~ペンのアクセサリーという考え方~ ペンクリップ発売

~ペンのアクセサリーという考え方~ ペンクリップ発売
~ペンのアクセサリーという考え方~ ペンクリップ発売

店を始めたばかりの頃、あるお客様からペンを自分仕様にカスタマイズすることのできるものがあったらいいのにと言われたことがありました。
その言葉がずっと気になっていて、ことあるごとに頭の中でイメージするようになっていました。
車やバイク、ギターなどでも、愛用しているものをパーツを交換して自分だけの仕様にしたいと思うもので、様々な趣味の製品にはそういったものが発売されています。
これらと同じような考え方のものがペンにもあれば面白いとは私も思いました。

数年前、ラミーがアクセントというペンで、交換用のグリップを発売しましたが、これもペンのグリップを交換して自分だけのオリジナル仕様にするというもので、商業的に成功したかどうかは分かりませんが、実験的な試みで共感を持ちました。
ペンでアクセサリー的な要素の高いパーツと言えば、クリップであると多くの方が思われていると思いますし、クリップはペンの顔だと私も思っています。
クリップには「ポケットに挟む」「転がり防止」という必要な機能がありますが、全体のバランスを崩さないことも重要です。
そのためデザインに凝ったものは少ないようですが、その小さな部品の中に各メーカーのこだわりが形となって表れています。

クリップの機能とそれを形にしたシンプルなデザインのファーバーカステルや、控えめでありながらエレガントなデザインで、断裂などの事故を嫌い、一枚の板から形作ることにこだわったアウロラ。
まん丸の玉を付けたような特徴的な形のパイロット。
それぞれのメーカーがデザインと機能美をクリップで表現しているところから考えても、クリップはデザインにおいてとても重要なパーツであり、そのペンの個性を表現することのできるパーツだと思います。

上記の考え方から、ペリカンM800、M600に対応した交換用のクリップをシルバーアクセサリーとして作りました。

シルバーアクセサリーの作家として、コツコツとご自分の世界を表現するものを作っているきりさんに私のM800を渡し、デザイン、重さ、大きさなど検討に検討を重ねて完成しました。

M600、M800のペリカンをまた違う万年筆のようなデザインにしてくれる、存在感を増すためのアクセサリーだと思っています。
ペリカンのスーベレーンシリーズは、キャップトップのペリカンマークの外側にある、リングを回して外すと、簡単にクリップを外すことができます。
クリップがインナーキャップの奥にあるビスで留まっている万年筆が多い中、ペリカンだけはこのリングを取り外すだけで、クリップを外すことができますので、交換が可能になるのです。
型で作ったものを手触り良く、物が引っかからないように、丸みを持たせるのにきりさんはかなり苦労して1本ずつ丁寧に磨き上げたようですが、おかげでシルバーの重厚感を持ちながら、柔らかい感じのするものになったと思います。

ボディ、他の部品との雰囲気を合わせることができるように、光沢仕上げの磨きと渋いいぶしがあります。
大量生産の工業製品である万年筆に、より手作りらしさと、自分仕様であるというスペシャリティ感を感じていただけるものだと思っています。

初回ロット各20個ずつの販売になります。

変わらないという戦略~ヤード・オ・レッド~

変わらないという戦略~ヤード・オ・レッド~
変わらないという戦略~ヤード・オ・レッド~

激動の世界経済の中で、あるいは自然界の中でもそうだと思いますが、環境の変化に適応して姿を変えていけるもののみが、長く続いていけると言われています。

ペンの業界においても、使う人の価値観や販売店の変化、ファッションやインテリアの業界からの影響などから、変化した方がいいという風潮は常にあり、各社なるべく自社のアイデンティティを失わないように変化に適応しようとしているのがよく伝わってきます。
伝統や歴史のロマンもその品質のうちとされる筆記具の業界において、急激な変化は各方面、特に今までのお客様との軋轢が生じてしまいますので、たいていのメーカーが自社の歴史や伝統を重んじながら、慎重なイノベーションを企てることになります。
ですがそれはどこか中途半端で、新しいものに限ってお客様から支持を得られないということが多いように感じています。
変化しているように見えながら実は旧態依然とペンを作っていると万年筆は若い人から受け入れられない魅力のないものになってしまうと思っていました。
しかしヤード・オ・レッドはそんな変化には無縁な、変わらないデザインと手作業によるペン作りを続けています。
多くの愛用者を持ちながらも、そのデザインに多くの若い人たちが魅力を感じていることを知り、変化だけが生き延びる方法なのではないと知りました。
ヤード・オ・レッドと聞いた時に、私たちペンの業界の人間は、その名前に敬意を感じ、別格の存在として認識しています。
その魅力は、伝統的なデザインでありながら、他に似ているもののないことと、上質なスターリングシルバーのタッチとエージングだと、一言で言い表すことができますが、それほど明確にその特徴が多くの人に伝わっているブランドは他にないのかもしれません。

ヤード・オ・レッドの創業は1943年と、そのデザインからイメージするほど古くはありませんが、その前身となったのは1822年に創業した、ハンプトン・モーダン社です。
3インチの芯をリボルバーのように12本繰り出し機構の周りに収めることのできる繰り出し式のペンシルを発明して販売していたモーダン社の創業がヤード・オ・レッドの始まりと言えますが、その繰り出し機構は多くのシャープペンシルの機構の参考になっていることがよく分かります。

そのペンシルの仕様はその歴史の中でも全く変わっていません。1960年代から70年代にかけて、ボールペンの台頭により多くの万年筆、高級筆記具メーカーが潰れてしまいましたが、150年以上作り続けてきた昔ながらのペンシルに特化してきたことでヤード・オ・レッドが今まで生き延びることができてきたのかもしれません。
機構的に特徴のあるペンシルが中心的なモデルになりますが、その他のペンでもヤード・オ・レッドが孤高の存在であることが理解できると思います。
万年筆の独特の書き心地は、柔らかいペン先と少なめのインクの出による繊細なもので、ヤード・オ・レッドの万年筆が好きな愛用者の方もおられます。
ボールペンにおいても古典的なスタイルは今では逆に新鮮に感じられ、自分の個性を表現する道具として受け入れられているようです。

ヤード・オ・レッドの50年代にあったペンのデザインを復刻した「レトロ」というシリーズがあります。
黒い樹脂のボディとスターリングシルバーのクリップのコントラストがとても印象的なモデルですが、当店で日本未入荷のレトロミニサイズボールペンの予約販売の受付を始めています。予約後3ヶ月程納期をいただいておりますので、興味のある方はサイトからご覧下さい。
先日発売を開始したコラボメモカバーとの相性も良く、携帯性に優れたとても魅力あるものだと思います。

*画像はバイスロイ・ビクトリアン/ポケットビクトリアン各万年筆とボールペンです


ヤード・オ・レッド商品一覧cbid=2557105ヤード・オ・レッド商品一覧csid=19″ target=”_blank”>ヤード・オ・レッド商品一覧

さりげなくメモをとり、生かす ~コラボメモカバー~

さりげなくメモをとり、生かす  ~コラボメモカバー~
さりげなくメモをとり、生かす ~コラボメモカバー~

物を考えたり、何かのヒントを得るのに本を読むことは大いに役立ちますが、人と話すことほど刺激になることはないと思っています。
そして話をしている時にその要点をメモするようにして、後で見直したり、まとめたりすることによって、その時人と話した内容が私たちの財産になり、物事を考える助けになると思っています。

メモをとることは予告なく訪れる仕事のチャンスや降りてきたアイデアを実現するための第一歩なのかもしれません。
人と話している時にとるメモの効用は多くの人が実証していて、他者から学べるものは何でも学ぶという謙虚で貪欲な姿勢がメモをとるという行為に表れます。
相手に何でも話してもらいたいという時に大きなノートを開いたり、縦開きのメモ帳を開いて、いかにもメモをとる姿勢をすると、相手に意識させてしまうような気がしますので、小さな手帳にサッと要点を書くくらいのさりげないメモとりをしたいと思っていました。

メモのとり方についてそんなふうに考えている時に、パイロットから復刻発売されたポケットタイプの万年筆、ミュー90Sの人気が非常に高いことが分かってきました。
サイズはコンパクトでも、すぐに外せる勘合式キャップを尻軸にカチッとはめると書きやすいサイズになり、万年筆らしくないデザインのミュー90Sの人気は、メモをとる時にさりげなく使う万年筆を待っておられた方が多かったということを表していて、万年筆でメモをとることについての万年筆側の答えを見たような気がしました。

最初はポケットタイプの万年筆を市販のA7サイズのメモ帳の表紙に挟んで使っていました。大変使い勝手が良かったのでしばらくはその状態で使い続けていました。ですがそのうち、どこか物足りない気分になりました。
それはやはり見た目が事務的すぎるという所にあると思ったので、実用的でありながら見た目も美しいメモ帳のカバーを作りたいと思いました。

レポート用紙に鉛筆で書いた簡単なたたき台はすぐに出来上がりました。
それをル・ボナーの松本氏に作ってもらい、両店で販売したいと思いました。
松本氏が鞄作りで忙しいことは分かっていましたので、少しためらいましたが、多くのお客様がこのコラボレーションを待ち望んで下さっていると思い
ましたので、実現したいと思いました。

松本氏は思いのほかこの企画を気に入って下さったようで、原稿をファックスで送ると、次の木曜日には早速試作品を持って打ち合わせに来て下さり、松本氏の本気度が伝わってきました。
松本氏のアイデアは芯材を使わずに革を厚くすることによってしっかり感を出すという専門的な所から、ペンホルダーの仕様など外観的な所まで随所に生かされています。

サンプルを2ヶ月以上使っていますが、ポケットや手元にこのようなメモ帳がペンと一緒にあることの優位性は高く、私の場合はメモを書き漏らすことが少なくなりました。
夜ほぼ日手帳にその日あったことなどを日記代わりにつけていますが、一日を振り返る時キーワードだけでもメモ帳に記しておくと、その日の流れがよみがえってきます。

しかし、メモ帳にメモをとってそのままになってしまうと、せっかく人の話を聞いてメモをとってもそれを生かすことができません。
A7サイズのメモ帳は、文具各社から様々なものが発売されていて、私はメモをメモ帳の中に埋もれさせてしまうことを防ぐために、切り取り式のメモ帳を使っています。
一日が終わった時に、その日書いたものを必ず切り取るようにすることによって、メモを文章にしたり、予定に入れたりして、何らかの形で活かせるようになってきたと思っています。

たかがメモですが、それが全ての始まりであり、このメモから様々なことが始まるのだと思うと、とても大切な仕事の道具であると思いました。

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ)

2回目の聞香会の夜、楔の永田さんがコンプロット10を持って来られた時、その物の良さに、居合わせた人は一同息を呑みました。
木目にあまり良い反応を示さない女性方の反応も良好で、永田さんは手応えを感じたのではないかと思います。

これはル・ボナーの松本さんが、チェザーレ・エミリアーノというブランドの万年筆の空箱を加工してペンボックスにしていたものが原型になっていて、それがこんなに美しいものに形を変えてできあがったものです。
松本さんの万年筆への情熱が永田さんにインスピレーションを与え、永田さんの情熱で松本さんが動いたという、楔とル・ボナーのコラボレーション企画です。
行き付けのバー、バランザックのカウンターで、松本さんが永田さんに万年筆を入れるケースを作るべきだと熱弁をふるっておられたのが、コンプロット10誕生の始まりだと思います。
美しい木目を広い範囲で必要とするため、かなり高価になることが事前に分かっていましたが、永田さんのこだわりと熱意を理解してくれるお客様は、きっとおられると思いました。

少し変わった形は、ケースを開いた時に指を挟まないように配慮された形であり、四角いものよりも概観に変化があり、このケースをおもしろいものにしていると思います。
もともとこの形は釣り道具の毛ばりを入れるフライケースとしてあったもので、そのサイズを拡大したものです。
大きくすることにより、金具、磁石の耐久性の強化が図られているとともに、より木目を美しく取りにくくなっていて、木目の美しさにこだわる永田さんを苦しめたところです。
余程の良材でないとこれだけの大きさで、木目の美しいものが得られることはなく、どうしてもそれが価格に跳ね返ってきます。

木を組み合わせる指物(さしもの)ならコストもさほどかからず、量産も可能で、木取りに苦労することもなかったかもしれませんが、永田さんは削りだす刳り物(くりもの)にこだわり、そうでなければ自分が作る意味がないとまで言っていました。
木目が美しい、滑らかに磨かれた完成品を前にして、それは理解できるような気がしました。

木目の美しい外装だけではペンケースとしては不完全で、ペンを保護する内装も重要であることは言うまでもありません。
そこにはル・ボナーの松本さんが担当した内装があり、このケースの魅力を引き上げています。
ピッグスキンの裏革を敷き詰めた内装に可倒式の仕切りがあり、ブッテーロのベルトで固定できるようになっています。
仕切りとベルトがペンの太さに合わせて動かせるため、様々な太さのペンを収納し、固定することができます。
さらに中でペンがカタカタと動くこともなければ、向かい合ったペン同士が当たることもありません。

10本を収納することができるペンケース。
たくさん持っている人には物足りない数ですが、自分のコレクションの全てを入れるのではなく、たくさんあるコレクションの中から今一番のお気に入りを10本だけ選んで、特別なケースに入れておく。
このケースを開いた時、木のフレームの中のピッグスキンに守られた10本のペンへの愛情はさらに強くなるのだと思いました。

Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨cid=Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨keyword=%A5%B3%A5%F3%A5%D7%A5%ED%A5%C3%A5%C810″ target=”_blank”>Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):花梨
Conplotto-10(コンプロット-ディエーチ):ウォールナット

好きなインク選び

好きなインク選び
好きなインク選び

当店では万年筆を買われたお客様が一緒にそのペンに入れるインクを買われることが多く、万年筆を選ぶ時と同じくらい、あるいはそれ以上の時間をかけてインクの色選びをされる方をよく見ます。

それくらいインクというのは多くの人にとって、こだわり所であり、自分の個性が発揮できるところでもあるのだと思います。
万年筆の軸の色に合わせたり、季節感を出したり、仕事でテンションの上がる色にしたりなど、様々な理由でインクの色を選ばれているようです。
そんなふうにインクの色で迷われている所を見るのは皆様のこだわりを感じることができて、とても参考になりますし、楽しい時間でもあります。
万年筆を使われている皆様にはインクの色でもっと遊んでもらいたいと心から思っています。

そんなことを言いながら、私は最近自分が一番インクの色にこだわっていないのかもしれないと思い始めました。
その時々で使っているインクの色が違いますし、全てのペンに同じ色のインクを入れてしまうため、色々な色を使い分けることもしていません。
今まで様々な色のインクを使ってきて、結局自分の答えは色にはないということが分かってきました。

私のインクへのこだわりは、色ではなくその「性質」でした。

よく伸びるインクという表現が皆様に伝わるかどうかわかりませんが、そのよく伸びるインクを私は好んで使っています。
よく伸びるインクというのは、サラサラと流れるインクというふうに言い換えることができるかもしれません。
そのようなインクはスルスルと書き味が良く、その書き味の良さを感じたいがために、私はいつも伸びるインクを使います。
よく伸びる代わりに、乾きが遅かったり、にじみが大きかったり、色がつまらなかったりしますが、そんなことは全く気にしません。
万年筆からサラサラと滑らかにインクが流れてくれることだけを望んで、よく伸びるインクを使い続けています。

インクの色を変えて「色」を楽しむ。インクの性質を変えて「書き味」を楽しむ。インクには色々な楽しみ方があるのかもしれません。

私が現在よく伸びるインクとして把握しているのは、セーラーブルー、セーラーブルーブラック、パイロットブラック、パイロットブルーブラック、パイロットブルー、そして当店オリジナルインク朔です。

画像は当店スタッフ私物インク(一部)です。

息子へ贈る万年筆

息子へ贈る万年筆
息子へ贈る万年筆

中二の息子が卒業式で送辞を読むということで先生からお誘いを受け、卒業式を見に行ってきました。
大勢の人を前にしても堂々として落ち着いていて、送辞を読み上げながら涙ぐみ声を詰まらせる「余裕」を見せる彼のしゃんと伸びた背中を見ながら、その成長にとても驚いてしまいました。

親馬鹿になりますが、彼は成績も良く、生徒会の活動でも活躍しているいわゆる優等生で、両親には似ませんでした。
わが家ではダイニングテーブルで仕事や勉強をすることが慣わしとなっていますので、彼のストイックと思えるほどの勉強量はいつも見ていましたし、その彼の直向さに私も逆に影響を受けています。
そんな息子に今までちゃんとした万年筆を贈ったことがなく、周りの人に万年筆の良さを広めようと努力されている皆様から見ると意外に思われるかもしれません。

私自身、万年筆を使う人を一人でも増やすということをライフワークとすると宣言しておきながら、自分の息子に万年筆を使わせることができていないことは非難の的になっても仕方ないことです。
しかし、自分が仕事としているものを贈ることへの照れもあって、息子を洗脳することから逃げている訳です。
その息子が志望する高校に入学した時に万年筆を贈りたいと最近思い始めました。
彼の書く量を見ていて、より書くことを楽にしてあげたいという思いと、書くことを楽しむことができる道具万年筆が、私が彼に教えることができる唯一のことだと思いました。
私は小学校高学年でプラチナプレピーを使っていましたが、その後発展していかなかったのは、書き味の良い万年筆の存在を教えてくれる人がいなかったからでした。
だから彼が使うかどうかは別にして、書きやすい金ペン先の万年筆を贈りたいと思いました。
どんなものがいいかいろいろ考えましたが、ラミー2000を思いついたとき、一番ふさわしいような気がしました。
ラミー2000はその存在がいろいろなことを物語ってくれていて、親から息子への無言のメッセージになると思ったのです。

1966年に2000年まで通用するものという目標を掲げ、企画、デザインされたラミー2000は目標通り2000年をとっくに過ぎた今でも古臭さを感じさせず、感覚の新しい若い人からも支持されています。
発売当時、黒いボディに金色の金具の万年筆が主流で、ペーパー加工された銀色の金具の万年筆などなく、かなり異端的に思われたラミー2000は全く売れなかったそうです。
それでもラミーは2000の素晴らしさを信じて辛抱強く作り続け、時代が追いついてくるのを待ちました。
今ではそんなことが嘘のようにラミー2000は現代のデザインに自然に馴染むものになっています。

ラミー2000からは、彼が仕事をするようになった時に、先を読むことや、他人に惑わされないオリジナリティを持つことの大切さ、自分が信じたことを貫く頑固さを持ち続けることを教訓として感じ取ることができると思っています。

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」
神谷利男著 「My Favorite Fountain Pens」

私はいつも何か新しい世界を知って、仕事の幅と奥行きを持たせたいと思って本を読みます。
今まで本を読んで偶然知った世界が仕事の役に立ったこともありましたし、新しい世界の扉を開けることでもありました。
本を読むことは、自分への楽しみであり投資でした。
本から刺激を受けて、仕事に役立てることは皆さんも同じだと思います。

万年筆にも同じことが言える人がいるのかもしれません。
万年筆1本あればとりあえず用は足りますし、せいぜい用途別に持ったとしても、字幅を揃えて3本くらいあれば充分です。
しかし、物から与えられる刺激、インスピレーションを感じる人が、その万年筆は仕事の役に立つと思うなら、手に入れなければならない理由になると思います。
この本の著者神谷利男さんもそれぞれの万年筆からインスピレーションを与えられたこともあったのだとこの本を読んで知りましたし、万年筆から刺激を受けて良い仕事ができるということは確実にあると思います。
初めてこの本のゲラ刷りを神谷さんから見せていただいた時、写真や絵に惹きつけられましたが、ゆっくり時間をかけて読ませていただいて、その文章の私的世界は、時にはビジネス書であり、時には生き方を教えてくれる本でした。

会社の社長であり、グラフィックデザイナーであり、二人の息子さんの父親であり、夫である神谷利男という人からより良い仕事をしたいと思っている人へのメッセージだと思えるくらい、様々なことを教えてもらうことができて、もっとクリエイティブでありたいと思える刺激が受けられる本でした。
非常に凡庸な言い方ですが、この本をただの万年筆の本だと思いながら読んだ人は、その内容の深さに嬉しい驚きを覚えるでしょう。

この本には、見た事もないような珍しい万年筆や、誰も知らなかったような万年筆の知識などはありません。
そもそも神谷さんには、自分のコレクションの万年筆の、こういうところが良いなどという万年筆を批評する気持ちなどなく、様々な万年筆から得ることができた仕事にも生きたインスピレーションを本という形で私たちに教えてくれました。
より良い仕事をしたいと思っておられる方には、とても刺激になる本で、ただの万年筆の本にはない、著者の生き様から、自分たちの生き方を教えられる本だと思っています。

いつも目の前にあるものに夢中で、子供のように話がポンポン飛ぶ神谷さんに会うといつも刺激を受けますが、この本でもさらに奥深い刺激を受けました。

モンテグラッパ エンブレマ

モンテグラッパ エンブレマ
モンテグラッパ エンブレマ

万年筆の価値は書き味や実用性だけで決まるわけではなく、そのデザインなどから来る「持つ喜び」もひとつの価値だと考えています。そういう意味からも、モンテグラッパの言うライティングジュエリーという言葉に共感しています。

「ライティングジュエリー」というコンセプトに近いことを数々のメーカーが挑戦してきた経緯もありますが、なかなか定着するまでには至っていないように思います。しかし、モンテグラッパはライティングジュエリーと堂々と言える、数少ないブランドだと思います。
モンテグラッパはそういう意味でも気になるブランドで、このペン語りではネロウーノに続き2回目の紹介になります。

先日、大和出版印刷さんが出品する商業ポスターのコンテストに、当店を題材とすることが決まった時、モンテグラッパの万年筆を使いたいと思いました。
モンテグラッパのその物たちが放つ力強い魅力と華やかさが写真映えすると思ったことに加え、当店もモンテグラッパのように独自の道を行く存在感を持ちたいと思ったからでもあります。
時代や流行を追いかける訳ではなく、他のブランドを真似るわけではなく、モンテグラッパはいつもモンテグラッパらしくありました。
そんなモンテグラッパの中でも、最もモンテグラッパらしいのがエンブレマです。

実際のペンやカタログを見ていても、このエンブレマが最も強烈な個性を持っていることが分かっていただけると思います。そのインパクトがエンブレマをポスターの中心に据えた理由だと思いますし、私がモンテグラッパらしさを感じるところです。
エンブレマはスターリングシルバーの金属部分とマザーオブパールを練りこんだ美しいセルロイドのボディを持っています。
スターリングシルバーは、モンテグラッパのポリシーでもある表面加工をしていないもので、時間を経過するごとに、使い込むごとに渋い色合いへと変化していき、とても良い風合いに変わります。
美しく輝くセルロイドは、他のメーカーでは見られないもので、シンフォニー、ミヤなどにも使われています。
モンテグラッパのセルロイドからは、万年筆黄金期へのノスタルジーなどは感じられない、その輝きを実現するために必要な現代の素材という想いを感じ取ることができます。
ペンは非常に小さな工芸品なので、細部に目を凝らさないと意匠の違いとか、特長を掴みにくいところがありますが、エンブレマにはそんな顕微鏡的な見方は必要ないと思っています。
離れて見てもその美しさは伝わってきますし、セルロイドの輝きが人目を引くのに充分なものだと思います。

あえて実用面に関するリポートは何もしておりませんが、インクの引っ張りの良いエボナイトのペン芯とともに必要十分な性能を見せる硬めのペン先のフィーリングは、書き味ではなく、万年筆を持つ喜びを見出す人のためのペンだというメッセージが込められているように感じます。

試筆用紙を作りました

試筆用紙を作りました
試筆用紙を作りました

当店で試し書きしていただくための用紙を作りました。
お店で万年筆を試す時に、売場に備えられている紙が日頃使っている紙とかけ離れているので、戸惑われた経験をお持ちの方は多いと思います。
万年筆売場などにある紙は、調子の悪い万年筆でも書き易くしてしまいますし、インクの出も多く感じます。
表面に不自然な加工がされているものが多く、言わば万年筆を売るための紙になっています。
それでは万年筆の調子が分かりませんし、買って帰って家で試したら、全然違っていたということもよくあるようです。
当店オリジナルの試筆用紙は大和出版印刷さんの協力を得て作りました。
ペンの引っ掛かりが少なく、インクにじみが適度で、不自然な感じでないものという万年筆用の紙としての希望に適うものを大和出版印刷の多田氏にお願いして、いくつか候補を挙げてもらい、その中から選びました。

皆様がよく使われる一般的な上質紙と何ら変わりなく、万年筆の良否を判定するのにとても適した紙だと思います。
中央下に小さく当店のロゴを1枚1枚全てに印刷し、その入り方もとても気に入っています。
B5サイズで、長辺をレポート用紙のように糊綴じしています。
この手のものは短辺を綴じるものが多く、非常にユニークなものになっていますが、ペンを試すのに良い大きさだと思います。
店でペンを選んでいただくための試筆用紙ですが、販売もさせていてだくことにしました。
価格は300円で100枚綴じです。
こういった用紙を机に置いておくと、メモ用紙代わりに使うことができて、ご自分の万年筆の調子を確認する時にちょっと書くのにもとても便利です。
そんな光景が他所で見られるのかどうかは分かりませんが、自分が持っている書きやすい万年筆を他の人に書いてもらって、その書き味に共感してもらうといった時にもとても便利だと思います。

Pen and message.オリジナル試筆紙

ラミー サファリの価値観

ラミー サファリの価値観
ラミー サファリの価値観

サファリは価格が安く、ドイツ本国では学童用に作られたということで、初めて万年筆を使う人だけのペンと考えがちですが、それだけでは惜しい気がします。
サファリには独特の価値観、スタイルがあり、特にデザインにこだわりを持っている若い人には重厚ではないこのペンのあり方は共感できるものだと思います。
価格は安いけれど、好きで使っている、こだわりを感じさせるペンがサファリです。

サファリと言えば、価格が安いのに全く売れない万年筆というのが4,5年前までの販売側のイメージでした。
ラミーはドイツではモンブラン、ペリカンなど数々ある筆記具メーカーを凌ぎ、最も多くのペンを売っているメーカーであることを聞いていましたが、何かピンと来なかったのを覚えています。
サファリが長い間日本で売れなかったのは、万年筆を使う年齢層に関係があるのだと思います。
万年筆といえば、年配の人のためのペン、エグゼクティブのための高尚なものというイメージが万年筆を使わない人にはあったと思われますし、実際に万年筆を使っている人はある程度の年齢になっている人ばかりで、万年筆といえば金ペン先の柔らかい書き味が醍醐味だという固定観念があったのかもしれません。
そんな万年筆の土壌の中では、サファリは売れないと思いますし、理解されないのかもしれません。

しかし近年、発売後20年以上経っていたサファリの人気に火がつきました。
サファリのようなペンが売れるというのは、ペンの業界として非常に喜ばしいことで、万年筆を使う若い人が増えているということを裏付けています。
やっとサファリのデザインを使いこなすことのできる新しい感覚の人たちが万年筆を使うようになったと思いました。
サファリには機能的な工夫がいくつもあり、それが見所でもあります。
グリップのくぼみはそこに指を沿わせると、正しい位置で持つことができ、ペン先も最も書きやすいところが紙に当たるようになっていますし、ボディに空けられた楕円形の穴はインク残量を確認することができる窓になっています。
針金のようなクリップは厚手の生地、例えば鞄のストラップ、デニムのポケットに挟んでも広がらない頑丈さを持たせています。
ターゲットを正確に設定し、それに合った商品開発をすることで発売から短期間での目標達成を目指すラミーの考え方が、製品の価格を引き下げるのにも役立っていると思われます。
日本のメーカーがこの価格で万年筆を作ると、ユーザーに妥協を強いることが多いように感じてしまうのはとても残念です。
プロダクトデザインの考え方、マーケティング、対象マーケット全てが違うのかもしれませんが、万年筆の文化を広める気持ちの違いを感じずにはいられません。