。
ピカピカの軸は、使うごとにその光沢が落ち着き、味わいを出してくると想像できます。エージングを感じたり、磨くことが楽しめる万年筆に仕上がっています。
「くろがね」は、「しろがね」とは対照的に、永遠の黒さを現代のテクノロジーで実現した仕様です。
黒色発色させたステンレススチールは、メッキや塗りではないので、剥がれたり、退色したりすることがありません。
そして「プレミアム」は、「くろがね」をベースに、ボディ中央にペン先と同じ21金を軸材にした豪華な仕様、ボディ中央に重量感を持たせることで、バランスも優れています。
それぞれ内部パーツのメッキの色が、それぞれのテーマ「しろがね」はシルバー、「くろがね」はブラック、「プレミアム」はゴールドになっていて、なかなか凝った仕上げがなされています。
ボックスも凝っていて、無垢の国産栗材を使用した刳りものになっています。一位一刀彫師小坂礼之氏の監修で製作され、「プレミアム」の箱には、小坂氏の手彫りによる名栗目の模様が施されています。
セーラーの万年筆の特長は、21金ペン先とペンポイントの研ぎの形による書き味や独特の筆致であり、110周年記念謹製万年筆でもその書き味を充分味わうことができます。
書くことを楽しくしてくれて、万年筆を使いこなす喜びを改めて感じることができます。
セーラー万年筆が、その歴史の中でたどりついた日本独自の万年筆のあり方に安住することなく、攻めた仕様の万年筆を110周年記念謹製万年筆で示してくれました。
110周年記念謹製万年筆は、他の標準的なサイズの万年筆よりも長いので収納するものに困るかもしれません。
丈夫な金属軸で折れることはないとしても、傷もついて欲しくない。当店オリジナルの長寸用万年筆ケースは110周年万年筆をスッポリと収めて、傷から守ってくれるものなのでお勧めです。
セーラー万年筆110周年記念謹製万年筆の当店初期入荷分は殆ど出払ってしまいましたが、まだ入荷は見込めるようです。興味を持たれた方はぜひお申し付け下さい。