ラグジュアリースモール~ペリカンM600グラウコ・カンボン~

店を始めて間もなく、ペリカンM450バーメイルトータスというペンを使い始めました。

M400サイズで、万年筆の中では小さい部類に入るかもしれません。軸は今も作られているM400ホワイトトータスと同じ鼈甲風の模様で、キャップはスターリングシルバーに金張りが施されたゴージャスな仕様でした。

M400サイズなのであまり大きくないけれど、ペン先は18金で値段はM1000と同じでした。

それなら多くの人がM1000を選ぶだろうと思うところですが、私はM450バーメイルトータスに惹かれました。

小さいけれどギュッと中身が詰まったような質量の高さや煌びやかさに、現代の他の高級万年筆とは一味違う、昔ながらの高級感というものを感じました。

でもそのM450は、軸にヒビが入ってインク漏れがするようになったので修理に出したら、トータス柄の部品がもうないとのことで、黒軸で戻ってきました。

トータス柄とはかなり趣がちがうけれど、金キャップに黒軸というのも、さらに昔っぽくて今も気に入って使っています。

小さな万年筆で高級感のあるものは意外と少ないと思います。

高級な万年筆はサイズが大きなものが多いのは確かで、様々な技巧を凝らして高級感を演出するためには、その方が有効なのかもしれません。

でもそこに小さなものがあるとより印象に残ります。

ペリカンは比較的小さな万年筆で高級感のあるものを出してきました。

M700トレドはその代表的な存在だし、往年の100シリーズの復刻の1930番台のシリーズなども小さいけれど、高級感のあるペンです。

あまりにもさりげなく発売されて目立ちませんでしたが、最近発売されたペリカンアートコレクションM600グラウコ・カンボンも小さめなM600ベースの高級感のある万年筆です。

カタログやネット画像で見た時には、黒軸に絵柄をあしらっただけのものに見えましたので、価格が高いかもしれないと思いましたが、実物を手にしてみると、仕入れた数が少なかったと後悔しました。

それはきっとペリカン日本も同じで、国内300本は少なすぎると思います。

サイズはM600 と同じですが、軸はこの万年筆専用のものです。

この万年筆に重量感をもたらす真鍮製の軸には縦方向に細かな溝が切られていて、そこに1909年にペリカンが開催したポスターコンペティションに入選したグラウコ・カンボンの作品のイメージが描かれています。

グラウコ・カンボンの作品は数年前に発売された「Plikan The Brand」という本にも掲載されていました。

軸は絵柄の上からラッカーが何層も塗り重ねられていて、手触りも良く、筆記バランスの良さの役にも立っています。

M600グラウコ・カンボンは、貴金属を使ったクラシックな良さではないけれど、現代の技術でM600を高級感のある仕上がり仕立てた、現代のスモールラグジュアリー万年筆だと思います。

この万年筆は後々いい万年筆だったと、中古品を探す人が増える類の希少なものになるような気がします。

⇒Pelikan スーベレーン M600 アートコレクション グラウコ・カンボン

クロコアクセントジョッター完成

パーフェクトペンシルを使い始めて、2本目の鉛筆になりました。

はじめ面白がって原稿や手帳などいろんなものに使ってみたけれど、やはりメモを書くのに使うのが自分には一番合っていると思いました。鉛筆自体が高価なので、少しずつ少しずつ削って使っていましたが、今は2本目を育てています。

硬めの芯のメリットは、減りにくいので一回削ると何日もそのまま使うことができるところだと、パーフェクトペンシルを使うようになって知りました。

HBの濃さは適度に薄いので、例えば電車の中などで書いても、周りの人から読まれないと思います。

子供の頃使っていた鉛筆は非常にガサガサした書き味でしたが、それを当たり前のものとして使っていました。でもいつの間にかパーフェクトペンシルの滑らかな書き味に慣れて、普通の鉛筆の書き味に満足できなくなっていました。

私はジョッターを毎日使っていますが、パーフェクトペンシルとの相性がとても良く使いやすいので、革職人の藤原さんにまた作っていただきました。

今回は、先日発売して売り切れてしまったバイブルサイズのシステム手帳と同じデザインにして、サドルプルアップレザーにクロコのアクセントをあしらいました。

当店のジョッターは、一般的に売られている5×3サイズではなくM6サイズシステム手帳のリフィルサイズになっています。

ある程度書くスペースがあるけれど大き過ぎず、ポケットに入れたり、手帳に挟んだりすることがしやすいサイズです。M6サイズは一般的なサイズで、リフィルが入手しやすいと思います。

ジョッターにセットする時は、リフィルの穴の開いた部分を挟むので筆記スペースを邪魔することもなく、書いたものをそのままM6手帳に綴じることができます。

私の場合ジョッターは仕事に使っています。それは使いやすさだけでなく、手帳に挟んだり、ポケットに入れたりできるくらい薄いのに、見栄えもするという、他のメモにはないモノの力があるからです。

クロコのアクセントを入れてもらって、それはより強力になりました。

ジョッターは最近あまり使われなくなりましたが、仕事中などにスマートにメモをとるものとして、見直してみてもいいものだと思います。

*品切れのシステム手帳も1月に出来上がる予定です。

⇒ジョッター サドルプルアップ・クロコアクセント

⇒ファーバーカステルTOP(パーフェクトペンシル)

カスタム743、742のペン先の違い

1月1日から値上げが予定されている、パイロットの万年筆の話が連続します。カスタム742、743についてのお話です。

当店ではカスタム742を、「適度な大きさの10号サイズの書き味の良いペン先とバランスの良い軸が揃った完璧な万年筆」と位置付けています。

日本製なら2万円で書くことにおいて高いクオリティの万年筆を買うことができます。それを当たり前のように思っていましたが、メーカーの志と努力の成果だったのだと、色々なものが高くなった今になって気付きました。

完璧なカスタム742に対して、カスタム743はさらに耐久性の高い15号サイズのペン先を持ち、プロ仕様の万年筆としています。

私が書道を習いに行っていた時、先生に頼まれて万年筆を用意したことがあります。

先生は書道教室で毛筆の他に硬筆も教えていました。その時は硬筆に付けペンを使っていましたが、その代わりに以前使おうとして諦めた万年筆をもう一度使いたいと思われたようです。

付けペンを使っていた理由は、力を入れてペン先を開かせて書くことができるからで、先生はそれを「ペン先を割って書く」とおっしゃっていました。

カスタム742でペン先を割って書くと、ペン先が必要以上に割れてインクが途切れてしまいますが、743だとギリギリのところで粘って、インクが途切れることがありませんでした。

私たちの普段の筆記でそこまでペン先を開かせて書くことはなく、742と743の違いを感じることは少ないのかもしれませんが、742と743のペン先の違いについて分かる象徴的な出来事でした。

カスタム743の方がペン先が大きいですが、それは柔らかさに寄与するのではなく、粘り強さ、耐久性を持たせるために必要な大きさだったのです。

たしかにカスタム742のペン先の方が柔らかく、カスタム743の方が硬く感じることがありますが、ハードに書いた時にさらに違いが出てくるのです。

万年筆を長くハードに使った時、ペン先がヘタってくるということがありますが、カスタム743の粘り強いペン先は、ヘタリにくさも持ち合わせていると予想します。

一生ものの道具即ち生涯の相棒にできる万年筆がカスタム743なのだと思います。

このカスタム742と743の関係は、モンブラン149と146の関係に似ています。

149と146は軸のサイズがかなり違いますが、カスタム742と743の軸のサイズはほぼ同じになっていて、このサイズは万年筆において最良のものだと確信していることも伺えます。

カスタム742と743にはたくさんの種類のペン先がラインアップされています。

それぞれの字幅は例えば手帳に書くのならEFかFとなるように、用途によって選ぶものが違ってきます。

字幅によって書き味や使用感が違っていて、個々の好みはあるけれど一般的にはペン先は太くなるほど書き味が良いと言われています。

しかし太字以上の字幅では、ペン先の中心を意識して書かなくては書き出しが出なかったりして、うまくインクが出てくれません。それはいわゆる「ペン先を合わせて書く」ということになります。

早く書くにはある程度太い方が滑りが良くていいですが、太すぎると今度は合わせて書かかなければならず、かえってスピードが遅くなります。

合わせて書くことを意識せずに滑りが良く書ける限界はMくらいではないかと思っています。FMやMくらいが楽に使うことができて、最も早く書くことができる太さということになります。

カスタム742、743には特殊ペン先もあって、かなりユニークな存在です。

SU(スタブ)は横細、縦太の味のある線が書けるペン先で、書く文字にハマれば面白い効果が得られます。

PO(ポスティング)はペン先が硬く開きにくいので、一定の太さ、濃さで細かい数字や文字が書けるペン先です。手帳にも合うかもしれません。

WA(ウェーバリー)は、ペン先が反っている特殊な形状をしています。もともと寝かせて書く人にはあまり恩恵が感じられないかもしれませんが、ペンを立てて書く書き方でも柔らかい書き味を得られるというものです。

FA(フォルカン)はペン先が極端に柔らかいので、軽い筆圧の加減で文字の強弱がつけやすくなっています。筆圧の強い人には扱いにくく向かないペン先です。

S(シグネチャー)はサイン用ということで開発されたペン先です。90年代のペリカンの角研ぎに似た形状ですが、角を落としてあり、書き出しが出にくいということがありません。Mをそのままの形で幅だけ広くしたようなペン先になります。

特殊ペン先はかなりユニークなものですが、パイロットが創業間もない昭和初期には既に実用化されていました。万年筆の可能性を広げるペン先の開発を社運を賭けて行っていて、その仕事は今も輝いている。むしろ万年筆が趣味のものになった現代においての方がその意味合いは大きいのかもしれません。

⇒パイロット カスタム742

⇒パイロット カスタム743

パイロットカスタム845と2024年1月1日の価格改定

万年筆の中でどの部分を好むかというのは人それぞれで、書き味を重視する人もいれば、軸のデザインを大切にする人もいます。

私の好みを言うと、やはりペン先の良さということになります。あとは筆記時のバランスで、その2つが良ければデザインにはあまりこだわりがありません。

むしろ黒金(黒軸にゴールド金具)の万年筆のように、オーソドックスでシンプルな方が良いとさえ思います。

カスタム845の、しなやかさと安心して書ける粘り強さを併せ持つ書き味は、間違いなく国産最高の万年筆のひとつだと思います。

そしてシンプルな黒金、あるいは朱と黒の軸は、漆が何層にも塗り重ねられて「蝋色漆」という状態に仕上げられます。カスタム845の漆塗りの軸はシンプルでありながら、本物の上質さを追究したものです。

パイロットの価格改定が2024年1月1日に予定されていて、このカスタム845は現在の55000円から88000円に変更されます。

値上げということになりますが、国産最高の万年筆が88000円というのはそれほど高く感じないように思います。そう思うと今が安いのかもしれません。

パイロットの万年筆は、日本の万年筆の価格とスペックの基準を示すような存在だと思っていました。

10,000円、20,000円、30,000円、カスタム845の50,000円クラスと、各クラスに定番万年筆を隙なくラインナップしていたことで、パイロットの万年筆を基準に考えてしまう癖が私たち業界の人間にはあると思います。

他メーカーが価格を上げていく中、パイロットが動かなかったことを当然のように思っていました。

しかし、カスタム74シリーズが発売された31年前から基本的には万年筆の価格を変えずに耐えてきたパイロットも、とうとう価格を変更せざる得なくなりました。

パイロットの代表的なモデルの来年1月1日以降の新価格を下記しておきます。

・カスタム漆96,800円→121,000円

・カスタム845 55,000円→88,000円

・カスタム743 33,000円→39,600円

・カスタム742 22,000円→26,400円

・シルバーン55,000円→66,000円

・カスタムカエデ 22,000円→26,400円

・キャップレスLS 38,500円→46,200円

・キャップレスマットブラック 19,800円→24,200円

・キャップレスデシモ 16,500円→19,800円

・エリート95S 11,000円→17,600円

⇒パイロット TOP