万年筆の価値感~カヴェコ導入~

5月にル・ボナーの松本さん、590&Co.の谷本さんとドイツに行きます。

14年前にも同じメンバーでドイツ、チェコ、イタリア旅行をしましたが、その時にも立ち寄ったニュルンベルグに1週間滞在して、蚤の市、ペンショー、ショップ巡りをしてきます。

カヴェコ社を訪問して社長に会うということも日程に入っています。ニュルンベルグ近郊はカヴェコ以外にもファーバーカステル、ステッドラー、スタビロなどのステーショナリーメーカーがあり、ステーショナリーの街と言ってもいいところです。

神戸も文具店が多いと、他所から来られたお客様によく言われます。たしかに元町には当店と590&Co.さん、神戸と三ノ宮にはナガサワ文具センターさんが3店舗あります。どの店もこだわりのある店で、そういう店が近くに5つもあるのは珍しいことかもしれません。
私の願いは、神戸に様々な文具店はもちろん、文具メーカーも誘致して、神戸をステーショナリーで活性化できたらというものです。

5月のドイツ行きを目指して、谷本さんは忙しい合間にコツコツとドイツ語を勉強しているし、松本さんはいかに旅を楽しくするかを色々調べてくれています。私は何をしているのだろう・・・。
そんな話をしていると、バゲラの高田さんにドイツに行くまでにドイツ語の単語を少なくとも300個は覚えた方がいい、と言われてしまった。
話が少し逸れましたが、カヴェコを訪問することもあり、カヴェコの品揃えを増やしました。


私の世代の万年筆愛好家は金ペンへのこだわりが強く、万年筆は金ペンであって欲しいとどうしても思ってしまう。それは書き味のこだわりで、メーカーごとの書き味の違いや、使い込んで馴染んできた万年筆の書き味を味わうことを万年筆の醍醐味だと思っているからかもしれません。

でも若い人はそれほど金ペンにはこだわっていなくて、もっと自由に楽しく万年筆を選んでいます。
スチールペン先でも楽しめる万年筆の筆頭がカヴェコであることは分かっていましたが、私自身の金ペンへのこだわりが強くて、取り扱いに長らく躊躇していました。
でも今回のカヴェコ訪問を機に、改めて当店なりのカヴェコの楽しみ方を考えてみたいと思いました。


1883年にハイデルベルグで創業し、1950年代最盛期を迎えたカヴェコでしたが、1976年に会社がなくなってしまいます。
1994年にニュルンベルグのグッドバレット社がカヴェコを復活させて、万年筆とボールペンを革ケースにセットした「カヴェコスポーツ」が登場しました。
その時のことをよく覚えています。
若かった私は今より頑なに万年筆は金ペンでないといけないと思っていて、ある日突然入荷した今までの万年筆と全く違うカヴェコを申し訳ないけれどおもちゃみたいだと思いました。
カヴェコスポーツのようなただ持っているだけで外で何を書こうかと思わせる存在の万年筆への理解がなかったし、当時万年筆はまだ実用重視なところがあって、趣味のものだという認識は少なかった。
でも本当に時代は変わって、万年筆の価値はいかに楽しいかというものになっています。

高価な限定品と方向性は違っても、スチールペン先の安価なカヴェコもそれと同じくらい楽しみを感じさせてくれる万年筆だということを、認識する必要があります。
ちょうどアートスポーツというアクリルレジン削り出しの少しゴージャスなカヴェコが発売されましたので、それを機会に以前から気になっていた「オリジナル」と「スペシャル」をラインナップしてみました。

⇒カヴェコ TOP

アウロラフェア開催します・3/1~31

平穏無事に生きたいと思って地道に生きてきた人が、晩年に自分は生涯何をやってきたのかと虚しくなることもあれば、アヴァンギャルドに生きることを実行してきた人が、中年を過ぎた時に後悔しながら平凡に憧れる。人生というのはそう思い通りにならないもののようです。

そう言う自分も、運の良さがあって今までやって来れたので恵まれていると思うけれど、自分の思った通りに生きているとはとても言えません。

それはどこの国の人でも同じで、ただ生きた場所が違うだけだと思います。

もちろんイタリア人でも同じだと思います。

そんなイタリアの光と影、見聞きした普通の人の人生をエッセイにして語る内田洋子氏の本で、私はリアルなイタリアを垣間見て、夢中になって読みました。

内田氏の本は飾りのない読みやすい文体で、現実を飾ることなく冷静に書いています。

ただのイタリア賛美や、一部のお金持ちのゴージャスな暮らしを読んでも多分心は動かない。内田氏は、イタリアに住む私と同じ一般の人のほとんどが送っているであろう上手くいかないほろ苦い日常風景の人生を書いていて、そんなところに惹かれ、イタリアの地に思いを馳せながら人生について考えることが多くなりました。

一時期ずっと読んでいましたので、私がイタリアについて語ることの多くは、内田氏の本の受け売りだったような気がします。

イタリア人の日常の中にアウロラは溶け込んでいて、辛い現実を時には忘れさせてくれるのではないか。書き味もデザインもいいものが多いイタリアの万年筆の中でも、アウロラは書く道具としての機能も高い次元で備えていて、最も好きな万年筆ブランドです。

店主が好きだと公言しているからか、店での販売機会も多いし、当店でペン先調整したアウロラは良い書き味をしていると自負しています。

本日3/1(金)から31(日)まで、アウロラフェアを開催いたします。

期間中55,000円以上のアウロラ製品をお買い上げのお客様に、アウロラのペン先を模したブックマークか、フラコーニ100のボトルインクのお好きな色を1つプレゼントいたします。

これはブランドのフェア特典ですが、当店独自の特典として、内田洋子氏の著書の中から、アウロラのあるトリノ周辺の北イタリアが舞台になっている話が入っているものをプレゼントいたします。

当店の特典である本は、55,000円未満のアウロラ筆記具(インクなど消耗品は除く)でもプレゼントいたします。

ちょうどアウロラでは非常に珍しいエボナイト軸の万年筆88エバニテジャーラが発売になったばかりです。

エボナイトはグリップがよく滑りにくい上に、熱伝導率が低いため手の熱でインクが漏れたり、インク出が多くなるのを防ぐ効果がある素材で、万年筆に適した素材だと言われています。

近年アウロラは華やかでキラキラしたアクリルレジン系の素材ばかりを使っていましたので、エボナイトを軸に使う万年筆を発売したのには驚きました。

イエローのマーブルエボナイトを使用しているのがエバニテジャーラ(黄)で、今後エバニテロッソ(赤)、エバニテベルデ(緑)などが発売されることも予想できます。

黄色のエボナイトの88にはただ華やかだけではない渋さが感じられて、イタリアの光と影を表現したものだと思います。

⇒AURORA アウロラ TOP

⇒AURORA 88エバニテジャーラ 

ダイアリー/手帳に書くペン

590&Co.の谷本さんと一緒に出張販売に行くようになって機会が増え、外に出ることが多くなりました。

その他にもイベントなどもあって毎月外に出ている時期もあるけれど、今は4月の横浜出張まで予定はなく、2月3月は神戸の店にいます。

出張販売がない時期の店の仕事は、忙しくも静かに過ぎていきます。ネット販売とご来店のお客様の応対、ネットへの商品の更新で店の1日は終わっていく。

そんな毎日の中、店であったことは正方形のオリジナルダイアリーに記録しています。お客様が万年筆を買われたという、華やかでその方にとって記念すべきことは、時間とともに箇条書きしていて、これが私の日記となっています。

色々な手帳を使ってみているけれど、予定と記録は必ずオリジナルダイアリーに残しています。それが日々の店での記録が散逸しないことにつながると思っています。

オリジナルウィークリーダイアリーの1日分のスペースにその日あったことを書くので、国産細字の万年筆くらいが良い。今はプラチナセンチュリー忍野をダイアリー記録用に使っています。

私のプラチナのイメージはペン先が硬く、インク出も抑え目なので、淡々と細かい字を書くのに最も適したものだと思っています。

淡々としたプラチナの冷静な筆跡に対して、パイロットは濃淡が出やすいので、何となく感情が表れているように思えます。セーラーは線に変化があって書いていて楽しいけれど、私はダイアリーに使う万年筆に客観的な冷静さを求めているのかも知れません。

話を戻すと、ウイークリーダイアリーはオリジナルのミネルヴァリスシオのカバーに入れて使っています。

そしてこのカバーについているペンホルダーには、店でサッと書けるようにボールペンを挿しています。

ダイアリーカバーのベルトを留めると、細めのペンでもクリップを引っ掛けなくても落下しないくらいにちょうどよく締めてくれる。ミネルバリスシオの手に吸い付くようなさわり心地や革の風情とともに、とてもいいカバーだと思っています。

2月も終わろうとしている時期にダイアリーについて書いてしまいましたが、毎日このダイアリーを使っていて、これ1冊に予定も日記などの記録も、これからの夢も全て書いて、そんな全てを包むカバーがやはり良いと改めて思ったからでした。

「書く」ことが少なくなった昨今、当店はこのオリジナルダイアリーで、皆様に手で書く楽しみをお伝えしたいと思っています。

⇒正方形オリジナルダイアリー・カバーTOP

⇒正方形ダイアリー・ノート用カバー/ミネルバリスシオ

こだわらずに選ばれる万年筆

昨年11月に亡くなった伊集院静氏の小説を、最近ずっと読んでいます。

そのモノの言い方や考え方が好きで、エッセイは発売されるたびに買って読んでいましたが、そういえば小説は短編以外あまり読んでいなかったと気付いて読み始めました。

長編ばかり選んで読んでいますが、こんなに面白い小説を書いていたのかと、今頃になって小説の伊集院静の世界に浸っています。

伊集院氏の小説は昭和の香りがして、懐かしさを感じながら読んでいます。

昭和と今とでは何が違うか具体的に言えないけれど、昭和の方が全てが不透明で、理不尽なことが多かったように思います。今で言う、色々なハラスメントが日常に普通に存在していました。

比較すると今の方が公平で、見通しの良い世の中になったと思うし、進歩したのかもしれないけれど、暗い昭和の時代を懐かしく思ってしまいます。

そういっても平成になったのは私が大学生の時なので、社会人生活も平成から始まりました。

世の中が変わったのは年号が変ったからではないと思うけれど、平成になってしばらくしていろんなことが急激に変わり出したと、同じ時代に生きた人なら感じていたと思います。

そんな変化する前の世の中の雰囲気を、伊集院静氏の小説から感じることができます。

趣味の文具箱でも以前紹介されていましたが、伊集院静氏は万年筆で原稿を書き続けた小説家でした。

主にモンブラン149を愛用していたようですが、モノにこだわることを嫌う伊集院氏ならそういうことも言われるのも嫌だったかもしれません。むしろこだわらないからこそ、いつも149を使っていたのかもしれない。

豪快なイメージとは違って、繊細で美しい文字を書く人だと思いました。

私の感覚だと149はたしかに握りやすく、長時間書くのに疲れにくいかもしれないけれど、コントロールのしやすさで言うと、146やペリカンM800の方が適度な太さなのではないかと思ってしまいます。手の大きさの違いだろうか。

私も149をよく使っています。自分なりのあたたかみのある文字が書けると思っていますし、多くの文豪が道具として酷使して、使い潰したものと同じものを使っていると思えることが愉快に思います。いずれにしても書いていて楽しい万年筆であることは間違いありません。

時代は常に移り変わり、仕事のやり方もどんどん変わっていくけれど、変わらずにあるモノは、必ず店で取り扱っていたいと思う。

そのひとつが定番の万年筆たちで、時代が変わって色々なモノが淘汰されていっても、いい万年筆は変わらずに書く喜びを私たちに感じさせてくれます。そのひとつが伊集院氏がこだわらずに酷使した149なのだと思います。

⇒モンブランTOP

クリップを使わないために~オリジナルレザーケース~

若い頃はスーツの胸ポケットに万年筆を挿していました。

アウロラはキャップを閉じると短くなって、胸に挿すとちょうどよく収まって恰好よかった。

ペリカンM800は少し長いので胸ポケットからキャップが出るけれど、クリップはポケットに挟むことが出来たので、やはり胸ポケットに挿していました。

ある時スーツの胸ポケットの布地がほつれていることに気付いて、すぐに万年筆を挿しているからだと思い当りました。

ペリカンもアウロラもクリップの内側はスムーズになっているものだと思っていましたが、実はどちらも内側に継ぎ目があって、布によっては引っかかることが分かりました。

クリップはペンをポケットに挿すためのものではなく、机上に置いた時の廻り止めもしくはデザイン上のアクセントではないかと思い始めて、クリップで布地を挟まなくなりました。

服を傷めたくなかったからですが、それ以上に万年筆のクリップが広がってしまう気がして、なるべくクリップで何かを挟むことはしたくないと思い始めました。

服のポケットにペンを入れる時は、1本挿しのペンケースに入れてからポケットに挿すようになりました。

当店で3万円以上のペン(中古・委託商品は除く)を買って下さったお客様にプレゼントしているサービスペンケースは、そのためのものでもありました。

サービス品ではなく、お買い求めいただけるものでカッコイイものを作りたいとずっと思っていました。

刀の鞘をのように片方が閉じていて、収めやすく取り出しやすいシンプルなデザイン。イメージして描いたスケッチを、当店オリジナルの革製品を作ってくれている革職人の藤原さんが形にして下さって、オリジナルのレザーケースが出来上がりました。

シンプルでオーソドックスなデザインと、どちらかのサイズに大抵のペンがピッタリ収められる、ちょうどいい大きさのものを作りました。

Sサイズは細めのペンを収めるのにいいサイズで、ボールペンやシャープペンシルを収納するためのものになっています。

Mは見た目よりも太めのペンも入る、モンブラン149・M1000も収まる万年筆用のサイズです。(リザード革は内張りがあるため146・M800サイズまで)

今はサドルプルアップレザーとクードゥー革で作っていますが、昨年発売してすぐ完売した、ゴージャスなリザード革が再入荷しました。

ペンをより優しく包み込むための柔らかい内張り革には、ピッグスエードを使っています。藤原さんはそのピッグスエードを裏表逆に使うことで、中のペンが滑りにくいようにしています。

とてもシンプルでオーソドックスなものかもしれませんが、そういうもので上質なものは意外と少なく、ずっとこういうものを作りたいと思っていました。

最近よくご紹介している綴り屋さんのペンはクリップがないデザインですが、こんな風に1本挿しレザーケースを使うと胸ポケットに入れて持ち運ぶこともできます。

⇒1本用ペンケース TOP

品川の出張販売~OMASの復活~

先日品川で590&Co.さんと共同で出張販売を開催しました。

中高生の間で木軸のシャープペンシルが流行していて、590&Co.さんにはたくさんの男子学生が列を作っていました。

当店は大人のお客様が来られて、顔見知りのお客さんとは再会を喜び合いました。初対面のお客様とはこれから親交を温めていけることを楽しみにしています。

私たちはこの再会や出会いのために出張販売に出ています。特に首都圏は当店のお客様も多いので、自然と回数が多くなります。

コロナ前に視察に行った台南ペンショーで、主催者の方との通訳をして下さってとてもお世話になった台湾在住のTさんと再会できたことも嬉しかった。

あれからあっという間に時間が過ぎて、4年が経ってしまいました。当店はあの時Tさんに夢を語ったように、台湾でも仕事ができるようになるのだろうか。

万年筆を購入していただいたり、ペン先調整をする場合、どうしても時間がかかります。

自然と色々な話をすることになりますが、この会話が当店とお客様の関係を築く大切な時間だと思っています。

590&Co.さんを目当てに来られた若いお客様には、万年筆を間に置いた大人のやり取りを見たり聞いたりして、万年筆に興味を持ってくれたら、と共同出張販売の時にはいつも思います。

今回の出張販売でも綴り屋さんの万年筆は注目されていましたし(近日中にWEBショップ掲載予定)、ギリギリ出張販売に間に合ったオマスの万年筆も目玉でした。

オマスは2016年に惜しまれながら廃業したイタリアの老舗万年筆メーカーで、多くのマニア受けする渋い万年筆をこの世に遺したメーカーです。

私もオマスのペンが好きで、2010年にはル・ボナーの松本さんと590&Co.の谷本さんとボローニヤのオマス本社を訪ねて、工場見学をさせてもらいました。

アメリカの万年筆メーカーASC(アルマンドシモーネクラブ)はオマスの部品などを引き継いで、オマスの万年筆作りを継承していましたが、中国系オーナーとASCのオーナーによってオマスの名前も復活することになりました。

パラゴンはオマスのセルロイドを使って現代流にアレンジされ、ゴージャスな万年筆に生まれ変わりました。オリジナルのパラゴンの印象とはまた違う、繊細な美しさを感じるものになっています。

オジヴァは創業オマスのものそのままに復刻されました。

シンプルな無駄のない万年筆ですが、独特の美しいラインを持っています。

新しいオマスのオーナーは、名品を生み出し続けたオマスへの愛情に溢れた人だと聞いていますので、創業オマスのモノ作りを大切に、ペン作りをしてくれるだろうと期待しています。

パラゴン、オジヴァという、まず代表的な定番モデルを創業オマスのデザインを継承して復活させて、新生オマスが誕生したことを知らしめてくれました。

⇒OMAS(オマス)TOPへ

震災の街 カスタム74

能登の地震で亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。

被災された方のご不自由な暮らしが一日でも早く元に戻りますことを願っています。

元旦の地震から新年を迎えておめでとうと言えない沈んだ気分でいます。

でも私たち被災していない者は、自分たちのできることをやって、日本を元気にしていかないといけないのだと思います。

1月17日は阪神淡路大震災の日でした。

あれから29年も経つとは信じられません。その日だけいつまで経っても最近のことのように思いだすことができます。私たちはそれぞれの震災の記憶を持って今まで生きてきたのだと思う。

当時働いていた職場があった三ノ宮センター街ではアーケードが落ちて、お店に入れるようになるまでに何日も掛かりました。何とか店内を片付けて再開したけれど、倒壊したビルの瓦礫の横をウインドブレーカーを着て、リュックを背負った人たちが無言で行き交う街では、ガムテープと防塵マスクしか売れませんでした。

売上とか利益とかといったことが言える状況ではなかったけれど、今を何とかしないといけないということで頭はいっぱいでした。

私は当時まだ万年筆の仕事に携わっておらず、色々な迷いの中にいました。

震災はもしかしたら転機になったのかもしれないけれど、1本の万年筆で人の生き方が変わるということを自分自身で経験してから、たくさんの人に万年筆を使ってもらいたいと思うようになりました。

今は、よりこだわりの強い人のために高級な万年筆の話をすることが多いけれど、書き味が良いと思って使ってもらえるものであれば本当はどんなものでもいいのかもしれません。

要はその人が好きな万年筆を、書き味良く、書くことが楽しくなるようにできればいい。

そんな想いもあって、今更ながらパイロットの最もベーシックな14金ペン先の万年筆「カスタム74」をWEBショップに掲載しました。

どこのお店でも売っているものだと思って何となく避けていましたが、これから万年筆を始めると言う人にお勧めできる万年筆だと思いました。

こういうベーシックな万年筆も当店でペン先調整すると化けると思っているので、ある程度万年筆を使っている人にも自信を持ってお勧めします。

カスタム74は黒金の軸しかないと思っている人も多いですが、ダークグリーン、ディープレッドなどのカラー軸もあります。

上位モデルのカスタム742や743よりも硬めのペン先ですが、放っておいてもペン先が乾かない基本構造の良さは変わりません。

道具っぽい雰囲気もある万年筆なので、仕事の道具として字幅を揃えて使うのも面白いと思います。

何か万年筆を使ってみたいと思っておられる方は、こういう万年筆から使ってみるのもいいかもしれません。

書き味の良い万年筆を使うと、書くことが楽しくなって、仕事や勉強の取り組み方が変わってくると思っています。

⇒パイロット カスタム74

好きなことをして生きていく時代に

最近若い人がステーショナリーに興味を持つようになってきていると感じています。中にはペン先調整や木軸のペン作りなどもする人もいるし、内容もかなり本格的ですごいことだと思います。

先日フィリピンからご家族で来られた若い男性(おそらく10代だと思います)が、プレゼントだと言って自作のインクを下さいました。

パッケージもきちんと印刷されたオリジナルのものになっていて、話を聞いてみると、インスタグラムで告知して直接販売しているとのこと。

今の時代の若い人の特長は、ただ好きなだけでなく、自分が好きなことで生きていきたいと思って、その道を模索していることだと思います。

好きなことで生きていこうと早い段階で決めて、その道を進んで行くことも、海外の店の店主に自作のインクをプレゼントすることも、私たちが若い頃には考えられなかった。

色々な意味で時代が変わったと実感します。

私も好きなことで生きているけれど、それを決断できたのは40歳直前でした。好きなことを仕事にして生きていくという考え方はあまり一般的ではなかったので、店を始める時の周りの反応は決して良いものではなかった。

自分自身ではそれが唯一好きなことだったし、自分の性格として好きなことでしか生きていけないと分かっていたので迷いはなかったけれど、そんな状況の中でル・ボナーの松本さんの存在はすごく励みになりました。

今の時代は、お子さんが好きなことで生きていこうとすることを親御さんも応援するというし、好きなことで生きていくことに抵抗のない時代になっていると思います。

そんな若い人たちは、ステーショナリーを仕事にして生きている私たちの背中をどのように見ているのだろうか。

当然自分の将来を考えた時に私たちの姿に重ねることもあると思います。こうはなりたくないよりも、こうなりたい、という姿を見せていたいと思います。

590&Co.さんのお店に来た若いお客様が、近所の当店にも来て下さることもあって、そういう人たちは木軸のペンだけでなく、万年筆にも興味を持ち始めています。

筆記具を突き詰めればそれも当然のことですね。

すでにサファリやツイスビーは持っている人が多くて、そういう人たちには、がんばってお金を貯めて、2,3万円くらいの国産金ペン先の万年筆を買って下さいと言っています。

それくらいの値段帯になると書き味も違うし、バランスも良くて長く愛用することができるからです。

万年筆の醍醐味は長く使い続けて、そのペンがさらに書きやすくなっていることを実感することだと思っています。自分の経験から、色々なブランドのペンが増えても結局私にとってプロフィット21が一番書きやすく、自分なりにきれいな文字が書ける万年筆のひとつであり続けているからです。

1/26(金)27(土)28(日)品川に590&Co.さんと共同出張販売に行きます。きっと若い人たちも来場されるだろう。そこでもセーラープロフィット21、パイロットカスタム742など、オーソドックスなデザインだけど、飽きずに長く使うことができる書き味を持っている万年筆を若い人に紹介したいと思っています。

綴り屋イベント入荷商品掲載

12月に開催した綴り屋さんのイベント後に仕入れた万年筆を、年明け最初の営業日である今日、WEBショップに掲載しました。

アーチザンコレクションは綴り屋さんで最も話題になっている最近の代表作です。綴り屋の鈴木さんの物静かな雰囲気からは想像できない、それぞれの素材を荒々しいほどに生かした万年筆です。

木軸のペンはどの作家さんのものか私には分かりにくいものが多いですが、綴り屋さんのものは一目で分かります。中でもアーチザンコレクションはすぐに綴り屋さんと分かる強烈な個性を放っています。

今回は新たにメープル、アンボイナバール(花梨こぶ杢)を使ったものが入荷しました。

綴り屋の鈴木さんはペンの素材として様々な木を使われますが、木にこだわるというよりは、ペン作家という言い方が合っていると思っています。

エボナイト、アクリルレジンなどの素材も使い、木もそういった鈴木さんが使う素材の中のひとつです。

そういう立ち位置なので、木という素材を思いきり生かしてペンにすることができた。綴り屋の鈴木さんだからこそ、アーチザンコレクションを作り出すことができたのだと思います。

今回初登場の「漆黒の森・テクスチャー溜塗」は、鈴木さんが4種の工具を使って表情を出したエボナイトに、同じ塩尻市の木曽漆の巨匠小坂進さんが溜塗を施したものです。

溜塗は下地に色漆を塗り、表面に生漆を塗っていますので、エッジの部分は使っているうちに少しずつ下地の色が出てきます。

この特性を生かして、溜塗の表情が出るように凹凸面をエボナイトのキャップと軸に作っています。このユニークな加工がテクスチャー表現で、鈴木さんらしい面白い他にない工夫だと思います。

「&one」は今回のイベントを記念して作っていただいた、漆黒の森をベースにした特別な万年筆です。

アクセントになっている部分に、当店のショップカラーをイメージしたパープルハートと590&Co.さんをイメージした黒檀を使っていただき、通常はシルバーですが金色の真鍮リングを使っています。

従来の漆黒の森とは雰囲気の異なる、特別な1本になりました。

次回の綴り屋さんのイベントは今年の8/24(土)・25(日)を予定していますが、毎回こういった限定品を作っていただきたいと思っています。

「フォーダイト」は、デトロイトにあったフォードの工場から発見された人工の鉱物です。

当時車の塗装は、ラッカーで塗った後加熱処理をしていました。床や壁に飛んだラッカーが何層にも重なり、色の層になっていたのを工員さんが発見しました。

フォーダイトは偶然出来上がったもので新たに作ることができない希少な素材です。綴り屋さんは、細軸の月夜にアクセントとしてフォーダイトを組み合わせました。月夜は筆のような感覚の扱いやすい万年筆で、当店で14金10号ペン先を装着しています。

綴り屋さんのペンで個人的に気になっている万年筆は静謐です。

太軸で万年筆らしい堂々としたシルエットですが、エッジ部分は鋭く繊細なラインで、綴り屋さんらしい研ぎ澄まされた美しさを感じることができます。当店では静謐の太軸に見合った、大型の14金15号ペン先を装着しています。

人気のあるアーチザンコレクションはこの静謐がベースになっています。

イベントから1か月近く経ってしまいました。

大人の落ち着いた豊かな時間が、そのイベントには流れていたと思います。そんな人たちの興味を引き、集めるのも綴り屋のペンの魅力なのだと改めて思っています。

⇒綴り屋TOP

ラグジュアリースモール~ペリカンM600グラウコ・カンボン~

店を始めて間もなく、ペリカンM450バーメイルトータスというペンを使い始めました。

M400サイズで、万年筆の中では小さい部類に入るかもしれません。軸は今も作られているM400ホワイトトータスと同じ鼈甲風の模様で、キャップはスターリングシルバーに金張りが施されたゴージャスな仕様でした。

M400サイズなのであまり大きくないけれど、ペン先は18金で値段はM1000と同じでした。

それなら多くの人がM1000を選ぶだろうと思うところですが、私はM450バーメイルトータスに惹かれました。

小さいけれどギュッと中身が詰まったような質量の高さや煌びやかさに、現代の他の高級万年筆とは一味違う、昔ながらの高級感というものを感じました。

でもそのM450は、軸にヒビが入ってインク漏れがするようになったので修理に出したら、トータス柄の部品がもうないとのことで、黒軸で戻ってきました。

トータス柄とはかなり趣がちがうけれど、金キャップに黒軸というのも、さらに昔っぽくて今も気に入って使っています。

小さな万年筆で高級感のあるものは意外と少ないと思います。

高級な万年筆はサイズが大きなものが多いのは確かで、様々な技巧を凝らして高級感を演出するためには、その方が有効なのかもしれません。

でもそこに小さなものがあるとより印象に残ります。

ペリカンは比較的小さな万年筆で高級感のあるものを出してきました。

M700トレドはその代表的な存在だし、往年の100シリーズの復刻の1930番台のシリーズなども小さいけれど、高級感のあるペンです。

あまりにもさりげなく発売されて目立ちませんでしたが、最近発売されたペリカンアートコレクションM600グラウコ・カンボンも小さめなM600ベースの高級感のある万年筆です。

カタログやネット画像で見た時には、黒軸に絵柄をあしらっただけのものに見えましたので、価格が高いかもしれないと思いましたが、実物を手にしてみると、仕入れた数が少なかったと後悔しました。

それはきっとペリカン日本も同じで、国内300本は少なすぎると思います。

サイズはM600 と同じですが、軸はこの万年筆専用のものです。

この万年筆に重量感をもたらす真鍮製の軸には縦方向に細かな溝が切られていて、そこに1909年にペリカンが開催したポスターコンペティションに入選したグラウコ・カンボンの作品のイメージが描かれています。

グラウコ・カンボンの作品は数年前に発売された「Plikan The Brand」という本にも掲載されていました。

軸は絵柄の上からラッカーが何層も塗り重ねられていて、手触りも良く、筆記バランスの良さの役にも立っています。

M600グラウコ・カンボンは、貴金属を使ったクラシックな良さではないけれど、現代の技術でM600を高級感のある仕上がり仕立てた、現代のスモールラグジュアリー万年筆だと思います。

この万年筆は後々いい万年筆だったと、中古品を探す人が増える類の希少なものになるような気がします。

⇒Pelikan スーベレーン M600 アートコレクション グラウコ・カンボン