パイロット カスタム 楓(かえで)

パイロット カスタム 楓(かえで)
パイロット カスタム 楓(かえで)

木軸の万年筆を木軸専用の磨き布でピカピカにするという男の楽しみを最近知りました。
男の、と限定したのは、この汚れていないのに磨くという行為について女性の方からの賛同があまり得られないからです。
そんな磨く楽しみ、あるいは長年の使用で変化させて使い込んだ風合いを愛でる楽しみを、書く喜びとともに持っているのが木軸の万年筆です。
それはタンニンなめしの革製品を大切に使って、エージングさせるのに似ています。
しかし、木軸の万年筆で革のようなエージングを楽しむことができるものは意外に少なく、木軸の表面を保護するための表面処理を施しているものが多くあります。
ラッカーやポリエステル塗装などを施すと、強度が増し、ヒビは入りませんが、手触りは木本来のものとは違うものになってしまいます。
木軸の万年筆を愛用するなら、最小限の加工にとどめられた、木の手触りを持ったものを選びたいと思う方は多いと思います。
こんな方によくお勧めする万年筆のひとつがパイロットカスタムカエデです。

30年以上前からの定番万年筆ですが、なかなか味わい深いペンだと私は思っています。
軸はイタヤカエデという床柱などに使われることの多い、木目の美しい素材が使われています。
このイタヤカエデの木の繊維にプラスチックを内側からガン浸させることによって、割れなどが起きないようにしながら、表面は自然な木の手触りを感じることができるようになっています。
パイロットの木軸万年筆は、キャップとボディで同じ個体の材を使い、キャップを閉じた時に木目が連続してつながるように作られています。
木軸の万年筆にとって最も大切な木目ですが、ここまでこだわって製作しているメーカーは少ないのではないかと思います。
パイロットの創業当初から貫かれているクラフトマンシップが感じられる話です。

カスタムカエデはペン先にも、こだわりの強い人たちの気持ちをくすぐる隠し味があります。
現在のパイロットのスタンダードモデルは、26年前の創業74周年から発売されているカスタム74のシリーズですが、カスタムカエデはこの74シリーズとペン先を共通にせず、専用のものを使っています。
カスタム74以前のスタンダードモデルは、カスタム67というモデルでしたが、これは柔らかい書き味を持った万年筆でした。
カエデはこのカスタム67のペン先を使っていて、カスタム74よりも柔らかい書き味を楽しむことのできる万年筆になっています。
インク供給は、一般的なカートリッジ、コンバーター両用式ですが、たくさんのインクを保持することのできるcon-70というプッシュ式のコンバーターが使われています。
con-70は片手で使うことができ、片手でインクビンを持って吸入することができるため、インクが少なくなったインク瓶を傾けながら吸入することができますし、その操作はとても簡単で、カエデをより使いやすいものにしています。
スーツやネクタイのビジネスの世界では少し場違いな感じのする木の自然な風合いのカスタムカエデ、書くこと、使い続けること、そして磨くことを楽しむための万年筆だと思います。

「パイロットカスタム 楓(かえで)」

ビスコンティ ヴァンゴッホシリーズ

ビスコンティ ヴァンゴッホシリーズ
ビスコンティ ヴァンゴッホシリーズ

お客様からそのペンの良さを気付かされることも多く、そんなペンのひとつがビスコンティのヴァンゴッホです。
ビスコンティは今年創業20周年を迎えた、万年筆メーカーとしては非常に新しい会社ですが、万年筆が飛ぶように売れた時代を経験していない会社だからこその安住を許さない、常に変化する姿勢が感じられる、万年筆をおもしろくしている会社のひとつだと思っています。

ほとんどの万年筆メーカーが過去の栄光にすがり、50年前の定番万年筆を今も代表モデルとして作り続けていることを考えると、ビスコンティがいかに万年筆の業界の活性化に貢献しているか分かると思います。
創業からずっと様々なテーマの限定品を作り続けていて、定番モデルを持っていませんでしたが、オペラとともに定番的に製作して人気モデルになっているのがヴァンゴッホシリーズです。

ヴァンゴッホは発売された当初、万年筆を知る人の間ではあまり良い評価を得ていませんでした。
スチールペン先モデルで31,500円(今は金ペン先モデルも有り)という価格は、万年筆は金ペンだと考えていた人にとって信じられないほど高価だったからですが、そのヴァンゴッホのボディカラーの美しさ、簡潔なデザインなどの良さに気付いたのは、初めて万年筆を使うという人たちでした。

初めて万年筆を使うとか、何十年ぶりに使いたいと思った方などは、私たちと違って、万年筆に先入観や固定観念がありませんので、ニュートラルな感性で万年筆を見ることができるようで、ヴァンゴッホはそんな方々から、それも女性から選ばれることが多いようです。

他の万年筆然とした万年筆に目もくれず、当店のビスコンティのコーナーの前でじっとヴァンゴッホのボディカラーに見入る女性のお客様を何人も見ましたが、どの色も不遇の情熱の画家ゴッホの絵画をイメージさせてくれるもので、迷われる気持ちもよく分かります。
ヴァンゴッホのデザインは他の万年筆によくある金属のリングがキャップエンドにしかなく、継ぎ目が少なく、最大の特長であるボディカラーを引き立てています。
キャップトップとボディエンドの丸みも、他の万年筆であまり見られるものではありませんでしたが、非常に自然に処理されていて、この万年筆のもうひとつの特長になっています。

14金大型ペン先のマキシサイズとトータスカラーのみの14金ペン先のミディアムサイズ、スチールペン先のミディアムサイズというバリエーションになっています。
マキシサイズは柔らかい重厚な書き味が特長、ミディアムはバランス重視というのが実用的に見た感想です。

ヴァンゴッホには日本限定色トラモントというモデルが300本という限定本数で今年発売されています。
トラモントとは夕焼けを意味するそうで、青い空が紅い夕陽に染まるイメージをボディカラーにしていますが、ゴッホの1889年の作品オリーブ園の色合いとよく似ています。
他のボディカラー以上に個性的で詩情豊かな感じのする色調で、とても美しく仕上がっています。
定番の定評のある各メーカーの名作万年筆もいいですが、ビスコンティヴァンゴッホシリーズの良さも分かる感性は私も持っていたいと思っています。

モンテグラッパ ネロウーノ

モンテグラッパ ネロウーノ
モンテグラッパ ネロウーノ

モンテグラッパがモンブランジャパンの販売網を使うようになって、ファッション誌の広告欄でよく見かけるようになりました。
モンブランのマーケティングについては賛否両論ありますが、万年筆をより多くの人の目に触れさせ、使っていない人にも興味を持ってもらうためにはとても有意義だと思っています。モンブランのファッション界への働きかけにはとても共感します。
そんなモンテグラッパの広告を最近飾っているのが、このネロウーノです。

六角形のエッジの立ったシャープなボディにシルバーの金具、威厳のある王冠のようなキャップトップなど。
ありそうでなかった堂々としていながらも重厚になり過ぎないデザインは、性別、年齢を問わず受けがいいようです。
ただし、元々万年筆が好きでそれを趣味やコレクションにしている人にとっては、ペン先が大きいことや、吸入式であることが重要なポイントであったり、必須条件だったりしますので、そういう視点で見るとネロウーノはあまり評価されないかもしれません。それほど今の万年筆愛好家から愛される条件を外しているネロウーノですが、色々な万年筆を知っている人も使ってみる価値のある、「実用的な万年筆」であることをお伝えしたいと思います。
小さめでシャープな印象のペン先ですが、書き味はとても柔らかく、ペン芯に固定された形状を持っていますので、ペン先とペン芯が離れることがなく安定してインクを出してくれます。しかもペン芯が首軸内に収められた構造を持っていますので、インク乾きの点でもとても有利です。
ネロウーノの優れた「書く」ことに関するメカニズムは、モンブランの以前のラインナップにあった「ジェネレーション」というモデルと全く同じもので、やはりモンテグラッパがモンブランの傘下に入ったことで、モンブランのノウハウも使うことが可能になったのだと思います。
ネロウーノは言わば、イタリアのデザインとドイツの優秀なメカニズムの融合がひとつの形を見た逸品です。

モンテグラッパの今までの万年筆作りのあり方は、芸術品のような細工に凝った美しい万年筆を、シルバーやセルロイドなどの素材で作るというもので、それはコレクターズアイテムと呼ぶに相応しいものでした。それに対してネロウーノからは姿形こそ美しいですが、実用万年筆の印象を強く感じます。
「ネロウーノ」は、モンテグラッパの新しい物作りに対する姿勢と、モンテグラッパが新たな境地に踏み出したことを表した万年筆だと思います。
ネロウーノは、先入観がなく万年筆を選ぶことのできる若い人や女性から特に人気があり、モンブランの広告戦略同様、万年筆に興味がなかった人を万年筆に目を向けさせる役割を果たすと思っています。