ペン先調整雑感

ペン先調整雑感
ペン先調整雑感

ペン先調整はどういう時にしたらいいのですか?とよく聞かれます。

包丁のように刃が鈍くなって切れ味が悪くなったら研ぐというものではなく、書きにくいと思われたらその時にペン先調整に出されることをお勧めしますが、書きやすいと思っているものを調整に出す必要は全くないと思います。

でもそれでは、自分はどこまでを求めたらいいのかという何か哲学的な話になりますので、そんな時は一度拝見させていただいて、調整する余地があれば調整し、正常な状態で、調整の必要がなければ調整せずにお返しするようにしています。

万年筆をより書きやすくするペン先調整は、こんな風にしたら完璧という正解があるわけではありません。
ペン先の状態には、正常という野球で言うとストライクゾーンのようなものはありますが、その万年筆を使われる人によって好みがあって、ストライクゾーンの中でどのようにすれば気に入っていただけるかを模索する作業もまた、ペン先調整です。

特にインクの出方の調整はどのようなインクを使うか、どんな紙に書くか、筆圧は強い方か弱い方かなどを考慮して調整することによって、よりお好みに合ったもの、理想の万年筆に近付けることができると思います。
そういう理由で、当店で万年筆調整を依頼される場合は、インクは入れたままで、いつも使われる紙をお持ちいただくと万全です。

私はペン先調整をするのがすごく好きで、書けなかったり、書きにくかったりした万年筆が自分の手によってその役割を全うすることができるようになった時、本当に嬉しくなります。
それはペン先調整を始めてから今まで、ずっと変わりません。
でもやればやるほど難しさが見えてきて、ペン先調整をするようになったばかりの頃の方が、何も考えずに簡単だと思っていたようなところがあります。

ペン先調整はペンポイントをルーペで見ると誰の調整かサインがしてあると思えるくらいに個性が表れるもので、おそらく調整師によって美学のようなものがあるのだと思います。
私にも理想の形のようなものがあって、全てのペン先をその理想の形になるようにしたいと思っているところがあります。
でも例えば店を始めたばかりの6年前よりも今の方が断然経験値は上がっているので、当時の自分の仕事を見ると、きっとまた違うものが見えるように思います。

そして、万年筆のペン先調整をペン先の研ぎと考えてしまうのは、私はあまり賛同できないところがあります。
ペンポイントを削らなくても書きやすくなるペン先はたくさんあるし、削れば削るほど、ペンポイントの寿命は短くなっていきますので、削る量をなるべく少なくするのが、良いペン先調整だと思っています。
それでも書き味の良い万年筆に出会った時、その研ぎがどのようになっているのか気になって、ルーペですぐに見たいと思います。
昔の万年筆、特にドイツのものは、丁寧に研がれているものが多く、そんな仕事を参考に、今の万年筆に反映できないかを、いつも考えています。

ペン先調整をする万年筆販売店として営業しているので、完璧な状態のペン先をお客様にお渡しする気持ちでいますが、日を追うごとに自分の中での完璧な状態は変化していて、まだまだ行き着いたという感じはありません。
おそらくこれからもずっと追究し続けるのだと思っています。