手帳用の万年筆を選ぶ

手帳用の万年筆を選ぶ
手帳用の万年筆を選ぶ

先日、ほぼ日手帳に書き込むための万年筆として、パイロットのシルバーンを選びましたが、シルバーンを選ぶまでにいくつかの候補がありました。

私の手帳用の万年筆の条件として、細くくっきりした線が書けて、インクの出を少なく絞ることのできるということが第1の条件でした。
第2には机に向かって、座った状態で書き、ペンケースに入れて持ち歩こうと思っていたので、細軸ではなく持ちやすい太軸のものを選びたいと思いました。
それらの条件に合う万年筆として、シェーファーレガシー、VLR,パイロットカスタム845、プラチナブライヤー、セルロイドなどの細字を挙げて、毎日楽しく思い悩んでいました。
最終的にシルバーンにしましたが、どの万年筆も机上の手帳書きに適したものだと思っています。

シェーファーレガシーとVLRは首軸に埋め込まれたペン先の形が独特で、硬い書き味をイメージさせますが、細字のものでもサラッとした爽快な書き味を持っていて、いつも気になる存在のペンでした。
特にレガシーはキャップの尻軸への入りが深く、先端に近い所を握って書く人にもバランス良く持つことができます。
カスタム845は名品とも言える、パイロットの定番万年筆の最高峰で、非の打ち所のない万年筆だと思っています。
エボナイトのボディに漆塗りというのも魅力で、手にピッタリと着くような手触りの良さがあります。
この太軸で、大きな堂々とした万年筆を細字で手帳に小さな文字を書くという欲求も耐え難いものでした。
机上で、ペンケースに入れて携帯するという私の都合の手帳用万年筆選びでしたが、手帳用万年筆というとシステム手帳などのペンホルダーに入れることのできる細軸のものが選ばれることが多いと思います。
最近細軸の万年筆で良いものが少なくなってきましたが、パイロットのデラックス漆はかなり古くからあるモデルですが、しっとりとした書き味と漆塗りのボディを持つなかなか味わい深い、渋い万年筆だと思います。
漆塗りのボディを持ちながら、1万円台という価格を実現しているのは、漆塗り技法の量産化ができたパイロットならではのものです。
あまり取り上げて話題にされることのない地味な万年筆ですが、手帳用にもお勧めの万年筆です。

手帳用の万年筆と言っても、特に決まった定義があるわけではなく、それは使っている人の事情によって様々な条件があると思います。
日々のビジネスにおいて、手書きよりもキーボードに向かっている時間の方が多い方がほとんどで、手書きができる貴重な機会が手帳を書く時間です。
書いていて楽しいものを選びたいですね。

デルタ ドルチェビータ ピストンフィリング登場

デルタ  ドルチェビータ ピストンフィリング登場
デルタ ドルチェビータ ピストンフィリング登場

様々なバリエーションがあるドルチェビータシリーズに新製品ピストンフィリング(吸入式)が発売されました。

これまでドルチェビータには様々なバリエーションがありましたが、今回のピストンフィリングは正統進化版とも言えるもので、愛用者の人たちの声に答えるものになっていると思います。
このピストンフィリングの一番良いところはドルチェビータのスタイルを変えず、ピストン吸入機構化を実現しているところです。ボディサイズは以前製造されていたオーバーサイズとほぼ同じで、ミディアムよりひとまわり大きくなっています。
吸入式だから万年筆として優れているということは全くなく、その良さはおもしろいということに尽きると思います。
それは自動巻きの時計とクォーツの時計との違いに近いかもしれません。

万年筆が好きな人で今やドルチェビータを知らない人は少ないと思います。
ドルチェビータミニが女性をターゲットにしたペンとして発売された時、そのとてもインパクトのあるボディカラーとシンプルで分かりやすいコンセプトで、万年筆に興味を持っていた女性たちにすぐに受け入れられた記憶があります。
この万年筆を持つと生活が楽しくなるというドルチェビータのメッセージは、物によってライフスタイルを変えることができると信じられていた当時の世相と重なって大ヒットしました。

確かにドルチェビータは持ってみたいという、「物」としての魅力と生活を変えてくれるのではないかというインパクトを持っていました。
ミニで女性たちの心を捕らえたデルタはすぐにミディアムサイズを発売し、男性たちの心も捕らえました。しかしドルチェビータが商業的に本当に成功し、多くの人に知られることになったのはこのミディアムの発売後しばらく経ってからだったと思います。
このドルチェビータシリーズが注目されよく売れた時、他の万年筆メーカーはきっと大いに悔しがったのではないでしょうか。
特に新しい試みや工夫があるわけではなく、デザイン的にも新たなものがあるわけではないですが、鮮やかなオレンジ色のボディとドルチェビータという今までの万年筆にはなかった印象に残る名前で十分でした。
オレンジ色のボディカラーの万年筆は以前にも存在していましたが、当然ドルチェビータほどの人気は得ていませんでした。
ドルチェビータの成功は、目の付け所を変えた単純な施策によってより大きな効果を得たように感じ、そこにイタリアらしさを感じました。

ドルチェビータはそのデザインばかりが取り上げられていますが、実用的にもとてもまとまった堅実な印象の万年筆だと思っています。
ペン先が柔らかいわけではなく、どちらかというと硬めで、極上の書き味といった味わいではありませんが、しっかりとしていて、ビジネスシーンでも使うことのできる実用性を持っています。
ミディアムの太いボディはデザインにおいても安定感のある印象を与えてくれますが、実用的にも持ちやすく、愛用のペンとしていつもペンケースに入れている方も多くおられます。
それはデザインだけが飛び切り良いイタリア万年筆の代表のように述べられがちですが、M800,146、オプティマなどと並んで、万年筆の定番と言っても恥ずかしくない存在感を身に付けていますし、一本は持っていたい万年筆です。

司法試験の万年筆

司法試験の万年筆
司法試験の万年筆

司法試験を受ける人たちが勉強する、当店からも近い大学の法科大学院で合格した先輩が、後輩たちに「筆記具は万年筆がいい」と語ったという話を学生の方から聞きました。
その大学の法科大学院では万年筆が流行っているようで、受験生の方が来店される機会が多くなりました。
確かに長時間(最長で4時間)ぶっ続けで、しかもすごいスピードで書き続けなければならないという極限の状態は万年筆がその本領を発揮する場面なのかもしれません。
ある人によると、万年筆と普通のゲルインクのボールペンを比べた場合、書くスピードが1.5倍になり、後半になってもそのスピードは落ちないそうです。
そんな司法試験に合った万年筆を実用に徹した国産万年筆の中から、コストパフォーマンスに優れたものをいくつかお勧めしたいと思います。

用途が決まっている場合の万年筆選びで一番重要なのは、字幅の選択です。
答案用紙の罫線高さから考えて、細字から中字あたりが適当だと思います。極細では引っかかりが強くスピードを出して書きにくくなりますし、太字では文字が潰れてしまいます。
細字なら調整はインク出を多めに、中字なら少なめにすると良いと思います。筆圧や好みに合わせて選択しましょう。

軸(ボディ)の太さは、あまり細すぎるものは必要以上に力が入ってしまい、長時間の筆記では疲れてしまいますし、日々の勉強で手が痛くなってしまいます。ある程度の太さが必要だと思いますが、購入時にじっくり試し書きをして自分の手にあったものを選びましょう。

また、インクの問題も重要です。
書いたばかりの時に手が当たってインクが流れてしまうのを防ぐために、それが気になる方は、少しでも乾きの早い顔料インクを選ばれています。
このインクを使うとペン先が乾きやすくなり、使わないときはすぐにキャップを閉める習慣付けが必要ですが、有効な手段だと思います。

万年筆に使うことができる顔料系のインクは、セーラーの極黒(きわぐろ)とプラチナのカーボンインクがあります。
どちらのインクもボトルとカートリッジがあり、経済的にはボトル(別売りのコンバーターが必要)、携帯性ではカートリッジが優れています。
顔料系のインクは普通の染料系のインクと違い、粘度が高いため書いているとインクが降りずに上に残ってしまう「棚吊り」という現象が起こることがあります。インクが出にくくなったら、万年筆を軽く振ってインクを落とすことが必要です。また、プラチナのカートリッジは中に金属の玉が入っていますので、棚吊りを防いでくれます。

顔料インクのボトルとカートリッジ両方を使うことができる万年筆は、セーラーとプラチナですので、司法試験の万年筆として私がお勧めするのはこの2社になります。
プラチナ「3776」のシリーズは、ペン先が硬く、力を入れて、早く書く方に向いています。
その中で、3776バランス18金は今年発売された新製品です。
ペン先の素材を14金から18金にグレードアップされていますが、そのメリットは書き味の良さに尽きます。
長時間使うものですので、より快適に使うことができるものを選んで欲しいと思っています。
「プロフィット21スタンダード」はペン先が21金仕様で、書き味が格段に良くなります。
少し細めのボディですので、重さが気になる女性の方にお勧めの万年筆です。
「プロフィット21」は、スタンダードよりも太めで、大きなボディになりますので、男性の方にお勧めします。
ペン先が大きく、書き味はさらにしなやかになりますので、書くことがより楽しくなると思います。

司法試験にお勧めの万年筆としていくつかの万年筆を選びましたが、インクの出、書き味など好みに合わせた調整を施すことによって、よりご自分の道具として使いこなせるようになると思っています。
万年筆を使うメリットは、他の筆記具に比べ線に抑揚が出て美しく見える、力を入れなくても字が書けるので手が疲れにくい、書き味を楽しめるなどですが、ひたすら字を書かなければならない受験生の方のストレスを軽減し、勉強を楽しくしてくれるものだと思っています。

プラチナ ギャザード(画面中央)

セーラー プロフィットスタンダード
セーラー プロフィット
プラチナ カーボンインク
セーラー 極黒

ビスコンティ オペラ エレメンツ

ビスコンティ オペラ エレメンツ
ビスコンティ オペラ エレメンツ

ビスコンティの定番モデル、オペラがモデルチェンジしました。
単なるレジン素材変更によるカラーリングの変更と思われるかもしれませんが、コンセプトを始めとして全てが変わったモデルチェンジだということを知っていただきたいと思っています。

オペラエレメンツは、古代哲学で地球の構成要素と考えられた、地(ブラック)、水(ブルー)、空気(イエロー)、火(レッド)をそれぞれのボディカラーで表現しているとのことで、そのカラーに絡む白いラインは精気を表しているのかもしれません。
私たちが大切にしなければならない地球、そしてその地球と調和して生きていくべき生命というテーマがオペラエレメンツに込められていると思っています。
シリアスで深遠なテーマを代表するペンに与えたことがとてもビスコンティらしいと思いましたし、このようなテーマを世に問うのがビスコンティに敬意を感じるところでもあります。
このペンを使う人はきっと自分のことだけでなく、世界のこと、この地球のことも考えて生きているのだというビスコンティの思いも感じ取れるペンになっています。
新作オペラエレメンツを見ると、マーブル模様で、イタリアらしい、つかみ所のない美しさを持った前作から一転して、そのカラーリングの力強い美しさにまず目を見張ります。
ボディシェイプは前作同様、スクエアリングサークルフォルムという四角い断面を持つボディになっていて、これがデザインの上の特徴にもなっていますが、実用的にも意外な持ちやすさに作用しています。

キャップの開閉はフックロックセーフ機構という、ワンアクションでキャップを開閉できるとても便利でスマートなシステムを新たに採用しています。
これは以前に開発されていたシステムを名作限定品デヴァインプロポーションで改良して採用し、デヴィーナブラックに継承されているシステムです。
キャップが開閉しやすいという実用以外にも、キャップを短くすることで、バランスの美しいデザインに仕上げるのにとても有効なものです。
インク供給方式はカートリッジ、コンバーター両用式という平凡なものですし、ペン先も柔らかくも硬くもない標準的なもので、太字も設定されていないということでも分かるように、いわゆる万年筆マニアをターゲットにしたものではなく、たくさんの小物の中でのバランスを考えて投資する人のためのペンだと思います。

78,750円という価格は安いものだとは言えませんが、あえてマニアックな仕様に凝ることをせずに一般的なものを採用したことで、この万年筆をどういったものにしたいかという、ビスコンティのメッセージが伝わってきます。

大和出版印刷上製本ノート 第2弾

大和出版印刷上製本ノート 第2弾
大和出版印刷上製本ノート 第2弾

今回は万年筆ではなく、新しいノートが発売になりましたので、ご紹介いたします。
ノートは用途によって使い分けるものだということは、それぞれのノートを使ってみて分かります。このノートは豊かな時間を過ごすために、製作者が心を込めて作ったものだということが手にするだけで分かります。

誰でも日常の生活の中に何らかの楽しみを見出して、その時間を大切にしていると思います。
それは一日の中では、非常に短い時間かもしれませんが、心を落ち着かせることができ、平凡な日常も悪くないと思わせてくれる時間だと思います。
一日の仕事が終わって家に帰り、夕食など全ての用事が終わって寝るまでの間。それはわずかな時間ですが、落ち着いた静かな時間を持つことができます。
この時間に私が楽しみでしていることは、大和出版印刷の厚い製本ノートにゆっくりと書き込むことです。
大和出版印刷が昨年12月に発売したバガス紙の上製本ノートに、私は思考のノートと名前をつけ、その日一日考えたこと、感じたことなどを書き連ねています。
非常に厚いノートにも関わらず、優れた製本技術のおかげでページ開きがよく、比較的フラットになってくれます。
バガス紙は非常にペンの滑りが良く、気持ちよく万年筆を走らせてくれますし、インクが少しだけにじみますので、私の下手な字に魔法をかけてくれます。
そんな最高のノートと過ごす夜の短い時間はとても楽しく、この時間を過ごすために私は一日何かを考え、感じようとしているのかもしれないとさえ思います。
昨年12月に発売したバガス紙の製本ノートは、完売目前でほとんど在庫が残っていませんが、大和出版印刷は今年も私にとっての思考のノートを製作してくれました。

製本ノート第2弾は、在庫がなくなったバガス紙に代えて、Aプランという紙を膨大な紙サンプルの中から、万年筆に適したものとして選び、昨年と同じ優れた製本と活版印刷によって、シンプルで飽きないノートになっています。
Aプラン紙は、優れた印刷用紙といて既によく知られた紙ですが、万年筆との相性も良く、ツルツルと滑り過ぎない自然な書き味とバガス紙よりもにじみが少ないのが特長です。
細字から中字の万年筆で書くと、とても気持ちよく使うことができると思います。
400ページ弱というとても書き応えのあるノートですが、夜の心のゆとりができた時間に開いて、自分の考えを書いたりするのに最適なものだと思います。
毎日に平凡な生活の中に、宝物となるような特別な時間をもたらしてくれるノートだと思っています。

*画像は実際に使用しているノートです。(吉宗使用)

大和出版印刷上製本ノート

シェーファー VLR

シェーファー VLR
シェーファー VLR

シェーファーは、1920年代からパーカーとの壮絶なシェア争いをして、素晴らしい万年筆を作り続けた万年筆の黄金時代を築いたメーカーです。

シェーファーの1920年代後半の製品のひとつライフタイムをお客様に見せていただいたことがありますが、奇をてらわない寸胴の太いボディと惜し気もなく金を使った分厚く大きなペン先のとても堂々とした万年筆で、それは当時ライバルとしていたパーカーデュオフォールドに対抗するに余りある素晴らしいものでした。
PFM、クレスト、タッカウェイ、コノソアールなど、お客様が見せてくださるシェーファーの歴代のペンについて考えてみると、流行に流されない独自の物作りがとてもユニークだと思いました。
最新作VLRにも採用されている、首軸にペン先を埋め込んだ形を「インレイドニブ」と言いますが、1950年代終わり頃から作られている他社には見られないシェーファー独自のもので、このペン先を一目見るだけでシェーファーだと分かるくらいです。
あるメーカーの製造担当の方から聞いたことがありますが、インレイドニブのようにペン先を首軸に埋め込む技術は非常に難しく、他社にはなかなか真似できないものなのだということでした。
シェーファーが今から50年前にはこの難しい技術を確立し量産して、タルガ、インペリアル、レガシーや最新作VLRに採用しているのです。
インレイドニブの特長は、首軸、ペン先が一体になっていることの安定感、ペン芯を首軸に内蔵していることのインク乾きへの強さがまず挙げられます。
首軸と一体になっているペン先の書き味は、かなり硬いしなやかさのないものに思われますが、シェーファーはペン先を上に反らせることにより、ペン先を開きやすく、少しでも柔らかく書けるように工夫しています。
大きなペン先が高級万年筆の条件のように思われていますが、シェーファーはそれに流されず、独自のスタイルを貫いているところにこの会社の価値があるのかもしれません。
全長はかなり長い方で、ペンの中央付近を持って書く人、寝かせて書く人、あるいはキャップを付けずに書く人にはとてもバランス良く使うことができるペンで、ある程度寝かせて書くことにペン先の角度が決まっているような気がします。

インレイドニブの印象があまりにも強く、デザイン的に今までのシェーファーのモデルとあまり変わったように感じられないVLRですが、デザインをドイツの会社に依頼しています。
どちらかというと、少し無骨な印象のあったシェーファーを現代的でスマートなデザインに仕立てています。
あまりにも独特な存在のシェーファーVLRは、自分の好きなものがはっきりと分かっている人に好まれるようで、この万年筆を使っている人は他の万年筆もとことん使った結果、ここに行き着いたという人が多いようです。

柘製作所 キャンパスマイカルタ

柘製作所  キャンパスマイカルタ
柘製作所 キャンパスマイカルタ

喫煙具などのお店でパイプを見たり、喫煙具を営む方とお話させていただいた時など、柘製作所の名前が必ず出てきます。
それほど柘製作所は喫煙具の世界ではビッグネームであり、成功している会社です。
柘製作所で知ったパイプの、万年筆とは比べものにならない400年以上の歴史と文化は、優れた素材の追求、クラフトマンシップの存在によって支えられ、受け継がれてきたことを教えてくれましたし、パイプに使われている素材の耐久性、エージングの美しさを見せてくれました。
パイプメーカーがパイプに使っている素材は、人間の皮膚に触れた時のフィーリングと長い年月愛用することのできる耐久性があることは、パイプの歴史が証明しています。
そういった素材たちは、使って手の油を吸わせた後、磨き布で艶を出すという楽しみを持っていて、それが厳選された美しい木目を持つ素材であるなら、その喜びは一層強いものになるのかもしれません。

万年筆の世界でも、木軸のものはたくさんありますが、上質な木目の美しさが追求したものは少なかったと思います。
木という天然の素材を使っているということ、使い込むと艶を増してくるということは言われていましたが、その材料自体の等級はあまり問題にされていなかったように思うのです。
柘製作所では、ブライヤーなどの素材が入荷した時に等級をつけて分類しています。
同じ素材であっても、等級によって価格が何倍もの差がつくということ知ると、等級の違いがその木目の美しさにどれだけ影響するか想像することができます。
たくさんある素材の中からパイプメーカーのプライドをかけて、最高の素材で作った万年筆が柘製作所の万年筆のシリーズ「富士」です。
世界で一番美しい、日本一高い山の名をそのシリーズ名に冠したところに柘製作所の思い入れと自信がうかがえると思います。

富士のシリーズは柘製作所が万年筆にも最適な素材とした選んだもの数種類が使われています。

◎ブライヤー
パイプの素材として最も代表的な素材です。柘製作所が豊富にストックしているブライヤーは、細かい杢がたくさん入り、目が密でグレードが高いものになっています。
ダークブラウンのボディに対して、少し柔らかい光を放つ銀メッキの金具を組み合わせ、パイプ作りのセンスが感じられる逸品に仕上がっています。

◎黒檀
ここまできめの細かい真っ黒なものはすでに入手困難と言われているものを使用しています。
24金メッキの金具とのコンビネーションにより、一見スタンダードな万年筆に見えますが、手に取ると上質な黒檀だということがすぐに分かります。

◎マーブルエボナイト
古き良き時代の万年筆にも使われていた、私たち万年筆業界の人間にとって憧れの素材です。
パイプではこのエボナイトを吸い口の部分に使用していて、手触りの柔らかな感触が楽しめます。日々磨き上げることのよって、美しい光沢を保ってくれます。

◎キャンバスマイカルタ
コットンを樹脂で固めたもので耐久性が高いため、切削は困難を極めますが、吸湿性がありますので手にフィットし、実用的には大変優れた素材です。
樹脂ですが、その感触は革に近く、手汗などを吸って変化してくれるエージングを楽しむことのできる素材でもあります。

「富士」のシリーズは柘製作所とセーラー万年筆のコラボレーションによって作られていて、すでに定評のあるペン先のメカニズムや構造、デザインなどセーラーのものを使用していますが、最高の素材を使うことによって、使って、見て、磨く楽しみのあるとても贅沢な万年筆に仕上がっています。
キャップリングをボディ素材と共にするという細心のこだわりを感じると、柘製作所製万年筆を所有する喜びが一層高くなると思います。

中屋万年筆 シガーモデル

中屋万年筆 シガーモデル
中屋万年筆 シガーモデル

中屋万年筆の漆塗りのモデルは、他のどの万年筆にも似ていないオリジナリティのあるスタイルを持っていて、今大変人気がありますが、今までなかったものを作るのは相当な勇気が必要だったと思います。
万年筆が売れなくなって、大量生産品は黒いボディに金の金具という定型の形に戻らざるを得なかったことに危機感を感じたプラチナ万年筆が少量生産で、より物の良さが分かる人のために万年筆を作りたいという狙いで中屋万年筆をスタートしたのは2000年です。

当時、海外の限定万年筆のブームが高まっていて、それらは日本にもたくさん入っていて、日本の万年筆は一部のものを除き、書き味以外に対抗できる要素がありませんでした。
創業当初、中屋万年筆はプラチナと同じセルロイドの万年筆、ブライヤーの万年筆、そしてエボナイトの素地をそのまま使用したオリジナル万年筆だけで、中屋万年筆も創業当初から今のスタイルが確立されていたわけではなく、それは少しずつ出来上がっていったものだと私は感じていました。

技術もデザインも全てがプラチナから譲り受けた、あるいは借りてきただけのもので、特長と言えば使い手の書き癖を判断してカルテにし、調整するというところのみでした。
新しい万年筆ブランドが立ち上がっても、特長が調整だけというのは心許ないスタートでしたが、中屋万年筆には客様の声が作り手に直接届くクリニックという強みがありましたし、メールの問い合わせには中屋万年筆の社長が直接当たりましたので、お客様がどういうものを求めているのかを全員が生の声として把握することができたのだと思います。

そういった声を小規模で小回りが利く中屋万年筆は実現可能でした。
お客様方の意見を参考にしたのか、中屋万年筆のオリジナルモデルは少しずつ進化し、それはデザイン担当の吉田紳一氏の加入と同時に、一気に形になっていったのは偶然ではないと思います。

そんな中屋万年筆のデザインアイデンティティを最も現しているシガーモデルは、クリップもキャップリングもない、とても潔いデザインです。
万年筆のクリップというのはポケットに差して固定する以外には転がり防止という役目がありますが、デザインにおいてはポイントにも制約にもなっています。
このクリップをなくしたことで、シガーモデルの流麗なデザインが可能になり、今までの万年筆のデザインを超越したものにしています。
シガーモデルにはロングとポータブルという2つのサイズがあります。
ロングは全長163mmで、尻軸にキャップをつけなくても十分な長さがあり、ボディだけで143mmという普通のペンが尻軸にキャップをつけたサイズに近くなります。

キャップをつけなくてもバランスが良いというのは、書くことにおいて思った以上の恩恵があって、重いキャップをつけない自由自在に扱える感覚はデスクペンに近いと思います。
ポータブルはペンケースにも入るサイズで、全長が149mmです。
キャップを尻軸につけることも可能ですが、キャップをつけずに立ち気味の角度で出先でどんどん使うというような使い方が向いているようです。
この2つのシガーモデルはボディサイズ以外に、首軸の長さが違っていて、ロングは首軸を握って使い、ポータブルは太めのボディを握って使うことになると思います。
中屋万年筆のペン先はプラチナと共通(刻印違い)で、その書き味などは同じです。

インク出の少なめの細字はカッチリとした文字を手帳やノートに書くのに適していて、中字以上はインクの出る量も多くなりますので、ノートや便箋などその太さに見合った使い方になります。
ペン先が硬いというイメージの強いプラチナ(中屋万年筆)の書き味は今ひとつと思われていますが、それは使ったことのない人の先入観で、本当はその硬さゆえの気持ちいい滑りを持っていますので、中屋万年筆でも書くことを十分楽しむことができます。

中屋万年筆の漆塗りのペンは大切に仕舞っておいて一年に一度使うお正月の重箱ではなく、毎日必ず使うお椀のような存在だと思います。

ペリカン M400

ペリカン M400
ペリカン M400

仕事柄、日々日常の書き物はほとんど万年筆で行っていて、私くらい万年筆を使うということに恵まれた仕事環境の人間はいないと思っています。
万年筆が使える仕事環境の条件として、複写式でない書類、慌しくない、などがあるかもしれませんが、使おうと思えば何とかしてでも使えるのではないかと思います。
万年筆を使うことができる環境にあるかどうかは別として、日常のちょっとした書き物などに使いやすく、適している万年筆は少し小型のM400のような万年筆で、このようなサイズの万年筆が最もよく使う万年筆なのではないかと思うようになりました。

万年筆が日常の筆記具でなくなってしまってから、それは大型化していき、デスク用のM800のようなペンがスタンダードとなっています。
しかし、それはポケットに入れておいて、サッと出して書くには大きすぎますので、字幅と同じように、万年筆の大きさは用途によって使い分けるべきものなのだと思っています。
そう考えるとM400を選択するのは、万年筆をオンタイムの実用品と考える人、あるいはオンタイムに使うものを探している時ということになると思います。

ペリカンの130年に及ぶ長い歴史の中で、途中途切れたこともありましたが、代表的な役割を務めてきたのは100やM400のような小型の万年筆であるということを考えると、ペリカン社の万年筆は実用の道具であるということになり、それはステーショナリーメーカーの考え方です。軽く、小型で携帯性に優れていながら、M1000と同じ容量の1.5ccのインクを吸入することができることは、このペンの実力を知るのに十分なデータだと思います。
書き味に関しては、時代による僅かなデザインの違い同様に変化していて、今発売されているものは、ボールペンに慣らされた現代人の高い筆圧、仕事中の様々なシチュエーションでの筆記などを考慮してか、硬く実用的なものになっています。

ペリカンはかなり以前の♯400頃からハードニブを設定するなど、実用の筆記具としては硬いペン先が適しているという提案をしていますので、今のM400の書き味はその流れの中にあるものなのでしょう。
M400には、M420、M425、M450などのボディ素材の違うデラックスなものがあり、それらは物にこだわる紳士の小道具的な趣きを持っています。
ペリカンを語る時に、どうしても引き合いに出されるのがモンブランで、両社は非常に比較されることの多いメーカーです。
ペリカンとモンブランは、同じドイツのメーカーですが非常に対照的なもの作りの考え方を持っていて、それはそれぞれの代表モデルという切り口で考えても同様です。
ペリカンはM400を代表モデルにしてきただけあり、実用的なもの、日常の道具としての万年筆を提案してきましたし、モンブランの代表モデルはやはり149で、モンブランが訴えてきたのは、日常の生活を超越したイメージを持った万年筆なのだと思います。

そんなステーショナリーメーカーに実用筆記具M400は、楽しむという要素の少ない万年筆なのかもしれませんが、仕事中や外出中でもどんどん万年筆を使いたいと思っている人に選ばれるべき、偉大な普通の万年筆なのかもしれません。

「ペリカンM400」

パイロット カスタム 楓(かえで)

パイロット カスタム 楓(かえで)
パイロット カスタム 楓(かえで)

木軸の万年筆を木軸専用の磨き布でピカピカにするという男の楽しみを最近知りました。
男の、と限定したのは、この汚れていないのに磨くという行為について女性の方からの賛同があまり得られないからです。
そんな磨く楽しみ、あるいは長年の使用で変化させて使い込んだ風合いを愛でる楽しみを、書く喜びとともに持っているのが木軸の万年筆です。
それはタンニンなめしの革製品を大切に使って、エージングさせるのに似ています。
しかし、木軸の万年筆で革のようなエージングを楽しむことができるものは意外に少なく、木軸の表面を保護するための表面処理を施しているものが多くあります。
ラッカーやポリエステル塗装などを施すと、強度が増し、ヒビは入りませんが、手触りは木本来のものとは違うものになってしまいます。
木軸の万年筆を愛用するなら、最小限の加工にとどめられた、木の手触りを持ったものを選びたいと思う方は多いと思います。
こんな方によくお勧めする万年筆のひとつがパイロットカスタムカエデです。

30年以上前からの定番万年筆ですが、なかなか味わい深いペンだと私は思っています。
軸はイタヤカエデという床柱などに使われることの多い、木目の美しい素材が使われています。
このイタヤカエデの木の繊維にプラスチックを内側からガン浸させることによって、割れなどが起きないようにしながら、表面は自然な木の手触りを感じることができるようになっています。
パイロットの木軸万年筆は、キャップとボディで同じ個体の材を使い、キャップを閉じた時に木目が連続してつながるように作られています。
木軸の万年筆にとって最も大切な木目ですが、ここまでこだわって製作しているメーカーは少ないのではないかと思います。
パイロットの創業当初から貫かれているクラフトマンシップが感じられる話です。

カスタムカエデはペン先にも、こだわりの強い人たちの気持ちをくすぐる隠し味があります。
現在のパイロットのスタンダードモデルは、26年前の創業74周年から発売されているカスタム74のシリーズですが、カスタムカエデはこの74シリーズとペン先を共通にせず、専用のものを使っています。
カスタム74以前のスタンダードモデルは、カスタム67というモデルでしたが、これは柔らかい書き味を持った万年筆でした。
カエデはこのカスタム67のペン先を使っていて、カスタム74よりも柔らかい書き味を楽しむことのできる万年筆になっています。
インク供給は、一般的なカートリッジ、コンバーター両用式ですが、たくさんのインクを保持することのできるcon-70というプッシュ式のコンバーターが使われています。
con-70は片手で使うことができ、片手でインクビンを持って吸入することができるため、インクが少なくなったインク瓶を傾けながら吸入することができますし、その操作はとても簡単で、カエデをより使いやすいものにしています。
スーツやネクタイのビジネスの世界では少し場違いな感じのする木の自然な風合いのカスタムカエデ、書くこと、使い続けること、そして磨くことを楽しむための万年筆だと思います。

「パイロットカスタム 楓(かえで)」