自然な使用感に惹かれる

590&Co.さんとの共同出張販売「&in福岡」のために、福岡に行ってきました。

数年前から毎年福岡に来ていましたが、今までは大名にある表通りに面したギャラリーで出張販売をしていました。
でもコロナ禍などの影響もあってそのギャラリーが閉鎖になり、今年から警固(けご)にあるギャラリートレザイールさんを会場にさせていただきました。

天神に近く人通りも多い大名とは違い、警固周辺は静かなところで、個人経営のカフェやお店などもある比較的落ち着いたところでした。

マンションの間に商店が混じった、暮らしと遊び場が同居した感じは、当店のある元町に近いと思いました。ホテルも警固だったので、福岡滞在中警固周辺から出ることなく、その中で快適に自然体でいられました。

きっと谷本さんもそうだと思いますが、私たちにとって警固の落ち着いた雰囲気が心地よく、合っていたのかもしれません。

福岡でも綴り屋さんのペンは注目されていました。

12月9日(土)10日(日)、590&Co.さんの店舗を会場に綴り屋さんの作品販売会を開催します。

イベント期間中に綴り屋さんの万年筆をお買い上げのお客様は、当店にてペン先調整をさせていただきます。

このイベントは当店と590&Co.さんとの共同企画で、初の試みになります。

出張販売での反省では、今自分がどういうものを好み、こういうものを良いと思っているということをもっと表現するべきだと思いました。

モノに関する好みですが、デザインが良いモノももちろん良いのですが、使用感が自然なものの方が、私の場合長く使っているような気がします。

綴り屋さんの万年筆漆黒の森は重量が軽い割に太軸で、力を抜いてペンの重みに任せて書く必要がなく、自然な感じで書ける万年筆です。

万年筆を使い慣れた人も、長く使って来た人もきっとこの漆黒の森は手に馴染みやすいと思える、自然な使用感を持った万年筆です。

インクもその色に惹かれて使い始めますが、いくら色が良くても紙の上に乗るような、紙に馴染まないインクはあまり好きではありません。

書いた後スッと紙に沈んでくれる自然な感じがするということが絶対条件で、色以上にそんな性質のインクに惹かれます。

当店のオリジナルインクの話で恐縮ですが、冬枯れやメディコ・ペンナ、虚空がそんな性質で、それらのインクを好んで使っています。

紙馴染みの良い自然な使用感のインクはたいてい発色も大人しく、少し沈んだ落ち着いたトーンになります。しかし、そんなところも私には自然に見えて良いと思えますので、オリジナルインクでそういうトーンのインクが多いのも、そんな理由があるからです。

革表紙のメモはデザイン的には凝ったところはありませんが、自然に快適に使えることを追究したものになります。

土台となる底の革は厚く丈夫なサマーオイル革で、安定感があり、書きやすさに貢献しています。表紙の革は柔らかいミネルヴァボックス革で、めくりやすく、開いたままにしておけるので、書いている時に邪魔になりません。

中紙は当店の試筆紙と同じユトリロ上質で、にじみが少なく、裏抜けもないけれど、特殊な表面加工がされていませんので自然なインクの吸収と書き味を持っています。

切り取りやすいマイクロカットミシン目が入っていますので、サッと切り離すことができます。

各素材をそれぞれの用途に適した特性のあるものにして、自然な使用感のメモ帳を目指したのが革表紙のメモです。

いろんなものを使ううちに、こういった自然な使用感を持つものが良いものだと思うようになりました。

 新しいものでなくても、長く扱っているもの、作り続けているものには無理のない自然体の使いやすさがあって、当店の定番と言える存在になっています。

⇒Pen and message. 革表紙のメモ

新しい時代の象徴~ツイスビーECOインディゴブルーブロンズ、Kai~

コロナ禍前年の秋、台湾を訪れることができたことは幸運でした。

台南ペンショーを視察するという目的で、2泊3日で台北の文具店を見て回れるだけ見て回り、高鐵で台南に行ってペンショーを見て台北に帰って来ました。

一人旅だったけれど、台湾のお店も風景も思う存分見ることができて、充実した旅でした。

あれから4年も経ったとは信じられません。コロナ禍は時間をあっという間に進めてしまったような気がします。

コロナ禍の数年はほとんど家と店の往復で、体は楽だったけれど、このままではいけないという危機感ばかり募らせていました。それは、台湾に行って時代が変わってしまっていることを実感したからでした。

コロナ禍が明けたと思えた今年、私たちの仕事は外に出て行ってこそ活気づくものだったと、動き回りながら思いました。日本が様子を見ている間に、世界はとっくに動き始めていたのだと思います。私たちは遅れた3年を取り返さなくてはいけないのかもしれません。

新しい時代の中心のひとつはツイスビーだと思っています。時代遅れにならないためにも押えておきたいブランドで、万年筆の新作が出ると仕入れています。

ECOの新色は1年に何回も発売されますが、今回発売されたインディゴブルーローズゴールドは今までのものとは少し趣が違う、大人の万年筆の雰囲気があるような気がします。

ECOの魅力は透明軸の中の大きなインクタンクで、インクの存在を感じながら書くことができます。そこに喜びを感じる人が多いということを、お客様方の話から知りました。

ECOは昨年からmade in Chinaになっていますが、インディゴブルーはキャップリングにTAIWANと印刷されていて、台湾製であることが表記されています。

もうひとつの新製品Kaiは従来のモデルと少し違っていて、ヨーロッパ万年筆のような雰囲気があります。

アクリル削り出しの、少し太軸で上質な質感を持つツイスビーの高級バージョンと言えるものです。

ECOインディゴブルーローズゴールド、Kai、どちらも限定商品となっています。

ツイスビーの万年筆は、金ペンのしなやかさはないけれど、サインペンのような、何も気にせずに書けるダイナミックさがあります。

現在、多くの万年筆は金の高騰と為替の影響で、高額化に苦しんでいます。金を使わずに、低価格で魅力的な万年筆を作り続けているツイスビーのペン作りの在り方が、そしてそういう万年筆を支持するお客様方が、新しい時代を築いているのだと思います。

⇒ツイスビー Kai 万年筆

⇒ツイスビー ECOインディゴブルー

出張販売と綴り屋の万年筆

11月3日(金)~5(日)の3日間、福岡のトレザイール(福岡市中央区警固2-12-12警固丸ビル)で590&Co.さんとの共同出張販売「&in福岡」を開催いたします。

今年はペンショーなどのイベントの他に、出張販売を多めに企画しましたので、あちこちに出掛けたという印象があります。

それは共同出張販売の相方である590&Co.の谷本さんがいて促し合っていたこともあるし、当店スタッフ森脇が同行するようになったことも大きいと思います。

それに店として、多くのお客様がおられるところに出向いて行くというのは生存本能に近いものがあるのかもしれません。

神戸の街は自分たちのホームグラウンドと言える場所ですが、同じ場所でお客様を待っているだけではいけないと思うようになりました。

今年の出張販売で人気があるものとして、綴り屋さんの万年筆が挙げられます。

特に590&Co.さんとの共同出張販売「&(アンド)」の時は、綴り屋の鈴木さんが当店と590&Co.さんのフレンドショップ企画として、同じ素材でボールペンと万年筆を作ってくれたりしてバックアップしてくれています。

綴り屋の鈴木さんは2本と同じ万年筆を作ることはしなくて、いつもどこか仕様を変えてきます。それは軸の磨き方のこともあるし、リングの色やリズムだったりします。

でもどこか改良できるところを見つけて常に新しいことを試み、同じところにじっとしていないのは、ペン作りを楽しみながらしていることの表れで、その姿勢に共感しています。

今綴り屋の鈴木さんがいろんなパターンで作っているのは、同じ塩尻市の漆職人小坂氏との仕事です。綴り屋さんの端正な万年筆「月夜」に溜塗を施したものは、この細身の万年筆の良さを引き立てていると思います。

綴り屋さんの代表的な太軸万年筆「静謐」には小坂氏による漆塗りを施したものが当店に入荷しました。

軸に施した拭き漆は、木軸の補強、防水の効果がある他に木目を際立たせる役割もあります。

キャップトップには布着(ぬのぎせ)の技法を凝らして、これが日本古来からある丈夫で美しい姿の道具のような、民藝的な仕上がりにしていて、この万年筆に道具としての強さを与えています。

円安の影響もあって、最近海外のメーカーのペンの値段が上がり売れにくくなっています。

その流れで国産の万年筆が見直され始めていて、中でも綴り屋さんの万年筆は他にない個性のあるものを求めるお客様から求められています。

私も販売する立場ではありますが、次に綴り屋さんがどんな万年筆を納品してくれるのか楽しみにしています。

⇒綴り屋TOP

使ってみてよかったもの~A7メモカバー~

開店前に、店から買い物や散歩に出たり、旅先でちょっと出掛けたりする時にいつも使うスエード革のサブバックがあります。これは大手のT鞄のものなので、当店と全く関係がないけれど、使ってみてよかったという類のものでした。

小さく折りたためて丈夫で、見栄えも良い。

よく雑貨店などでサブバッグは売られているけれど、あまり良いと思えるものと出会ったことがありません。中には最初に使った時に破れたものもありました。

たまにですが、あまり期待していなかったけど使ってみたらすごく良かったというものに出会えると嬉しくなるし、そのメーカーの印象もとても良くなります。

私たちもこういうものを作らなければいけないと思います。

当店でもそういう隠れた名品はあって、例えばカンダミサコさんが作ってくれているシステム手帳用革下敷きやペンホルダーは評価が高く、ずっと売れ続けています。

とてもシンプルなものですが、使ってみると想像以上の使いやすさで、モノというのは本当に使ってみるまで分かりません。

カンダミサコさんの商品では、他にもA7サイズのメモカバーがあります。

コロナ前くらいからM5システム手帳が流行していたこともあって、サイズ感が似ていることからA7メモカバーは作っていませんでした。

考えてみると薄くてポケットに入れておけるA7メモカバーは、M5システム手帳とは用途が全く違っていたのかもしれません。

覚書や雑記、アイデアなどを忘れないうちに書き留めたりするのに、いつもポケットに上質な革のメモ帳が入っているととても便利だし、何となく嬉しいと思います。

カンダミサコA7メモカバーはライフノーブルノートミニ、コクヨ切り取りメモなどを入れることができますが、他にも使えるものはいくつかあるかもしれません。

このメモカバーの特長は、折り返し部の幅を広くして段差をなくすことで下敷きのような効果を持たせ、立ったままでも書きやすくしているところです。

これは、こういうカバーにはあって欲しい機能だと思います。

システム手帳もいいけれど、時系列にメモを取りたい私のような人には、A7メモカバーのシンプルなものが使いやすいのかもしれません。

久しぶりの製作でしたが、今回は当店でも人気のある革で作ってもらいました。

エレファントは独特の模様やシボがあって、使い込むとこのシボが潰れて良い風合いになります。

使っていくうちに艶が出てくるダグラスⅡ、柔らかくて手触りが良く、ビジネスシーンでも使いやすいトリヨンオルダラ。

どれも趣向の違う革をご用意して、ぜひお好みの風合いの革を見つけてお使いいただきたいと思っています。

⇒カンダミサコ A7メモカバー

プラチナセンチュリー~小さな文字を書くペン~

ふと頭に浮かんだテーマについて考えて書くことを趣味にしています。

テーマの浮かび方はいろいろあって、街を歩いていて思いつくこともあれば、本屋さんで見た本のタイトルから連想することもあります。

何かの役に立てるとか、誰かが読んでくれるアテがあるわけではないけれど、それを書くことが好きだから書いています。

そうやって書いたものが結局ホームページのブログになったり、何かの原稿になることもあるので、趣味と実益を兼ねたものになっているかもしれないけれど。

テーマが浮かんだら、ギリギリまで頭の中で考えて、書けそうになったら一気に書き始めます。

一気に書く時は万年筆を使いますが、あまり大きな紙ではなく、小さなノートやシステム手帳などに小さな字で細々と書いています。

最近、大きな文字よりも小さな文字を書く方が、自分は集中できると気付きました。

そういう場合のペン先は細字で、それも国産のものが合っているようです。

今まではもう少し大きな字を書いていたので、持っていた万年筆は国産でも外国のものでも中字のものばかりでした。

最近になって、小さな手帳に原稿を書くためにプラチナセンチュリーを使い始めました。

ペン先が硬くインクの出も少なめで、イメージしていたより細かったけれど、書きたかった小さな文字も潰れずちゃんと書けるのでとても気に入っています。

年4回発行のフリーペーパー「ふみぶみ」という冊子に、創刊から寄稿させてもらっています。

書くことは好きだからと、ご依頼いただいた時は二つ返事ですぐに引き受けました。テーマは自由、お任せで好きなことを書かせていただいていて、小さな手帳に書いた原稿がふみぶみの原稿になっています。

ふみぶみは手紙を書く人を増やしたいという志を持って始まった本で、当店にピッタリの本だと思いました。

様々な分野の人が寄稿していて、中にはものすごく文章の達者な人もいたり、旅がテーマのコーナーもあったりする、読み応えのある冊子です。

ふみぶみは2021年にフリーペーパーオブザイヤーの「伝える気持ち賞」というものを受賞するなど、少しずつ広まって、多くの人に認められるようになりました。

店頭でお客様にお渡ししながら、その存在感が増してきたことを実感しています。

書くことが好きだから、自分の書いたものが役立つのなら、と乗った小さな船が、気付いたら大きな船になっていたような感覚です。

ふみぶみに書くことで、普段当店のことを知りようのない人が当店のことを知って下さるという効果もあったりして、本当に書くことは趣味と実益を兼ねていると思います。

⇒プラチナ センチュリー#3776

ペンシル1本持って

ル・ボナーの松本さんと590&Co.の谷本さんと来年の5月にドイツニュルンベルグへの旅行を計画しています。

計画していると言っても、もう飛行機もホテルも予約したので行くことは決まっていて、3人のグループLINEで昼夜問わず話し合いをしています。

そして旅行と言っても、蚤の市や地元の文具店を回って商品を仕入れる予定なので、これは観光ではなく正真正銘のビジネストリップです。

このメンバーでは13年前にも旅行しました。ドイツ、チェコ、イタリアを10日ほどで回るとてもハードなもので、体力的にはすごくきつかったけれどとても楽しく、一生の思い出になりました。それは私だけではなく、松本さんも谷本さんも同じように思っていたようで、3人集まるといまだにその旅の話になります。

その旅から13年も経ったということが信じられません。13年間色々なことがそれぞれにあったけれど、3人とも変わらずに自分の店の仕事をしていて、その仕事の役に立つ今回の旅ができるのだから、幸せなことだと思います。

今回はニュルンベルグやその近郊の街を巡る1週間の日程で、移動が少ない分体力の消耗は少ないかもしれませんが、きっと朝早くから夜まで外を歩いているのだと思います。

ニュルンベルグは前回の旅でも2日ほど滞在しました。

ステーショナリーメーカーも多くあるステーショナリーの街で、近郊にもたくさんの文具店があります。今回の旅では、それらをじっくり巡ってきたいと思っています。

優雅なゆっくりできる旅ではないので、荷物はなるべく軽く、小さくしたい。

いつも旅には万年筆ですが、今回はペンシルを持って行こうと思っています。

普段から愛用しているペンシルはペリカンD400で、ごくシンプルなデザインのノック式のものです。バランスや握り心地が良く、考えながらポツポツと書く用途に使っています。

スケジュールを書く時も変更の可能性があるのでペンシルを使う、という風に、今ではペンシルは私の生活の中に存在するようになりました。

今回の旅では予定していませんが、ドイツ南部を旅すると考えた時にラミーのことをすぐに思い浮かべました。ラミーの本社もドイツ南部の美しい街ハイデルベルクにあります。

そのラミーが限定で、本国では定番ですが日本で発売されていなかったペンシルと複合筆記具を発売しました。

日本では海外ブランドのペンシルは売れない、ということで発売されていませんでしたが、最近ペンシルの特性が理解され、見直されて、愛用する人が増えたせいもあるかもしれません。

ペンシルは学生だけのものではありません。大人も万年筆と使い分けてペンシルで書くことを楽めると思います。

当店に入荷したラインナップは、アルスターと2000プレミエステンレス、そして黒、赤のボールペンと0.5mmペンシルを搭載したトライペンSTです。

アルスターは軽いのにしっかりとした強度もあるアルミボディで、初回リリース品のみにLAMYの消しゴムが付属します。

2000プレミエステンレスのペンシルは、40グラム超の重量感のあるステンレスの塊感のある軸で、精密な金属加工の技術が感じられる完成度の高いものになっています。重量があるので、0.7mm芯の仕様が合っているのかもしれません。

トライペンSTは今回の中心的な存在だと思っています。

古き佳き時代のラミーを思い出させるデザインのトライペンを見ると、以前のラミーのデザインは渋かったのだと思いました。

こういう良い複合ペンを探していた人は多いと思います。シンプルなデザインで仕事にも使いやすいし、まっすぐなフォルムは手帳のペンホルダーにも収めやすい。

ボールペンとペンシルが付いているので、もしかしたら旅にはこういうものが合っているのかもしれません。

ラミーが限定発売したペンシルと複合ペン、万年筆とは違うシチュエーションでの使用を考えて、書くことを楽しむためのものとしてご愛用いただけたらと思います。

⇒LAMY TOP

神戸ステーショナリー

9月23日に、原宿で開催された「趣味の文具祭」に参加しました。

当日7時半前に集合して準備、10時に開場、18時閉場後に撤収作業をして新幹線で神戸に帰る、というハードなもので、凝縮された1日はあっという間に過ぎて、一息ついたのは品川駅待合室の椅子の上でした。

もうこんなハードな仕事はしない、と思いながらも、しばらく経つと忘れてしまって、またスケジュールに入れてしまうのだろうな。

趣味の文具祭では他のイベントでは売れているオリジナルインクはあまり売れませんでした。綴り屋さんの万年筆はやはり人気がありましたが、神戸の職人さんが作った商品がよく売れていました。

中でもSMOKEさんのチェスの駒のようなペーパーウェイトは人気があって、やはり他所では買えないものが売れるのだと思いました。

神戸家具発祥の地に工房を持つSMOKEの加藤さんの木製品は、神戸の洋館をイメージさせるものだと思っています。独特なモノの雰囲気があって、個人的にも好きな商品です。

元町の革職人藤原さんの1本用のレザーケースやミネルヴァリスシオの正方形カバーも人気で、たくさんのお客様が手に取っておられました。

細かく正確なステッチの革製品は端正な佇まいで、キレのある、腕の良い職人仕事が感じられます。10月開催の神戸ペンショーでは、レザーケースMをリザードとクードゥーで製作して下さいます。

万年筆をメインに16年前に始めた当店でしたが、上質な革の絞りペンケースをル・ボナーの松本さんが開発されて、当店の売れ筋商品になりました。そして気が付いたら神戸の良い職人さんの質の良いものが集まっていて、それが当店の特長になっていました。

当店の開店合わせて、ペンケースを開発されたのかは分からないけれど、直感的に当店にそういうものが必要だと思われて開発して下さったと思っています。

当店よりずっと前に六甲アイランドに鞄屋さんを開業していた松本さんだからこそ、万年筆店の当店に何が必要なのか、そして1つの良い商品の存在がどれだけ大きな価値があるかをご存知だったのだと思います。

松本さんが示してくれたことで間違いなく道が開けて、当店は神戸という場所の恩恵を存分に受けている店になれたのかもしれません。

元町の街を少し歩けば職人さんたちの店があって、様々な商品を作っています。

何のツテもなく飛び込んでお願いした帆布バックのclueto(クルート)さんも昨年は神戸ペンショーに間に合わせて正方形ダイアリーのカバーを製作してくれましたし、今年は正方形ダイアリー用のバックを作ってくれました。

それぞれ個人が何にも縛られずに、自分の思うままにやって、自分の仕事を成り立たせているような自由な雰囲気が神戸のモノ作りにはあります。

そんな横のつながりに当店は大いに助けられている、と外に出て仕事をするたび改めて思います。

3代目のペン先調整機

3月に名古屋まで行って依頼してきた、3代目のペン先調整機が完成したとのことで、機械製作会社の尾崎さんが納品に来て下さいました。

3代目の納品と一緒に、前回の整備の時に交換できなかった2代目調整機のパーツも交換して下さり、森脇の愛機となる予定の2代目も調子よく動くようになりました。

こんな風にメンテナンスして下さる尾崎さんの存在は本当に有難く、尾崎さんを紹介して下さった名古屋の高木雅且さんには本当に感謝しています。

2代目の調整機は、携帯性と複数のヤスリを取り付けることができることを目指して作っていただきましたが、3代目ではさらに静粛性とヤスリのレイアウトの見直し、軽量化、小型化を目指しました。

分厚いアルミのブロックの土台を強化プラスチック製にすることで、劇的に静かになり、軽くなりました。更にヤスリ類も耐久性の高いものが取り付けられるようになりました。

調整時に手を置く台も取り外すとフタのように調整機のヤスリを保護するように設計されていて、出張販売などで持ち運ぶことが少し楽になりそうです。

毎日使う仕事道具へのこだわりを、尾崎さんの手を借りて実現することができるのは、本当に恵まれたことだと思います。

当店のペン先調整機の歴史について振り返ってみると、1代目は2009年から2016年まで使いました。

創業当時は機械がなく、手で調整していました。だから今でも停電などで機械が動かなくなっても、困ることはありません。

しかし、手で調整するうちに時間を短縮したいということと、もっと美しく仕上げたいと思うようになって、機械を作ることにしました。

当店の機械の製作を知り合いの大阪の機械製作会社に頼んで下さった、お客様のHさんのおかげで初代調整機が出来上がりました。

初代の調整機は、2代目、3代目と比べるととてもシンプルなものでしたが、当店が万年筆店としての真剣さを表明するものでしたし、この調整機で私は仕事としての万年筆の調整を覚えました。

大きくて重いので、車がないと運搬することができず、外に持って出たのは代官山蔦屋書店さんでのイベントだけでしたが、ただそれは当店がそれまで店から出ずに仕事をしてきたからでもあります。

2代目は2016年から2023年まで使いましたので、偶然ですがそれぞれの機械を7年ずつ使ってきたことになります。

使ううちに様々な要求が出てきて、その時々で完璧なものを求めてきました。

3代目もこれから長く使って、色々なところに持って行きたいと思っています。

ペン先調整はやればやるほど「気付き」があって、気付きの数だけ良い仕事ができるようになります。機械へのこだわりはその表れで、自分のペン先調整に求めるものがより高度になっていくからなのだと思っています。

革を纏わせる~ミネルヴァリスシオの正方形カバー~

オリジナルダイアリーを発売して10年以上経ちますが、この数年でやっと認知されてきたような気がしています。

このダイアリーを愛用している人が、ご自分の使いこなしについて語れる情報交換ができたらきっともっと楽しい。でも完成したものだということに安堵せず、皆様に使っていただく努力をし続けなければいけないと思っています。

それは店の仕事も同じで、何もしなければすぐ忘れられてしまう。

新しいものを作ったり、ペンショーや出張販売でどんどん外に出たり、自分たちにできることをやり続けていく。その活動に終わりはなく、止まった時はやめなければならない時なのだと思います。

でもそれはそれほど悲壮感のあることではなく、好きであれば誰でも続けられることだと思う。

9月8日~10日に開催された京都手書道具市に参加してきました。

たくさんの人がいるのにどこか優しい雰囲気に満ちていて、京都らしいイベントだと思いました。

きっとこういうイベントにしたいというイメージが主催者の人たちにはあって、そのための気配りがされていたのだと思っています。参加者にとっても快適で気持ちの良いイベントでした。

京都手書道具市に限らず、参加しているどのイベントでもこちらからは何も言っていないのに、よく一緒に出張販売をしている590&Co.さんと毎回隣同士にしてくれているのが面白い。どのイベントでも配慮していてくれていることがよく伝わってきて、感謝しています。

京都手書道具市の主催者のTAGステーショナリーさんが集めたイベントの参加者さんたちは皆さん自分の感性を信じて、それで勝負しているのだと思います。

きっと皆さんご自分の扱っているものが好きで、その世界観に共感してくれる人を増やしたくてその仕事を続けているのだろう。

個性豊かな鋭い感性を持つ人たちの中で、当店はどうやって存在をアピールしたらいいのかと、イベントに参加する時はいつも思います。

当店は自分たちがステーショナリーや万年筆に求めていること、仕事に持ち込める趣味性というものを追究していると思っています。

仕事というのはビジネスもそうですが、家事もそこに入ります。

お客様方の生涯続けて行く仕事を楽しくしてくれるようなステーショナリーを提案して、作っていきたい。

そのひとつの柱が正方形のオリジナルダイアリーだと思っています。

予定やToDoの管理ができて、書く楽しみを感じながら記録できる。きっと多くのダイアリーもそう思って作られているけれど、それに上質な革で作ったカバーを掛けて使うことができるのは、当店の文化だと思っています。

正方形の革カバーは当店近くの革工房の藤原進二さんが作ってくれていて、正確で細かく美しいステッチは彼の腕の良さと手間を惜しまない仕事ぶりが表れています。

プエブロで有名なタンナー、イタリアバタラッシィ社のミネルヴァリスシオを使ったカバーは使ううちに艶が出て、色変化もあり、新品の時よりも時間が経ったときの方が美しいとさえ思えるものになります。

ミネルヴァリスシオの銀面をペーパーなどで擦って艶を取ったものがプエブロです。同じ革なので、そのエージングもプエブロと同様劇的なものです。

仕事をするための楽しみながら書くダイアリーに、触れて、見て、香りを嗅ぐ楽しみを纏った上質な革カバーが今年も完成しました。

⇒2024年正方形ダイアリーカバー・正方形ノート

不良っぽさへの憧れ〜バゲラの革巻きボールペン〜

父が教師、母が専業主婦の平凡な家庭のお坊ちゃん育ちなので、怒れる反抗期もなく、普通の人生を生きてきました。

語れるような、若い頃の無茶をしたような話もなく、それが何となく負い目のように感じていたけれど、そんな気持ちも長い間忘れていた。

きっと自分らしさに折り合いがついて、普通の大人しい人間である自分が恥ずかしくなくなったのだと思います。

それでもある種の不良っぽさに憧れることはあって、そういうかっこいい人を見ると自分はそうはなれないけれど、そうありたかったと思うこともあります。

不良と言っても学生時代に学年に何人かいたような不良と、大人のそれとは違う。

子供の頃の不良はつるんで徒党を組まないと生きていけない弱い人たちだったけれど、不良っぽい大人は自分を周りに合わせることを嫌う、一人で生きていける人で、そんな姿勢から他者を無言で黙らせる存在感のある人だと思います。

バゲラさんの革製品は、そんな私にはない不良っぽさをなぜが感じさせるもので、かっこいいなといつも思っています。

高田さんご夫妻が納品のために当店を訪れてくれて、その作品を見せてくれるたびに、こういうものが似合う人間になりたかったと、自分の不良への憧れを思い出させます。

今回Pineconeも納品してくれて、あのモノのあり方、ただ持って出掛けたいと思わせるところが不良っぽいけれど、他に高田さんが提案してくれた革巻のボールペンもあり、これも不良っぽいカッコイイものです。

キャップを外すのがナイフの鞘を外すような所作にも思えるキャップ式のボールペンで、これで書き始める時相手は一瞬身構えるのではないだろうか。

中身のボールペンはBICで、この選択もバゲラさんらしいものだと思いました。

文房具に知識があって、いろんなものを知っている文具オタクの自分たちなら絶対にBICは選ばない。

でも高田さんは日本のメーカーの軽くスルスル書けるボールペンを選ばず、レトロスタンダードなペンとも思えるBICを選んだ。

高田さんは他に良いものがあるかもしれませんねと言っていたけれど、こだわっていないようで考え抜いてBICを選んだのだと思いました。

その理由について上手く論理的に説明できないけれど、BICを入れるのが一番不良っぽくて、バゲラさんらしい選択だったと私にも理解できます。

自分に一番欠けている不良っぽさはきっと自分たちの仕事においてあってもいい性質だと分かっている。

でも自分はそのカケラも持ち合わせていない。

こういうものを使うことで、自分にも少しは不良性が備わって、いい仕事ができるかもしれないと思わせてくれる、バゲラの革巻ボールペンです。

革巻ボールペンケース 机上用品 – Pen and message. (p-n-m.net)

Pinecone  カードケース・財布 – Pen and message. (p-n-m.net)