委託販売とペン先調整

いろんなモノの値段が高くなって、モノの売れ方が変わってきています。

私は革靴が好きで、お金を貯めて買ったりしていましたが、最近の値段の上がり方は異常だと思っています。

こんなに極端に上がってしまったら、革靴に見切りをつけて、靴の趣味を止めてしまう人も出てくるかもしれない。

そう思っていたら、ある靴磨き職人さんが売る中古の靴は飛ぶように売れていると聞きました。

ほとんどの靴が中古の現状の状態のまま売られているのに対して、そのお店では中古の靴をメンテナンスして、きれいに磨いて販売しているので特に人気があるそうで、ジョンロブを定価の4分の1くらいの値段で販売しているようです。

きっとそのお店の靴磨きやメンテナンスの腕が認められているから、中古靴の人気があるのだと思います。

当店も委託販売で中古品の販売をしています。お客様がお預け下さったものの買い手を探して、次の買い手を見つけるというものです。

買い手が見つかれば、ペン先を調整して快適に書ける状態にしてお渡ししているのですが、安心して買えるとよくお客様に言っていただきます。

中古の万年筆の良いところは、より安い値段で高級な万年筆が買えるというところで、万年筆を趣味として使い続けてもらうためにも必要なことだと思っています。(と言っても万年筆は靴ほど中古であるデメリットがないので、定価の4分の1にまで下げることはないけれど)

開店当初、ペン先調整と委託販売とは別々に考えていましたが、靴磨き職人さんの中古靴の販売と同じように実は繋がっていました。

ペン先調整をしていることが、委託販売という中古販売のアドバンテージになっています。

中古販売の万年筆のペン先調整をする場合、前の持ち主の書き癖や書き方に合わせた調整を消し、なるべく自然な筆記感になるようにします。ペン先調整をしているかどうかも分からないような調整を心掛けています。

私はそれを奥ゆかしい調整と呼んでいるけれど、奥ゆかしい調整は三角研ぎなど、研ぎが前面に出る調整とは違う考え方で、そこにも調整士のセンスや理性が表れると思っています。

私の場合は、今まで見てきたたくさんの書きやすいペン先の記憶の中から、そのペンの一番書きやすいペン先の記憶を呼び起こして、それを再現するようにしています。

万年筆も革靴の心配をしている場合ではなくなってきています。調整の力で万年筆がいまの値上げ風潮の中、沈まないよう努力していきたいと思っています。