綴り屋販売会 8/24(土)25(日)

先日中国に行ってきました。この度新たに製作していただいた当店オリジナルペン先と、今後発売予定のオリジナル万年筆がどんなところで作られているのか、上海の万年筆工場を視察するためでした。

上海の浦東空港まで代表のスーさんと工場長のシャーさん、通訳のTさんが迎えに来てくれました。

帰ってきて思うのは、単なる視察で終わらず、短期留学と言ってもいいような学び、気付きも得られたということでした。

仕事のことなど遠慮せずに何でも言ってくれるスーさんとシャーさんとの親交も温めることができました。

飾らない彼らの中国での日常にも触れることができましたし、心を込めてもてなしてくれながらもお客様扱いしすぎずに対応してくれ、居心地の良さを感じました。

代官山の出張販売から、綴り屋さんの漆黒の森と静謐万年筆には当店のオリジナルペン先を付けるようになりました。

世界の人たちがターゲットだと考えた時、やはり日本的なモチーフ、それも格調高い、良い軸に見合ったものが必要でした。万年筆という精神的な支柱にもなるものに相応しいペン先にしたいと思いました。

当店のオリジナルペン先の図案鳳凰はそんな想いを込めてデザインしたもので、良いものができたと思っています。

当店はやっと自分たちのものだと言える、自分たちの調整を象徴できるペン先を手に入れることができました。

エボナイトペン芯を装着したしっかりした書き味の14金のペン先は、初期状態で長刀研ぎに近い形状に研ぎ出されていて、漢字の国のペン先の研ぎになっています。私はこの研ぎの形状からアジアらしさを感じて、同じアジア人として嬉しくなりました。

研ぎの形状は当店でいくらでも変えることができますので、パイロット風に丸く研いだり、ヨーロッパ風に四角く研ぎ出すこともできます。

綴り屋さんの軸に当店オリジナルペン先をつけた姿は、別々の場所で作られたものとは思えないほど調和しています。

モノ作りにすでに国境はなくなっていて、多くのメーカーが他産地で作られたパーツを組み合わせて万年筆を作っています。それが現代のモノ作りのあり方で、中国はそれを黒子になって支えている。

当店のような後発の店にとって難しい日本でのモノ作りですが、若い人がこだわりなく付き合ってくれる海外の会社の存在はとても有り難い。

気が付いたら当店にも世界のモノ作りその流れが来ていました。今までできなかったことができるようになって、明るい気持ちで取り組んでいます。

綴り屋さんの作品販売会を8/24(土)、25(日)に590&Co.さん店内で開催します。

万年筆をお買い上げの場合、ペン先装着、調整は歩いて3分の当店内で承ります。

10時~15時は予約制ですが、15時以降はフリータイムとなりますので、ぜひこのタイミングで実物をご覧下さい。

↓590&Co.さんでご来場のご予約も承っています。ぜひご来場よろしくお願い致します。⇒予約サイト(590&Co.)

*オリジナルペン先を装着した受注生産万年筆朧月の受注締切は8/25(日)までになります。そちらもよろしくお願いいたします。

綴り屋漆黒の森 溜塗テクスチャーPen and message.オリジナル仕様

何かを始めたいと思った時、アイデアは自分の頭の中や、お客様や仲間たちとの会話の中にあることがほとんどでした。ネットの中で探さなかったから、他所のお店と違うことをすることができたのかも知れません。

自分と向き合うことと、人と話すことはアイデアの源泉だと思っています。

そしてそれが実現するには、それを作って下さる方との縁がないと形にはなりません。

今までオリジナル万年筆は縁があった時にいくつか作らせていただきましたが、いずれも海外のメーカーでした。

その方が他のお店が取り組んでいないことができると思ったし、何よりも縁があったからでした。

日本のメーカーさんとはそういう縁ができなかったけれど、良いものがたくさんあることは知っています。そんな定番品の中で、良いものなのにあまり脚光を浴びていない万年筆を当店なりのやり方でご紹介する、ということを続けていました。多くの方に共感していただけるのも喜びだったので、それでもいいと思っていました。

綴り屋さんに対しても、鈴木さんのセンスによるモノ作りが好きだったので、綴り屋さんのモノをそのまま販売していましたが、扱っていくうちにその関係は次のステップに進んでいきました。

今まで綴り屋さんの万年筆には、当店でパイロットのペン先をつけていました。それは当時できる最良の選択だと思っていますが、当店の「オリジナル」ではありませんでした。

当店の万年筆であると表現できるオリジナルペン先を開発しなければ、綴り屋さんの軸と釣り合わないのではないかと思い始めました。

次々と新しいアイデアで作り出される綴り屋さんの万年筆を販売する店として、相応しい仕事がしたい。それがペン先調整を看板に掲げる店らしく、オリジナルペン先を持つ、ということでした。

縁あって、中国の工場の若い代表と出会うことができて、様々な話をしました。もともとは国営企業で働くエリートでしたが、20歳から集め出した万年筆を仕事にしたいと思い、今の仕事を始めました。収入は減ったけれど、好きなことを仕事にすることができて充実していると言っていました。仕事に対する考え方や万年筆作り、仕事の仕方についても共感する部分が多くありました。

中国と言うと私たち日本人の昭和世代には粗悪なものを大量に作るイメージがあるけれど、それも古い話だと分かりました。

中国の人も生活が良くなるにつれて良いものを知って、自分たちが本当に欲しいと思えるものを作らなければいけない、という意識が若い人の間では普通になっています。

最初は私も昭和世代の偏見を持っていましたが、彼と話しているうちに、そしてその工場も某有名イタリアメーカーの下請けで万年筆を作っていることなど色々な実績もお聞きして、この会社であればお任せできると思いました。

中国とのビデオ会議ではそれぞれが次々と意見を出し合って、すごいスピードで物事が決まって行きました。最初は少し驚きましたが、すぐにそのスピードが心地よくなりました。それが彼らのやり方で、全てを話し合い、意見を出し合って、次々と物事が決まっていきます。

実際にペン先を作る時は、実際の現場の方とペンポイントの選択から全て、細かく話し合って作り上げることができました。

ペン先作りのごく初期の段階から関わることができた経験は大きく、これでこそ当店のオリジナルペン先と言えると思いました。出来上がった時は喜びも愛着も今までで一番大きかった。

今回の当店オリジナルペン先お披露目のために、綴り屋さんが当店オリジナル仕様の漆黒の森溜塗テクスチャーモデルを作ってくださいました。

溜塗の表情が出るテクスチャー部分を天冠部分だけにとどめ、よりシンプルにしたものですが、これも鈴木さんとのやり取りで決まりました。

また山吹色の下地に潤み色の表塗りのものは当店オリジナル色で、継続して作りたいと思っています。

ペン先作りにも、軸の仕様にも関わることができたオリジナル万年筆。ペン先調整の店として次の段階に進んだことと、綴り屋さんとの繋がりも表現することができたと思っています。

*来週は出張で不在のため、次回の更新は23日(金)となります

⇒綴り屋 漆黒の森溜塗テクスチャーPen and message.仕様 山吹×潤み色(オリジナル色) オリジナルペン先

ペンレスト兼用万年筆ケース~当店の万年筆のあり方を表現したペンケース~

店を始めたばかりの頃、早く年数が経って創業10年、20年と言いたいと思っていました。

それが何か力になると信じていたのですが、当店は今年の9月で17周年になりますが、必死にもがき続けている状態は変わらず、年数を重ねても変わらないようです。

そんな風に思いながらも、自分たちで作り出したことや最初に始めたことにこだわって、世間の売れ筋の商品を追いかけないようにしようと思ってきました。

自分たちが望んだことではあるけれど、こんな考え方だから当店はいつまで経っても同じ規模のまま、同じ場所にあり続けているのだと思います。

いつも何かを生み出さないといけないという強迫観念はいつも持っていましたが、そうする方が楽しいに決まっている。

私たちが早く年数が経って欲しいと思っていた頃、オリジナル商品として、ペンレスト兼用万年筆ケースという3本差しのペンケースを作りました。

それから10年以上経っても変わらずに作り続けている理由は、万年筆が日常のものであって欲しい、という当店の万年筆に対する考え方を表現した存在だからでした。

持ち運び時はフラップをペンに被せるようにして落下を防止して、机上で使う時はフラップをペンの後ろにしておけばペンケースは開いたままになり、ペンを選んですぐに取り出せる状態になります。

平らなペンケースなので、その上にペンを置くことができ、ペンレストとしても使うことができます。

いかにも万年筆を収めているといったペンケースも良いけれど、なるべくさりげなく肩の力が抜けたものを作りたいと思いました。

このペンレスト兼用万年筆ケースに、新たにエレファント革と4本差しを作りました。

エレファントは新品の時、フカフカした軽い毛羽立ちのある革ですが、使い込んでいくうちに毛羽立ちが倒れてシボが潰れていき、これがとても良い風合いに変化していきます。

今年はエレファントの革に縁があって、ル・ボナーさんにはデブペンケースを作っていただきましたし、A7メモカバーもエレファントで再入荷する予定です。

このペンケースの中にペンを入れて膨らんだ状態のエレファントはなかなか迫力があり、その姿もこのペンケースの持ち味です。

4本差しは、このペンケースのサイズをそのままに、仕切りの数を増やして4本収納できるようにしました。

この4本差しにファーバーカステルクラシックの万年筆とボールペン、ペンシルそしてパーフェクトペンシルを入れることも可能です。

3本差しは、モンブラン149などのオーバーサイズのペンが入るようにしていました。

4本差しに入るのは当然細めのペンになりますが、ボールペンや万年筆でもここに入るものの方が多く、充分なスペースではないかと思いました。

このペンケースを使いやすいと思ってくれる方は多いと思います。

万年筆を日常の道具として使われる方の実情を見て、それに合うものとして当店が作り続けているペンケース、ペンレスト兼用万年筆ケースをご紹介しました。

⇒Pen and message. ペンケース3本以上収納 ページへ

⇒Pen and message. オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース・3本差し エレファント

⇒Pen and message. オリジナルペンレスト兼用万年筆ケース・4本差し エレファント ダークブラウン

綴り屋・Pen and message.オリジナル仕様「朧月(おぼろづき)」受注開始しました

綴り屋の鈴木さんとは毎日と言っていいくらい頻繁にやり取りがあって、いいコミュニケーションがとれていると思います。鈴木さんは何かあったらすぐに連絡をくれるし、私からも何か思いついたら連絡していて、意見を言い合っています。

綴り屋さんが作るペンが好きで、それを販売することに喜びを持って取り組んで来ました。

昨年末に590&Co.さんの店舗で共同開催した綴り屋さんのイベント時には、590&Co.さんとのオリジナル企画のペン「&one」を作っていただきました。2度目の開催となる来月8月のイベントでも、また新たに「&one 」の第2弾を作っていただきますが、それとは別に、1年を通して販売できる当店だけのものを作っていただきたいと思いました。

イメージははっきりあって、溜塗だけど下地の色がわりと分かりやすいもの、温かみと重厚感のあるものが希望でした。

下地の色として山吹色が私のイメージにあったので希望を伝えたら、鈴木さんが表面の色として潤み色(うるみいろ)を提案してくれました。

そして、下地が山吹色で表面が潤み色の溜塗が、当店のオリジナルカラーとなり、当店オリジナル仕様のテクスチャーで代官山出張販売から発売いたします。

今回受注製作させていただく「朧月」は鈴木さんから提案してくれたものでした。塗りを担当されているjaCHRO Leatherの岩原さんとのやり取りで生まれたのだと思います。

今まで見てきた溜塗とは違うグラデーション技法は、漆という伝統的な素材を使いながらも現在の技法によって作られたもので、洗練さも感じられて一目で良いと思いました。

もちろん店舗でお客様にお見せしても、評判がよかった。

コンスタントに作ることがなかなかできないということで、今回初めて受注製作という形で、ご注文いただいたお客様の分だけお作りするということにさせていただきました。

8/25(日)の綴り屋さんのイベント最終日の夜まで受注し、4カ月後にお渡しするという流れになります。お待たせしてしまいますが、ご希望して下さるお客様に確実にお渡しできる方法だと思いました。

また、この朧月でお披露目したオリジナルペン先は14金で、ペン芯にエボナイトを使用しています。

鳳凰のマークは日本的で高貴な雰囲気があり、綴り屋さんのペンによく合っていると思っています。刻印ではなく、レーザー彫刻でマークを描いているのと、穂先が長めになっているので柔らかい書き味になっています。

今までパイロットのペン先を当店で装着していましたが、これからはオリジナルペン先を綴り屋さんのペンに装着していきたいと思っています。

当店の規模でオリジナルペン先を作るということはかなり思い切ったことですが、この店を始めた時はこんな日が来るとは思っていませんでした。

それは金額的な問題もあるけれど、ペン先を作るメーカーのいろんな障壁があって、とても無理なことだと最近まで思っていました。

しかし、時代は変わった。世界のいろんな国で私が店を始めた時のような志を持つ若い人たちが無名ながら、自分の好きな万年筆の仕事を成り立たせていました。

そんな人たちはいつまでも業界の新参者である当店を受け入れてくれたし、当店も古くからの仕組みの中でもがき続けるよりも、そんな新しい時代の流れの中に身を置きたいと思いました。

そんな人たちとの出会いがあって、今回のプロジェクトが実現しました。

せっかくオリジナルペン先を作るなら日本の誰も使っていないものにしたいと思っていたので、私の様々なオーダーに応えてくれた若い経営者の工場との出会いは天の恵みだと思え、鳳凰というこれ以上ない品格のある図柄をペン先にあしらいたいと思いました。

当店は既存のメーカーの万年筆のペン先を当店の持てる技術でより書き味の良いものにして、お客様に提供してきた自負があります。

しかし、それだけではなかなか伝わりにくい。やはりオリジナルペン先というシンボルのようなものが必要で、鳳凰のペン先はこれで生きて行くという当店の決意表明を表しています。

⇒受注製作品 綴り屋 Pen and message.オリジナル仕様 朧月(おぼろづき) (第1回受注締め切り2024年8月25日)

⇒綴り屋 TOP

アイデンティティのある書き味~セーラーキングプロフィット~

日本は、良いもの、価値あるものを様々な分野で作っているクラフトマンシップの国だったということを、最近つくづく思うようになりました。

長年経済の低迷が続いて、気が付いたら急成長している他のアジアの国々に置いて行かれてしまっている。

日本がリッチな国だというのは過去の話で、今日本国民の多くは慎ましく暮らしていかざるを得ない状態になっています。

職人が良いものを作っても国内でそれを買える人が少なく、良いものの多くは海外の人に買われて、国外に流出しています。

でもそれでいいのかもしれません。昔から日本人は自分たちの技術を磨き、世界に誇れるものを作ってきた歴史があり、その時から海外に流出してきたとも言えます。

日本人にはそれを生み出す力がある。また作ればいいだけなのだ。

日本はそうやって個人の力によって文化と言えるものを輸出して、海外から尊敬されてきたのだと思います。

日本の万年筆もそんな存在だと思っています。

セーラーキングプロフィットの最もベーシックなモデルキングプロフィットSTはモンブラン149に似ていると言われることがあります。

たしかにバランス型のオーソドックスな塊感のあるデザインは万年筆の王道のスタイルでそれも否めない。しかし、この万年筆にはブランドを誇示するような分かりやすいマークは入っておらず、最も主張するのはその豊潤な書き味です。

適度に柔らかくしなるこの書き味を実現するためにペン先はこの大きさになり、このペン先を収めるために軸はこの大きさになった、と思わせる書き味の良さを追求した万年筆がキングプロフィットだと思っていて、当店のお勧めしたい日本の万年筆のひとつとなっています。

キングプロフィットエボナイト銀というカタログに存在しないペンを特別注文で作ってもらいました。

磨き抜かれてギラギラと輝くエボナイト軸に銀の金具はより締まった印象を与え、ペン先も銀一色で鋭さを感じさせます。

金具を銀色に変えるとこんなに雰囲気が変わるのだと、このキングプロフィットエボナイトには驚かされました。

キングプロフィットエボナイトは、キャップリングがないデザインとなっています。余分なものを削ぎ落したことで、デザインにおいてもオリジナリティが出ていると思いました。

キングプロフィットをはじめとするオーバーサイズの万年筆のために、実用的でシンプルなペンケースも作りました。

「オリジナルレザーケースL サドルプルアップレザー」です。

従来のオリジナルレザーケースは、万年筆よりも細めが多いボールペン用のS、ペリカンM800やモンブラン146などのレギュラーサイズ万年筆用のMというラインナップで、LはMより一回り大きいものになっています。

サドルプルアップは、キングプロフィットエボナイトのような芳醇な光沢を持つ、張りのある丈夫な革です。

すっぽり収まっているけれど、取り出す時にはスッと素早く取り出すことができるこのケースは、実用本位なキングプロフィットによく合っていると思います。

⇒【特別オーダー品】 キングプロフィット エボナイト 銀

⇒キングプロフィットST

アジアからのムーブメント~TWSBI~

気が付いたら色々な分野で価値観が変わっていると実感しています。

自家用車が高級車であることがステイタスを物語るものではなくなったし、高級時計もステイタスシンボルではなくなっている。そもそもステイタスシンボルという言葉が死語になりつつあるし、モノの価値観が多様化している。

そんな時代に高級なモノを売る仕事は、人々に何を訴求したらいいのか分からない、とても難しいものになっていると思います。

今の時代の万年筆の新しい動きの中心は、アジアだと思っています。

ヨーロッパの老舗メーカーは相変らず健在で、それぞれの会社の伝統に則った製品を生み出しているけれど、価値観が変わってきている中苦戦していて、それはいろんな分野で起こっていることだと言えます。

中国系の新興メーカーはいくつもあって、それらは技術力、生産力の高さからヨーロッパのメーカーのOEMをしていることが多いですが、同じアジアのクリエーターたちと組んだりして、新しい動きを見せています。

中国は気が付いたら、粗悪で安いものを大量に作る国から、洗練された良いものをスピーディーに作れる国になっていました。

日本がアジアの新しい動きに入っているのかどうか微妙だけど、過去の栄光にすがったり、驕りがあったら、あっという間に周りの国に置いて行かれてしまうと思う。

どんな小さな渦でもいいので、当店もアジアの新しい動きの一部になれたらいいなと思っています。

台湾は確実にムーブメントの中心にあって、その中でもツイスビーはそれを牽引する存在のように思います。ツイスビーは50年以上前から海外メーカーのOEMをしていた歴史のある会社ですが、自社ブランドのペンを作り出したのはそれほど前のことではありません。だからこそ今までの万年筆の流れと違うものを作ることができたのかもしれません。

ツイスビーの万年筆は今までの万年筆の価値観とは違っていて、ペン先は金ペンにこだわらないし、軸の素材も伝統的に価値があるとされてきたセルロイドやエボナイトなどは使わない。

それらの素材に価値を見出しているヨーロッパの万年筆の価値観とは一線を画していて、安くて良いものを作るにはどうしたらいいかということを追究している会社だと言えます。

ツイスビーの代表的なモデルはダイヤモンドです。軸のバランスが良く、たくさんのインクを吸入することができます。大型のペン先は、ステンレスですが良い書き味に仕上げられています。

先日ダイヤモンドシリーズに、ダイヤモンド580ALアイスバーグが新色として追加されました。

ツイスビーの新色攻勢はとどまるところを知らず、色数が多すぎて分からなくなるほどですが、好みの色を見極めて、万年筆を楽しんでもらいたいという姿勢の表れなのかもしれません。

話を戻すと、ダイヤモンド580ALは首軸をアルミ素材にすることで従来のダイヤモンドより3グラム重く前重心になっています。それによって、バランス的にキャップを尻軸につけずに書くダイヤモンドを、より書きやすいものにしています。

新たに万年筆を使い始めようとしている人は、この万年筆から始めてもいいかもしれません。

万年筆を何本も持っている人も、このツイスビーダイヤモンドは無視できない存在になると思っています。

⇒ツイスビー ダイヤモンド580ALアイスバーグ

バゲラPinecone~何のフォーマットでもない独創的なもの~

大阪中之島の東洋陶磁美術館は好きな美術館のひとつです。長くリニューアル工事のために閉まっていたけれど、最近やっと開館して行くことができました。

数々の陶磁器の美術品が収蔵されていますが、特に茶碗が見たいと思いました。茶道を習っていたということも関係しているかもしれませんが、茶碗というフォーマットの中で美を表現しているということに惹かれているのだと思います。

飾っていつまでも眺めていたい美術品ではあるけれど、何ならお茶を点てて使うこともできる、用の可能性のあるものでもある。

それは蒔絵万年筆に近い美の在り方なのかもしれません。蒔絵万年筆は万年筆というフォーマットの中に美を凝らすところに魅力があって、万年筆という制約の中に描かれるから精緻さがある。私たちはそこに感動するのかもしれない。

実際、国宝の天目茶碗でお茶を点てる人はいないし、蒔絵万年筆にインクを入れて使おうとは私なら思わないけれど。

バゲラさんのPineconeのすごいところは、高田奈央子さんがそのセンスの赴くままに組み合わせた貴重な革を手縫いで仕立てて、ひとつの完成されたアート作品にしているところですが、Pinecone自体が何のフォーマットでもないところにもあると思います。

財布とはちょっと違うし、名刺入れや定期入れでもない。何のフォーマットでもないから、それを新しく取り入れるために自分のライフスタイル自体を変える必要があります。Pineconeを持つことで新しい時間を過ごせるのではないかと思わせてくれるところが、このモノのすごいところだと思っています。

実際にPineconeを手にした人は、Pineconeとスマホだけ持って出掛けたくなるし、買い物の時にPineconeからカードを出して支払いをするということを楽しめるようになるようです。

今まで大きな財布を持ち運んでいた時と、きっと鞄も違うものになると思います。

それを手にしたことを想像して、毎日がガラリと変わることを期待できるモノ。そういうモノはあまりないと思います。

でもバゲラさんの革作品はフォーマットの制約において作られたものでも自分を変えてくれる力があるのではないかと思わせてくれます。

バゲラさんの正方形ダイアリーカバーにも期待が膨らみます。これを使うといままで当たり前のアイデアしか浮かばなかったのが、面白いアイデアが浮かんで一皮剥けた自分になれるのではないかと夢見させてくれる。

でもすごいものとの出会うはそんなものなのかもしれません。今まで使っていた正方形ダイアリーに書く内容が今までときっと変わるのではないかと思います。

ペンケースも本当に大切に思っているペンを収めて、そこから取り出す所作にもこだわりたくなるし、それ以外のものは入れたくないと思ってしまう。

そういうペンが3本もあればとても幸せだと思うけれど、バゲラさんのペンケースに入れてもらえるペンを提供できる店でありたいと思います。

生活自体を変えてくれる力のあるモノ。それがバゲラの革作品だと言っても言い過ぎではないと思っています。

⇒BAGERA(バゲラ)~革製品オーダー専門店~ TOPへ

手帳の紙1枚作戦

何度も書いていることですが、手帳の使い方について考えるのが好きで、思いついたらあれこれ試してみるので使い方が全然定まりませんでした。

仕事を始めた時から手帳はずっと使い続けていて、その時々でこれで完璧だ、このやり方で生涯使い続けようと思っても、1年使うと違うやり方が試したくなります。

手帳にロマンを感じる性質で、違うやり方をすれば仕事がもっと効率よくできるのではないか、違う手帳の方がいい仕事がてきるのではないかと思ってしまうのです。

でも考えてみると、仕事の内容ややり方は変わっていくものだから、それを整理するフォーマットである手帳がそれに合わせて変化してもおかしくないのかもしれません。

前は手帳に色々なことをびっしりと書いていたけれど、今はダラダラと長い文章は書かなくなりました。

書かなくてはいけない原稿が毎週、毎月、毎シーズンとあって、かならず何かの文章を書いているし、もちろん仕事の企画もあれこれ考えているから手帳に向かう時間が短くなったからかもしれないけれど、それだけではない。

手帳に気持ちのまま、思いつくままに細かく書いたことを読み返す気が私はしなかった。

自分にはできごとなどを簡潔に箇条書きで記録する方が向いていることに気付きました。

今は日付入りの正方形ダイアリーでスケジュールやToDoを管理しながら、記録を箇条書きで残すようにしています。そして同時進行しているプロジェクトの企画内容や管理は、システム手帳に書いています。

正方形ダイアリーにもシステム手帳にも箇条書きで書きます。お客様のご購入記録や打ち合わせなどの毎日のドキュメントは、正方形ダイアリーに時間とともに書くようにしています。システム手帳は1つの物事が3つ折りリフィル1枚の紙に収まるように物事だけ簡潔に書く。そこにはただ事実だけが積み上げられていきます。

プロジェクトが完結したら、それを正方形ダイアリーに貼ります。

そうすることで大切なことが散逸することなく、過去の正方形ダイアリーに時間の経過という法則でファイルされるので、過去のことを探す時に正方形ダイアリーのどこかに書いてあるということになります。

これでデータは散逸しなくなって、これに今までどれほど助けられたことか。

システム手帳に凝ると、全てを1冊にまとめたいと思い、たくさんのインデックスを駆使して、複雑なページ構成にしてしまいがちです。

ページ構成を考えた時はそれで理解していたつもりでも、時間が経つと該当しない項目ができたり、法則が分からなくなったりして、自分がどこに書いたか見つけられなくなるということがよくありました。

人それぞれだと思いますが、私の場合は、複雑な構成にすると面倒になってしまうようでした。

そんな自分のことが分かって、1企画1枚に書くということに辿り着きました。

イベントなどが多くなると、正方形ダイアリーは貼った紙で膨らんでいくけれど、閉じられないほどではない。

先日行ったドイツ出張もいろいろ調べて書き込んで何ページにもなりましたが、それらは前調べにすぎず、ホテルに帰って1枚の紙に少しずつ書き足していたドキュメントが出張の終わりとともに完成する。それを正方形ダイアリーに貼って記録は完結しました。

紙1枚作戦と密かに名付けていますが、シンプルなやり方だけど自分には合っているような気がするし、皆様にもお勧めしたい手帳の使い方だと思いました。

(写真は正方形ダイアリーとカヴェコ1980年のローラーボール。ローラーボールは替え芯が入荷次第販売開始します)

⇒正方形ダイアリーTOP

絶対的な存在に立ち向かうペリカンM1000

モンブラン149という象徴としての万年筆の絶対王者と比べることができる、唯一の存在の万年筆がペリカンM1000だと思っています。

上質な万年筆はもちろん他にたくさんありますが、149は象徴なので、書き味や性能などの実用性を超越したところに存在すると思っています。そういう絶対的な存在に反発したくなる私のような天邪鬼な人は他にもきっといるはずで、その人たちは実力でのし上がってきた(?)M1000を推すに違いない。

ペリカンM1000とモンブラン149を比べてみると、サイズはほぼ同じ(厳密にはM1000の方が3mm短い)、ペン先の大きさもほぼ同じで、どちらもオーバーサイズと言われるカテゴリーに属する万年筆です。

形は両端を絞った紡錘形(万年筆の世界ではバランス型といいます)の149に対して、M1000は両端が平らで円柱に近い形状(ベスト型)をしています。

万年筆を紡錘形にする理由は、デザイン的なこと以外では、両端をなるべく軽くすることで重量を中心に集め、筆記バランスを良くする、という目的があります。

対してM1000のような円柱に近い形状は、ペンのどこを握っても同じような感覚で握ることができるため、こういう形の万年筆を持ちやすいと思う人も多いと思います。

書き味もデザイン同様、かなり違っています。

149のペン先は剛性感があり、硬いペン先が紙を滑るような感じ。M1000は柔軟な書き味で、筆圧の加減で文字に強弱がつくような、1文字1文字きっちり書くことに向いているような柔らかい書き味を持っています。

ただサイズが近く、同じカテゴリーに属しているということ以外は何もかも違う149とM1000、どちらを選ぶかは好みが分かれるところですが、キャップをつけずに書く場合M1000の方がボディの長さが5mmほど長く、この差がキャップをつけずに書く場合利いていて、キャップなしで書く場合はM1000の方がバランスが良いように思います。

またボディの出っ張りが少ないという点では、M1000の方がペンケースの選択肢は多そうです。

最近の蒔絵万年筆はM1000で作られることが多く、それもペリカンが自社最高の万年筆と位置付けていることの裏付けとなっています。

2016年にM800ルネッサンスブラウンという万年筆が特別生産品として発売されましたが、このたびM1000ルネッサンスブラウンを発売しました。

ルネッサンスブラウンのM1000は軸の色が違う以外にもキャップリング、尻軸リングが専用のデザインになっていて、さらに差別化されています。

ペリカンの特別生産品は直感的に美しいと感じる軸が多く、この分かりやすさが潔くていいと思っています。M1000ルネッサンスブラウンも、その軸色から重厚なインテリジェンスを感じるのではないかと思っています。

ペリカンは186年もの歴史があり、過去の万年筆を現代の技術で復刻させた限定品のシリーズもありますが、特別生産品M1000ルネッサンスブラウンはすでに高い評価を得ているスーベレーンシリーズというペリカンの型を使いながら、万年筆を面白くしてくれる存在だと思っています。

⇒ペリカンM1000 ルネッサンスブラウン

NANIWA PEN SHOW後記

NANIWA PEN SHOWは1日開催のイベントでなかなかハードですが、その大変さを上回る価値があると思っています。

早朝に家を出て、8時前に会場に着いたらすぐに準備に取り掛かり、9時45分には準備完了して10時にはお客様をお迎えする。18時に閉場後、19時の終礼までに片付けて荷造りをする。

1日の中にこれだけの作業があるイベントは他になく、瞬発力と持久力が必要です。

今年のNANIWA PEN SHOWで私たちは小さな挑戦をしました。

イベントにはよく持って行ったモノをかなり減らして、オリジナルインクとノートを少しだけにしました。そして自分たちが本業だとしている万年筆の調整と、万年筆の販売を中心にしました。

ペン先調整機は2台持ち込んで、私と森脇が同時に調整できるようにして万全の体制を整えました。これでペン先調整の依頼がなかったり、万年筆が売れなかったら、私たちは大阪まで来て1日ただ座っているだけになってしまいます。

実際、事前に予約フォームを準備しましたが、予約は1件も入っていませんでした。

当日までそんな恐怖との戦いでしたが、せっかく万年筆店である当店を知ってもらえるいい機会なので、ペン先調整を前面に出してイベントに臨む方がいいと思っての決断でした。

そんな状況でしたが、イベントが終わって、挑戦して本当によかったと思いました。

調整も常にお客様がおられたし、書き方に合わせて調整した万年筆も喜んで買っていただけました。

そして何よりも当店のテーブルを囲んで楽しそうにして下さるお客様が何人もおられて、そんな空間を作ることができたことが最大の収穫でした。

ドイツに行って仕入れたペンはありましたが、普段から当店にあるものとペン先調整というスキルだけでイベントに参加して、お客様に喜んでもらうことができました。

イベントではパイロットキャップレスと三角研ぎの引き合いが目立ちました。

手帳を書くことを楽しんでいる方が多く、書いては仕舞うことが連続してしやすいキャップレスが手帳にちょうど良かったのだと思います。

パイロットは60年程も前に、万年筆に絶対必要なものだと思われていたキャップを無くして、片手で書き出せる万年筆を作るという挑戦をしました。そのおかげで、キャップ無しでもぺン先が乾かない、小さなペン先からは考えられないほど書き味の良いキャップレス万年筆があるのだと思います。

挑戦の度合いは違いますが、この数年間続けていたイベントの形を根本的に変えて、もう一度自分たちの本質に立ち戻ってイベントに臨めたことは大きな進歩でした。

NANIWA PEN SHOWに来て下さったお客様方にはとても感謝していますし、こういう機会を毎年作って下さっている主催者の方々にも感謝しています。