
良いものを見逃さない眼を持っていたいと思います。
そうするにはどうしたらいいのか。
美術館や博物館に通って美しいものをたくさん見て目を養ってくださいと、まだ若い頃ある方から教えてもらいました。幸せなことに、私には人生の中で先生と言える人が何人かいて、これは埼玉県にお住まいでいつも電話で色々な話をしてくださる方が教えてくれたことでした。
なかなか頻繁には行けていませんが、その教えの通りスケジュールが空いたらどこかの美術館や博物館に出掛けています。
そこで本当に見る眼が養われているかは分からないけれど、若い頃よりは目は肥えていると思います。
ものを見る時に、言葉に騙されることがあります。
実際のものは大したことがなくても、誰々が使っているとか壮大なストーリーがあったりなど、そういうものに惑わされないようにしたい。それも見る目があればできるのかもしれません。
いろんな本も勧められました。
実用書よりも小説の中にリアルがあって、小説で人について考えることができると教えてもらいました。確かに司馬遼太郎さんの「関ヶ原」は、仕事においての人間関係図のように思えます。
本を読むことで人について目や勘を養えたかはわからないけれど、大切な出会いを見逃さないためには、ものを見る目と同じくらい必要なことだと思います。
でも結局、美術館も本も結局自分の楽しみで見ていることなので、好きなことで仕事のプラスになるのならそんないいことはない。
万年筆は私にとって商売道具です。
販売しているからということではなく、それでアイデアを出したり考えをまとめたりするので、そう思っています。
自分にとって大切な道具である万年筆だけは、良いもの、自分の好みのものを持っていたいと思います。
色々なものが高くなっている中で、全てのものにこだわりを貫くことは難しくなってきたけれど、大切に思うものだけはこだわったものを持っていたい。
当店がセーラー万年筆さんに別注した、オリジナル仕様のKOP(King Of Pen)万年筆「KOP smoke」があります。
セーラーのキングプロフィット/KOPを以前からすごく書き味の良い万年筆だと思って当店でも扱ってきました。
セーラー万年筆の製品として敬意を払いながらも、オリジナル仕様で少しだけ違いを出したものを別注仕様として販売したいと思っていて、それを形にしたものです。
軸を半透明にして、以前から美しい造形だと思っていた内部の金属パーツを、外観の一部にしました。小振りなボディに対して、ペン先が大きく見えるとさらに魅力的だと思い、全長が短くなる両切りのKOP型のボディにしてもらいました。
結果的にモンブラン139やモンテグラッパエキストラなど、私が好きな万年筆と形状としては似たプロポーションになりました。
この万年筆には特に思い入れがあり、ぜひ自分でも欲しいと思っていました。
発売して日が経って動きも落ち着いてきましたので、やっと私も手に入れました。ものとして面白いと思っていましたので、どうしても見逃したくなかった。
もちろん自腹で買うわけですが、それでも欲しかった。とても嬉しくて毎日何か書いて、そのうっとりする書き味を楽しんでいます。