手帳の紙1枚作戦

何度も書いていることですが、手帳の使い方について考えるのが好きで、思いついたらあれこれ試してみるので使い方が全然定まりませんでした。

仕事を始めた時から手帳はずっと使い続けていて、その時々でこれで完璧だ、このやり方で生涯使い続けようと思っても、1年使うと違うやり方が試したくなります。

手帳にロマンを感じる性質で、違うやり方をすれば仕事がもっと効率よくできるのではないか、違う手帳の方がいい仕事がてきるのではないかと思ってしまうのです。

でも考えてみると、仕事の内容ややり方は変わっていくものだから、それを整理するフォーマットである手帳がそれに合わせて変化してもおかしくないのかもしれません。

前は手帳に色々なことをびっしりと書いていたけれど、今はダラダラと長い文章は書かなくなりました。

書かなくてはいけない原稿が毎週、毎月、毎シーズンとあって、かならず何かの文章を書いているし、もちろん仕事の企画もあれこれ考えているから手帳に向かう時間が短くなったからかもしれないけれど、それだけではない。

手帳に気持ちのまま、思いつくままに細かく書いたことを読み返す気が私はしなかった。

自分にはできごとなどを簡潔に箇条書きで記録する方が向いていることに気付きました。

今は日付入りの正方形ダイアリーでスケジュールやToDoを管理しながら、記録を箇条書きで残すようにしています。そして同時進行しているプロジェクトの企画内容や管理は、システム手帳に書いています。

正方形ダイアリーにもシステム手帳にも箇条書きで書きます。お客様のご購入記録や打ち合わせなどの毎日のドキュメントは、正方形ダイアリーに時間とともに書くようにしています。システム手帳は1つの物事が3つ折りリフィル1枚の紙に収まるように物事だけ簡潔に書く。そこにはただ事実だけが積み上げられていきます。

プロジェクトが完結したら、それを正方形ダイアリーに貼ります。

そうすることで大切なことが散逸することなく、過去の正方形ダイアリーに時間の経過という法則でファイルされるので、過去のことを探す時に正方形ダイアリーのどこかに書いてあるということになります。

これでデータは散逸しなくなって、これに今までどれほど助けられたことか。

システム手帳に凝ると、全てを1冊にまとめたいと思い、たくさんのインデックスを駆使して、複雑なページ構成にしてしまいがちです。

ページ構成を考えた時はそれで理解していたつもりでも、時間が経つと該当しない項目ができたり、法則が分からなくなったりして、自分がどこに書いたか見つけられなくなるということがよくありました。

人それぞれだと思いますが、私の場合は、複雑な構成にすると面倒になってしまうようでした。

そんな自分のことが分かって、1企画1枚に書くということに辿り着きました。

イベントなどが多くなると、正方形ダイアリーは貼った紙で膨らんでいくけれど、閉じられないほどではない。

先日行ったドイツ出張もいろいろ調べて書き込んで何ページにもなりましたが、それらは前調べにすぎず、ホテルに帰って1枚の紙に少しずつ書き足していたドキュメントが出張の終わりとともに完成する。それを正方形ダイアリーに貼って記録は完結しました。

紙1枚作戦と密かに名付けていますが、シンプルなやり方だけど自分には合っているような気がするし、皆様にもお勧めしたい手帳の使い方だと思いました。

(写真は正方形ダイアリーとカヴェコ1980年のローラーボール。ローラーボールは替え芯が入荷次第販売開始します)

⇒正方形ダイアリーTOP

絶対的な存在に立ち向かうペリカンM1000

モンブラン149という象徴としての万年筆の絶対王者と比べることができる、唯一の存在の万年筆がペリカンM1000だと思っています。

上質な万年筆はもちろん他にたくさんありますが、149は象徴なので、書き味や性能などの実用性を超越したところに存在すると思っています。そういう絶対的な存在に反発したくなる私のような天邪鬼な人は他にもきっといるはずで、その人たちは実力でのし上がってきた(?)M1000を推すに違いない。

ペリカンM1000とモンブラン149を比べてみると、サイズはほぼ同じ(厳密にはM1000の方が3mm短い)、ペン先の大きさもほぼ同じで、どちらもオーバーサイズと言われるカテゴリーに属する万年筆です。

形は両端を絞った紡錘形(万年筆の世界ではバランス型といいます)の149に対して、M1000は両端が平らで円柱に近い形状(ベスト型)をしています。

万年筆を紡錘形にする理由は、デザイン的なこと以外では、両端をなるべく軽くすることで重量を中心に集め、筆記バランスを良くする、という目的があります。

対してM1000のような円柱に近い形状は、ペンのどこを握っても同じような感覚で握ることができるため、こういう形の万年筆を持ちやすいと思う人も多いと思います。

書き味もデザイン同様、かなり違っています。

149のペン先は剛性感があり、硬いペン先が紙を滑るような感じ。M1000は柔軟な書き味で、筆圧の加減で文字に強弱がつくような、1文字1文字きっちり書くことに向いているような柔らかい書き味を持っています。

ただサイズが近く、同じカテゴリーに属しているということ以外は何もかも違う149とM1000、どちらを選ぶかは好みが分かれるところですが、キャップをつけずに書く場合M1000の方がボディの長さが5mmほど長く、この差がキャップをつけずに書く場合利いていて、キャップなしで書く場合はM1000の方がバランスが良いように思います。

またボディの出っ張りが少ないという点では、M1000の方がペンケースの選択肢は多そうです。

最近の蒔絵万年筆はM1000で作られることが多く、それもペリカンが自社最高の万年筆と位置付けていることの裏付けとなっています。

2016年にM800ルネッサンスブラウンという万年筆が特別生産品として発売されましたが、このたびM1000ルネッサンスブラウンを発売しました。

ルネッサンスブラウンのM1000は軸の色が違う以外にもキャップリング、尻軸リングが専用のデザインになっていて、さらに差別化されています。

ペリカンの特別生産品は直感的に美しいと感じる軸が多く、この分かりやすさが潔くていいと思っています。M1000ルネッサンスブラウンも、その軸色から重厚なインテリジェンスを感じるのではないかと思っています。

ペリカンは186年もの歴史があり、過去の万年筆を現代の技術で復刻させた限定品のシリーズもありますが、特別生産品M1000ルネッサンスブラウンはすでに高い評価を得ているスーベレーンシリーズというペリカンの型を使いながら、万年筆を面白くしてくれる存在だと思っています。

⇒ペリカンM1000 ルネッサンスブラウン

NANIWA PEN SHOW後記

NANIWA PEN SHOWは1日開催のイベントでなかなかハードですが、その大変さを上回る価値があると思っています。

早朝に家を出て、8時前に会場に着いたらすぐに準備に取り掛かり、9時45分には準備完了して10時にはお客様をお迎えする。18時に閉場後、19時の終礼までに片付けて荷造りをする。

1日の中にこれだけの作業があるイベントは他になく、瞬発力と持久力が必要です。

今年のNANIWA PEN SHOWで私たちは小さな挑戦をしました。

イベントにはよく持って行ったモノをかなり減らして、オリジナルインクとノートを少しだけにしました。そして自分たちが本業だとしている万年筆の調整と、万年筆の販売を中心にしました。

ペン先調整機は2台持ち込んで、私と森脇が同時に調整できるようにして万全の体制を整えました。これでペン先調整の依頼がなかったり、万年筆が売れなかったら、私たちは大阪まで来て1日ただ座っているだけになってしまいます。

実際、事前に予約フォームを準備しましたが、予約は1件も入っていませんでした。

当日までそんな恐怖との戦いでしたが、せっかく万年筆店である当店を知ってもらえるいい機会なので、ペン先調整を前面に出してイベントに臨む方がいいと思っての決断でした。

そんな状況でしたが、イベントが終わって、挑戦して本当によかったと思いました。

調整も常にお客様がおられたし、書き方に合わせて調整した万年筆も喜んで買っていただけました。

そして何よりも当店のテーブルを囲んで楽しそうにして下さるお客様が何人もおられて、そんな空間を作ることができたことが最大の収穫でした。

ドイツに行って仕入れたペンはありましたが、普段から当店にあるものとペン先調整というスキルだけでイベントに参加して、お客様に喜んでもらうことができました。

イベントではパイロットキャップレスと三角研ぎの引き合いが目立ちました。

手帳を書くことを楽しんでいる方が多く、書いては仕舞うことが連続してしやすいキャップレスが手帳にちょうど良かったのだと思います。

パイロットは60年程も前に、万年筆に絶対必要なものだと思われていたキャップを無くして、片手で書き出せる万年筆を作るという挑戦をしました。そのおかげで、キャップ無しでもぺン先が乾かない、小さなペン先からは考えられないほど書き味の良いキャップレス万年筆があるのだと思います。

挑戦の度合いは違いますが、この数年間続けていたイベントの形を根本的に変えて、もう一度自分たちの本質に立ち戻ってイベントに臨めたことは大きな進歩でした。

NANIWA PEN SHOWに来て下さったお客様方にはとても感謝していますし、こういう機会を毎年作って下さっている主催者の方々にも感謝しています。

エレファントのデブペンケース~日常のペンケースにエキゾティックレザーを~

今年はル・ボナーさんにお願いして、エレファント革のデブペンケースを作っていただきました。

デブペンケースはル・ボナーさんが20年以上作り続けているロングセラーであり、ベストセラーです。

ル・ボナーの松本さんがデブペンケースに一番適した革として使われているブッテーロ革のものは張りがあってこの形に適していて、使い込むと劇的に艶が出て美しい変化を楽しめます。

それに敬意を払いながらも、今までなかったものを作っていただきたかったのでエレファント革でお願いしました。

それは奇をてらったということではなく、大柄な象革でもデブペンケース程の大きさがあれば革目の良さを活かせるだろうし、軽くて丈夫だという実用的なメリットもあっての注文で、松本さんも快く応じてくれました。

新品の時は独特な模様のシボが立っていて象らしいザラザラした手触りですが、使い込むとシボが滑らかになって、良い風合いになっていきます。

そうなるには長く掛かるけれど、安心して使い込むことができる,酷使に耐えるものなので、日常の道具としてお勧めいたします。

ペンケースには様々なものがありますが、よく使う文房具を入れて毎日持ち運ぶにはデブペンケースのような、ファスナー式でガサっと入れるタイプのものが使いやすく、個人的には大容量な方がより良いと思います。

シャープペンシル、多色ボールペン、カッター、定規、消しゴム、ハンコ、USBメモリーなど毎日持ち歩く細々したものはたくさんあって、デブペンケースのようなペンケースがないとどこに入れていいかわからないし、まとめて持っておかないと必ず失くしてしまうか、常にあちこち探すことになると思う。

会社のデスクについた時にまずこのペンケースと手帳を鞄から取り出す。

あるいはお家で家計簿や日記をつけたりするときなどにまずこのペンケースを取り出す。

自分の作業に必要なものをここに入れておくと、それで仕事に取り掛かることができる。

万年筆などをこのペンケースに入れる場合は、例えば当店のオリジナル1本挿しペンケースに入れておくと、他のものと接触しても傷が付きません。

レザーケースは挿すだけでスムーズに出し入れできるし、余分な出っ張りもないシンプルなデザインなので、こういう用途に最適です。

私も決して余計なものを持ち運んでいるわけではないけれど、手帳、ファイル、パソコン、スマホ、メガネ、折りたたみ傘、本、財布、おにぎりなど、毎日の荷物は重くなっています。手帳や本が重いのは分かっているけれど、これらを持たなくなったら自分ではないような気がするし、いつも持ち歩いていたいと思います。

でもできれば少しでも荷物を軽くして、5年前に脱臼したと思っていたら実は骨折していた、膝の負担を軽くしたい。

収納力は下げたくないけれど荷物は軽くしたい。同じ収容力でそのもの自体が軽い丈夫なペンケースを求めていたのは同年代の人には多いはずです。

そんな願望を持っている大人たちのためのペンケースができたと思います。

→Pen and message.特別注文品 ル・ボナー デブ・ペンケース/エレファント

KBSドイツ紀行4~カヴェコ社訪問~

(KBSドイツ紀行2、3は店主個人ブログ元町の夕暮れに掲載)

今回ニュルンベルグを訪れた第1の目的は、カヴェコ社(正確にはH&Mガットバーレット社)の訪問でした。この目的がなかったら今回ドイツに行こうということにはなりませんでした。カヴェコ社訪問のお声掛けをして下さったカヴェコの輸入総代理店の石川社長には本当に感謝しています。

ドイツに到着して4日目、とうとうカヴェコ社に訪問する日になりました。

カヴェコ社前で現地在住の通訳のヨコオさんと合流する予定になっていましたが、その前に本来なら午前中に見学するはずだったファーバー・カステル城の外観写真だけでも撮りたいと、シュタインまで行ったり、ICEでエルランゲンに足を伸ばしたりしていたため、ギリギリになってしまいました。ヨコオさんとは松本さんが密に連絡を取り合ってくれていたので助かりました。

今回のカヴェコ社訪問とニュルンベルグペンショーでの買い付けが上手く行ったのはヨコオさんが3人の通訳をしてくれたおかげでした。

カヴェコ社の前に着いた時、前で待っているはずのヨコオさんが見当たりません。

松本さんが電話すると、すでに中で待っているという。

先に着いたヨコオさんに中に居ていいよと招き入れてくれたのが社長のマイク・ガットバーレットさんでした。お会いしたマイク社長はとても気さくな方でした。

カヴェコ社にいる間中私たちはマイク社長のホスピタリティの高さに感動して、自分もこうありたいと思いました。マイク社長から受けたホスピタリティのお返しをマイク社長にすることはできませんが、自分もマイク社長のように他の人に接したいと思うことで良い連鎖が生まれる。今まで多くの先輩方に教えられたことをマイク社長からも教えられました。

カヴェコ社では、発送待ちの商品が並ぶ倉庫、毎週水曜日オープンする特別な空間のカヴェコショップ、カヴェコの製品を企画したり、広報したりする人の部屋などカヴェコ社内を隅々まで見学させて下さいました。その中でも私たちが一番興味を持って長くいたのは資料室のような部屋です。

創業時から最新のものまで全てのモデルが保管されていて、それら1本ずつの資料も年ごとにファイリングされていました。

1883年創業(ウォーターマンと同じ)という141年のカヴェコの歴史の中では本当にたくさんのモデルが作られてきました。現代に発売されるカヴェコのペンはその資料の中にあるものを現代流に洗練させたものも多く、カヴェコ社が自社の歴史を大切にしていることが分かりました。それはドイツの街並みにも表れていて、古いものを無暗に壊したりせず、大切に保存して、それが現代に生きるように工夫しています。

ニュルンベルグの街は1945年大規模な空襲に遭い焦土と化したそうです。今私たちが目にするニュルンベルグの、昔から変わっていないように見える街並みは戦後忠実に復元された街の姿なのです。

それは新しいものを建てるよりもはるかに大変なことだと思います。しかし、ドイツの人たちはそれを選んでやり遂げた。カヴェコのペンにもそんな精神が宿っているのだとカヴェコ社を訪ねて思いました。 

カヴェコが最近立て続けに発売したペン 140周年記念の限定品エボナイトスポーツカヴェコエボナイトスポーツセット (p-n-m.net)、アートスポーツ(リンクはヒッコリーブラウン)https://www.p-n-m.net/?pid=179773336、ピストンアルスポーツカヴェコエボナイトスポーツセット (p-n-m.net) は特にそんな雰囲気のあるペンです。

当店も昨年からカヴェコを扱うようになりました。それが正しかったことを今回の訪問で確認できました。

→カヴェコ TOP

KBSドイツ紀行1

5/7(火)~15(水)に、ニュルンベルクを拠点にドイツ南部に行ってきました。

ル・ボナーの松本さん、590&Co.の谷本さんと当店との集まりを「神戸文具シンジケート(略してKBS)」と名付けた、仕事としての旅でした。

旅の目的は2つあって、1つはメーカー訪問をして、そのメーカーさんとの結びつきを強くするということ。もう1つは商品の仕入れでした。

メーカー訪問は今回カヴェコ本社を訪問して社長のマイク・ガットバレットさんにお会いしました。

ニュルンベルク本社の仕事の現場をマイク氏が自ら案内して下さって、カヴェコ創世期から現代に至るまでの様々なペンを拝見して、手に取らせていただきました。

とても楽しく勉強になった訪問で、お休みにも関わらず出勤して下さって、私たちを親しみのあふれた態度で迎えて下さったマイク氏に3人とも感謝しました。

カヴェコの訪問についてはまた次の機会に、改めて書かせていただこうと思っています。

円安とドイツ物価高の影響で、ドイツのものを輸入して日本で販売することがとても難しくなっています。

14年前にも同じKBSのメンバーでドイツに来て、ショップ、蚤の市で商品を仕入れて店で販売しました。あの時はお店で普通に買ったものが日本で販売することができましたが、今はとても難しい状況になっています。

もちろん今回もお店を何軒も回り、滞在中の時間の大半をそれに費やしましたが、悲しいくらい成果がありませんでした。

蚤の市も広大な会場を丁寧に見て回りましたが、ペンを出している人がほとんどおらず、こちらも成果ゼロの状態。

仕入れで助けられたのは、カヴェコのマイク社長のコレクションから譲っていただいたものと、ニュルンベルクペンショーで購入したものでした。

それらはまた何かの機会に販売したいと思っています。

今回ニュルンベルクに宿を取って、ニュルンベルク周辺の街、ミュンヘン、ヴュルツブルク、ハイデルベルグなどを訪れました。

14年というかなり長い期間をおいてから同じニュルンベルクを訪ねましたので、前回との様々な違いを見聞きして、時代の流れを感じました。

円安などの物価の違いの他には、今回たくさんのバスや電車を乗り継いで多くの街を訪れましたが、14年前は行く先々で見かけた日本人を殆ど見掛けなかったということもありました。前回は6月、今回はゴールデンウィーク明けという時期の違いはもちろんであったと思いますが、観光地であり、比較的大きな都市であるニュルンベルグやミュンヘンでも日本人を見掛けなかったことは、14年前との違いのひとつでした。

だからと言って人が少なかったわけではなく、土日祝日はもちろん、平日でも昼を過ぎると多くの人が街に出て来て、レストランのテラス席はどこも満員になっているように思いましたので、景気が悪いようにも見えませんでした。

しかし、ニュルンベルグやミュンヘンなどではホームレスの人を多く見かけましたので、より格差が大きくなっていることを表しているのかもしれません。

あっという間に過ぎた一週間で短すぎると思いましたが、仕事の一つのあり方として糸口が見えた気がしますので、有意義な旅だったことには間違いありません。

ドイツの街を見て感じたことを書きましたが、来週以降また詳しくご報告していこうと思います。

キャップレスを選ぶ

家に帰って夜机に向かうと、まず正方形のウィークリーダイアリーにその日1日の行動記録を書くことから始めます。

その日何をして、誰が来て何を依頼されたかを、細かい字で箇条書きにしておきます。それが後々役に立ったということが、今まで何度もありました。

お客様が万年筆を購入するという特別なことをされる店として当店を選んで下さったことを、その華々しい出来事を誰も見ていなかったとしても、私だけはその場に立ち会っている。お客様とその万年筆との出会いを立会人である私がこの手帳にちゃんと記録しておくことが、ささやかですがお客様のお気持ちに応えることだと思っています。

記録を書くためには、時刻と出来事、できればお客様のお名前もメモしておかなくてはいけません。お客様と話しながら、調整の合間に素早くメモできるように、ジョッターをいつも傍らに置いています。

そして筆記具も素早く書き始められるものが必要です。

急いでいる時はノック式のボールペンなど、すぐに書き出せるペンがあるとついつい手が伸びてしまいます。やはり万年筆のキャップを回して開けて書き出すというのは悠長な行為なのかもしれません。

万年筆を愛用する者として、それくらいの心の余裕がなくてどうすると思わなくもないし、そんなに急いでいるのなら万年筆を使わなければいいということになりますが、書ける文字の美しさや書き味などを考えると、忙しい仕事の時間でもやはり万年筆で書きたいと思います。

そしてそれを解消したのがパイロットキャップレスです。

キャップレスはある程度万年筆に知識のある人なら誰もが知っている万年筆で、その名の通り「キャップのない」ノック式の万年筆です。

キャップを開けるという動作をなくした画期的な万年筆で、最早万年筆の中のひとつの種類というよりも、「キャップレス」という種類の万年筆と言えるほど、独特で大きな存在です。

キャップレスを買いに来た人に他のペンはお勧めしにくいけれど、万年筆を買いに来た人にキャップレスをお勧めすると、喜ばれることもあります。

キャップレスにも様々な種類があって、その特長をご説明します。

最も携帯性に優れたキャップレスがキャップレスデシモです。他のものよりも軽く細めで、ポケットや手帳のペンホルダーにも差しやすい、携帯性に特化した作りになっています。

キャップレスでも万年筆らしい書き味を味わいたいという方には、キャップレス、キャップレスLS、キャップレスストライプ、キャップレス絣、キャップレス木軸など重量のあるものをお勧めします。

重量感があるので18金ペン先の柔らかさが感じられ、どっしりとした安定感があって、筆記バランスも優れています。

キャップレスの中でも、金トリムでブラックのモデルだけ<FM>(中細)の字幅が設定されていて、メモ書きにとても使いやすい太さです。

キャップレスLSは、キャップレスの機能性に上質さを加味したモデルです。

軸の握り心地の良さ、ゆっくりペン先を格納するアクション、さらにペン先を繰り出す際のノック音も無くして、今まで実用品に徹していたキャップレスがこのLSで優雅さも併せ持ちました。

かなりのバリエーションを持つようになったキャップレスシリーズ。

素早く書きたいという欲求から生まれたもので間違いはないと思いますが、そこに相手を待たせたくないという日本的な思いやりが込められている、日本らしさについて思わずにはいられない万年筆だと思います。

⇒パイロット キャップレス TOP

当店が目指すもの

横浜に出張販売に行ってきました。

横浜出張販売は「&in横浜2024」と銘打った、590&Co.さんとの共同出張販売でした。

590&Co.の谷本さんは今最も求められている木軸シャープペンシルを中心に品揃えして、多くのお客様を集めています。早い段階から木軸のシャープペンシルに注目されていましたので、時代が谷本さんに追いついたのだと思います。

中高生から大人までを夢中にさせる590&Co.さんに対して、当店はどういうものが求めらているということと関係なく、万年筆にこだわっています。それは万年筆のある生活を根付かせたいということと、書き味の良い万年筆を提供したいということを追究してきたからです。

たくさんのお客様が来てくださったら尚良いけれど、それよりもまず自分たちの理想とする店のあり方を示すということを目標にしています。

昨年その必要性を感じて、今回の横浜から森脇も調整機を持参し、調整士2人態勢で臨むことにしました。結論として、二人でやって良かったと思いました。

調整の予約枠は全て埋まってしまっていましたので、今までの1人態勢なら飛び込みのお客様に対応できませんでしたが、今回はそういうお客様にも対応できました。

ペン先調整をする万年筆店はそれほど多くないけれど、調整士が2人いるというのはもう当店しかないと思いますので、これは強みだと思いました。

当店の研ぎで名前が知られ始めて、ご注文が多くなったのは三角研ぎです。

1本のペンで太くも細くも書ける研ぎ方ですが、ヌルヌルと書ける太い所で書いても書く文字にエッジがあって、きれいな文字が書ける研ぎだと思っています。

純粋に使うのが楽しい万年筆なので、好奇心もあってご注文される方が多いのだと思います。

でも私は日常店で行っている通常のペン先調整、もともとのペンポイントの形を尊重して、より滑らかに書けるようにすることも得意としています。

これは研ぎというよりもペンポイントの形を整えるような感覚でやっていますので、それぞれのメーカーの書き味を残すという意味でこれが本来のペン先調整と言えるのかもしれません。

横浜出張販売の前夜、準備を終えて日ノ出町まで歩いて中華を食べに行きました。

ネット検索で調べたその店は、扉を開けることも躊躇われるくらい古い昭和風情の店でしたが、中に入ると仕事帰りのサラリーマンで賑わっていました。

対応も親切で、味は今まで食べたものが高すぎると思うくらい美味しかった。

食べ物屋さんは外観がきれいでカッコよくても味が不味かったらどうしようもない。まず美味いものを提供することが一番の、もしかしたら唯一の役割だと、当たり前のことを改めて思いました。

万年筆店もまず書き味の良いペンをお客様に提供するということが最も大切な役割で、それができていないと見掛け倒しになってしまう。

店の外観を疎かにしてもいいという意味ではなく、最も大切なことが抜けていてはダメだということです。

出張販売には万年筆以外に、様々なステーショナリーなどを持って行きますが、結局皆様から求めらていることは、書き味の良い万年筆やお持ちの万年筆を書きやすくするペン先調整なのだと、外に出るたびに思い知らされます。

万年筆の仕事をするようになった時から、ルーペで研ぎの形を見ることが好きでした。

メーカーそれぞれの研ぎの形は違うし、書きやすいと思うペンの研ぎは例外もあるけれど、多くの場合美しい形をしています。

自分の手で美しい形を作り出して、この道を追究して極めたいと思ってずっとやってきました。

店を始めた時よりも今の方が気付くこともあって、当然上手くはなっているけれど、調整の上達に終わりはないと思っています。

研ぎにこだわって書き味の良い万年筆を提供するということが、当店が目指している店のあり方で、それが面白いと思って下さる方がおられるなら、海外にも行ってみたいと思っています。

&in横浜2024 のご案内

4/13(土)14(日)、590&Co.さんとの共同出張販売 &in横浜を伊勢佐木町ギャラリーシミズで開催いたします。

今年で3回目となる&in横浜ですが、前回、前々回とも雨で、お客様方にはご不便をお掛けしてしまいました。今年こそ良い天気であってほしいと思っています。

590&Co.さんは開場前からある程度の時間まで入り口で整理券を配られますが、当店にお越しの方は整理券は取らずに、そのままご入場下さい。

今回お持ちする商品を少しご紹介します。

今回は万年筆をメインにお持ちする予定で、委託販売のペンも相当数お持ちします。

お客様からお持込みいただいている委託販売ですので、その品数にもかなり増減があります。今はかなりの数をお預かりしており、WEBサイトにご紹介できていないものも多数ありますので、横浜にお持ちしたいと思いました。

過去の限定品や、廃番になってしまったモデルなど、今では手に入らなくなってしまったものも多く、ご覧になるだけでも面白いと思います。

綴り屋さんは今回も頑張って下さっています。まだ入荷していませんが、下記のペンが横浜に間に合う予定で、私は最近ずっとそれに合わせるペン先の準備をしています。

昨年の590&Co.さんでのイベントでお披露目して人気があった、漆黒の森溜塗りテクスチャーシリーズ。溜塗の表情を出すために軸の中央部に細かい凹凸をたくさん作るというアイデアは、自由に、より良いものを作りたいと考えている綴り屋さんならではだと思いました。

すごい杢が出ている静謐ウォールナット根杢も、少数ですが作っていただきました。

静謐拭き漆、アーチザンコレクションブライヤーも既に店にあるアーチザンコレクションアンボイナバール、メイプルとともにお持ちします。

先日入荷してすぐ完売してしまった、バゲラさんの新作3本差しペンケースもお持ちできることになりました。

この出張販売に間に合うよう仕上げて下さったもので、バゲラさんらしいアヴァンギャルドで存在感のあるものになっています。革目のちょっとした割れ目にステッチを忍ばせた部分もあり、金継ぎのようだと思いました。

バゲラさんの正方形ダイアリーカバー、システム手帳、1本差しペンケースそして味のある形のレザートレイも3色揃えてお持ちします。

出張販売の時はいつも、作家さんたちの新作をお持ちするのに精一杯でした。そこで少し趣向を変えて、万年筆にテーマを持たせて品揃えしてみました。

今回は、パイロットキャップレスを螺鈿からデシモまでご用意して、当店の特長である「三角研ぎ」もラインナップしています。

キレのある文字が書けたり、立てて書くと細く、寝かせて書くと太く書けるので1本で線の太さを書き分けることができます。また面を合わせて書くとヌルヌルとした書き味になります。

様々な書き味、文字の太さが1本の万年筆でできるので、持ち運んで使うことの多いキャップレスと三角研ぎが相性が良いとよく言われ、人気があります。

筆記線の変化の幅の大きさ、書き味の良さから、Mから三角研ぎにしたペン先を用意していて、お好みの軸におつけする予定です。

ペン先調整のご予約の枠も全て埋まっていて、とても有難いことだと思っています。昨年も一昨年も、飛び込みでペン先調整をご希望される方も多くおられて、ご予約が全て埋まっていてその時はお断りせざるを得ませんでした。
ですが今年は森脇もペン先調整できるようにしておりますので、飛び込みのお客様のペン先調整もなるべく対応したいと思っています。

当店は万年筆店なので、出張販売でも万年筆を中心に品揃えさせたいと思っています。今回は万年筆の様々なものが用意できて、それが実現しそうです。

イベントの前はいつも、お客様が誰も来られなかったらどうしようと、プレッシャーを感じます。あれこれ準備を進めていますので、ぜひご来場下さい。

[&in横浜2024]

4/13(土)10時~18時 14(日)10時~15時

ギャラリーシミズ 横浜市中区長者町5-84三共横浜ビル1F

アウロラのメッセージ

文具業界に就職して32年になります。

若い頃、ローリングストーンズが結成25年で、四半世紀も続いている超ベテラングループと言われていましたが、その時のストーンズよりも長く同じ仕事を続けていることに驚きます。でも、その時店長だった方が今も現役で売り場に立っていると聞くと、私もまだまだだと思います。

就職した時は特に文具が好きだったわけでもなかったけれど、仕事をしているうちに文具が好きになって、32年経った今でも好きだと思えて、仕事にできていることは幸せなことだと思っています。

私が文具店に入った時、ちょうどモンブランヘミングウェイやセーラー80周年ブライヤーなど、後々人気が出る限定品が色々発売されていました。でも当時はまだ時代がついてきていなかったのか、あまり人気がありませんでした。

モンブランの限定品でさえ売れ残っていたので、他のメーカーの限定品も当然売れていませんでした。

ビスコンティ、デルタ、スティピュラなどイタリアの新興万年筆メーカーの様々なテーマの限定品が出回り始め、限定品ブームというものが始まりました。それがブームと言えるような大きな流れになったのは、ヘミングウェイ発売から5、6年後だったように思います。

ブームの始まりはもう少し前で、そういうものに敏感な方々だけが買いに来られていたといった感じでしたが、始まりというのはそういうものだと、何度か経験して思います。

当時はイタリアの限定万年筆ブームでしたが、その中でもアウロラはマイペースだったと思います。

新興メーカーは年に何本もの限定万年筆を発売していましたが、アウロラは5年ごとの周年万年筆か他のテーマの限定品をポツポツと出す程度でした。

それが私たち販売員にはもどかしく思えましたが、今から考えるとブームに流されずに堅実にやっていたということだと思います。

その時ブームを牽引していた他のメーカーたちが現在どうなっているかというと、ビスコンティは経営が創業者の手を離れ、デルタは廃業、スティピュラは長い沈黙をしたまま万年筆を発売していない状態です。そう考えると、アウロラのやり方は正しかったのだと思います。

32年間いろいろなものを見てきましたが、そういうことが自分の仕事の教訓になることが多く、そのおかげもあって今こうしているのだと思います。

仕事は今だけが良くてもダメで、長い年月継続してやっていくこと、立ち続けていないと意味がありません。

そのために時代を読むことも必要なのかもしれないけれど、自分たちが正しいと思うこと、自分たちが楽しいと思うことをやり続けるということをアウロラという会社の生き方から学んだと思っています。

若い頃、自分で買った2本目の万年筆はアウロラオプティマでした。

書き味よりも何よりもそのデザインが気に入っていました。

キャップを閉めた状態では短めで、ペリカンM400くらいの長さで小振りな方ですが、キャップを尻軸にはめると適度な長さになって、バランスも良い。

若い頃はオプティマをスーツの胸ポケットに差して、それだけで朝家を出るのが楽しかった。

色気のあるカーブを持つクリップと黒いキャップトップがちょこんと見えて、胸ポケットに差して絵になる万年筆だと思っていました。

オプティマはアウロラの人気のある定番品ですが、オプティマ365という限定品のシリーズもあって、そちらは18金ペン先になっていて差別化されています。

18金ペン先と14金ペン先のフィーリングの違いについて言うと、14金ペン先の方がかなり硬めになりますが、使っていくうちに柔らかくなって馴染んでくれます。

初めから柔らかくウットリする書き味を持った18金と、使い込んで柔らかくなるように育てる楽しみのある14金という違いがあります。

優劣ではなくただそういう違いということで、育てる楽しみのある14金ペン先も悪くないと思えます。

アウロラのほとんどの万年筆のペン芯がエボナイトでできています。

エボナイトのペン芯の特長は、長年使うとインクを吸収してペン先と馴染んでいき、書き味が良くなっていきますので、14金のペン先が育つのと似ています。

デメリットはひとつひとつ削り出して作らなければならず、大量生産に向かないということが挙げられます。

当店では、ペン先とペン芯の合わせ加減を調整して最適な書き味にしています。アウロラのエボナイトのペン芯で、ペン先とペン芯の調整でより深みのある書き味を作り出すことができるのは、調整の醍醐味だと思っています。

最初はただファッションでオプティマを使っていましたが、気がついたらペン先が育っていて、代え難いものになっていました。

そんな楽しみもアウロラにはあります。

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