
どんなこともただ楽しいということだけではなかなか根付かない。何か実質的なメリットがないとやはりいけないのだと思っています。
お客様のお話を伺っていると、万年筆を愛用している人はその手間を楽しんで使っているというよりも、書く性能の高さに惹かれて使っている人が多いように思います。
そのことを表しているのが、キャップレスの需要の高さです。
片手ですぐに書き出せる機動力を多くの人が求めている。あるいはそういう場面でも万年筆を使いたいと思う。
ダイアリーのページが書いた文字でいっぱいになっていると嬉しくなって、もっと書き込みたいと思いますが、それにもただ楽しいという理由だけではない実質的なメリットがあると思っています。
日中、刑事(デカ)手帳と呼んでいるオリジナルのM5手帳にネタをあれこれ書き込んで、一日が終わった時にダイアリーにまとめて書き写していますが、それは楽しんで続けています。それらのメモには時間も一緒に書いているのですが、そうすることで時間の経過も把握できて、その日一日を意識を持って過ごすコツになっているとある時気付きました。
ダイアリーを書きながら1日の復習をすると、翌日やるべきことを思い出したりして、明日の予習にもなります。学生の時からしていれば良かった。
手帳を書くことが楽しいと思うのは30年以上経っても変わらないので、奥が深い楽しみなのだと思いますが、実質的なメリットがあったから続いているのかもしれません。
手帳を自分の文字でいっぱいにする場合、大きな文字よりも小さな文字で書く方の方が多いと思います。
国産細字や極細などで細々とその日のことはその日の欄に書くようにすると情報が後からでも見つけやすい。
日中の刑事手帳に書く時も、オリジナルウィークリーダイアリーに書く時も細字以下のペンで書くということになります。
11月4日に発売になりましたキャップレスデシモ20thAnniversaryも、ご予約の半分以上がEFで、キャップレスの用途として手帳に使われることが多いのだと思います。
キャップレスデシモが発売された2005年は、この店を始める2年前でした。
キャップレスはそれまで真鍮のボディかプラスチックのボディでしたが、アルミ製のボディで軽量化と耐久性を両立して発売されました。
手帳のペンホルダーや胸ポケットに差して持ち運ばれることが多かったキャップレスの使われ方を意識したスペックでした。
たった20年前ですが、世の中は様々なことが今と違っていました。
東日本大震災を経験していなかったし、コロナ禍も経験していなかった。SNSもまだ一般的ではなく、これが私たちの仕事において大きな違いだと思います。情報発信の仕方が全く違っていました。
個人的には30代後半で、同年代の人たちの一番仕事に燃えていた時期に誕生したキャップレスデシモ。あれから20年も経ったけれど、そんな感慨に浸る暇もなく、これからも時代は激しく変わっていき、それに翻弄されながら仕事を続けていくのだと思います。