毎日を丁寧に暮らすためのダイアリー

毎年、十日えびすの前後の水曜日に西宮えびす神社に行って、笹を買って帰ります。

西宮えびすと言えば境内を走って一番福を競う福男レースで全国的に有名ですが、自分たちも一年に一度は必ず歩く場所がテレビで繰り返し映るのは楽しいものです。

昨年はコロナ禍ということで訪れる人も少なかったように思いましたが、今年は夜店も参道いっぱいに出ていて、賑やかでした。

宗教も持たず信心深くもないのですが、毎年の恒例行事なので、もし行かなくて店が上手くいかなくなったら後悔すると思って、ジンクスのつもりで毎年行っています。

以前は近くの柳原えびすに行っていましたが、兵庫駅前のコンビニで店員さんにからんでいる人を注意したら、こちらがからまれて大騒ぎになった。一緒にいた妻がもう二度と柳原えびすには行きたくないと言うので、少し遠いけれど西宮えびすに行っています。

こういうささやかな休みの日の記録も、時間メモリをつけて箇条書きでM6手帳に書いています。仕事の日のことは、方眼罫の正方形ノートに縦線をいれて半分に区切り、1ページ2日にして記録しています。

こういう記録をつけるのは、休みの日も仕事の日も後で見返すことが意外に多く役に立つからですが、その時間一瞬一瞬を大切にしたいという想いがあります。

当店にダイアリーを買いに来て下さったお客様が「毎日を大切にしたいから手帳をちゃんと書くようにしたい」と言われていて、私たちの想いを代弁する言葉だと思いました。

当店のオリジナルダイアリーには、マンスリーダイアリーとウィークリーダイアリーがあります。

マンスリーは予定が確認しやすく、特に仕事においてとても使いやすいので、私も昨年はシステム手帳と併用しながら使っていました。

しかしダイアリーの中に仕事の夢やアイデアも書いておきたいと思うようになって、今年はウィークリーを使い始めました。

ウィークリーダイアリーにはマンスリーダイアリーのページもありますので、予定とToDoとともにアイデアも書けるようになりました。

近年システム手帳が人気があって、バイブルサイズとM5サイズを中心としたシステム手帳ユーザーが増えているのを実感していました。

でも今シーズンは、綴じのダイアリーも盛り返しているように思います。

当店の正方形のオリジナルダイアリーも昨年より売れていて、1冊の綴じ手帳をキッチリと使うことで、1年の記録としたいと思う人が増えたからかもしれません。

そう思うと、私の仕事でもオリジナルダイアリーで十分使えるし、バラバラにならないので、むしろ記録するには綴じ手帳の方がいいかもしれないと思うようになりました。

それにシステム手帳でさまざまな分類を試してみたけれど、私の場合時間の経過という絶対的な条件でページが分かれていく方が、何年後かにも探しやすいことが分かってきました。

オリジナルダイアリーは質感のある上質な紙の表紙ですが、手帳にビニールカバーを掛けると1年きれいなままで使い続けることができますし、軽く、薄くて荷物がかさ張らなくていいかもしれません。

革カバーに入れて使うのも、より愛着を持って使うことができていいものです。

ベルトとペンホルダーがついたミネルヴァリスシオ革のオリジナルダイアリーカバーはエージングするということで人気があるし、カンダミサコさんが作ってくれているカバーはよりタイトな作りで、また違った魅力があります。

エージングしない丈夫で手触りのいいシュランケンカーフに内張りを施し、コバを作らず、シュランケンカーフのしなやかさを生かした作りで、柔らかな印象のものに仕上がっています。

その1冊を見れば2023年の自分の行動を確認することができて、日々を愛着を持って丁寧に生きるために、この一年を記録する正方形ダイアリー、試していただきたいと思います。

⇒オリジナル正方形ダイアリーTOP

ペン先調整と研ぎ

明けましておめでとうございます。

いきなりですが、正直に告白すると、去年はいろいろなことで苦しんだ年で、いろいろ考える所がありました。

いろいろ考えた結果、結局当店には万年筆しかない、当店がチョイスした万年筆を当店なりに味付けして示していく他に道はないとい開き直りに似た結論に至りました。

当店なりの万年筆の味付けというのはペン先調整です。

各メーカーさんが緻密に設計して、細心の注意を払って生産している万年筆をより書き味が良いように、気持ち良く書けるようにすることがペン先調整です。

中にはペン先調整をしなくてもとても書き味が良いものがありますが、たいていの場合ペン先調整でより滑らかに書けるようになります。そして、調整の必要があるかないかを見極めて、必要のないものには何もしないのもペン先調整の目と経験に基づく技術だと思っています。

万年筆の書きやすさは人によって違うと言われることもありますが、ペン先の硬い柔らかい、インク出が多い少ないなどの好みの違いはあっても、滑らかに書けるペン先が嫌いな人はいません。

そういう万人が好む状態を当店としては標準的な状態だとしています。

販売する万年筆もペン先調整で持ち込まれる万年筆もそれぞれの万年筆の最も良い状態を目指して調整していますが、その状態にするにはそれぞれの万年筆の最高の状態がどういうものか知っている必要があります。

調整士は様々な万年筆を見て、それぞれのとても良い状態の万年筆を書いたり、ペンポイントをルーペで見て、多くの万年筆の良い状態の書き味を知っています。

それを知っているからペン先調整を任されたペンをどういう状態にするべきかという到達点が分かる。

私も職業柄、良い状態の万年筆を書かせていただいたり、ルーペでペンポイントを見せていただく機会に恵まれました。おかげで多くの万年筆の良い状態を知ることができ、感覚的にも理解することができました。これが私の調整士としての財産で、このおかげで今まで生きてこれたのだと思っています。もちろん私に万年筆を任せてくださったお客様がいるからこそです。

仕事の経験は時代が変わるとなかなか生かすことができず、むしろ邪魔になることが多いかもしれませんが、ペン先調整は経験が技術になっていく。だから調整士は齢をとっても続けていける生涯の仕事だと言えます。

ペン先調整とペンポイントを特殊な形状に形作る研ぎとは区別して考えています。

ペン先調整ではメーカーさんの作っているペンポイントの形状を尊重していますが、極端に細く書きたいとか、横線が細く縦線は太いスタブ形状にしたいとか、キレの味ある美しい文字が書きたい、という要望があった時には、メーカー純正のペンポイントの形状では実現できないことがありますので、特殊な研ぎを施すことになります。

最近ご要望が多いのが三角研ぎです。

極太や太字などかなり太いペンポイントから研ぎ出す方がその特長が出しやすいですが、細めでもできないわけではありません。筆記角度40度くらいの少し寝かし気味で書いた時にヌルヌルと気持ち良く書けるように筆記面作り、ペンポイントの先端に行くほど細く研ぎ出します。

寝かせて書くと太く、立てて書くと細く書ける状態にします。

そうすると日本語のトメハネハライが美しく表現しやすいペンポイントになり、書くことが楽しいペン先になります。

手帳には細く書いて、他のものには太く書くというような太さの使分けもできます。

セーラーの中字以上のペンポイントは近い形状をしていますが、それをより極端にはっきりさせたものがこの三角研ぎです。

インク出は多めよりも少なめにした方が線にキレが出るようです。

金ペン先の万年筆ならどの万年筆にもこの三角研ぎをしていますので、興味のある方はお申し付け下さい。お持ち込みの万年筆への三角研ぎの場合は10000円(税込)で、当店でお買い上げの万年筆であれば、無料でさせていただきます。

三角研ぎなどの特殊な研ぎはその結果を視覚的に見せることができますが、良い書き味というのは、目に見せることのできない感覚的なものです。それは味に似ているのかも知れず、だから書き味というのかもしれません。

それが当店でできる万年筆の味付けだと思っています。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

想いを綴る ファーバーカステルパーフェクトペンシル

今年最後のペン語りとなりました。今年も良いことも悪いこともありましたが、個人的にはあまり良い年ではなかったかもしれません。

春から夏にかけて出張販売にも行けたし、イベントにも出店したりして充実した忙しい時間を過ごせたけれど、10月に狂言師の安東伸元先生が逝ってしまわれたことが大きく影響しています。

生き方の師と仰いでいた人とのもう2度と会うことのできない別れに、心の支えを失って茫然としました。先生が亡くなって気付いたけれど、私は人生の別れの季節を迎えたのかもしれないと思っています。

それは齢の順で仕方のないことかもしれないけれど、これから大切な人との別れが何度もあるのだと思うとやはり悲しい。人は皆大切な人との別れを経験して、その悲しみを抱きながらも生きているのだと思うと、生きるということも辛いものだと思います。

それでも、毎日の仕事の中ではいくつもの出会いがあります。お一人お一人との出会いが有難く、大切で仕方ない。失ったことで本当に大切なものに気付けたことは少し情けないけれど、それが今の心境です。

毎日の出会いやこの店での時間が大切に思えて書き残しておきたいと思い、ダイアリーに毎日店で起こったことを書いています。

それでも、モノとの出会いはいくつもありました。特にパーフェクトペンシルとの出会いは毎日の淡々とした時間に楽しみをくれました。

20代で文具店に就職したばかりの時から、豪華な箱に入ってシルバーのホルダーのついた、ファーバーカステルの贅沢な鉛筆の存在は知っていました。

その時はまだ鉛筆削りはキャップに内蔵されておらず、シルバーの削りが別で付属していました。名称もパーフェクトペンシルではなかったと思います。

こんなに高い鉛筆を誰が買うのだろうと漠然と思ったのを憶えています。

でも今年の夏頃、趣味の文具箱の清水編集長がパーフェクトペンシルファンクラブを立ち上げたのを聞いて、ふと興味が湧いてきました。

色々見ているうちに、パーフェクトペンシルは持っているだけで嬉しくなるもので、誰かに語りたくなるものだと初めて認識しました。

それが分かると、文具に限らず自分はこういう存在のものをいつも追い求めていたと気付きました。

万年筆の定番品にもこういう存在のものはあって、モンブラン149、ペリカンM800、アウロラ88クラシック、ファーバーカステルクラシックなどが近い存在かもしれません。

そこで早速パーフェクトペンシルを手に入れて、原稿書きや手帳書きに使い始めました。

最初は鉛筆削りで削っていましたが、思いのほか早く短くなることに気付いて、近くの590&Co.さんで肥後守を買ってきて、チビチビと削るようになりました。

万年筆のインクを吸入したり、書道で墨を磨ることが気持ちを静めるのと同じで、鉛筆をナイフで削ると無心になれて、気持ちを落ち着けてくれます。

それに気のせいか、ナイフで削った方が鉛筆削りで削るよりも丸くなるのが遅い気がします。

原稿を書く時も、頭の中でほぼ内容が決まっていて、一気に書きたい時は万年筆で書きます。逆に考えながら少しずつ書き進める時は、パーフェクトペンシルで書いています。パーフェクトペンシルを使い始めて書くことがより一層楽しくなりました。

自分が書くものに思うことは、せっかく読んで下さった方が時間の無駄だったと思わないものにしたいということです。

動画全盛の時代にも関わらずブログを読んでいると言って下さる方も多く、心から感謝申し上げます。

私のブログを読んで下さる方はきっと、書くことが好きで、大切にされている方なんだろうと想像しています。

私も唯一自分を表現できる手段が書くことで、いまだにそれに飽きることがありません。私が楽しいと思ったことをこれからもお伝えしていきたいと思っています。

来年もよろしくお願いいたします。

*次回の店主のペン語りは、1月6日(金)更新です

⇒ファーバーカステル TOP

セーラー工場竣工記念万年筆 貝塚伊吹

前職で、セーラーの呉・天応工場には何度か行ったことがあります。

はじめは上司が同行して、何度目からか一人で行くようになりました。全部上司がお膳立てしてくれていたと思うと、会社でもいろんな人のお世話になっていたことに改めて思い当たります。

それは今も変わっていなくて、面倒をかけている人の数は増えたかもしれません。仕事というのは一人ではできない。特に私はそうなのかもしれません。

私にとっても天応工場は思い出のある場所でした。

戦後まもなくして建てられた三角屋根の木造の工場の中に、最新式と思えるきれいな機械が並んでいる棟もあって、そのアンバランスさが面白かった。

わりとオープンな雰囲気で、取引先の人の訪問を受け入れてきた天応工場に私と同じように思い出のある業界人は多いと思います。

近年、万年筆のお客様の層、売れる万年筆の種類、字幅、売れ筋のインクの色など、様々なことが変って、時代が変ったことを強く感じていますが、セーラー天応工場の建て替えもそれを象徴する出来事かもしれません。

そんな中で、天応工場の建て替えで伐採された敷地内にあった樹木を万年筆にするというのは粋な企画だと思いました。

生産本数が限定100本とかなり少なかった泰山木(タイサンボク)は入荷が少なく、店頭に並ぶことなくなくなってしまいましたが、生産本数500本の貝塚伊吹(カイヅカイブキ)はまだ在庫があります。

日本の木らしく模様が控えめな大人しい印象の木目の貝塚伊吹ですが、使い込むと色が濃くなって、すごみのある艶を出してくれそうな素材です。

セーラーの万年筆でよく使われる両切りタイプのプロフェッショナルギア型の工場竣工記念万年筆ですが、通常のものよりも尻軸が長めになっていることが特長的です。

これはキャップの尻軸への入りを深くして、キャップを尻軸に差した時に全長を適度に短くすることで、重心を中心に寄せる効果があります。

中心に重心のある万年筆は力を入れずに持つことができてコントロールしやすく、長時間の筆記でも疲れにくい。

ペン先の刻印も定番のものと変えています。旧型のプロフィットのフレーム型の刻印を復活させて、セーラーの歴史を感じさせるものになっています。

この効果を狙ったのかどうか分かりませんが、ペン先の刻印は少ない方がペン先は柔らかくなります。今回の限定品工場竣工記念万年筆のペン先の刻印は定番のものよりもシンプルなものになっていて、書き味は柔らかく感じられます。

キラキラした記念の万年筆らしい華やかな装備を凝らしたものではなく、こういった実用的なことも考慮して作られているどちらかと言うと渋い、使うための万年筆を工場竣工記念万年筆として出してくれるところはとてもセーラーらしいと思いました。

天応工場で日本の万年筆の歴史が作り続けられてきたのをこの貝塚伊吹の木は見てきたのだろうと思うと、この万年筆がとても貴重なものに思えます。

⇒セーラー 広島工場竣工記念万年筆 カイヅカイブキ

オーダーの名店「BAGERA」のペンケース

神戸市灘区のオーダー革鞄、革小物の工房バゲラさんのペンケースとレザートレーを扱い始めました。

バゲラの高田さんご夫妻とはもともと顔見知りで、ずっと交流がありました。

15年前、この店を始めたばかりの時にル・ボナーの松本さんに鳥鍋に誘われて行ったことがあったのですが、その時初めてお会いしたのがバゲラの高田和成さんでした。

バゲラさんとの出会いも松本さんがきっかけで、私は松本さんからどれだけ恩恵を受けているのだろうと改めて思います。

バゲラさんとはその後も当店では承れないご要望のお客様をご案内したりして、頻繁ではないけれどやり取りは続いていました。

今年の夏のある日、三宮駅前の百貨店の婦人靴売場で、妻が化粧直しに行ったのでブラブラしていると、女性革職人さんが実演販売をしているのに気付きました。

雰囲気のある職人さんと作品だと思って見ていたら、それはバゲラの高田奈央子さんでした。

オーダーを中心に20年ほどやってこられたバゲラさんですが、ついに自社の世界観を表現した既製品の制作を始められたそうで、その中にペンケースやペントレーなどのステーショナリーもありました。

その濃厚な世界観を持った他にはない雰囲気に、一目惚れしました。

バゲラさんの方でもその百貨店のイベントが終わったら当店に声を掛けようと思っておられたそうで、言葉通り2、3週間後打ち合わせに来て下さり、ペンケースをご提案していただきました。

表のフラップはクロコ、ベルト部はオーストリッチ、胴体部分の表と背面はパティーヌ加工したゴート、側面は黒桟革、内側はブッテーロ。

特にゴートは、アンティークな雰囲気を出すためにパティーヌ加工を施すというこだわりで、その革自体も何年も前に限定的に発売された革を、少しずつ大切に使われているそうです。

革それぞれの質感を生かして配置し、全て手縫いで仕上げる。

手縫いも様々な技法が駆使されていて、直角に接する表と側面の革はこま合わせという技法で縫われていて、ジグザグに走るステッチがアクセントになっています。

フラップの背面はシングルステッチで固定されていて、これも良い味を出しています。マニアックなくらい様々な革、様々な技術が凝らされていて、それらがデザインにも生きています。

奇抜にも見える、数種類の革を組み合わせたデザインですが、造りはキッチリしていて甘いところがありません。職人の仕事と作家の表現が両立している、世界観のあるペンケースだと思いました。

ペンを何本も持ち歩くのもいいけれど、大切なペンケースにこれだと決めたペンを1本だけ持って出掛ける。そんな風にペンの扱い方も変えてくれるペンケースです。

もうひとつ、ペントレーもご紹介いたします。

厚い1枚革に土台となる部分をつけたシンプルな構造のトレーは、スムースな革ワルピエ社のエトルスコを揉んで、シボやしわを出してから使っています。そうすることで革の生命力のようなものが起き上がってくると高田和成さんは言われます。

革をきれいなまま使うのではなく、手を加えて馴染ませてから使うのは面白いと思いました。とてもシンプルなトレーですが、机上の雰囲気がこれひとつで贅沢な空間に変わると思います。

15年も前に知り合っていたにも関わらず、今静かに始まったバゲラさんとの仕事。

お互いこの15年の間にいろんなことがあって、今それぞれの店のタイミングが合って動き出したという、不思議な縁のようなものを感じています。

⇒BAGERA(バゲラ)ペンケースL・雲

⇒BAGERA(バゲラ)ペンケースL・夜

⇒BAGERA(バゲラ)レザーペントレイ・黒

⇒BAGERA(バゲラ)レザーペントレイ・茶

B A G E R Aについて(リーフレットより)*

2002年創業。以来一貫してフルオーダーメイドの革製品を制作する神戸の小さなアトリエ。服と靴以外の革製品全般を取り扱います。

「圧倒的に特別なもの」をコンセプトに、個々のカスタマーへの丁寧なヒアリングを元にスケッチや模型で提案。その一点のみをはじめから終わりまで一人が担当し制作します。現在小物で平均半年程度、鞄で1〜2年の納期を頂いています。

こだわりの既製品を2023より始動。

高田 和成

高田 奈央子

共に芸大で建築を学び、その後職人の道へ。

建築から得た構造の大切さを追求する和成と、感性的なモノ作りを得意とする奈央子によってB A G E R Aは作られています。

場所への愛着

店は営業していますが、私は11/28(月)~12/2(金)の間、休みを取って鎌倉へ旅行する予定です。例年通りの遅めの夏休みですが、夏は暑すぎて外に出る気になれず、やっと外を歩くのにいい季節になりました。

鎌倉のどこかに目的があったわけではなかったけれど、鎌倉の町中を歩いてみたいと思いました。

観光名所に行くわけでもなく、ただ他所の町を歩いてお店があれば入ってみるというのが私の旅のやり方で、文房具屋さんを見つけたら必ず立ち寄っています。

行き先が決まったら、その町にまつわる本を読みます。今は以前読んだ「ツバキ文具店」を読み返して、落ち着いた鎌倉での暮らしに思いを馳せています。

ツバキ文具店の主人公、鳩子さんの日常にも憧れますが、自分の、元町での当店の日常にも愛着を持っています。

いつも何軒かの決まったお店に晩御飯を食べに行くので、すっかり顔見知りになっているお店、のんびりした街の雰囲気。営業前によく近所を歩きますが、それは健康維持のためだけではありません。愛着を持って暮らせる街に居られることは幸せで、恵まれたことだと思います。私はおめでたい性格なので、きっとどこに住んでも愛着を持って生きているのだと思うけれど。

地名がついた万年筆が好きです。それはきっと地元の山陽バスの行き先表示を見ても楽しめるほど地名萌えする性質だからなのかもしれないけれど、できれば自分に関連のある地名を冠したモノがあれば手に入れたいと思うし、地名のついた万年筆を手に入れたらその場所について知りたいと思います。

アウロラの「神秘の旅」という限定万年筆のシリーズがあって、先日第2弾のボルテッラが発売されました。

ボルテッラの街は、緩やかな丘陵と渓谷が連なるトスカーナ地方の一際高い崖の上にある城塞都市で、中世の面影を今も残しています。アラバスター(雪花石膏)の産地で、アラバスターを使った彫刻など芸術作品に溢れた街としても有名です。

ボルテッラの万年筆も、そんな街の中世から歴史を刻んできたイメージ、アラバスターの質感のイメージを軸色に表現したクラシカルな仕上がりになっています。

落ちついた感じのする乳白色の軸に、ローズゴールドフィニッシュされた金属パーツが上品で、3000年近くもの歴史があるボルテッラという街そのものだと思います。ボルテッラに行ったことのある人にはぜひ手に入れていただきたいし、この万年筆でボルテッラを知った人は、この街の歴史などについて調べるとより愛着を持ってこの万年筆を使えると思います。

手に入れた万年筆に地名が付いていたら、その土地や周辺の場所に興味の対象が広がるだろうし、毎日がより楽しくなります。

万年筆は書くためだけのものではないと常々思っています。

⇒アウロラ 限定品万年筆 Viaggio Segreto(ヴィアッジオセグレート) Volterra(ヴォルテッラ)

*次回の店主のペン語りは、12月9日(金)更新です

美しい文字を書くための三角研ぎ

先週末に、神戸ペンショーが行われました。

今年10回目となる神戸ペンショーは、毎年少しずつ規模が大きくなって、毎年1000人もの来場者数を記録するようになっています。

これも運営の方々の努力によるものだと思います。運営の方々はボランティアで神戸ペンショーの計画から実行まで、事故が起こらないように努力してくれています。だから私たちはお客様の応対、販売活動に専念することができて、お客様もペンショーを楽しむことができる。このペンショーに参加できていることをありがたく思っています。

規模が大きくなって注目されるようになった神戸ペンショーを運営することは、想定外の苦労や難しい問題もあると思いますが、頭の下がる想いです。本当にお疲れ様でした。

ペンショーのようにたくさんのお店が集まるイベントでは、当店らしさということについていつも考えることになります。

ペンショーのお客様の傾向を見て、そこに合わせた品揃えにしようとしていたけれど、それは本来当店が目指している姿とは少し違うと最近思い始めました。一度原点に戻る必要を感じています。

当店はペン先調整をして万年筆を販売する店で、お客様にもそれを望まれていると思うし、そうあるべきだと思いますので、今後は今までより打ち出して行きたいと思います。

最近時間があれば、辞書から気になった言葉をM6手帳に書き出して、その意味を書いています。

言葉は太めに、意味は小さめに。日本語らしく縦書きで書きます。

なぜそんなことを始めたかというと、言葉をもっと知りたいと思ったのと、知らない言葉の中に座右の銘を見つけられたら、面白いと思いました。

狂言師安東伸元先生が、会津弥一の書から「獨往(どくおう)」という言葉を私に教えてくれました。誰も行かない道を草をかき分けながらゆっくり進む印象がこの言葉にはあり、自分の目指す姿だと思いました。座右の銘にしていますが、他にもこのような座右の銘にできる言葉を見つけたい。

どうせ書くならできるだけ美しくトメハネハライを利かせて、筆文字のように書きたい。

そういう文字を書くのに、キレのある文字が書ける三角研ぎが合っているのではないかと思います。

私が三角研ぎと言っているものはものは、他の調整士さんがやっているものと少し違うかもしれません。

最初は教科書通りの形で始めたけれど、お客様の要望を聞いてやっているうちに少しずつ変わっていき仕上がった形です。この研ぎで美しい日本字が書きやすく、書き味もヌルヌルと気持ちよく書くことができます。

立てて書くと細字くらいにはなりますので、文字の太さを変えて使うこともできます。

小さなペンポイントの僅かな研ぎの違いで、文字がこんなに変わるのは不思議な気がしますが、例えばペン先にたてよこ差があまりないアウロラに三角研ぎをしてみると、キレのある文字が書けるようになります。

完売してしまいましたが、タレンタムデダーロには、セーラー長刀研ぎのような研ぎを施したカーシブニブというものがありました。そのカーシブニブより細い線も書けるイメージです。

三角研ぎはもともとの字幅が太いものから研ぎ出した方が細い線と太い線の差が出てこの研ぎらしさがでますので、太めのものをベースに作ります。そこで、まずはタレンタムデダーロに三角研ぎを施したものを作ってみました。

1本研ぎあげるのに結構時間がかかるのでたくさんは作れないけれど、常に何かの三角研ぎなど、特別な調整を施した万年筆が店にあるようにしたいと思っています。

日本に万年筆が入って来て、多くの人が使うようになった戦前から、万年筆の調整士たちは様々な研ぎを生み出しました。

私たちがやっていることも100年ほどの日本の万年筆の歴史の中で行われてきたことの繰り返しだけど、今求められていることなのだと思います。

⇒限定品 タレンタム デダーロブルー 三角研ぎ

サドルプルアップの革製品

11月12日(土)13日(日)に神戸ペンショーが開催されます。

このペンショーは当店にとって一年最後のイベントで、出張販売の締めくくりになっています。当店の徒歩圏内でペンショーが開催されて、出店できるということは、とてもありがたいことだと思っています。

当店も神戸ペンショーを盛り上げる役に立ちたいと思っています。

ペンショーなどイベントにはどの店も限定品のようなネタを用意して来られて、それも楽しみの一つになっています。

イベントに合わせて新商品を作るのは難しいけれど、今回意識して作っていただいたのが、1本差しのレザーケースMサドルプルアップレザーです。

個人的に、タフなもの、丈夫で厚みのある革が好きで、もともと馬の鞍に使われるサドルプルアップレザーは、とても好きな革です。

当店ではサドルプルアップレザーの代表的なタンナー、ベルギーのマシュア社のものを使用しています。少し前にはル・ボナーさんにもサドルプルアップレザーでデブペンケースを作ってもらいましたし、オリジナル商品を作って下さっている職人さんにも、M6システム手帳やメモジョッターなどを作ってもらいました。

ギラギラした光沢と、しっとりとした手触りが魅力の濃厚な質感の革です。1枚仕立てのこのレザーケースにも張りのあるサドルプルアップはよく合っていると思っていて、良いものができたと思っています。

サドルプルアップは男性が好むものだと思っていましたので、最初革を決める時少し勇気が要りました。でも作ってみると、革好きの女性のお客様にも好まれるということが分かりました。

最近サドルプルアップレザーのもので使っていてこれはすごく良いものだと思っているのは、文庫本カバーです。

2センチ程の厚手の文庫本のためのカバーを作ろうと思い、両サイド固定式の専用カバーを作りましたが、革にハリがあるせいか薄めの文庫本を入れても収まりよく使えることが分かりました。

電車の中で本を読む人は少数派だけどおられます。

大切に思っている本を読むことをより楽しくするために、サドルプルアップレザーを使ってみていただきたいと思います。

私が今思っているのはこの文庫本カバーを手帳カバーにできないかということで、サイズの合うノートを探したいと思っています。

最近ズボンのベルトを買いました。服で隠れる部分なのでどうしても後回しになっていたし、不本意なものしか持っていませんでした。そこで思い切ってセレクトショップで見かけた気に入ったベルトを買うことにしました。

私の感覚からするとかなり高価なものでしたが、着けるのが嬉しくて、何か毎日が楽しい。買ってよかったと思いました。

 当店が企画・販売するものはどれも、繰り返しの日常を楽しくしてくれるものになって欲しい。サドルプルアップの革製品を使うことで、皆様の毎日がより楽しいものになってくれたらと思います。

⇒オリジナル レザーケースM・サドルプルアップ

新しく取り入れた風~2種類の正方形ノートカバー

手帳が好きで、いろんなサイズのものを使っています。毎日持ち歩いている鞄は、何冊もの手帳のおかげでかなり重くなっています。

10月に入ってかなり楽になりましたが、真夏は直射日光の下、第2神明を越える高丸大橋を渡ってバス停まで行くのが辛かった。

荷物を軽くしたいということもありますが、やはり仕事用の手帳はなるべく1冊にまとめた方がいいのではないかと思い始めています。

システム手帳も趣味や用途に分けて使えばいいのだろうけれど、あくまでもメインの綴じ手帳があっての話なのかもしれません。

また原点に立ち戻って、正方形のダイアリーの活用について考えていきたいと思っています。

いつも何か刺激を受けるので、休みの日には乙仲通りをぶらぶらと歩いて、目についたお店に入ります。お店の入れ替わりも激しいけれど古くからのお店もあって、新旧のお店が入り混じるエネルギーを感じる場所です。

創業して15年が経ち、当店に新しい風を取り入れたいと思った時、自然に足は乙仲通りに向いていました。

オリジナル正方形ダイアリーをもっと多くの人に使ってもらいたいと思って、正方形ダイアリー用のカバーを製作してくれるところを探していました。

当店から真っ直ぐ南におりた、乙仲通りにある帆布バックのお店clueto(クルート)さんに布製カバーをお願いしました。cluetoさんは女性向けのバッグを作られているお店で、ずっと以前から知っていました。

全くの畑違いの当店からの依頼に最初は驚かれていましたが、何度かお邪魔して試作をしていただくうちに形が仕上がっていきました。

cluetoさんのカジュアルなカバーは、今まで当店になかったテイストのもので、女性のお客様に使っていただけるものだと思っています。

色展開も6色あり、初回は受注製作となります。神戸ペンショーの終了する11/13(日)までの受注で年内のお渡しが可能です。

そしてもうひとつは、昨年から当店のオリジナルシステム手帳やジョッターを作ってくれている職人さんの革カバーです。

ミネルヴァリスシオという革を使ったベルト付きの本格的なカバーで、彼らしい端正なものができました。

ペンホルダーには、薄いマンスリーダイアリーを入れるならペリカンM800などのレギュラーサイズの万年筆も入り、厚いウィークリーダイアリーを入れるならファーバーカステルクラシックくらいの細めのペンが入ります。

しっかりした万年筆で手帳を書きたい人、革好きの方にも気に入ってもらえると思います。

ミネルヴァリスシオは今流行している革プエブロのベースとなっている革で、この革の表面を擦ってマットな質感にしたものがプエブロです。

ミネルヴァリスシオは滑らかな表面で、プエブロのような劇的な変化をして艶が出てきます。

私もそれなりに齢をとったけれど、15年経つといろんなものが形骸化してきます。ネットではなく足で探した実はすごく身近にいた方々の力を借りて、少しずつ姿を変えて立ち続けたいと思っています。

⇒clueto(クルート)正方形ノートカバー(受注製作予約受付中)

⇒正方形ノートカバー ミネルヴァリスシオ・オルテンシア

⇒正方形ノートカバー ミネルヴァリスシオ・ナポリ

正方形ノートカバー ミネルヴァリスシオ・コニャック

小さなリングノート

ペンショーや出張販売、週末はお客様がおられるので、店にとってはもっとも華やかな時間です。でもそれ以外の時間は準備や蓄積の時間で、店の仕事は地味な仕事の積み重ねで成り立っています。どんな仕事よりも大切な仕事は掃除と片付けだし、年に数回の棚卸しも店を管理する上でやらなくてはならない地味な大仕事です。

店の在庫をチェックして、ネットショップとの誤差をチェックしたりということも日常的にしないといけません。そういった仕事の上に万年筆のペン先調整や販売活動が成り立っています。

毎日の地味な仕事の時に決まって書き込む小さなメモ帳があればとても便利で、役に立つと思います。

ダイアリーやシステム手帳のような立派なものはこの場合使いにくく、気にせずに何でも書き込んでおけるものがいい。そしてそうやって書き込んだものは後で見返して役に立つことがあるので、残しておけるノート形式のものがいい。

リングノートだと折り返して開きっぱなしにして作業することができるので、こういった用途にはより向いていると思います。

そんな小さなリングノートはいくらでもあるけれど、少し良いものを使いたい。

Kデザインワークスの革表紙ノートは、A5とA6サイズのリングノートで、表紙の素材が柔らかい革でできています。使い切ったら表紙はそのままで中身を入れ替えてくれるサービスもあります。

本当に日常的によく使うものなので、贅沢な感じもするけれどこれくらいこだわってもいいのではないかと思います。

書いた後、切り離せるメモ帳も時には便利です。

切り離したメモを手帳に挟んでおいて後で転記したり、人に伝言を渡したりする。こういうメモは間違いのないようにするためのものだからケチってはいけない。どんどん使って、どんどん切り離したい。

当店が以前から作り続けている、革表紙のメモというものがあります。

土台にはとても厚くて硬いサマーオイル革を、表紙には柔らかくてめくりやすいミネルヴァボックスの革を使用しています。適材適所の革を使ったメモ帳です。

革表紙のメモの紙は試筆紙と同じものを使っているので、実は万年筆でも使いやすい。

ミネルヴァボックスはエージングする革で、使い込むと劇的に艶が出ます。

革を切りっ放しただけの縫製のないシンプルなメモは、カンダミサコさんが作ってくれています。鞄職人で、10本用ペンケース「モルトペンネ」も作られているカンダミサコさんがこのメモ帳の革を切ってコバを磨いてくれていると思うと、もったいないような気もします。

先日この革表紙のメモがお客様との筆談でとても役に立ちました。革製の上質な感じが丁寧な気がしました。手話ができたらもっと良かったのだけど、筆談も楽しかった。

ダイアリーとかシステム手帳などは華やかな存在だけど、一番よく使うのは筆記具を気にせずに書けるこういうメモ帳なのかもしれません。

日常的に使うものに少し良いものをご提案したいと思います。

⇒Pen and message.革表紙のメモ

⇒MUCU革表紙リングノートSサイズ

⇒MUCU革表紙リングノートLサイズ