ローラーアンドクライナー ライニガー~万年筆洗浄液~

ローラーアンドクライナー ライニガー~万年筆洗浄液~
ローラーアンドクライナー ライニガー~万年筆洗浄液~

万年筆の故障で最も多いのはインク詰まりなので、インクの出が渋くなった時やインクの色を変える時は、水洗いしてからインクを入れ直して下さい、と万年筆を初めて使うというお客様に申し上げています。

万年筆の洗浄は万年筆を快適に使う上でとても大切なことで、ペン先周辺を洗い過ぎて悪いことは何もないと思っています。
そう言いながらも私はとてもいい加減で、例えばインクをブルーからブラックに変えたいと思った時、水を2,3回吸排水して、中に薄くブルーが残っていてもお構いなしに黒を入れてしまいます。
それで今までトラブルは起こったことがなかったので問題はないのだろうと思っています。
ずっと茶系のインクが好きで、冬枯れの合間を縫って断続的に数々の茶系のインクを使ってきました。
1回使い始めるとそのインクを使い切るまで同じインクをほとんどの万年筆に入れて使います。
手紙などはその日の気分によって色を選ぶのもいいと思いますが、手帳の中はなるべく同じ色で統一していたい。
結局その時使っている細字のペン全てに同じ色のインクを入れることになります。

いい加減な洗浄をして、インクの色を変え続けてきたけれど、今回使いたいと思ったローラーアンドクライナーのセピアは、他の色と混ざると固まる危険性が高いと言われているインク。
普段いい加減な洗浄をしていましたが、さすがに固まるのは嫌だと慎重になっていたところに、ローラーアンドクライナーの万年筆洗浄液「ライニガー」が発売されました。
今までこの手のものは使い方が面倒に思えましたので、使ったことがありませんでしたが、ライニガーの良いところは使い方がとても簡単なところです。
ある程度万年筆内を水を吸排水して洗っておいてから、このライニガーを吸入します。
ボトル内にペン先サイズのポケットがあり、そこに液体が溜まるようになっていますので、吸入もストレスなく行えますし、液体が少なくなって、吸えなくなることはありません。
ライニガーを吸入したら入れたままで5分ほど紙に書きます。
書くことで、インク分が紙に出てきます。
5分ほど書いたら、ライニガーを排出して、水を吸排水して内部をすすいだらできあがり。
タンク内、ペン芯などに残っていたインク分を洗い流してくれます。
インクの固着が激しく、まだインク成分が残留してそうでしたら、これをもう一度繰り返します。
私はこのライニガーが来てから、万年筆を洗浄するときには必ず使うようになり、これがをしないと気持ち悪くなりました。
何度も言いますが、この製品良いところは簡単な使用方法にあります。それを利用して、なるべくマメに使うことをお勧めします。

万年筆内の洗浄はライニガーでできますが、インクが服や手に付いた時に役に立つものがあります。
クリーンシュシュです。
これも優れもので、私は調整などでインクが服に飛ぶことがありますが(それ以上に顔には無数に飛んできます)、クリーンシュシュでほぼ目立たなくなります。
クリーンシュシュは、食べ物のシミにも有効で、ラーメンの汁が飛んでできたシミなどもすぐに消すことができます。
日常的に持ち歩くのにも、クリーンシュシュはお勧めです。

書くことと関係のない、どちらも裏方的なものですが、万年筆を快適に使く上であった方が良いもののご紹介で、万年筆をスマートに使いこなすことにつながるものだと思います。

⇒ローラー&クライナー 万年筆洗浄液ライニガー(reiniger)
⇒クリーンシュ!シュ!ボトルタイプ

文字の形を気にして書く時に使う、柔らかいペン先

文字の形を気にして書く時に使う、柔らかいペン先
文字の形を気にして書く時に使う、柔らかいペン先

大阪市立美術館で開催されている「王羲之から空海へ~日中の名筆漢字とかなの競演~」を観に行ってきました。
電車の吊り広告や駅のポスターなどで大々的に宣伝されていますが、関西の書道界はおそらくこの展示の話題で持ちきりだと思います。

書を観に行くと言っても、まだ習い始めて1年も経っておらず書家のこともほとんど知らないレベルだったので、勉強も兼ねて真剣に観ることができました。
まだ仮名の草書などはまだまだ難解ですが、漢字の書には心に残ったものがいくつもありました。
揃った小さな文字で書かれたものなど観ていると、万年筆で文字を書きたくなりました。
万年筆でこういう文字を書こうと思った時、柔らかいペン先の万年筆でないと書くことができません。
それほど太い文字ではないけれど、筆圧で強弱が出せて、トメ、ハネ、ハライがきれいに出るようなものが必要になります。
パイロットの一番変わり種のペン先「フォルカン」は、これができるペン先の代表ですが、万年筆に慣れていない人が使うとタテ方向(ペン先が開く方向)に書いた時にペン先が開いてしまい、インクが切れて書けないことが多発します。
タテ方向は特に筆圧のコントロールが必要なのと、ペン先を少し親指側にひねってペン先の開きを抑制するなど、書く工夫が要るようです。

フォルカン以外にも日本の文字をゆっくり時間をかけて美しく書く役に立つ万年筆は他にもあって、それらもパイロットになってしまいますが、「SF(ソフト細字」や「SM(ソフト中字)」という軟ペン先があります。

通っている書道教室の窪田先生がカスタム743のペン先を評して、「割れるのが良い」と言われていましたが、実際にペン先が開いてしまうほど力を入れるわけではなく、筆圧の加減で線を強くすることができる柔軟性のようなものを指しているようです。
カスタム743くらいになるとペン先の粘りもあって、軟ペン先でなくてもペン先は十分に柔軟性があるようです。

私が惹かれた書の多くは、魅せるための作品として書かれたものではなく、公文書のようなものが多くありました。
当時から、文字の美しさが役人の立派な能力のひとつとして認められていたのだろうと想像しています。
コンピューターのキーを叩いて打ち出した文書に対して、それらの書にかけられた膨大な時間を想いました。
その書からは根気と集中、気迫のようなものが感じられて、きれいに整った楷書をいつまでも観ていたいと思いました。

私たちはパソコンで打つ出した文字に慣れてしまって、手書きのものを下書きのように見てしまう所があります。自分の心情の綴るブログのようなものでも、活字としてインターネット上に存在しています。
私たちはせっかく万年筆を使っている。
清書もなるべく手書きでありたいと思い、それに見合った文字を書きたいと強く思いました。

パイロットカスタム743

クレオ・スクリベントの万年筆 ~流行に流されないモノ作り~

クレオ・スクリベントの万年筆 ~流行に流されないモノ作り~
クレオ・スクリベントの万年筆 ~流行に流されないモノ作り~

多くの万年筆メーカーの製品が最近似てきているのではないかと思っています。
製造コストやパーツの価格などのコストを抑えて効率良くモノを作ろうとしたり、デザインの流行などを考えると、その時代に作られるものが似てくることは必然なのかもしれません。

でもお客の立場から見るとそれは少し寂しいし、それが業界自体をつまらなく、小さくしていることにつながっているのかもしれないと思っています。
主流と言われる流れは確かにあるかもしれないし、そこに大多数の好みと需要があるのかもしれないけれど、それが全てではない。
少数派かもしれないけれど、そんな人たちのためのモノ作りがあってほしいと思います。
そして万年筆メーカーは、流行に流されることなく、それぞれの信念を貫いたモノ作りをして欲しい。

今年になってから取り扱い始め、当店のラインナップに加わった「クレオ・スクリベント」は、自分たちのポリシーを貫いたモノ作りをしていると思っています。
それはもしかしたら、流行に無頓着なだけなのかもしれないけれど、それでもいい。流行から距離を置いた所に居続けるメーカーもあってほしい。

クレオ・スクリベントはベルリンの北西100kmほどの田舎町バートビルスナックにあるメーカーです。
1945年に創業し、直後に終戦を迎えてドイツが分裂したために東ドイツの国営工場になりました。
万年筆も作っていましたが、主に製図ペンを作り続けていました。
東西ドイツが統一された時に、OEMメーカーとして大メーカーの下請けをしていましたが、2000年からクレオ・スクリベントの名前でもペンを作りはじめました。
クレオ・スクリベントの最高級ラインが「ナチュラシリーズ」で、ボディ素材に銘木を使っています。
アンボイナバール(花梨こぶ杢)は、複雑で変化のある複雑な模様の部分を使用しています。
かなり入念に磨かれていますので、古木のような趣が感じられます。
ただキレイだけでない、レベルの高いモノの美しさを表現しようとしていることが分かります。

艶が出た花梨こぶ杢とピンクゴールト仕上げのパーツが対照的ですが、不思議と合っていたりします。
エボナイトモデルは、十一角形という独特な断面を持っていることを気付かせないような、自然な使用感の万年筆です。
大型14金ペン先はしっかりしていて、大変実用的な万年筆に仕上がっている。

スクリベントゴールドは、ブラックボディにゴールドパーツのオーソドックスなペンに見えますが、かなり独特な万年筆です。
キャップの尻軸への入りが深く、真鍮の重量感のあるボディがリアヘビーにならないようになっています。
私は1960年代の日本で流行していたエリートなどのポケットタイプの万年筆を思い出しました。
ボディ素材、特長などを挙げましたが、クレオ・スクリベントの持ち味は書き味の良さだと思っています。
モノによってはとても小さなペン先がついているけれど、それがとても柔らかくて上質な書き味に感じられます。

アーチを組み合わせたような、適度なテンションの複雑な形状のクリップもクレオ・スクリベントの魅力で、私はこのクリップの形がとても気に入っています。

クレオ・スクリベントもインクメーカーのローラーアンドクライナーもそうだけど、ドイツの田舎町には何かがあると思います。
どちらも流行が遅れてやってくるような田舎に存在し続けて今に至って、魅力を失わずにいる。
むしろ人の流れから離れた所にあるから、そうあり続けることができるのか。
中央から距離を置いて個性を放っている企業を見ると、私は痛快な気分になり、自分たちもそう有りたいといつも思います。

⇒クレオ・スクリベントTOP

偉大なチープレトロ~特別生産品ペリカンM120グリーンブラック~

偉大なチープレトロ~特別生産品ペリカンM120グリーンブラック~
偉大なチープレトロ~特別生産品ペリカンM120グリーンブラック~

もう6年前になりますが、仲間たちとベルリンを旅した時に、旧西ドイツ側と旧東ドイツ側では何となく雰囲気が違うことを歩きながら感じていました。
壁が壊されて20年経って人の行き来は自由なのに、そんなことはあるのかと思いましたが、帰ってから本を読んだりして旧体制の西と東ではいまだに生活格差があることを知りました。

それは週末の開催されているノミの市にも表れていて、旧西ドイツ地域でのノミの市には万年筆や趣味のものがたくさんありましたし、状態はキレイとまではいかなくても中古品として許せる範囲のものばかりでした。
それに対して旧東ドイツ側のノミの市は本当にガラクタ市で、たくさんあるゴミの中からお宝を見つけ出すような感じでした。
その中には旧東ドイツの工業製品らしいチープレトロなものがたくさんありました。
それらはきっと時代が移っても変わらず、良くも悪くもならずに東ドイツの国民の生活の中に有り続けたのだろうと思いました。
でも旧西ドイツ側のものも分裂直後は、旧東ドイツの工業製品とそれほど違わなかったのではないかと想像しています。

東西分裂直後のドイツ製品の雰囲気を感じることができる万年筆が入荷しました。
特別生産品ペリカンM120グリーンブラックです。

1953年に入門用万年筆として発売されたものの限定復刻モデルで、吸入式ではあるけれど、当時はほとんどの万年筆が吸入式でしたので珍しくも何ともなく、ペン先はスチール、ボディはプラスチックで装飾もない。
近年の万年筆の持つゴージャスさ上質さとは無縁の存在の、実用一辺倒の万年筆です。
チープレトロと言うと、中身のともなっていない安物というイメージがあるかもしれないけれど、私は安く仕上げるために最大限の努力をして作られたもので、その時代の流行とか、時世を反映したものだと思っています。
きっとこのM120グリーンブラックは、大人の高級品ではなく、スチューデントモデルという位置づけで、若い人や学生の人でも買えるものを目指して作られたのだと思います。

より多くの人に買ってもらうために作られた、偉大なる大量生産品。
現代で言うと、ラミーサファリがまさにそういう存在のペンで、安い素材を使い安く仕上げているけれど、万年筆としての機能は高い次元にある。
ドイツ製品は変わってしまった。
もちろん変わらなくては続いていけなかったのだと思うけれど、ドイツ製品の多くのものが洗練されて、作り込まれて、豪華になっていくに従って値段も高くなりました。

モノ作りは素朴だったけれど、そこに崇高な自分たちが生業とするモノに対する精神が感じられるもの。
チープレトロな古き良きドイツの工業製品に思いを馳せることができるものが、今回限定復刻されたぺリカンM120グリーンブラックです。

PelikanM120 グリーンブラック

銘木万年筆軸 こしらえ

銘木万年筆軸 こしらえ
銘木万年筆軸 こしらえ

万年筆用銘木ボディこしらえの真鍮金具仕様を新たに作り、先日のイベントでお披露目しています。
真鍮は使い込んでいくと艶が出たり、銘木と近い性質を持っていて、時間の経過とともに色も変わっていきます。
そんな時は真鍮用クロスで磨くとまた元通りの黄金色の輝きに戻るので、手入れする楽しみもあります。
木とのコントラストが鋭い、銀色で硬質なステンレス仕様も良いですが、真鍮仕様にもまた違う柔らかな味わいがあります。
今後こしらえは、真鍮、ステンレス、エボナイトの3種類のパーツで展開していきたいと思っています。

3種類のパーツそれぞれに合うペン先の色があると思って、ペン先とセットでこしらえをご購入いただく場合、それを合わせるようにしました。
今までステンレスのこしらえも、エボナイトのこしらえも、こしらえの名が示すようにペン先は刀身のような存在で、銀色のペン先にこだわってカスタムヘリテイジ912を合わせていました。
しかし、真鍮とエボナイト仕様には金色のペン先の方が万年筆としては合うのではないかと思い始めて、カスタム742と組み合わせるようにしました。
従来通りの銀色のペン先が好みだという方は、インターネットでお買い物の際にコメント欄に「カスタムヘリテイジ912希望」とご記入下さい。カスタムヘイリテイジ912仕様でご用意させていただきます。

その時々で工房楔の永田さんが持っていたり、手に入れた材の中で良いものをこしらえにしてくれていて、今回も良材に恵まれました。
花梨こぶ杢、ブライヤー、キューバマホガニーなどこしらえでお馴染みの素材でも良いもの揃いですが、今回はスネークウッドも製作しています。

しかし、ホームページにスネークウッドは掲載していません。
大変希少で、質量が高く、ズシリとした重量感があり、独特の模様を持った人気のある素材ですが、木の質感をそのまま生かす工房楔の仕上げでは必ず割れてヒビが入ります。
ご購入いただいた後にヒビが入った場合、工房楔の永田さんがきれいに直すことができますが、必ずヒビが入る素材なので、インターネットでの販売はせず、店頭でご説明させていただいて販売しています。
でももし興味がおありでしたら、お問い合わせ下さい。

こしらえは書くことを楽しむだけでなく、銘木を味わうという楽しみもあって、それは万年筆をより大人の仕事と遊びの道具にしてくれます。
当店はこれからもこしらえを育てていきたいと思っています。

⇒銘木万年筆軸こしらえ

ペン先調整人の言い分

ペン先調整人の言い分
ペン先調整人の言い分

インク出は最小限に絞り、使い続けるうちに筆記面ができて、そのポイントで書くとインクがたくさん出て気持ち良く書くことができるような調整が好きです。
そうすると使い込んで良くしていくような楽しみもありますし、ルーペで見たペンポイントの姿が美しいからです。
でもこれは私の好みであって、この調整をすると我慢して使わないといけない期間は2,3年あるし、万年筆を初めて使う人はこのままでいいのだろうかと不安になるのかもしれません。
店でペン先調整を依頼されてそのペンをこのような自分好みにすることはまずありません。
なるべくお客様の意向に沿ったものにしたいと思っていますが、ペン先調整を仕事にしているから、それは当たり前なのかもしれません。

書きにくいペンを書きやすくする、何かご希望があって、そのペンをその理想に近付けるようにしたいといつも思っていますが、そのご意向がそのペンを悪くしてしまうようなものでしたら申し訳ない気持ちで忠告するようにしますし、違う形でそのご意向を実現できるように代案を出すようにしています。

ペン先調整代を払ってよかったと思ってもらえるようにしたいといつも思っています。
私が若い頃のペン先調整をする各メーカーから派遣されてきた人たちは皆職人然としていて、一部の人の間で「~先生」と呼ばれていました。
その仕事はお客様の万年筆の問題解決もしながら、自分の世界観を万年筆に表現するような感じだという印象を持っていました。
そういう調整人(一般的にはペンドクター)の姿をお客様方が求めていたのだと思いますが、明らかに時代は変わり、その役割も変わってきていると思っています。

万年筆の良いところは、紙にペン先を置くだけでインクが出て、筆圧を書けずに書くことができる気持ち良い書き味と、ある程度の制約はあるけれど、自分の好み(書き癖、ペン先の硬さ、インク出の多少など)に合わせることができるというところです。
ペン先調整人は、その万年筆がどんな状態にあるのか、お客様がその万年筆の何を問題だと思っているのか、どのようにしたいと思っているのか、どのように使うのか、どんなものが好みなのか、どんな書き方をするのか察知して、最小限の加工でそれを実現し、合わせなければいけない。

そうするには正しい形を知っておく知識や見識が必要だし、闇雲に削らない理性のようなものとか、自分を出さない慎ましさのようなものも必要で、それはペン先調整に向かった時だけでなく、普段の心の持ち方から心掛ける必要があると思っています。
ペン先調整は、その万年筆をより良い状態にするという、万年筆販売員の持っておくべきスキルで、私たちは商売人であって、職人でも、先生でもない。
そこを勘違いせずに、自分たちの役割を理解しておくこと、ペン先調整が独り歩きしないことがこれからの万年筆販売におけるペン先調整のあり方のポイントのような気がしています。

進化する木工家 ~工房楔春のイベント3月26日(土)27日(日)

進化する木工家 ~工房楔春のイベント3月26日(土)27日(日)
進化する木工家 ~工房楔春のイベント3月26日(土)27日(日)

恒例になっております工房楔春のイベントを明日、明後日開催いたします。
このイベントは2009年から始まっていて、年1回が年2回になり、6年も続けられているのは、たくさんのお客様が毎回ご来店下さっているおかげだと改めて感謝しています。

永田さんは毎回何らかのニュースをこのイベントのために準備してくれていて、今回は真鍮金具の当店オリジナル銘木軸「こしらえ」や、楔オリジナルのチタン製金具の万年筆などです。
普段なかなか見る事のできない銘木のステーショナリーに触れて、作家の話を直接聞くことができるいい機会だと思っています。
思えば初めの頃は代表作であるパトリオットボールペンとカッターナイフ他、数点のステーショナリーしかありませんでしたが、どんどん増えていきペンシルやペンシルエクステンダーなどの筆記具、名刺ケース“ポルタ”、万年筆ケース“コンプロット”など、工房楔のどこを切っても魅力的なものが存在する。
次々と新しいものを作り出し、誰も作っていないもの、誰よりも良いものを作りたいと活動する永田さんの生き方を、少し生き急ぎ過ぎだと思うこともあるけれど、永田さんを突き動かすその情熱があるからこそ、他の木工家よりも良い素材を手に入れることができているのかもしれません。
でもどの作品も銘木だという素材の良さに甘えず、機能面でも使う意義のあるものだということは皆様ご存知だと思います。

それは永田さんが木だけでなく、様々なものに興味を持って使っていることの裏付けです。永田さんを知るお客様が永田さんと言えばオレンジをイメージするほど、オレンジ色の服、オレンジの鞄、靴、時計までオレンジ色という徹底したオレンジ好きです。
そんな永田さんがデルタドルチェビータに惹かれていったのも自然で、オレンジ色のドルチェビータのシリーズをほぼ全種類持っていて、コンプロット10に収めて持ち歩いている。
万年筆に並々ならぬ興味と愛情を持っていて、それらを使うことを楽しんでいるからこそコンプロットが出来上がったのだと思います。

ステーショナリーを楽しむ永田さんの姿を見て、私も木を楽しむことを知りました。
私はウォールナットやチークなど、何でもないように見えながら使ううちに味が出てくるようなものを好み、これらのものをキレイとキタナイの間と言ったりしますが、モノの有り方の中で最上の褒め言葉だと思っています。
それは本当に人それぞれの好みなのかもしれないけれど、工房楔の定番の素材、花梨こぶ杢のように玉杢がビッシリとあるものは華やかだし、黒柿や桑、黄楊は日本的な侘びた風情がある。ブライヤーはダイナミックな模様があるなど、どれも見所があって、味わいが違います。

皆様もたくさんの銘木の中で惹かれる素材があると思いますので、それらを見つけにイベントに遊びに来ていただけたら、そして工房楔と当店の遊びにお付き合いいただけたらと思っています。

工房楔春のイベント開催 3月26日(土)27日(日)

工房楔春のイベント開催 3月26日(土)27日(日)
工房楔春のイベント開催 3月26日(土)27日(日)

工房楔の作品はたくさんありますが、当店のオリジナル企画として発売しているものに「こしらえ」があります。

こしらえはパイロットカスタム742、カスタムヘリテイジ912の首軸から先のペン先ユニットをそのまま使うことができる、銘木万年筆軸です。
書き味も使い勝手も一流のこれらの万年筆を、さらに使い込むことで軸も育てられる楽しみを持つことが出来ます。
銘木の軸は使ううちに木に含まれる油分が表面に出てきて艶を作り、新品の時よりもどんどん良い風合いになってきます。
長い時間使って育てた軸を、ペン先ユニットを差し替えることで違う用途でも使うことができる。それはその万年筆を長く使いたいと思った時有利だと思います。
ペン先も使い込むことで育っていきますので、使い込んで書きやすくなったペン先を違うボディにして気分を変えることもできるという、こしらえには二重の楽しみがあるということになります。

こしらえに使う木軸は様々なものがあり、その時使うことができる良材を工房楔の永田氏が選んで製作してくれています。
花梨はやはり工房楔の代表的な素材で、模様も複雑で面白い。油分を多く含む素材なので艶も出やすいので、楔商品の素材選びに迷われている方には花梨をお勧めしています。
私は「キレイと汚いの間」のような素材感が好きなので、チークや桑、ブライヤーなどが好きですが(あくまでも主観です)、人それぞれの好みが分かれるところです。

こしらえのネジやキャップの内側、キャップのヘリには木以外の素材を使っていますが、ステンレス、エボナイトという順番で発売してきました。
ステンレスは、重量がありバランスのアクセントになって、いつでもきれいな状態にある木との対比が鋭くて良い素材です。
エボナイトは軽いので自然な使用感で、その模様や色合いから木との親和性が高い素材だと思っています。

このたびのイベントでは、新たに真鍮パーツ仕様のものを発売します。
真鍮は磨くとピカピカの金色になり、使ううちに光沢が落ち着いてくる、エージングする木に近い金属だと思っています。
工房楔の永田篤史という木工家の、木を見る確かな目と腕の良さを生かすことができて、万年筆を使っている人の要求を満たしたものがこの「こしらえ」だと思っていて、当店は今後もこのこしらえを永田氏とともにより良くしていきたいと思っています。

永田さんは今回のイベントでチタンパーツの万年筆も仕上げてくれることになっています。
今回も注目するべき新たなネタを持ち込んでくれますので、ぜひイベントに足をお運び下さい。

⇒万年筆銘木軸「こしらえ」cbid=2557546⇒万年筆銘木軸「こしらえ」csid=1″ target=”_blank”>⇒万年筆銘木軸「こしらえ」

オマス追想

オマス追想
オマス追想

ブログでは既に記述済みですが、このコーナーでもオマスの廃業について書いておきたいと思いました。少しお付き合い下さい。

6年前のル・ボナー松本さん、分度器ドットコム谷本さんと行ったドイツ~チェコ~イタリア旅行でボローニヤを訪れたのは、オマスの本社、工場訪問の約束がとれたためで、オマスのおかげでボローニヤやその周辺の街モデナ、パルマを訪れることができたとも言えなくもない。
どの町も古い街並みを持っていて、文具店が何軒もありました。それらを歩いたり、レンタルした自転車で走ったりして巡りました。

6月の始めでしたが、イタリアはアフリカの近さを実感させられるほど、乾いた風と強い日差しで、旅の思い出はその熱い日々とともにあります。
オマスを訪れた時、商品説明の中でパラゴンを「モンブラン149がライバルです」と説明していて、オマス社は本気で打倒モンブランを標榜してペン作りに取り組んでいることが言葉の端々から感じることができて、大いに共感しました。
規模も全く違うし、モンブランはオマスのことをライバルだとは思っていないかもしれないけれど、自分よりはるかに大きなものをライバルだと位置づけてそれを目指すという考え方は好きだと思いました。
大きな力と戦うなら、自分たちの強みや特徴を見極めて、それらを生かした戦略をとらないとまともに行くと歯が立たないに決まっている。
オマス社は自分たちの特長である、歴史的モデルの継承と未来に目を向けたモデルを同時進行させて発売していました。

万年筆の中でもオーバーサイズという範疇に入る大きなボディのパラゴンは、書くことが楽しくなる手応えのある最高の万年筆だと思いましたし、レギュラーサイズのミロードは最もきれいな文字を書くことができる万年筆のひとつだと思っています。私はその派手ではないけれど、万年筆の基本を押さえていた玄人好みなモノ作りにほれ込んでいました。
セルロイドやウッドなどのボディ素材も定番品として作り続けていたのに、自分がそれらを一本も持っていないのがとても残念ですが、もちろん一番残念なのはオマスがもう存在しないということです。
親会社が存廃を検討し始めた時にオマスのスタッフたちは必死になって、新しい引受先を探したそうです。
しかしオマスは譲渡されることなく、工場閉鎖、廃業してしまいました。
昨年90周年を迎えて、記念の万年筆もたくさん発売して活発に活動していると思っていましたので、オマスを失った喪失感は大きい。
タイムスリップしたような古い建物が連なり迷路のような通りを作るボローニャの街同様、オマスも時代に取り残されて存在する役回りを負っていました。

でもその役回りを維持して続いていくことを時代が許さなかったのかもしれず、私はここから何かを学び取らなければならないと思っています。

憧れる不良性 モンテグラッパエキストラ1930/エキストラオットー

憧れる不良性 モンテグラッパエキストラ1930/エキストラオットー
憧れる不良性 モンテグラッパエキストラ1930/エキストラオットー

大人の不良性、というものに憧れることがあります。
言葉遣いや服装など表面的なものではなく、何かちょっとした拍子に垣間見えてしまうもの。
それをわざとらしく演出する言葉遣いや服装、態度をとるということではなく、上手く言えないけれど、その人が醸し出している雰囲気のようなものです。

私は天邪鬼だったけれど、不良性とは程遠い人生を歩んできました。
自分にないものを取り繕っても仕方ないので無理はしないけれど、そういう憧れを抱かせる不良性を持ち合わせたかっこいい大人たちを何人も見てきて、その人たちの仕事には近付きたいとは思います。
その人たちは皆、見た目の取っ付きにくさとは裏腹に優しく、自分の仕事に情熱を持って取り組んでいる大いに語る人たちでした。
何かで怒らせたらものすごく怖いのだろうなと、恐れを抱かせる抑止力のようなものも持っている。

万年筆とは、そういう不良性からは程遠いものだと一般的には思われているけれど、実はそれほど離れているものではなく、そこに近づけてくれたり、その人の生き方、目指すものを投影してくれる数少ないモノのひとつだと思っています。
モンテグラッパエキストラ1930のような万年筆は、不良性を持った大人に似合うのではないかと思いました。

クラシカルなセルロイドのボディに不釣り合いなほど大きなペン先。デザインはそれほど奇をてらったものではないけれど、個性と力強さと色気を感じさせる、明らかに普通の万年筆とは違うただならぬ雰囲気を持っている。
そして、888本の限定で発売されたエキストラ1930の限定版オットーは、クラシカルなエキストラに華やかさを少し加えたもので、こんなにカッコいい万年筆は久しぶりに見たと思いました。

モンテグラッパ。不良性を持ち合わせた大人にこれほど似合うものは他にないと思いますし、自分にない不良性を加味してくれるものでもあると思っています。


⇒エキストラ1930cbid=2557105⇒エキストラ1930csid=3″ target=”_blank”>⇒エキストラ1930