個人的な古い話で恐縮ですが、まだ若いと言えるときに万年筆と出会って、私の人生は変わりました。
若いと言っても、結婚していて子供もいたけれど、その時の自分が何を考えて仕事をして毎日過ごしていたのかはあまり覚えていません。毎週の休みだけを楽しみにして、家族との時間を何よりも大切にしていたと思います。それも幸せな生き方だったと思うし、あのままでも良かったかもしれないけれど、そうしたらきっと今ここにはいなかったと思います。
万年筆と出会って、それで書くことに夢中になって、万年筆を使うことや見たり触ったりすることが好きになりました。
好きで触っているうちに万年筆を仕事にしたいと思うようになりました。万年筆というモノ、これを使う人が好きで、いつまでも関わっていたいと思ったからでした。
これが自分が生涯できる唯一の仕事だと思ってやってきましたが、改めてやはりそうだったと思います。あまり考えずに直感で飛び込んだけれど、そういう勘は当たるのかもしれません。
この店を始めた時、自分の力で生きていかなければいけない、という覚悟は持っていませんでした。割とぼんやりしている方なので、そういう自覚は後から気付いて持ち始めたと言うと恥ずかしいけれど。
バゲラさんは、自分たちのセンスと持てる技術を信じて独自の道を歩んでいる、別格の存在の革工房ですが、きっと始まりは私と同じように革が好きで仕方がなかったのだと思っています。お二人からは今もそんな雰囲気を感じるし、ご自分たちのモノ作りを楽しんでおられることがよく伝わってきます。
オーダー専門の工房として、顧客の要望に応えてひとつひとつの革鞄、革製品を作ることはセンスや技術にたくさんの引き出しがないとできないことだと思いますが、一緒に仕事させていただいて、その引き出しの多さに今だに驚かされます。
バゲラの高田さんご夫妻がこんなものを作ってみましたと、革製品を持ち込んで下さる今の関係は当店の宝だと思っています。
最新作は縫製せずに接合部を強力に接着した、形や構造を工夫した、価格を抑えたもので、袋物中心のシリーズです。柔らかく、使い込むと艶が出てくるベビーバッファローの素材で作られた、シンプルで高田さんたちも日常的に愛用しているものを製品化したものです。
これはシンプルな、構造から考えるモノ作りを得意とする高田和成さんが作ってくれています。
現在品切れ中のものもありますが、年末には入荷する予定です。
夏頃から作っていただいているブックマークも、ベビーバッファロー革のシリーズも、バゲラさんの革製品に興味を持っていただくきっかけになるものだと思っています。
私が最もバゲラさんらしい作品だと思っている3本差しペンケースが入荷しました。
クロコ、黒桟革、アンティークゴート革などを組み合わせて、ミシンでは不可能な手縫いによるこま合わせ技法を用いて作られています。
バゲラさんの革作品の一番の魅力は、普通の人生を送っている自分の生き方を変えてくれるような気がするところだと思っています。
このペンケースに相応しいと思えるペンを3本選んで持ち運ぶと、きっともっとクリエイティブな仕事ができるようになるのではないかと思ってしまう。
もともとの性格はどうしようもないけれど、私はパワーのある豪快な不良性のある人間になりたかった。
バゲラさんのモノには、もしかしたらそんな人間になれるのではないかと思わせてくれる魅力があります。