クレオ・スクリベントの危機に強いモノ作り

コロナ禍のような世界的にイレギュラーなことが起こった時、物流を生かして社外部品を多用していたモノ作りは立ち行かなくなってしまって、効率的なモノ作りの脆さを露呈してしまいました。

万年筆の業界も多くの企業が効率性を重視していたため同様なことが起こっているのか、商品の欠品が相次いで起こっています。

しかしそんな他社の状況を尻目に、今までと何ら変わらずに製品を作り続けている会社もあります。

そんな会社のひとつが、ほとんどのパーツを自社で作っているアウロラです。

アウロラの製品の供給は、コロナ禍以前の状態と変わることなく行われていて、限定品を発売するスピードも衰えることがありません。

当初は、家族経営のアウロラはコロナウイルスにも負けない結束力を持っているからだと思っていたけれど、それだけでは説明がつかない。

やはり自社一貫生産していることが強みになっているようです。

仕事というのは本当に、何が正解か短期では分からないと思います。

以前から万年筆の生産であまり効率を追究してほしくないと思っていたけれど、現代のモノ作りからは効率が悪いとされていたアウロラの、自社で全てのパーツを製造するという強みをここで見せつけられました。

効率的な物作りをする会社が多いドイツにも、一貫生産にこだわる会社があります。第二次世界大戦直後に創業したクレオ・スクリベントは、旧東ドイツにありました。

社会主義経済においてモノを作るということは、世界を相手にする競争力を培いにくいように思いますが、東西ドイツ統一後は、その技術力から西側のペンブランドのOEM生産を多く引き受けていました。

それは台湾のツイスビーがヨーロッパのペンブランドの製造を担当していたこと、そしてそれで力をつけて、自社ブランドの筆記具を成功させたことによく似ています。

クレオ・スクリベントは今もOEM生産をしていて、その傍ら自社ブランドのペンを作っています。そのため新製品の発表もゆっくりしたペースですが、クレオらしい他のメーカーとは一味違うペンを作っています。

クレオ・スクリベントの万年筆では、ナチュラアンボイナバールやスクリベントゴールド、リネアアルトなどのハイクラスなものが注目されますが、クラシックという、実用に特化したとても渋いペンを作っています。

デザインはとてもシンプルで、万年筆が実用品だった時代の名残を色濃く持っている、クレオ・スクリベントらしいペンだと思います。

太すぎない軸径、軽い重量、バランスの良さなど、シャープペンシルやボールペンを使うように、気負わず、自然体で使うことができる。

クラシックパラディウムは、本来スチールペン先仕様の万年筆ですが、EFのみ価格はそのままで14金ペン先が装備されているコストパフォーマンスの高い万年筆です。

万年筆の生産は世界のトレンドからは離れたところにあって、マイペースでやっていて欲しいと思うけれど、クレオ・スクリベントはそれを実践している会社なのだと思います。

クレオ・スクリベントはあまり目立つ存在ではないけれど、世界が危機に直面しても、たくましく生き残っていける万年筆メーカーだと思っています。

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大人のスタンプ

私の万年筆の原点は、手帳に書くというところから始まりました。

若い時から手帳が好きでした。20代の頃は立ち仕事だったこともあって、スーツの内ポケットに入る能率手帳のようなものを使っていました。

夜一人の時間に、そこにスケジュールや覚書、データなど、仕事を回すために必要なことをきれいに書けたら嬉しかった。

最初はボールペンから始まり、それが水性ボールペンになり、万年筆になっていきました。こんなに気持ちよく、きれいに書けるペンがあるなんて知らなかった。

私にとって細字の万年筆が手帳を一番きれいに書ける筆記具で、後から読み返した時にとても読みやすく、インクの雰囲気もあって、ページ全体の出来が全く違っていました。

手帳がきれいに、きっちり書けたら仕事がとても楽しくなりましたし、これを書く時間も楽しくて仕方なかった。

手帳を書くだけで、自分の時間の大半を費やしている仕事が楽しくなるということは、毎日が楽しくなるということで、そんな幸せなことはないと思った。

自分がそんな風に思っていたので、より多くの人にも同じように感じて欲しいと思いました。ささやかな願いですが、そのために私はこの仕事を続けています。

手帳のページを楽しくしてくれるものは、万年筆だけでなく、スタンプを押すという方法もあると、システム手帳リフィルの筆文葉・そら文葉を使ってみて初めて知りました。

智文堂のかなじさんが作るリフィルはシンプルで余白があり、自分で手を入れる余地が残されています。

それらにスタンプを押して、自分らしいページを作りあげていく。そんな作業が楽しいということにも、長く手帳を使ってきたけれど気付きませんでした。

日付や曜日のスタンプなどを使って、M5サイズの1日1ページのリフィルを自作して、365日欠かさず使っています。

実はもっと色々なスタンプを使って見たかったけれど、50歳を過ぎたおじさんが使ってもいいと思えるスタンプを見つけられませんでした。

大人の男性でも気後れすることなく使うことができるようなスタンプを作りたいと思い、当店にクラシカルなデザインの文具を収めてくれている、佐野酒店の佐井健太さんに相談しました。

佐井さんは、アールヌーヴォー調、アールデコ調などの絶妙なクラシックさを持ったものをデザインしてくれて、スタンプにしてくれました。

窓枠のようなスタンプは、切手を貼るスペースを作る切手枠ですが、ノートや手帳のタイトル枠にもなります。

L字形のスタンプは、ページの余白に押すとフレームのようにすることができる、手帳用を意識したものです。

今は、性別や年代に関わらずだれでもスタンプで気軽に手帳を楽しめる時代だと思います。殺風景な手帳のページがそれだけでぐっと手を掛けた感じになって、ますます良いアイデアが浮かぶかもしれません。

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MOLTE PENNE~松本さんからの贈り物~

ル・ボナーの松本さんは、時々様子を見に当店を訪れてくれます。

それは創業時から変わらず、一ヶ月に一度の時もあれば、何カ月も空くこともあるけれど、いつも木曜日の開店前後に「ど~も」と言いながら入って来られます。

ブログ「ル・ボナーの一日」やフェイスブックからも人柄が伝わると思いますが、松本さんが入ってくると店の雰囲気がパッと明るくなります。仕事でのシリアスな一面ももちろん知っているけれど、華やかな存在感がそう感じさせるのだと思います。

何気ない話をするだけで、松本さんにはそんなつもりはないかもしれないけれど、いつも色々なことを教えてもらっています。時には心配をかけていることも分かっていて、それは出会って15年経った今でも変わらずで、申し訳なく思っています。

松本さんが当店に立ち寄った後、元町駅前のかつ丼の店「吉兵衛」に行くのを楽しみにしていると聞いて、私も一緒に行くようになりました。

吉兵衛は以前働いていた会社の近くにもあったので、よく行っていました。当時はご飯大盛り&とんかつダブルも普通に食べられたけれど、今は二人とも普通盛りで満足している。

今年になって、私は自分自身の心の狭さと器の小ささから取引先を失うことがありました。そんなとき、松本さんが万年筆店には必要だろうと、革のコレクションケース 「ペントランク」の製作に動き出してくれました。

途中何度も試作品を見せてもらったり、電話で進捗状況を聞いたりしていましたが、問題点や難しいところを松本さんなりに解決しながら、少しずつ形になって行きました。

このペントランクに松本さんのたくさんのの時間と労力が注がれていることが分かっていましたので、当初の完成予定は過ぎていたけれど、私には催促することはとてもできませんでした。

今思うと、ようやく第1ロットが完成した時、全て手縫いで作るこのペントランクの製作は、65歳の松本さんの体力と集中力を激しく消耗させることにご自身で気付かれたのだと思います。そして、1点ずつ全て手作業で仕上げるしかない商品を量産するのは難しいと判断され、当店への納品をためらわれておられたのだと思います。

その話を聞いて、カンダミサコさんが後を引き継いでもいいと言ってくれて、ル・ボナー松本さんプロデュース、カンダミサコさん製作のペントランク「MOLTE PENNE(モルトペンナ)」の商品化が決まりました。

松本さんが製作した第1ロットと、半額で販売するその前段階の試作品は、現在店頭で販売中で、9月24日~26日の「巡回筆店2021福岡」でも販売する予定です。

カンダミサコさんが作るものからネットショップに掲載していきたいと思っており、それは10月末から11月掲載の予定です。

店に来ていただける方、福岡の出張販売に来ていただける方にはぜひ見ていただきたいと思います。遠方の方はネットショップ掲載までお待ちいただくことになり申し訳ないですが、数が限られていて少ないこと、それぞれハンドメイドの味が濃いことなどもあり、実際に見ていただきたいと判断しました。

 革製で軽く丈夫なので持ち運びも楽で、旅に愛用の10本の万年筆持っていきたくなるケースです。

このMOLTE PENNEは、松本さんからの大きな贈り物だと思っています。

*MOLTE PENNE(モルトペンナ)・・・ブッテーロ革・価格:110,000(税込)/エレファント革・価格:165,000円(税込)

好きなシステム手帳リフィル

フォルクスワーゲンのPOLOに10年乗っています。

10年も乗るとあちこち故障するようになって、去年エンジンの4気筒のうちの1つが動かなくなったし、今年の7月には別の1気筒が止まってしまった。

4つのうち1つが動かなくてもパワーが25%落ちるだけだと思うけれど、小さな車の25%は大きく、前に進むのがやっとという状態でした。

ミッション車のように細かくシフトチェンジしてスピードに乗せてあげないと流れについていけないし、振動と騒音もすごかった。ふと大学生の頃乗っていた25万円で買った4速ミッションの中古の軽自動車を思い出しました。

その故障を直したと思ったら、8月には坂道発進する時にブレーキを離して、アクセルを踏むまでのタイムラグで後ろにツーと下がるようになった。

ミッションの車ならその覚悟もあるからいいけれど、オートマ車でこれは怖い。妻が怖がって直すまで車に乗ってくれなくなった。

先日それも修理して、妻の機嫌も直り車もよく走ってくれています。

こういった車の故障や修理のことは、日付と走行距離とともに智文堂の「そら文葉・飛行機リフィル」に記録しています。

今年は本の当たり年で、1月からずっと夢中になって読める本に出会っているので、暇さえあれば本を読んでいます。改めて、自分が歴史小説や軍記ものが特に好きなのだと気付きました。

最近は司馬遼太郎の「項羽と劉邦」を読み終えて、人の器について考えさせられました。何でも完璧にできると思っている人は、様々な器の人が周りにいてもそれに気付かず、それぞれの適性に応じて用いることが少ない。その才能やリーダーシップに惹かれてついてきてくれる人はいても、助けてあげたいと思ってくれる強い器が集まらない。つまりそのグループはリーダーの能力を超えるものにはなりません。

どんな人も受け容れる度量の大きな人や、大きな空の器のような人には、様々な才能を持った器が集まって、その人を助けてくれる。こういうグループには無限の可能性があるということになります。でもそう思うと自分には、完璧さも度量の大きさもないから困ってしまう。

ストーリーもすごく面白いけれど、そんな「人の器」について考えさせられた本でした。

いろいろ調べて買って読んだ本なので、記録しておきたいと思い、それにも飛行機リフィルを使っています。

飛行機リフィルを使っているのは、飛行機という旅をイメージさせてくれるワンポイントがあって、心が癒されるからです。若い時では考えられなかったけれど、こういう少し可愛らしいもの、ワンポイントあるものも使ってみたいと思うようになってきました。

智文堂のリフィル、バイブルサイズの筆文葉もM5サイズのそら文葉も、その多くは書くことを楽しむための趣味のリフィルだと思っています。

線を色鉛筆などで引き足したり、スタンプを押したりして、工夫しながら使う余地がこのリフィルにはあって、好きなことを書いて、ページを仕上げること自体を楽しむようにできています。

智文堂のカレンダーリフィル(バイブル・M5)もその形式ですが、2つ折り、3つ折りなどの折りたたみ式のリフィルにも惹かれます。

アシュフォードの2つ折りメモも1枚の紙に倍の情報量を書くことができるので愛用しています。

他にも一昨年から扱い始めた、あたぼうのジャバラ式ダイアリーじゃばらんだは、12カ月分のブロック式カレンダーが片面6カ月ずつ表裏で1年になっていて、広げると半年を見渡すことができます。

いちいちページをめくらなくても違う月を見ることができるメリットは大きく、ユニークだけどオーソドックスなレイアウトの使いやすいダイアリーリフィルだと思います。

小さなサイズの手帳の中にそのサイズを超えたサイズの紙があるということが嬉しくて、折り畳み式のリフィルが好きなのだと思います。

私も同じだけど、システム手帳ユーザーの不思議は、ページをめくることや、リングを開いてリフィルを移し替える手間を惜しむところだと思っています。

リングを開けてページを移し替えることができるのがシステム手帳のメリットで、それを惜しむのは、万年筆ユーザーがキャップを開ける手間を惜しんで、勘合式キャップを探し求めたり、パイロットキャップレスを使い出す気持ちに似ていると思います。

車の故障に関しては、POLOが故障しやすいのではなく、走行距離が少ないからといって私が点検に出すのを怠っていたせいだと今は反省しています。

*智文堂 そら文葉「飛行機」

*あたぼう じゃばらんだ・2022年ダイアリー