オリジナルシステム手帳“コンチネンタル”

オリジナルシステム手帳“コンチネンタル”
オリジナルシステム手帳“コンチネンタル”

昨年末からベラゴの牛尾氏とともに進めていたシステム手帳が出来上がりました。
牛尾さんとは一昨年に出会ってから、職人から抜け出したような洗練されたセンスや考え方に共感していましたので、いくつかの製品を作っていただいているライティングラボとしてだけでなく、当店としても何か協同企画したいと思っていました。
システム手帳は、手帳を楽しむために提案したいと思っていたアイテムでしたし、当店の業務でも既に活用していましたので、何とか形にしたいと思っていました。
外側は使用感が出て、年季が現れるけれど、中を開けるととても美しい端正なもの。
豊饒な自然を感じさせながらも、人間のパワーが感じられるもの。
コンチネンタルという名前はそんなイメージからつけられています。

この企画が動き出した時に、外側には傷などの細かいことを気にせずに使うことができるような、素材感が感じられるもの、内側には繊細で上質な素材を使いたいと思っていました。
中と外が対照的で、外側から見えないところに上質なものを使う。
それが日本的な粋にもつながると考えて、牛尾さんにその考えを伝えました。
牛尾さんは、奇をてらわないスタンダードなものを作ろうと言ってくれていて、それが牛尾さんの革製品作りの心掛けなのかなと、あまり多くを語らない一言から察していました。
端正な内側の世界を表現する素材としてボックスカーフを使いたいとイメージしていましたが、外側の革に対して、具体的な革名を挙げることができませんでした。
牛尾さんに考えてもらって、いろいろな革を当たってもらいましたが、牛のショルダー革のダグラスという革が最適だということになりました。
あまり今まで使ったことはありませんが、私が目指したものを実現するために牛尾さんが考え抜いてくれた素材で、数年後が楽しみです。

ボックスカーフは、高級靴にも使われる仏アネノイ社のもので、ボックスカーフの定番です。ブラシなどを掛けるとさらに美しい艶を出してくれるし、シルキーな手触りを持っています。
手帳を開いた時にボックスカーフが見せてくれる極上の世界を完璧に作りたいと思い、内張りはもちろん、ページの先頭と最後の紙押さえと、リフィルから少しだけ顔を出すインデックスもボックスカーフで作ってもらいました。
システム手帳の中身を雰囲気のあるものにしたいといつも思っていて、それはインデックスによるところが大きいと思い当たりました。
しかし、最近趣きのあるインデックスを発売しているメーカーがなく、贅沢なボックスカーフのインデックスを作るに至りました。
前表紙の内側のメモ片を挟んでおく縦長のポケットと後表紙内側のカード入れも、とても浅いものにして、入れているものが分かりやすく、入り込んでしまわないようにしています。

ペンホルダーは万年筆店のシステム手帳らしさを表現できるところだと思っていて、中に込める万年筆を充分に保護してくれるサイズになっているし、牛尾さんはペンホルダーの内側にもボックスカーフを裏打ちしてくれていて、とても丈夫なものにしてくれています。
ペリカンM400、キャップレスマットブラック、ファーバーカステルクラシックも収めることができます。
リング径は20㎜というスタンダードな最もシステム手帳らしいものを採用していて、それに伴って、全体のバランスもシステム手帳として安定感のあるスタンダードなプロポーションを持っています。
ベルトは細めで、このシステム手帳の外見を良いものにする役に立っていて、牛尾さんのセンスがここにも発揮されています。
微妙な四隅のカット、細かなステッチなど注意してみないと分かりませんが、妥協のない強い心で作られたものだと思っています。

牛尾さんの持てるセンスや技術力がよく引き出せたと言えるとカッコいいけれど、牛尾さんなくして実現しなかった、持っているだけで笑みがこぼれる、雰囲気を持っている、作りの良いシステム手帳が完成しました。
一度に僅かしか作ることができませんので、完成次第順次出荷ということになり、最大で1か月お待ちいただくことになります。

*今の時点でお渡し予定は5月下旬になります。

手帳のための万年筆3種

手帳のための万年筆3種
手帳のための万年筆3種

今度発売予定のシステム手帳には、ペンをしっかりと保護する大型のペンホルダーがあります。
ペンホルダーにはもちろん大きさの制約があって、どんな大きさの万年筆でも入るわけではありませんが、私が手帳に使っていただきたいと思っている万年筆は入るようになっています。
それほど太い万年筆は入りませんが、パイロットキャップレスマットブラック、ペリカンM400、ファーバーカステルクラシックなどはピッタリ入れることができます。
それらは手帳用の万年筆としての資質を備えたとても良い万年筆だと思っていて、ペリカンM800などのレギュラーサイズの万年筆とはまた違う味わいを持っています。

手帳に書く時、一気に長時間筆記するということは少なく、少し書いてはページを変えて、また少し書くということを繰り返すことが多いと思いますので、実用的にはキャップレスが手帳用に最も適した万年筆だと断言してもいいくらい、手帳とキャップレスは良い相性です。

キャップレスには、私には細すぎると思えるくらい細いEFのペン先もあります。
ご存知の方も多いですが、キャップレスはただペン先が引っ込むだけでなく、ペン先が引っ込んだと同時にシャッターが閉まるようになっていて、ペン先の乾燥を防いでいます。
これがなかなか性能が良く、キャップレスのペン先が乾いて仕方ないという話は聞いたことがない。
ちなみに当店のシステム手帳に入れて一番色が合っているのはマットブラックだと思っています。
パイロットのインクはかなりサラサラした、粒子の細かい性質なのでパイロットの万年筆を純正のインクで使用するときには問題は起こりませんが、他社インクで使う場合、そのインクに合ったペン先調整をした方が、細字や極細の場合は良いようです。

ペリカンM400は軽くて細めのボディの万年筆で、そのコンパクトさ、軽さが手帳用に向いています。
ペリカンの万年筆を手帳で使う場合、そのインク出量やペン先の太さが私には不満で、ドイツ製の万年筆に総じて言えることですが、どれもペン先が太く、インク出が多くて手帳に書きにくい。
インク出を抑えて、ペン先を細く調整するという加工をした方が手帳には使いやすいと思っています。

ファーバーカステルクラシックコレクションの太さ、長さがこのシステム手帳のペンホルダーのサイズには最もピッタリで、クラシックコレクションの万年筆がここに収まっているところをいつもイメージしていました。
キャップネジの回転数が少なくて、開け閉めすることが素早くできますし、もともとキャップを尻軸に差して筆記するバランスにはなっていないので、キャップを空けて書く、閉めてすぐ開けるということを繰り返しやすい。
デザインもシンプルでありながらカステルらしさがあって存在感がある。
ボディが木で素材感が感じられるところも、新しく出来上がるシステム手帳と合っていて、とても気に入っている組み合わせです。

3つの万年筆をご提案しましたが、どのペンをこの手帳に組み合わせるかは使われる方の自由で、こういった手帳とペンの取り合わせを考えることが遊び心で、とても楽しいことだと思います。

コンプロット4ミニ用ケース・LIBRETTO(リブレット)

コンプロット4ミニ用ケース・LIBRETTO(リブレット)
コンプロット4ミニ用ケース・LIBRETTO(リブレット)

以前もライティングラボで工房楔のコンプロット4ミニ用のカバーを作っていました。
牛革の素材感そのままの栃木レザーを使ったもので、内装は合成皮革エクセーヌを使った凝ったものでしたが完売し、今回は前回と少し違う感じのものを作りたいと思いました。
前回から、辞書が入っている厚紙のケースのような体裁のものをイメージしていて、今回はよりそれに近いものができたと思っています。
コンプロット4ミニは文庫本サイズで、本棚に並べてもちょうどいいサイズなので、より本のようにして、本棚に立てたいと思いましたので、辞書のケースに思い当たったのです。

名前のリブレットというのは、小さな本とか台本という意味がありますが、もちろん小さな本のイメージでネーミングしています。
今回、ペンケースSOLO、インクケースCADDYを製作してくれているイル・クアドリフォリオの久内夕夏さんに製作をお願いしました。
久内さんについては今さら語るまでもないライティングラボや当店にとってお馴染みの方で、当店に来られた久内ご夫妻を見かけたお客様も多いと思います。

黙っていると美男美女なのに、話すと人懐っこいお二人で、楽しみながら作品製作に取り組んでくれています。
今回のリブレットにもそんなお二人の遊び心、余裕のようなものが感じられます。
目指した通り、薄く、軽やかに、スマートに仕上がっているリブレットですが、きっと夕夏さんはかなり試行錯誤をされたのだと思います。
何度も木型を修正して、コンプロット4ミニ用の辞書のケースに相応しいものを目指して作って下さり、試作が上がる度にどんどん良くなっていきました。

最終的に出し入れの時に、中の空気の負圧を防ぐために、背にメダリオンを空けるというアイデアを出してくれましたが、中身であるコンプロット4ミニの木の感じを外から見ることができ、デザインとしても良いアクセントになっているという、カバーとして理想的なものになりました。
コンプロットを保護するための革のケースですが、イル・クアドリフォリオらしさがその艶やかな革の仕上げにも出ているし、メダリオンなどはイル・クアドリフォリオならではアイデアだと思いました。

主役はもちろん中に入る工房楔のコンプロット4ミニですが、ライティングラボは頼まれもしないのにお節介にもそのケースを作ってしまう。
でもコンプロットウェアリブレットは、コンプロットを使うことをもっと楽しくしてくれるのは確かで、私たちライティングラボは、そういうものをもっと作りたいと思っている。
このリブレットは、他のイル・クアドリフォリオのもの、ペンケースSOLO、インクケースCADDYなどと揃いで使うことができます。
色はネロとマローネしか製作していませんが、受注生産でイル・クアドリフォリオの他の色、ペンケースSOLOで製作可能としている色の中からお作りすることは可能です。
このシリーズの中から、自分の色を見つけて机上用品を統一感のあるものにする。
重厚な趣をそれらのモノは演出してくれるし、どれにもライティングラボやイル・クアドリフォリオの遊び心のようなものを表現することができたと思っています。

⇒WRITING LAB.コンプロット4ミニ用ケースLIBRETTO

システム手帳製作中

システム手帳製作中
システム手帳製作中

この店を始めてからシステム手帳を避けてきたところがあります。
万年筆で書くということだけを考えると、綴じノートの方が圧倒的に書きやすく、システム手帳のリングがとても邪魔に感じられました。
でもリング式のシステム手帳は、ドキュメントを分類して保存するのに適しているし、ダイアリーとシステム手帳を併用するようになって、自分のノートの中で情報がそのまま眠ってしまうようなことがなくなりました。

何か記録を残すときに、その情報を引き出すための保存の仕方をしないと、それは二度と目にすることができなくなる。
言うまでもありませんが、ダイアリーは時系列でページが並び、システム手帳は時系列にとらわれずにカテゴリーごとの分類をすることができる。
私にとって、ダイアリーやメモに書き込んだ情報をシステム手帳の転記しておくことは後々のためでもあるけれど、とても楽しい作業で、万年筆を使う楽しみの原点でもあります。

就職した年に買って、先輩から分不相応なものを持っていると馬鹿にされたブライドルレザーのシステム手帳がボロボロになったからでもないけれど、Pen and message.としてシステム手帳を作りたい、そろそろ作ってもいいのではないかと思いました。
私がシステム手帳を使い始めた当時はその25mmのリングにパンパンになるほどたくさんの紙を入れていました。
ダイアリーやドキュメント、アドレス、名刺ファイルなどなど。
多くのリフィルが発売されていたし、たくさんのメーカーがシステム手帳を作っていました。
10年ほど前に綴じ手帳、ノートのブームが来て、システム手帳の黄金期は終わり、スマートフォンがそれにとどめを刺したけれど、これでないとない味わいがあって愛用し続ける人は必ず存在している。
システム手帳も万年筆と同じように、より深いところで生き残っていく段階に入ったのだと、手帳愛好家として、ある程度の距離を保ちながら見ていて思いました。
私もそういうものを求め続けていて探し回りましたが、よりこだわりこだわりに相応しいもの、楽しみのあるシステム手帳が求められているのではないかと思っています。
一部のハイブランドが出すもの、量販店のようなところで鎖でつながれて売られているもの以外のものが欲しいと思って、その想いが強くなっていました。

何のたたき台もない、ゼロからの物作りだったけれど、システム手帳の製作を引き受けてくれたベラゴの牛尾さんは私のアバウトな要求に合う革を探して、ベラゴカラーも出して欲しいという要求にも応えたものを作り始めてくれています。

牛尾さんはそれほど多くを語る人ではないし、その熱い情熱は心の一番奥に仕舞っていて、なかなか見せない人だけど、ベラゴの製品から見受けられるそのセンスや革製品に対する考え方は洗練されたものであることは分かっていて、共感していました。
「都会的」という言葉が牛尾さんが作るものにピッタリの言葉ですが、牛尾さんは長田区の出身で、垂水出身の私は街である長田の子にコンプレックスがある・・・というのは冗談だけど。
システム手帳は20㎜の容量のあるリング径で、素材感のある牛革の表紙とデリケートできれいなボックスカーフの内側、手帳を開いた時に気分が盛り上がるように、革のページ押さえとインデックスを備えたものになっています。

ちょっとこだわり過ぎて、値段が高くなってしまいましたし、たくさん作ることができませんでしたが、間もなくお披露目できると思います。

神戸派計画ノートiiro(イーロ)とラミーアルスターブルーグリーン~スプリングコレクション

神戸派計画ノートiiro(イーロ)とラミーアルスターブルーグリーン~スプリングコレクション
神戸派計画ノートiiro(イーロ)とラミーアルスターブルーグリーン~スプリングコレクション

私の好みだけで商品を選ぶと黒と茶だけになって、とても暗い店になってしまいます。
色彩よりも素材感のようなものを優先してしまって選んでしまうからです。
でもこんな小さな店でも、私の周りに何人かのデキる人がいて、その人たちが店が真っ暗になるのを防いでくれている。
当店のスタッフKはそのバランス感覚で、時に忠告してくれるし、大和出版印刷で神戸派計画を率いている川崎さんも、カラフルな商品を企画して、当店に納入してくれています。

大和出版印刷さんの紙製品が変わったのは、川崎さんが神戸派計画を立ち上げてからでした。
白い罫線のノートCIRO(シロ)。筆記具を持ち歩かなくてもチェックを入れることができるメモ帳オリッシィなど。
独特なマニアックなアプローチによって企画されたそれらの紙製品は当店に彩りを与えてくれています。
カラーチップで有名なDICカラーデザイン社の協力を得て、大和出版印刷さんが作ったノートiiro(イーロ)は100色を発売すると川崎さんの豪語のもとに発売された新しいノートです。
女性が手に持った時に最も美しく見えるサイズが、このiiroの新書サイズで、軽くスマートに使っていただけるものを目指して作られています。
基本の5色は既に発売されていて、このたび2014スプリングコレクションが発売されました。

アジュール/地中海に広がる空のような、明るく冴えたブルー
パリス・ピンク/ 映画「シェルブールの雨傘」で記憶に残る、鮮やかなピンク
ネーブルズ・イエロー/ 中世イタリアのナポリで愛された、やや赤みのあるイエロー
ラヴェンダー/心を落ち着かせるハーブの色で、やや青みの明るい紫色。
カフェ・オ・レ/コーヒーとミルクのハーモニーに、ほっと一息。浅い茶色。
それぞれの色のイメージを言葉で表現したものが、ノートの表紙に貼られています。
それぞれの色に意味があって、自分にとって特別なものになる色を見つけることができそうです。

春の限定色としてもうひとつ、ラミーのトレンドカラーを取り入れた限定品の取り組みから、アルスターブルーグリーンをご紹介します。

私は最近、休みの日はサファリの万年筆を使うようにしています。
小さな手帳とサファリを鞄に放り込んで、行った先ごとに時間と場所をメモして行動記録としています。
特に何の役にも立たないけれど、ボーツと過ごしていた休日の意識が違ってきているような気がします。
サファリを使うのは、軽くて取り扱いに気兼ねすることもないし、パッチンと閉まるキャップなので、立ったままでもサッと書きやすい。
それにこんなにカジュアルな存在なのに、万年筆に備わっていて欲しい機能が完璧に備わっているところもサファリを支持する理由です。
グリップの形状にそって指を置くと、ペン先の書き味の良い部分が紙に当たるようになっている首軸。インク残量が確認できるボディに開けられた窓。転がらないように工夫されているボディの形状など、高級万年筆でもそこまで行き届いているものは少ないのではないかと思える機能が、このチープに見える万年筆に備わっていて、万年筆とはこういうものだというメッセージがサファリから感じられるのです。

そんなサファリを重厚なアルミボディにして、大人っぽく演出したものがアルスターです。
大人が持つべきカジュアルな万年筆という印象がアルスターにはありますので、ファッションなどのトレンドカラーを取り入れた今年の限定色ブルーグリーンは大人の女性でも抵抗なく使うことができるものだと思います。
こういったアルスターの存在もまた、当店に彩りを加えてくれる助けになっています。


スタンダードを求めて~ペリカンM400~

スタンダードを求めて~ペリカンM400~
スタンダードを求めて~ペリカンM400~

服でも靴でも、まずスタンダードを押さえたいと私は思います。
時代が下がるとともに、その時代の求めに応じて変化し、細分化して、様々なものが生まれたのだということを把握して、その派生したものではなく、原型になったスタンダードともオリジナルとも言えるものを知りたいと思います。

どんなモノでも同じだと思うし、どこのお店や業界も同じ、常に新しいものを提案して、本流でないスタイルのものや、まだあまり知られていないものを顧客のレベルを考えずに提案する。
それが限定万年筆の乱発と言っていい現在の万年筆の業界の状態を作ってしまったのだと思います。
もちろんそのモノに精通して、一通りのものを所有している人には当然のことですが、そういう段階にない人には、まずスタンダードを示すべきだと思います。
スタンダードと言えるものには定番品ということ以外にも条件があって、まず歴史的な背景が必要だと思っています。
万年筆の中でひとつの流れを作ったオリジナルのものがスタンダードと言えるもので、その中で今回取り上げたいものが、ペリカンM400です。

万年筆をたくさん持っている「通」の人には見向きもされない超定番の万年筆ですが、これから万年筆を買いたいと思っている人には避けて通って欲しくないスタンダードだと思っています。
ペリカンM400が生まれた1950年、万年筆は全ての人の筆記具でした。
きっと皆手帳を万年筆で書き、手紙ももちろん仕事の書類も万年筆で書いていました。
そんな使われ方においてM400は、高級品であることには違いなかったと思うけれど、きっといつもポケットに差して持ち歩いて、すぐに取り出して使うような存在だったのではないかと思っています。
でも現代においての万年筆は、全ての人の筆記具、日常の筆記具ではなく、気付いた人のためだけの、より特別な筆記具になっていて、反論する人もいるだろうけれど、ステータスのような存在になっている。

そんな現代において、万年筆のペン先は大きくなり、大型化していきました。
ペリカンもそんな時代を読んで、1990年代にそれまでなかったM800を発売し、ペリカンの代表的なモデルとして、携帯性よりも机上での使用で最も書きやすいと思われるバランスをM800に与えています。
時代は大型の万年筆を求めたけれど、M400は万年筆が全ての人にとっての筆記具だった時代と変わらない姿で今の時代に存在し、万年筆を使う人のための筆記具として有り続けています。
私は万年筆は大は小を兼ねると思っていたけれど、M400を愛用する人の中にはきっと小は大を兼ねると信じていて、ポケットに入るM400だからいつも携帯することができて、様々な用途、その人の万年筆の全ての用途に使っておられる方もたくさんおられると思います。

セルロイドと透明のアクリルを重ねた板を作り、その断面をカットして、筒状に丸めてボディとする定番品としては異例に手間のかかる工程で、作り出されるスーベレーンシリーズの最も特長的な縞模様は、60年以上前にこのM400で世に出て今もそれを頑なに続けている。
ペリカンでは当たり前になっている、安定感のあるピストン吸入機構も今では特長的なスペックのひとつで、インクがたくさん入るという実用性とともに、メカニカルな面白みも感じてもらえる。

万年筆が日常に筆記具だった時代の姿を現代に見せてくれているM400は、まさに万年筆のスタンダードで、これから万年筆を揃えたいと思っている人が安心して買うことができるものだと思っています。

⇒Pelikan M400
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美学を表現するペンケース

美学を表現するペンケース
美学を表現するペンケース

昨年末からオマスパラゴンの万年筆を使っていて、大変気に入っています。
4年前にオマス本社を訪ねた時、CEOのブライアン・リー氏がパラゴンは、モンブラン149をライバルとしていると言っていました。
その言葉から、オマスのモンブランへの強いライバル心を感じ、それを私は好意的に聞いていました。
世界を二分しているグループLVMH傘下の万年筆メーカーとして、リシュモングループの一員であるモンブランに対抗意識を持っているというつまらない理由ではなく、伝説的な万年筆149を唯一のライバルとする世界に誇ることができるものだという自信をその言葉から感じ取ったからです。

パラゴンを私の全ての用途、手帳から手紙、日常でも旅先でもぜひ使いたいと思いました。
元々大きなものが好きで、私にとって大きいというだけで敬意を持つべき存在に思えます。万年筆も大きなものの方が外観も、実用的にも気に入ることが多く、小さな万年筆に勝手な不満を感じている。
特に手紙を書く時など、小さな万年筆だとその重量などに不満を持つことが多く、大型の万年筆が自分の用途には合っていると思っています。
大きく、堂々とした万年筆は、大太刀をイメージさせ、大太刀は複数本入るペンケースでなく、それ1本だけを収めるペンケースに入れて持ち歩きたいと思っています。
オマスパラゴンも、モンブラン149も、ペリカンM1000もオーバーサイズと言える大型の万年筆なので、入らないペンケースもたくさんありますが、ル・ボナーの1本差しのペンケースには入れることができます。
大型の大切な万年筆を収納するものは、張りのあるブッテーロ革2枚重ね構造の強固なこのペンケース以外にないのではないかと思うようになりました。
強度やサイズだけでなく、その素材であるブッテーロ革のパリッとし過ぎない適度な素材感も好きだし、エージングも美しい素材だと思っています。
正確にはエージングとは少し違っていて、美しく仕上げることができるという感覚に近いものなのかもしれません。

新品の状態では光を吸収するようなマットな表面ですが、柔らかいブラシで丹念に磨くと表面がキラキラしてきます。
以前、ル・ボナーの松本さんがブログで、ブッテーロの鞄を磨いて、とても美しいものにしたお客様の話をされていました。
その方はハンカチで優しくさするように手入れするのを習慣にされていて、輝くようなものにその鞄を仕上げておられました。
革を磨くのに力は必要ないというような、革の手入れを覚えるのにもこのペンケースは適しています。

ル・ボナーの松本さんが、ブログでも明かしていますが、張りのあるブッテーロ革の絞り加工を担当している職人さんが高齢ということもあって、引退することが決まっているそうです。
松本さんはもちろん代わりにやってくれる人を探していますが、今のところまだ見つかっていないようです。

このペンケースは当店の創業と同じ頃に世に出て、とても思い入れがあります。
良いものに有りがちな触るのも恐いような繊細さのない、素材もデザインも骨太な感じがするこのペンケース。
ル・ボナーの松本さんの美学によって作られたものだけど、私にモノの美学を教えてくれたものでもあります。
存在して当然の、当店でも定番中の定番のペンケース、いつまでも存続してほしいと思っています。

⇒ル・ボナー製品TOPへgid=2125743″ target=”_blank”>⇒ル・ボナー製品TOPへ

WRITING LAB. A4ファイルケース“Bond”とテクスチャーシリーズB6ノートカバー

WRITING LAB. A4ファイルケース“Bond”とテクスチャーシリーズB6ノートカバー
WRITING LAB. A4ファイルケース“Bond”とテクスチャーシリーズB6ノートカバー

B5サイズの革封筒を発売した時、何でA4がないの?と多くの人に言われました。
その時は当店オリジナル試筆紙や原稿用紙を入れて、恰好良く持ち歩くためのものが欲しいと自分たちが思ったので、あえてB5サイズでフタのないものを作りました。
それは私も愛用しているけれど、フタのないデメリットよりもフタのないことのメリットの方がより感じられ、とても使いやすいと思っていますし、何よりもあのザックリとした飾り気のなさがとても好きで気に入っています。

同じ印象でA4の封筒ができるのも時間の問題のような気がしていましたが、やはり作りました。
A4サイズのファイルや書類を収納することができて、ビジネスで使いやすいもの、でもビジネスライクにならない、自分たちが気に入っているナッパCB革の素材そのままの風合いが感じられるものを作りたいと思いました。
そういったイメージからこのファイルケースを企画した意図のようなものを“Bond(ボンド)”という名前で表現しました。

サマーオイルメモノートでもそうですが、WRITING LAB.のものは作り込み過ぎない、そのモノだけでなく、人がそれを使っている姿で完全になるようなものを心掛けていて、それはもしかしたらアパレル的な考え方であり、WRITING LAB.のメンバーの一人駒村氏の影響が強いのかもしれません。
駒村氏は雑貨などをセレクトショップに卸す会社の社長としてアパレル業界に10年もいるので、その辺りの感覚が鋭い。
文具業界に長くいる私たちでは実現しなかったようなものも、WRITING LAB.では形にしています。

WRITING LAB.の毎週土曜日の会議で生まれたもの、簡単なイラストや曖昧な言葉を受けて、ひとつのしっかり使えるものにしてくれているベラゴの牛尾氏のセンスと丁寧な仕事に今回も助けられています。
革をそのまま使うというイメージしか持っていなかったけれど、それだけでは美しい姿にはならない。
パリッとし過ぎず、でもしっかりとした質感を出すために底から前側は革を二重になっています。
細かく狂いの見られないステッチは、下手をするとだらしなくなってしまうこの手のものに緊張感を与えて、美しく仕上がっています。
鞄の中をスッキリと整理するバッグインバッグとして、これだけで持つクラッチバッグとして便利にお使いいただけます。
私たちの依頼を受けて、何も聞かずに(確かロゴを刻印する場所だけ聞かれた)これだけのものを形にしたことに、牛尾氏の職人としての包容力の高さのようなものを感じましたし、その仕事の姿勢に共感しました。

“Bond”と同じく牛尾氏の手によるB6ノートカバーテクスチャーシリーズの新色も完成しました。

持っている姿が一番カッコいいサイズはB6なのではないかというWRITING LAB.なりの考えで始まったB6ノートカバーの企画は、ひとつの色で、革質のみのバリエーションを作り、革質の違いで選んでもらうという趣向にしています。

前回のブラックに続き、今回はダークブラウンで2種類の革で製作しました。
自然なシボ感とオイル分を多く含んだ質感のナッパCBは、ル・ボナーさんやカンダミサコさんもよく使うミネルヴァボックス革で有名なイタリアのバタラッシィ社の革で、その質感やにおいが、私もとても気に入っています。
表面のロウが使い込むうちに革に浸透して艶を出すブライドルレザーはとても有名な革で、イギリス発祥で、馬具などにも使われた丈夫なハリのある革です。
今回から、ノートカバーも付属のジョッターもサイズを少し大きくして、より使いやすいものにしています。
B6ノートカバーはライフのノーブルノートのような厚手のものに対応しています。
ジョッターはA7サイズの紙に対応していて、WRITING LAB.のサマーオイルメモの紙を半分にして入れることができます。

BondもB6ノートカバーも、私自身完成を心待ちにしていた。この2つの商品を皆様にご覧いただけるのが、嬉しくて仕方ありません。
上記2つの商品は、京都山科のリバーメール(http://www.river-mail.com/)でも扱っています。

カンダミサコA5サイズノートカバー

カンダミサコA5サイズノートカバー
カンダミサコA5サイズノートカバー

雑誌「趣味の文具箱」に文章を載せていただくようになって、丸6年が経ちます。
ご来店されるお客様が趣味の文具箱の記事を読んで来ました、と言われることも多く、その影響力の強さをいつも感じて有難いことだと思っています。

次号の趣味の文具箱vol.29は3月3日の発売。万年筆とその関連品のことで、29号も続けてきたことに、編集部の方々の努力に頭が下がりますし、自分たちの好きなものをもっと掘り下げたいという情熱にいつも影響を受けています。
次号も参加させていただいていて、誰もが知っている「あの人」について書かせていただいています。

普段は小型の手帳やメモ帳を中心に使っていますが、趣味の文具箱の記事を書く時は、大和出版印刷のリスシオ紙を使った薄型A5ノートを1冊、毎回新しく用意しています。
そのノートは一話完結のような使い方をしていて、後ろのページが余ってもそのままにしておくのですが、最近はそれでも足りなくなってきました。
ノートに書く段階ではそれは下書きで、とりあえず思ったままひたすらに書いて、その中から文章を拾っていくようなやり方をしています。
それでも同じような内容が何度も出てきたりするので、書いたものの多くはそのノートに埋もれてしまうけれど。

本当は原稿用紙を使ったらいいと思うし、実際に使ってみたこともありますが何かしっくりこない。
A5サイズのノートに万年筆で書き殴るようなやり方が、私には今のところ一番合っていると思っています。
A5サイズは書く面の大きさと持ち歩きやすさのバランスがちょうどいい。
ブリーフケースのようなビジネスバッグに問題なく入れることができる最大の大きさだと思っていて、「ノートはA5」と思い込んでいます。

厚手のライフのノーブルノートのようなものが一番ピッタリと合いますが、カンダミサコさんのA5ノートカバーは、本気で書く時の気分の盛り上げてくれる素材の良さと工夫が込められたものだと思っています。
シュランケンカーフは、傷や汚れに強い素材ですが、使い込むと艶やかさを増すというエイジングも見せてくれます。
ノート差し込む部分の素材は張りのあるブッテーロ革で、背ギリギリまでの最大の大きさにしているので下敷きの役割もしてくれる。筆記面を平らに保ってくれます。

このA5ノートカバーは、カンダミサコ製品の中でも高級ラインに位置するもので、使っていくうちに他に一般的な革のノートカバーとの違いを実感できるものになっています。
カンダミサコさんは、もちろん高級ラインという言葉は使わないけれど、オーソドックスな形のものに素材を贅沢に使い、妥協のないキッチリとした仕事で仕上げることで、カンダミサコ流の高級感を表現している。

それがこのカンダミサコA5ノートカバーなのだと思っています。

ペンのシンプルなデザインについて考える

ペンのシンプルなデザインについて考える
ペンのシンプルなデザインについて考える

十数年前にある先輩ショップオーナーを訪ねたことがありました。
情熱に溢れた語れることの多い人で、5時間近くご自分の仕事や夢について語ってくれて、大変勉強になり、その言葉の中には私に影響を与えたものもあります。
規模はかなり違うし、雲の上の人だという距離は縮まっていないけれど、自分も同じような立場になって、よくその人のことを思い出します。
その人が言っていた、「万年筆も靴や服、鞄のようにデザインで選ばれてもいいのではないか、なぜ何十本も試し書きして選ぶ必要があるのか」という言葉がとても印象に残っていて、私もそういうふうに万年筆がなればいいと思っていました。
でも万年筆がデザインでなく、試し書きによって選ばれるのには実は理由があって、ペン先の状態が不安定だからに他ならない。
どの万年筆もインクを入れたら気持ち良く引っ掛かりなく書くことができることを約束してくれたら、書けるかどうか心配せずに安心してデザインで選ぶことができるのに。
私が万年筆の販売においてペン先調整は必要なスキルだと思ったのはその辺が理由で、その先輩の言葉がずっと自分の中に残っていたからだと思います。
気持ち良く書けるかどうかは店に並んでいる時点でクリアしているので、当店では好きなデザインのものを選んで欲しいと思っています。
実際はお客様のデザイン的な志向をお聞きして、それに沿うものを私がご提案することが多いかもしれません。

でもデザインの認識にズレがあることもあって面白く思います。
例えばシンプルなデザインのものが好みですとおっしゃられた時に、まず私たちはラミー2000のような何の飾りのないものをイメージして、お勧めするものがラミー一辺倒になったりします。
でもシンプルなデザインの意味は実はそうではなくて、デザインに凝っていない万年筆らしいデザインのものもそこに含まれることもあるようです。
ラミーももちろんシンプルだけど、それはシンプルなデザインに凝っていてある意味シンプルな存在ではない。
それよりも国産のパイロットカスタムヘリテイジのような万年筆がシンプルなのだと聞いて、私も納得できました。

私たちはそのクリップを見ただけで、もしかしたらボディエンドのラインを見ただけでどのメーカーのどの万年筆か言い当てることができるけれど、普通はパイロットカスタムヘリテイジを見ても、それがパイロットであることなど分からないと思います。
ラミーはもちろん、ペリカンやアウロラなどデザインに特徴があって一目でそれと分かるけれど、パイロットなど国産の万年筆のそれとは分からないところが、デザイン的にシンプルで、デザインとしてそれを選ぶ心が大人の選択ひとつだと考えると、国産の万年筆のデザインがとても魅力的に感じます。

国産の万年筆は書き味を重視した時に選択するものだと思い込んでいたけれど、このように考えるとデザインとして選ばれてもいいのだと思い、国産の万年筆を見直すようになりました。
その書き味や道具としての機能は一流である国産の万年筆のデザインも何か誇らしく思えるようになってきました。

⇒パイロット カスタムヘリテイジ912