素材を愛でる

素材を愛でる
素材を愛でる

木の道具は使えば使うほど、その機能を損なわずに馴染んだ風合いに変化してくれる唯一のものかもしれません。
そしてそれが、木の宝石とも言える杢の美しい銘木を素材として作られたものなら、そのエージングはさらに美しいものになっていき、持つ喜びをさらに強いものにしてくれるのではないかと思っています。

工房楔の当店のイベントで、その作品の数々を手にしたり、見入っておられるお客様方の姿を見ていて、楔の永田さんの手によって作り出される素材感を生かした木製品の価値を改めて認識しました。

木の宝石は、本当の宝石がそうであるようにいくつあっても違うものを手に入れたいと思います。
むしろたくさん集めれば集めるほど欲しくなる傾向は強くなるようです。
使えば使うほど、磨けば磨くほど美しい光沢を持ち、木目が際立ってくる。
この楽しさについては女性には理解されにくい傾向があります。(もちろん中にはそれを理解し木に惹かれている女性もおられますが)

黒柿の製品は数万本に1本と言われている幹の中心が黒い柿の木の中でも孔雀の羽のような美しい杢、孔雀杢が使われています。
茶道具などに古くから使われていることからも分かるように、希少性、美しさ、素材としての確かさなど、木製品を作るのに申し分のない素材です。
磨くほどに木目が際立ってきて、どんどん美しく変化していきます。

花梨は永田さんが最も多くの製品に使う素材です。
花梨は玉杢と言われる目玉のような模様が細かくたくさん出ているものが杢の良いものとされています。
一面にびっしりと玉杢が出ているものを永田さんは超極上として他のものと差別化していますし、稀に出る白い部分をバランスよく木取りして紅白とすることもあります。
花梨は産地や木の個体によって色が違うことがあります。
今回のイベントでも、少し黒めのビルマ産の花梨に人気が集まっていました。
玉杢でなく、立体にも見える帯状の杢の入ったリボン杢は大変希少ですが、コンプロット10とコンプロット4ミニで少量出来上がりました。
花梨は、磨くとゆっくりと木目に奥行きができて、柔らかな印象の模様に変わっていきます。

ウォールナットは私が最も好きな素材です。
あまり派手な杢は現れず、平凡で地味な印象ですが、家具などに使われることが多いことでも分かるように、安定した木目を持ち、狂いもすくない素材です。
それでも永田さんは、波紋状の杢が出たものやバーズアイという小さな玉杢の出たものを使うこともあります。
使い込んだ木目の変化は少ないですが、艶が出て、ピカピカに変わっていくのは他の素材と同じです。

イベントの目玉として、永田さんが選んだ素材がローズウッドとハカランダです。
ローズウッドは、ウォールナット同様木目が比較的均一で色目も暗いため、個体さを見つけにくいですが、1年ほどきれいに磨きながら使いこんだローズウッドの色艶は本当に美しいと思いました。
今回のローズウッドは美しい濃い紫色をしていて、艶も申し分のないものでした。
ハカランダはブラジリアンローズウッドのことで、現在では絶滅危惧種になり輸入が禁止されています。
今回の素材は30年ほど前のものですが、その色が独特で、手触りが良くツルツルとしたものでした。
ハカランダは最高級のギターの素材として多用され、伝説の素材となっています。
他にもまだまだたくさんの木の種類はありますが、だからこそ本当に木は面白い。
ご自分が最も好きな素材を探して、それをステーショナリーとして持ってみませんか?

*今回のイベントで入荷した商品は順次ご紹介させていただきます

ライフ紙製品 見習うべき姿勢

ライフ紙製品 見習うべき姿勢
ライフ紙製品 見習うべき姿勢

ライフの大阪本町で開催された展示会にお邪魔してきました。

朝9時からの展示会というのは珍しく、展示会を見せていただいてから、職場のスケジュールを乱さずに戻れるのはとても有難いことだと思いました。

ライフの展示会はものすごく久しぶりで、7,8年前に来て以来でした。
駒村氏と会場に入ると、私たちが一番乗りで皆様全員で説明してくれるという贅沢な状況。
早く新製品を見たいと思いながらもライフという非常に渋い商品を作り続けて、日本の文具業界の安売り競争の歯止めになっているメーカーの歴史的な資料を見せていただくことができました。

ライフの面白いところは自社の過去の製品や印刷物のデザインを現在の製品に使ったりするところで、それらはレトロなとても良い味を出しています。
社内に専門のデザイナーを置かず、営業マンが集めた情報を吸い上げて商品化する。
他社がどういったものを作っているか、世のトレンドがどういうものかに惑わされず、自社に何が求められているか、自社はどういうものを作るべきか。
価格競争を避けて商品力を追求してきたライフの営業方針に、日本の企業の在り方のお手本を見ます。

商品において低価格というのは強い破壊力を持ちます。
しかし、それは麻薬のようなところがあって、その競争に入ってしまい、安さを追求し出すと安くし続けないと動きが止まってしまうことがあります。

また価格追求しかできなくなる、思考停止状態を社内にもたらしてしまいます。
それよりも社内の知恵を集めて、他社にないものを少量でも作り、その工夫と価格の高さを理解してくださる人に買ってもらうというのが、ライフの営業方針です。

文具業界の人ならライフの商品に渋さを感じると思います。
派手さはないけれど、しっかりとした表紙と製本の本麻ノート。
万年筆での書き味の良さが秀逸で、活版印刷の罫線が良い味を出している詩穂箋の便箋。
少し大きめで書くのにちょうど良いサイズのノーブルメモ・・等など。
派手さや目新しさはないけれど、本質のしっかりとした、使ってみてその良さが分かるものばかりです。

それらの地味だけどしっかりと作られた紙製品はそのままに、今回の展示会ではユニークなアイデアを具現化したノートなどもあり、ライフの今後が大いに楽しみになりました。

展示会で私たちに商品について説明して下さったライフの社員の方々は、ご自分たちの仕事を楽しみながら、思いっきりやりたいことをしている。
そんな理想的な、物作りの会社のあり方を見たような気がしました。

他にはない目の付け所が良い商品を世に送り出しているライフの商品を、次回からご紹介していきます。

黒インク

黒インク
黒インク

書道の文字は黒だから日本の文字は黒であるべきで、万年筆のインクも黒を使いたいという黒インクのマイブームは時折訪れます。

日本の文化や日本人とは、と考えた時に、自分は西洋の習慣である青い色で文字を書いていていいのだろうかと思ったりすることがあって、そういう時に黒インクを使いたくなってきます。

最近はペン習字教室で黒インクを使っていて、最も美しい文字を書きたいと思っている状況で使うインクなので、どうしても厳しい目で見てしまいます。
今は行書を習っているのでカチッとした楷書と違って、勢いのある所、ゆっくり書くところなど、線の強弱をつけたい。だから色は黒過ぎず濃淡が出るもの。むしろ薄くていい。

長時間キャップを開けて書いているし、書き味を考えるとインク出は渋くなくて、サラサラ出るものが良い。でも紙にはにじんで欲しくない。

以上の条件を兼ね備えたインクは非常に難しく、特にサラサラ出るインクはたいてい紙ににじみやすい。
いろいろ調べた結果、これはあくまでも私の好みですが、パーカーのブラックが私にとってベストのインクだと今のところは思っています。

当店オリジナルインク冬枯れもとても良く、堀谷先生は冬枯れを愛用して下さっていますが、私がよく使うアウロラやプラチナとの相性を考えるとパーカーの方がサラサラと出てくるような気がします。

同じように日本字にこだわり、万年筆でもとても勢いのある行書でお手紙を下さることがある狂言師の安東伸元先生はいつも墨をイメージされているのか、真っ黒に書けるインクを好まれます。

デュポン、シェーファーなども黒いですが、万年筆用インクで真っ黒性能が高いのはセーラーなのではないかと思っていますので、今度安東先生にお勧めしてみるつもりです。
アウロラもネットリとした性質の黒が際立つインクで、この辺りを好まれる方も多いようです。

黒インクでも本当に様々あり、単純に薄い・濃いだけでなく、赤みがかったもの、青みがかったもの、というふうに分けられます。
前者の代表はモンブラン、モンテグラッパ、後者はパーカー、ヤードレット、デルタなどです。

書道の墨も本当にいろんな色があって、奥の深さに驚嘆しますが、万年筆のインクも各メーカーによって様々で選択に迷うところだと思います。

素材の厚さ ~工房楔 クローズドエンド万年筆~

素材の厚さ ~工房楔 クローズドエンド万年筆~
素材の厚さ ~工房楔 クローズドエンド万年筆~

使われている素材が厚いことは良いもののひとつの要件だと思っています。

素材を厚くすることによって何かしらの良いことが作用して、大きな魅力になっているというモノを今までいくつも見てきました。
それはもしかしたら都会的なスマートさという洗練と対極にあるものかもしれません。
しかしその計算のない愚直とも言える無骨さがとても魅力的に感じられるのです。

ぶ厚いペン先の万年筆はペン先は硬いけれど、薄いペン先のものと比べるとそのフィーリングには雲泥の差がありますし、ブッテーロの革を厚いまま使ったル・ボナーの天ファスナーブリーフケースは重いけれど、型崩れしない丈夫さと革本来の手触りを楽しめます。

そんな、素材を厚いまま使って、それが魅力になっているもののひとつに工房楔のクローズドエンド万年筆があります。

筆記具をたくさん手掛けている工房楔のペンの中でも、価格的にもその存在感でも頂点に君臨する万年筆です。
これだけ良材のさらに良い部位だけを使ったものは大量生産では絶対に作ることができませんので、万年筆の中においても特別なものだと思っています。

工房楔の永田篤史氏が自分が木に魅せられるきっかけとなった「杢」を見せるための理想的な素材として万年筆を選び、その杢を美しい姿のまま万年筆にすることができる形として永田氏が追求して完成させたのが、クローズドエンド万年筆です。

銘木を塊からくり抜いて10本の万年筆を収納できるケースにしたコンプロット10はその実用性も広く認められていますが、コンプロット10の一番の魅力は杢を最も美しく見せる刳り抜き加工にあります。

素材を厚いまま残すことによって、杢はただの模様ではなく、その重みや感触を伴ったものになっています。

クローズドエンド万年筆もコンプロット10と同様に刳り抜いて素材を厚く残すことによって、杢をその感触を伴った万年筆としています。

数多くある量産メーカーでは量産であるがゆえに、このクローズドエンドのような素材感をむき出しにした万年筆は絶対に作れないでしょうし、木を見抜く審美眼と杢をきれいに正確に出す腕を持たないとこれだけの万年筆は作り得ず、工房楔の永田氏という目と腕を持った存在だからこそ作り出せたものだと思っています。

クローズドエンド万年筆の最大の特長であるボディについてのみ述べてしまいましたが、金具はオリジナルのものを金属加工の専門家とともに開発していますし、ペン先、ペン芯などの書くメカニズムは筆記具の部品作りにおいて名門とも言えるシュミット社製の柔らかい書き味の18金ペン先を採用しています。
付け加えるならばより書き易くなるよう当店で調整していますので、書くことも楽しんでいただけるものになっています。

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渋い万年筆 パイロット変わり塗り石目

渋い万年筆 パイロット変わり塗り石目
渋い万年筆 パイロット変わり塗り石目

古くはセリカのエンジンを小さなカローラに積んだレビン。見た目は普通のゴルフなのに3200ccの怪力エンジンを積んだR32、ベンツでも以前あったかな・・・。例えが車ばかりで恐縮です。

こういったものを羊の皮を被った狼と言ったりしますが、私たちが羊の皮を被った狼に惹かれる理由は、いかにも!といった外観ではない玄人好みの渋さを感じるからなのではないかと思っています。
見た感じはあえて個性を抑えた何の変哲もない大人しいものにして、その性能に関わる部分を強化して見た目と性能にギャップを持たせる。
パイロットの5万円クラスには、なかなか渋いと思える万年筆があります。

オールドスタイルの銀のボディに大きなペン先を貼り付けた、書き味の良いシルバーンはキャップの尻軸への入りも深くバランスも良い。
カスタム845はエボナイトの軸に漆塗りが施されていて、一見プラスチックのようにだけど握り心地がとても良く、大型のペン先は豊穣な書き味を持っている。
新しく発売されたパイロット変わり塗り石目もそんな渋いと言える万年筆です。

変わり塗りという名前から、この万年筆の特長はボディの塗りのように思ってしまいますが、この万年筆の注目すべき点はベースとなっている本体そのものだと思っています。

パイロットのここ10年以内の創立記念モデル85周年飛天、88周年仁王、90周年朱鷺は真鍮のボディに蒔絵技法を施したものになっています。
あまり大きくはないカスタムヘリテイジ91相当のサイズの金属のボディ、10号の18金ペン先を装着した創立記念の限定万年筆は、そのボディの美しさもさることながら、書き心地などの実用性に対しての評価も高く、一部のマニアックなお客様からは蒔絵技法が施されていない実用本位の創立記念万年筆を望む声もありました。

しかし、それは創立記念モデル専用のボディでそれを定番化することはもったいないのではないかと思っていました。
それが本当に実現したことに私は驚きましたが、歓迎すべきことでまた魅力的な定番万年筆が増えたことを喜んでいます。

パイロットの18金ペン先はバネのように弾力が強く、筆圧が強い人にも相性が良いと思いますし、寄りを弱く調整することで柔らかい書き味にすることもできます。
パイロットの今までの定番品とは違い、37gという持ち応えのある重量、弾力に富む18金のペン先など。
変哲のないデザインで、少しずつ仕様を変えて、玄人受けする万年筆に仕立てる。
パイロット変わり塗り石目をとても渋い万年筆で、国産の万年筆メーカーのひとつの提案だと思っています。

パイロットは変わり塗り石目の発売と同じくして、ボトルインク色彩雫シリーズに新色を4色追加しています。(紫式部・秋桜・稲穂・竹林)


⇒パイロットボトルインク色彩雫新色追加

ペンレスト兼用万年筆ケース新色発売

ペンレスト兼用万年筆ケース新色発売
ペンレスト兼用万年筆ケース新色発売

黒い革のペンケースに金のペンのコントラストがとてもきれいだと気付いたのは、当店のオリジナルのペンレスト兼用万年筆ケースに万年筆を収納した時に上部2cmくらいが見えるからでした。

ここに金の万年筆を3本入れるとなかなか見栄えがしていいのではないかと気付いたのです。

しかし、私が持っている金の万年筆は中字2本と太字が1本。
この3本の万年筆ケースには、細中太字の万年筆を入れて様々な用途のものに対応できるようにしたいと思っていたので、金の万年筆ばかりで細中太字という組み合わせにはできませんので、手帳に書けるような細字の金の万年筆が欲しいと思ったりします。

外国メーカーのシリーズでも日本に入っている金の万年筆が意外と少なく、シェーファーレガシー、クロス、パーカー辺りになります。
ちなみにレガシーブラッシュトゴールドが私の中では有力候補です。

同じイメージのものを字幅違いでそろえたくなるのは、3本差しなどのペンケースの中身をコーディネートしたいという気持ちからで、同じ色合いとか質感で揃えたいと思うのは、この万年筆ケースのようにペン本体の一部分が見えるようなものの存在があるからだと思います。

ふた部分の構造はその素材であるシュランケンカーフのしなやかで強靭な特長を生かしたもので、この万年筆ケースの最大の特長にもなっています。
持ち運ぶ時はふたを閉じた状態にするとペンは露出しませんし、ふたをペンの枕のようにするとペンの上部が露出して、すぐに取り出せるようになっている。
それがペンレスト兼用の名前の由来ですが、なかなか便利に使えるものだと思います。

シュランケンカーフは太い万年筆を入れるとそれに合ってくるし、細い万年筆にも同様にそれに沿うように合ってくる。
傷などに強く、エージングしないと言われているシュランケンカーフですが、使っていると中身に合ってくる良質な革らしさが感じられ、この素材の良さを実感しています。

しばらく品切れしておりました、ペンレスト兼用万年筆ケースが再入荷したのと同時に、ライトグレーにスカイ色の内張りのとても清清しい印象の新色も完成しました。

⇒ペンレスト兼用万年筆ケース(3本差し)gid=2136278″ target=”_blank”>⇒ペンレスト兼用万年筆ケース(3本差し)

中間の忘れられやすい存在 ペリカンスーベレーンM600

中間の忘れられやすい存在 ペリカンスーベレーンM600
中間の忘れられやすい存在 ペリカンスーベレーンM600

クロスのペンでセンチュリーⅡというモデルがありました。

大きく伸びやかなデザインで書くことにおいて最も優れたバランスのタウンゼントと、細い軸でクロスの最も代表的なペン、センチュリーという個性の強いペンの中間のサイズで、携帯性と筆記性能を両立したすばらしいペンですが、なぜかセールス的に苦しんでいました。

この事例は、昔あった三菱の4WDパジェロとパジェロミニの中間パジェロJrにも当てはまったり、ベンツAクラスとCクラスの中間のサイズのBクラスにも当てはまったりするのだろうか。
500円のAランチ、700円のBランチ、900円のCランチならBランチが売れるのに(?)。

ペリカンスベレーンM600の存在は残念ながらクロスセンチュリーⅡの事例に当てはまるのではないかと思っています。

ペリカンの伝統を受け継いでいて、60年以上の歴史のあるM400と、バランスが良く高い評価をいつも得ているM800の中間に位置するM600はM400の携帯性とM800の筆記性能を兼ね備えた大変優れた万年筆だと思いますが、M400とM800のコンセプトがあまりにもしっかりしていて、M600にペリカンとしての存在感が希薄なのが人気が低い理由なのかなと思います。

でも実際M600は程よい大きさの本当に使いやすい万年筆だと思います。

私はこのM600にアウロラの代表的な万年筆オプティマに似たバランスを感じて、特に女性の方には使いやすいのではないかと思っています。

M800は万年筆を使い慣れた人にはとてもバランスの良い万年筆で、万年筆の正解だと思っていますが、初めて万年筆を使う人や女性には少し重さを感じてしまうところがありますし、M400は万年筆を使い慣れた人が机に向かって長時間書き続けるにはボディが少し細いと思っています。
ある程度ペンを寝かしてゆったりと書くためにはM600くらいの太さが必要だと思います。

万年筆で書くことに慣れてきて、筆記角度が低くなってきた女性にはアウロラオプティマとともに、このM600もお勧めしたいと思います。
しかし、唯一無二の存在ではなく、オプティマを引き合いにだされるあたりも、M600らしいところだと思ったりします。

⇒ペリカン M600

アウロラ88オールブラックの普遍性

アウロラ88オールブラックの普遍性
アウロラ88オールブラックの普遍性

万年筆はなぜ黒と金の金具のものしかないのだろうと疑問に思っていました。
しかし、黒に金の万年筆(以後黒金)は、何歳になっても飽きずに使うことができるし、インクのシミなども気にする必要がない。
言わば感覚的にも実用的にも理由のある、万年筆においての普遍性がこの黒金の万年筆にはあると理解してから、黒金の万年筆に対して心が大きくなりましたし、どちらかというと好きになりました。

しかし、万年筆においての普遍性を持った黒金だからこそメーカーはその造形に気を配って作らないと、美しいものとそうでないものの違いが歴然と出てしまいます。
黒金の万年筆で最も美しい形を持ったものの一つとして、アウロラ88オールブラックを思い浮かべます。
ボディのラインは全て自然なラインで繋がっていて、どっしりした安定感さえも感じられる。
装飾らしい装飾はなく、シンプルなキャップリングに小さくロゴではない筆記体のAuroraの文字。
こういうデザインの手法を何というのか分かりませんが、何か理論に基づいて形作られた理知的な感じがします。

黒金の中には、シンプルな中で特徴を出そうと、ラインが不自然になってしまっているものもたくさんあるように思います。

アウロラ88をデザインしたマルチェロ・ニッツォーリはオリベッティのタイプライターやミシン、電話などもデザインしていて、どれも自然な曲線が流れるようなラインになって形作っているものばかりです。
ニッツォーリに限らず88が生まれた40年代から50年代にかけてイタリアには優れたデザイナーが何人も存在し、そのデザインによって世界中を席巻する工業製品を作っていました。

それらはイタリアデザインの第1次黄金期の中にある製品で、他のイタリア工業製品が今見ても美しいと思えるのは88と同様です。

美しい形を持ち、万年筆の普遍性を追求した黒金に、ピストン吸入機構、エボナイトのペン芯などこだわった機能を持った万年筆がアウロラ88オールブラックです。

⇒アウロラ88オールブラック

オマスミロードとボローニヤ人

オマスミロードとボローニヤ人
オマスミロードとボローニヤ人

今夏の旅行に携えて移動中や宿に帰ってからの時間の楽しみである、自分なりの紀行文を書くための万年筆として、オマスアルテイタリアーナミロード万年筆を選びました。

そして旅に持っていく万年筆やノートと同じくらい大切な携行本が、井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」で、万年筆と関連性を持たせて旅の間オマスについて考えたいと思いました。
オマスは1925年にイタリアボローニャで創業し、今もその地に根付いて活動している万年筆メーカーです。
万年筆の歴史において重要な名品を生み出したりして、海外では根強い人気があるようですが、日本では輸入代理店が何度も変わったりしたため、不当に知名度が低いようでしたが、喫煙具などを中心に扱っている会社インターコンチネンタル商事が扱うようになって、ようやくオマスを日本でも広めていく体制が整ったようです。

昨年オマスの工場を訪ねるためにボローニャを訪れたことで、オマスにもボローニャの街にも強い思い入れを持ちました。
そんな背景もあり、オマスをモンブランやペリカンなどと同じくらい、一般の万年筆に詳しくない人でも知っているブランドにしていきたいと思っています。

まず自分でオマスの万年筆をとことん使ってみようと思い、昨年から最も代表的で一般的だと思う万年筆アルテイタリアーナミロードをかなりの使用頻度で使っています。
ミロードはペリカンM800相当のレギュラーサイズの万年筆で、決して小さくありませんが、コットンレジンという綿由来の天然素材の樹脂を使っているために質量が軽く、手に重さを感じることはありません。
握った感じも他のメーカーが使うアクリルレジンに比べると柔らかさを感じます。
これらの特長はエボナイトに通じるところですが、変色や臭いがきになるエボナイトの欠点を解消した素材だと思っています。

素材の軽さ、柔らかさは使っていて気分が良いし、多くのイタリアの万年筆の特長である多すぎない適度なインク出とペン先のフィーリングの良さもあって、努めて使おうとしなくても自然に手が伸びる万年筆になっています。

井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」を読んでボローニャの街が中央政府とは距離を置いた住民自治によって発展してきた街だと知りました。

1940年代には、イタリアファシスト党やナチスドイツを市民兵であるパルチザンが戦い占領から自治を奪い返した歴史や、社会的弱者の自立を助ける施設を個人が立ち上げて市民の協力によって軌道に乗せたり、市民の声を反映させて古い建物をそのまま利用して会社や文化的な施設として利用したりなどなど、ボローニャ独自の街を良くしようとする活動は住民主導で行われているとのこと。

オマスもそんなボローニャ人気質の中で生まれてきたことは間違いなく、またボローニャの街の発展にも貢献してきたのだと考えると、オマスの万年筆に自分たちの街は自分たちで何とかするという住民自治を貫いてきたボローニャの人たちの大人の精神も感じるのです。

4時間に及ぶ昼休みをとり、夕方になるとスーツでビシッときめて街に出て、友達同士でただおしゃべりしている。そうかと思えばただブラブラと散歩している男たちの姿もまたボローニャ人のそれであり、なかなかおもしろい。

端正で破綻のないフォルムと柔らかな持ち味と書き味のアルテイタリアーナ万年筆は、ボローニャの男たちの姿そのものだと思っています。

*画像は店主愛用のアルテイタリアーナミロード(ブラック)です。

リスシオダイアリーに向かう

リスシオダイアリーに向かう
リスシオダイアリーに向かう

季節外れのダイアリーの話題で恐縮です。
年々ダイアリーが店頭に並ぶのが早くなっていて、9月頃から並び始めていたのが早いと思っていましたが、最近では7月中からでも並ぶようになってきました。
そういったものの中には9月始まりというものもあって、お客様方はたくさんの種類の中からダイアリーを選ぶことができるようになったということでしょうか。

毎年のダイアリー選びは深刻な問題だと思います。
自分のライフスタイルに一番合ったものはどれなのか、多くの人が探し求めて毎年試行錯誤しているのではないでしょうか。
もちろんお店でオリジナルとして販売しているということもありますが、リスシオダイアリーは市販の中に答えを見つけられなかった方に、一度は使っていただきたいダイアリーだと思っています。

私も今まで本当にたくさんのダイアリーを使ってきました。

中には数年間使い続けたもののありますし、使い始めてすぐに使わなくなったものもあります。
やはり一番長く使ったのはシステム手帳で、その中でもA5サイズのものがほぼ私の中のほぼ正解だったと思います。

大きな筆記スペース、ページの入れ替え、書類もそのままファイリングできるなど使うことにおいてはとても便利でした。
しかし、A5サイズのシステム手帳は大きすぎました。
机の上でも邪魔になるし、鞄の中は手帳に占拠されてしまう。
筆記スペースを確保しながらコンパクトにするにはやはり綴じ手帳しかないと思いました。
でもある程度使い方に合わせて組み合わせることができた方が楽しい。
それがリスシオダイアリーだと思っています。

月間ダイアリー、週間ダイアリー、1日1ページ、横罫、方眼という種類があって、これらを組み合わせて使うことができる。

そして用紙には、大和出版印刷さんが万年筆用紙としての書き味を追求したリスシオ・ワン紙が使われているので、普通なら引っかかりが感じられる細字の万年筆でも相当書き味良く使うことができますし、インクの収まりも悪くない。
綴じ手帳は書いたものがどうしても時系列に並んでしまいますが、それらをインデックスや付箋で表示することによって、複数のテーマの中から見つけたいものを見つけやすくすることもできます。

手帳を使いこなす楽しみはそういう風に自分なりの使い方を編み出すところにもあって、文具好きの方なら付箋やスタンプなどのツールを使って、綴じ手帳を攻略することは大いなる楽しみになると思います。

自分でリスシオダイアリーを使いながら、様々な改良点を見つけることになります。
それらを反映して、書くことを楽しくし、お仕事や家事の役にさらに立てる2012年版のリスシオダイアリーは9月中には発売いたします。