文具業界に就職して32年になります。
若い頃、ローリングストーンズが結成25年で、四半世紀も続いている超ベテラングループと言われていましたが、その時のストーンズよりも長く同じ仕事を続けていることに驚きます。でも、その時店長だった方が今も現役で売り場に立っていると聞くと、私もまだまだだと思います。
就職した時は特に文具が好きだったわけでもなかったけれど、仕事をしているうちに文具が好きになって、32年経った今でも好きだと思えて、仕事にできていることは幸せなことだと思っています。
私が文具店に入った時、ちょうどモンブランヘミングウェイやセーラー80周年ブライヤーなど、後々人気が出る限定品が色々発売されていました。でも当時はまだ時代がついてきていなかったのか、あまり人気がありませんでした。
モンブランの限定品でさえ売れ残っていたので、他のメーカーの限定品も当然売れていませんでした。
ビスコンティ、デルタ、スティピュラなどイタリアの新興万年筆メーカーの様々なテーマの限定品が出回り始め、限定品ブームというものが始まりました。それがブームと言えるような大きな流れになったのは、ヘミングウェイ発売から5、6年後だったように思います。
ブームの始まりはもう少し前で、そういうものに敏感な方々だけが買いに来られていたといった感じでしたが、始まりというのはそういうものだと、何度か経験して思います。
当時はイタリアの限定万年筆ブームでしたが、その中でもアウロラはマイペースだったと思います。
新興メーカーは年に何本もの限定万年筆を発売していましたが、アウロラは5年ごとの周年万年筆か他のテーマの限定品をポツポツと出す程度でした。
それが私たち販売員にはもどかしく思えましたが、今から考えるとブームに流されずに堅実にやっていたということだと思います。
その時ブームを牽引していた他のメーカーたちが現在どうなっているかというと、ビスコンティは経営が創業者の手を離れ、デルタは廃業、スティピュラは長い沈黙をしたまま万年筆を発売していない状態です。そう考えると、アウロラのやり方は正しかったのだと思います。
32年間いろいろなものを見てきましたが、そういうことが自分の仕事の教訓になることが多く、そのおかげもあって今こうしているのだと思います。
仕事は今だけが良くてもダメで、長い年月継続してやっていくこと、立ち続けていないと意味がありません。
そのために時代を読むことも必要なのかもしれないけれど、自分たちが正しいと思うこと、自分たちが楽しいと思うことをやり続けるということをアウロラという会社の生き方から学んだと思っています。
若い頃、自分で買った2本目の万年筆はアウロラオプティマでした。
書き味よりも何よりもそのデザインが気に入っていました。
キャップを閉めた状態では短めで、ペリカンM400くらいの長さで小振りな方ですが、キャップを尻軸にはめると適度な長さになって、バランスも良い。
若い頃はオプティマをスーツの胸ポケットに差して、それだけで朝家を出るのが楽しかった。
色気のあるカーブを持つクリップと黒いキャップトップがちょこんと見えて、胸ポケットに差して絵になる万年筆だと思っていました。
オプティマはアウロラの人気のある定番品ですが、オプティマ365という限定品のシリーズもあって、そちらは18金ペン先になっていて差別化されています。
18金ペン先と14金ペン先のフィーリングの違いについて言うと、14金ペン先の方がかなり硬めになりますが、使っていくうちに柔らかくなって馴染んでくれます。
初めから柔らかくウットリする書き味を持った18金と、使い込んで柔らかくなるように育てる楽しみのある14金という違いがあります。
優劣ではなくただそういう違いということで、育てる楽しみのある14金ペン先も悪くないと思えます。
アウロラのほとんどの万年筆のペン芯がエボナイトでできています。
エボナイトのペン芯の特長は、長年使うとインクを吸収してペン先と馴染んでいき、書き味が良くなっていきますので、14金のペン先が育つのと似ています。
デメリットはひとつひとつ削り出して作らなければならず、大量生産に向かないということが挙げられます。
当店では、ペン先とペン芯の合わせ加減を調整して最適な書き味にしています。アウロラのエボナイトのペン芯で、ペン先とペン芯の調整でより深みのある書き味を作り出すことができるのは、調整の醍醐味だと思っています。
最初はただファッションでオプティマを使っていましたが、気がついたらペン先が育っていて、代え難いものになっていました。
そんな楽しみもアウロラにはあります。