コンチネンタル クラシックインスピレーション1985

阪神淡路大震災から30年が経ちました。当時私は文具店に勤めていて、落ちてしまった三宮センター街のアーケードを無感覚で見ていたのを覚えています。三宮に長い距離を歩いて出てくるまでにひどい光景を見続けて、アーケードが落ちていたり、ビルが傾いているのが異常な光景に見えなくなっていました。

命を落とされた方、けがをされた方、家族を失われた方、お家を失われた方など、大変な想いをされた方が大勢おられたので、そんな状況でも仕事をしていられた自分は恵まれていたと思います。今あんな地震が来て、世の中が万年筆どころではなくなったら、またたくさん人が犠牲になってしまう。そして自分の生活も立ち行かなくなるし、絶対に来てほしくないと思っています。

震災後30年経って、私の20代、30代、40代があっという間に過ぎたことを思うと人の人生の短さを改めて思い知ります。

あの日から30年もの間、文具/万年筆の業界で仕事をしてきました。

これは長くやってきた者の特権かもしれませんが、今までたくさんのペンを見る機会がありました。

それぞれのペンは私と同じ万年筆の仕事に携わった人たちがそれぞれの短い人生の時間で生み出した品々で、それら一つ一つが100数十年の近代万年筆の歴史を形作ったのだと思うと、とても大切なものに思えます。

そういった過去に生まれた万年筆のある時代までは実用品の雰囲気があって、良い万年筆を持つと自分の仕事が良くなると思わせるようなロマンがありました。震災当時の、30年ほど前の万年筆にはその雰囲気が残っていました。

安心して使うことができる現代の仕様でありながら、そんな過去の万年筆の雰囲気を持ったものを作りたいと思って、オリジナル万年筆を企画しました。

製作は上海にある当店の協力工場で、完全機械製作により寸分の狂いもなく作られています。
この工場での万年筆作りはとても近代的で、コンピューター制御の機械によってほとんど作り込まれて、組み立てや仕上げの最終の磨きのみ手作業でしています。

ハンドメイドでの工程を多く残しているヨーロッパや日本での万年筆作りとかなり違っています。

昨年8月に上海と近郊の町泰興に行って工場を時間をかけて見てきました。

オリジナル万年筆がどんな工場で作られているのか自分の目で確かめておきたいと思いました。
お客様に安心して使ってもらえる万年筆を作るために誤差、個体差のない確かなモノ作りは必要なことでしたし、こんな時代だからこそ手に入れやすい価格で作りたいと思っていましたので、中国の良い工場とやり取りすることが必要なことでした。

中国の工場とは本当に頻繁にやり取りしていて、現地に行ったこともあって人と人との付き合いをすることができました。
言語が違うのにこれだけ密にやり取りできるのはテクノロジーのお陰でした。

オリジナル万年筆コンチネンタルクラシックインスピレーション1985は、万年筆がまだ机上の主人公だった時代のアメリカンクラシックな雰囲気を持つ万年筆を現代に生きる人たちのために作りたいと思って製作しました。

黒いキャップはエボナイト削り出し。琥珀柄の軸は廃番になっていたアクリルレジンをこの万年筆のために再生産していただいて、削り出しています。
現在完成しているもののペン先は14金に、エボナイトペン芯仕様です。
吸入方式はカートリッジ/コンバーター両様式です。カートリッジはヨーロッパサイズのものが使用できますが、コンバーターは専用で径の太い中国サイズになります。

一部明日(1/18)からの東京での出張販売にお持ちしますが、まだまだ十分な本数が出来上がってきておらず、品薄状態です。
春頃にはまとまって入荷する予定ですし、スチールペン先仕様も出来上がる予定です。

オリジナル万年筆コンチネンタルクラシックインスピレーション1985

こんな万年筆があったと誰かが思い出して話題にしてくれるような、万年筆の歴史の一部になれたらと思い発売いたします。

工場のある泰興の街並み

工場外観
古い建物の中にある最新式の機械
出来上がった部品を1点ずつ手作業で磨く
組み立ての工程
組み立て工場内観
金ペン先の刻印