ペリカン「ポーラーライト」と大人たちとの時間

ペリカン「ポーラーライト」と大人たちとの時間
ペリカン「ポーラーライト」と大人たちとの時間

とても有り難いとことですが、この店には本当に素敵な方々が万年筆を買いに来てくれます。
そんな毎日の中で、この青年のことは私だけでなく、そこに居合わせたお客様方全員がもう一度会いたいと思ったのではないかと思います。

羽織、袴の若い男性がご来店されたのですが、その場に居合わせた大人たちは彼に対する興味を隠さず、今出会ったばかりのその青年に気さくに話しかけていました。
後から考えるとそれは彼がその店の雰囲気に馴染むのにとても役立ったと思います。
万年筆を選び始める前に、彼はこの店の雰囲気にも周りの大人のお客様にも慣れて、とてもリラックスできるようになっていました。
私は彼の和装を見て、日本製の和の趣がある中屋万年筆、漆塗り万年筆の元祖パイロットのカスタム845、予算の幅を考慮してセーラープロフィット、若者が好みそうなビスコンティなどを選んで彼の前に並べました。
比較的太めのペン先のものを考えているとあらかじめ聞いていましたので、中字の万年筆を用意しました。
彼はそれらをゆっくりと試しながら、一本ずつそのペンの良いところをコメントしていましたが、そんなところにも彼の若者にはなかなかできない気配りを感じました。
そんなやり取りの中で分かったのは、デザインに関しては若者らしくカラーのあるきれいなものがいいと思っていることと、ずっと使うことのできるしっかりとした実用性を持っているもの、書き心地、持ち心地の良いものを選びたいと思っていることでした。
彼が最後の最後まで、迷ったのはカスタム845と彼のリクエストでリストに加えたペリカンポーラーライトでした。

パイロットカスタム845はとてもオーソドックスなデザインで、黒色のボディに金色の金具という万年筆らしい重厚さに憧れたということと、一見するとプラスチックに見えるボディが実はエボナイトに漆塗りという日本的な美学のあるところに惹かれたようでした。
でも、ポーラーライトの素直にきれいと思えるボディと書き味の良さによって、気持ちが固まったようでした。
そのポーラーライトのMはペリカンのコンディションの良い万年筆がそうであるように、紙に触っていないかのような一切の抵抗のない滑りの良さと、インクが湧き出すような感覚がありました。
ボディにもアルミ素材が使われていて、金属なのにその絶妙なカーブによって柔らかいと錯覚する持ち味がありました。
北欧から見える美しいオーロラを表現したというボディカラーは様々な緑色で描いていますが、彼が持つとその緑色の一番濃い部分がとても渋い日本的な色に感じ、茶道具のように見えました。
よくお客様と話していて、その万年筆のことがとても好きになってしまうことがありますが、彼が選んだポーラーライトがとても好きになりました。

万年筆が決まった後、彼は居合わせた大人たちを相手に彼が早くもライフワークにしたいと思っている香道や自分のことについて話しました。
大人たちは17歳という若さでこんなにもしっかりとしていて、自分の意見をはっきりと言えて、でもとても爽やかでかわいいとさえ思える若者らしさも持っている彼にすっかり魅了されていました。
彼が、自分の話をこんなに聞いてくれた人たちに会えたのは初めてでとても楽しかったと言って帰った後も、私たちはその快い余韻に浸り、自分たちが17歳だった頃の思い出までいつまでも話していました。

ル・ボナーのペンケース

ル・ボナーのペンケース
ル・ボナーのペンケース

タフで骨太な仕様のものに強く惹かれますが、このペンケースの魅力はそれだけでなく、使い込むことで分かる、使っていくうちに増してくる愛着というものも持っています。
私が今まで見てきたペンケースは、ほとんどが高価で上質で繊細な革は使っていましたが、その作りは頑丈だとは言えないものでした。
新品の時、とても美しくしっかりとしたものが、1年もするとクタっとしてしまうことにがっかりしていました。
ペンケースというものは使い込むとただ古くくたびれてしまうものだと思っていましたが、作る人が変わると一生ものにもなり得るということを知りました。
それは革小物職人と鞄職人の違いということよりも、目指すものの違いなのかもしれないと思うようになりました。
どこかの下請けで仕事を請け負っているわけではない独立系の職人は、自分の名前をかけて作るその作品が全てで、その作品の評価が運命を分けてしまいます。
それだけ物作りに真剣になり、全身全霊をかけて行われます。
その独立系の鞄職人の物作りの姿勢がこのペンケースの一番の見所になっているとも言えます。

それは革の縁の処理にも表れています。
革小物職人が作ったものの多くは、へり返しという革を薄く削いで折り返して縫う処理をしていますが、このペンケースはコバ磨きという処理をしています。
へり返しは新品の時、繊細で美しく見えるかもしれませんが、薄くした革は擦り切れやすく、縁が擦り切れてしまうと修復が難しく、使えなくなってしまいます。
コバ磨きの処理でしたら、染料を塗って磨き上げることで、縁を元通りに復元することができます。
このペンケースに使われているブッテーロという素材は滑らかな手触りと使い込むごとに艶を増す上質で強い素材で、こまめに磨くことで表面がとても艶やかになり、美しい光沢を放ちます。
乾いた布で日常的に磨くことも有効ですし、濡らした布を硬く絞って磨き上げるのも革の艶を復活させるのに役立ちます。
そんな風に大切に使うことにも、無造作にハードに使うにも耐え得る素材だと思います。
そんな素材、ブッテーロを背中合わせに2枚重ねて、ペンケースとしては最高の強度を持たしています。
オーバークオリティとも言える仕様のため、フラップ部などは硬くさえ感じますが、使って馴染ませていく楽しみがあります。

私はこのペンケースの3本差しを2つ持っていて、それぞれにお気に入りのペンを入れて、毎日交換して使っています。
そう考えると3本差しというのはちょうど良く、細字、中字、太字と持って歩くことができるので、仕事に行くときこのペンケースを1つ鞄に入れるといいわけです。
自分の持っているペンを全て持ち出すことのない私にとって、この3本差しのペンケース、なくてはならない存在になっています。
モンブラン149までの大きさを入れることができるスペースがありますので、このペンケースに入らないペンは少なく、どのペンも適度にホールドしながら、取り出しもしやすくなっています。

直して使うことが前提になっている鞄職人のペンケース、大切な万年筆を安心して預けることができる、長年使うのに値するクオリティのものだと思います。

ル・ボナー ペンケース

プラチナ ブライヤー

プラチナ ブライヤー
プラチナ ブライヤー

あまりコレクションする習慣のない私が、初めて字幅を揃えて持ちたいと思った万年筆がこのプラチナブライヤーでした。

私が万年筆を仕事にするようになった時にはすでにあって、特に目立った存在ではなくあまり省みられることのないものでしたが、使ってみてその良さが分かりました。

それはデザインなどからは想像することのできなかった満足感、使うたびに喜びを感じることのできるものでした。
私にとってこの万年筆はあまり人が使っていないものを使いたいと思って使い始めた、憧れの存在というものではありませんでしたが、万年筆観を変えてくれるものになりました。
プラチナの万年筆はどれも、文字を書くのに必要最低限のインク出で、硬めのペン先で滑りを出すという味付けが頑なに施されています。
それはもしかしたらお店での試し書きでは良さが分かりにくいものかもしれませんが、万年筆を実用の道具として使っている人の多くが、ご自分の万年筆のインク出が多過ぎることに多少なりの不満を感じていることを考えると、とても実用的な仕様だと思います。

ヌルヌルといった書き味は持ち合わせていませんが、使うための万年筆を頑固に作り続けているのがプラチナです。
ブライヤーという素材は、多くの万年筆メーカーが取り組んできた比較的よく使われてきたものですが、現在継続して定番品として作っているのはプラチナだけだと思います。

シャクナゲ科の植物の杢の部分は、木目が複雑に渦巻いていて面白い模様を呈しますが、硬さもあるため、万年筆などの筆記具にも適している素材だと言われます。
ブライヤーは熱にも強く、筆記具に使われるずっと以前からパイプのボウル(葉をセットする部分)に使われる素材でした。
強度だけでなく、使い続けることで手の油で磨かれてとても美しい光沢を見せることから、見て、磨いて、吸って楽しむパイプ文化を形作ったのはブライヤーという素材があったからだと思います。
この万年筆に使われるブライヤーは拭き漆という技法によって仕上げられています。
漆を布につけて、拭くように素材に馴染ませる技法で、手触り、光沢が自然な風合いに近いこの万年筆の良さに一役かっている技法です。
実用的な文字を書くためのプラチナのペン先システムと、見て、磨いて楽しむことができるブライヤーのボディ、女性のお客様は実際少数ですが、男性のための万年筆がこのプラチナブライヤーだと思います。

手帳書きにインク出をさらに絞ってペンポイントを細くした細字、ノート書き用に中字、太い文字が欲しい時に使う、インク出をできるだけ多くして、筆記角度に合わせてペンポイントに面を作った太字と用意して、どのペンも布でピカピカに磨き上げて、3本差しのペンケースに入れて持ち歩きたいというイメージを持たせてくれる万年筆だと思っています。

プラチナ ブライヤー

アウロラ オプティマ

アウロラ オプティマ
アウロラ オプティマ

多くの人がこのペンのデザインを気に入って使い出したのではないかと思います。
というのも、私自身がこのオプティマの控えめな華やかさから香るインテリジェンスを強く感じるデザインに惹かれて使い出したからです。
他のイタリア製の万年筆と違って、強烈すぎない、とてもスマートで洗練されたセンスをアウロラの万年筆に感じていますが、オプティマは最もそれを端的に表している万年筆だと思っています。

そんなスマートな洗練された万年筆をアウロラが作ることができたのは、アウロラがあるトリノという土地柄なのかもしれません。
フィアットの本拠地であり、ピニンファリーナ、ベルトーネ、イタルデザインなど多くのカロッツェリアが存在し、OA機器で一時代を築いたオリベッティも拠点を構えたイタリア有数の工業都市であり、世界的に成功を収めた多くの製品を生み出し、イタリアがデザインに優れた工業製品を作る国だという印象を与える役目を果たした街、それがトリノでした。

歴史的な遺構が残る過去に生きる街にある他の万年筆メーカーと違い、優れた工業製品が街中で作られていた街で繁栄していったアウロラが、洗練されたセンスの良いもの作りをしているのも当然なのかもしれません。
パーツメーカーから供給を受けて、アッセンブリーしたものを製品として発売しているメーカーも多く存在する中、全てオリジナルパーツで作り上げているアウロラというメーカーはとても貴重な存在であり、安心してmade in Italyを手にしているということが言える数少ないもののひとつだと思います。
全て自社で製作されたオリジナルパーツを使って製品作りをしていることは、アウロラの書き味や使い勝手が独特で、他のどのメーカーにも似ていないところにも表れています。
オプティマをデザインが気に入って使い始める人が多いのではないかと言いましたが、その使い勝手は意外に硬派で、本当に使い込んでいく人のための万年筆といった、一筋縄では馴染まない道具を連想させるところがあります。

エボナイトのペン芯は使い出したばかりの時、なかなかインクがしっかりと出てくれないことがあります。
2週間(目安)ほど我慢して使うとインクが安定してしっかりと出るようになり、さらに馴染むと豊かにインクが流れてくれるようになるという、使い込んで馴染ませる過程が必要です。
アウロラが硬いペン先をこのエボナイトのペン先に組み合わせている理由は、オプティマがここまで育って、初めて分かるのかもしれません。
そんな難しいところのあるオプティマですが、使い込んで愛用のものになった時、手放せない何物にも代え難い物になってくれると思います。

⇒アウロラ オプティマcbid=2557105⇒アウロラ オプティマcsid=2⇒アウロラ オプティマpage=2″ target=”_blank”>⇒アウロラ オプティマ

硬派な道具 「シルバーン」

硬派な道具 「シルバーン」
硬派な道具 「シルバーン」

机に向かって一日を振り返りながら手帳に書き込むための、私なりの手帳用の万年筆をいろいろなものから検討しました。
自分の中に蓄積された知識を引っ張り出して考えましたが、パイロットシルバーンになるとは私自身も意外に思いましたが、今ではこの万年筆で文字を書くのがとても楽しく感じられます。

シルバーンはどちらかと言うと地味な印象の万年筆で、話題になることもありませんし、あまり持っている人を見たことがありません。
しかし、あるパイロットのペンドクターが愛用しているのは知っていましたので、きっと玄人好みの渋い万年筆だというイメージはずっと持っていました。
私はもともとシルバーンのような、古臭いデザインのものに惹かれる性質で、そんな中に何か別格のものを宿しているものが好きです。

シルバーンの場合、その大きなペン先がとても魅力的に感じられました。
その特徴的なペン先は首軸の半分はあり、そこにとても力強い骨太な書くための道具といった印象を持っています。
そのほとんどがボディに貼りついているペン先の形態からは、見た感じの印象からすると硬い書き味に思いますが、使ってみると意外にも動きの大きいペン先で、柔らかい書き味だと分かりました。
柔らかい味わい深い書き味と筆圧に応じてインクの出かたをコントロールできるところは、この独特な形のペン先の恩恵だと思っています。

ボディはスターリングシルバーです。
最近のスターリングシルバーのボディのペンはコーティングされているものが多く、最初の輝きをいつまでも保つ意味ではそれは非常に有効なのかもしれませんが、それは銀の良さを半減させていると思っています。
純銀のボディを使い込んで、だんだん渋い風合いに変わっていくところも銀の楽しみだと思いますので、銀の万年筆にはあまりコーティングはして欲しくないと思います。
それに銀独特の粘りのある触感が損なわれ、コーティングによって滑りやすくなってしまいます。
パイロットの万年筆の多くに言えることですが、キャップの尻軸への入りが深いところもこの万年筆の良いところです。
それは書いている時にキャップがグラつかず安定しているということにも役立っていますが、バランスの良さにも非常に貢献しています。
バランスの良さは長時間の筆記でも疲れないということになるのですが、思った通りに操ることのできるコントロールのし易さにも繋がります。
コントロールのし易さと言えば、シルバーンのペンポイントはボディを断面的に見た中心に位置しています。
これはコントロールのし易さと言う点で、結構重要なことなのかもしれないと思っていますが、けっして多数派ではないようです。
パイロットにはコンバーター70という他社のものに比べて容量が多く、片手で操作できるプッシュ式のものがありとても便利ですが、カスタムシリーズ全てに使うことができるこのコンバーター70をシルバーンでは使うことができません。
ボディ尻軸付近がかなり絞ったデザインになっているところが災いして入らないようで、ゴムチューブの入ったコンバーター20とインク容量の少ないコンバーター50しか使うことができません。
実用的にはカートリッジの方が使いやすいと思います。
私はインクの色にあまりこだわりのない方なので、迷わずカートリッジで使っています。
デザインの華やかさやスマートさ、趣味的な要素などは持ち合わせていませんが、実用的に万年筆に必要な要件を全て高い次元で満たしているシルバーンのような万年筆が私はとても好きですし、多くの方に使っていただきたい万年筆のひとつだと思っています。

パイロット「シルバーン」

手帳用の万年筆を選ぶ

手帳用の万年筆を選ぶ
手帳用の万年筆を選ぶ

先日、ほぼ日手帳に書き込むための万年筆として、パイロットのシルバーンを選びましたが、シルバーンを選ぶまでにいくつかの候補がありました。

私の手帳用の万年筆の条件として、細くくっきりした線が書けて、インクの出を少なく絞ることのできるということが第1の条件でした。
第2には机に向かって、座った状態で書き、ペンケースに入れて持ち歩こうと思っていたので、細軸ではなく持ちやすい太軸のものを選びたいと思いました。
それらの条件に合う万年筆として、シェーファーレガシー、VLR,パイロットカスタム845、プラチナブライヤー、セルロイドなどの細字を挙げて、毎日楽しく思い悩んでいました。
最終的にシルバーンにしましたが、どの万年筆も机上の手帳書きに適したものだと思っています。

シェーファーレガシーとVLRは首軸に埋め込まれたペン先の形が独特で、硬い書き味をイメージさせますが、細字のものでもサラッとした爽快な書き味を持っていて、いつも気になる存在のペンでした。
特にレガシーはキャップの尻軸への入りが深く、先端に近い所を握って書く人にもバランス良く持つことができます。
カスタム845は名品とも言える、パイロットの定番万年筆の最高峰で、非の打ち所のない万年筆だと思っています。
エボナイトのボディに漆塗りというのも魅力で、手にピッタリと着くような手触りの良さがあります。
この太軸で、大きな堂々とした万年筆を細字で手帳に小さな文字を書くという欲求も耐え難いものでした。
机上で、ペンケースに入れて携帯するという私の都合の手帳用万年筆選びでしたが、手帳用万年筆というとシステム手帳などのペンホルダーに入れることのできる細軸のものが選ばれることが多いと思います。
最近細軸の万年筆で良いものが少なくなってきましたが、パイロットのデラックス漆はかなり古くからあるモデルですが、しっとりとした書き味と漆塗りのボディを持つなかなか味わい深い、渋い万年筆だと思います。
漆塗りのボディを持ちながら、1万円台という価格を実現しているのは、漆塗り技法の量産化ができたパイロットならではのものです。
あまり取り上げて話題にされることのない地味な万年筆ですが、手帳用にもお勧めの万年筆です。

手帳用の万年筆と言っても、特に決まった定義があるわけではなく、それは使っている人の事情によって様々な条件があると思います。
日々のビジネスにおいて、手書きよりもキーボードに向かっている時間の方が多い方がほとんどで、手書きができる貴重な機会が手帳を書く時間です。
書いていて楽しいものを選びたいですね。

デルタ ドルチェビータ ピストンフィリング登場

デルタ  ドルチェビータ ピストンフィリング登場
デルタ ドルチェビータ ピストンフィリング登場

様々なバリエーションがあるドルチェビータシリーズに新製品ピストンフィリング(吸入式)が発売されました。

これまでドルチェビータには様々なバリエーションがありましたが、今回のピストンフィリングは正統進化版とも言えるもので、愛用者の人たちの声に答えるものになっていると思います。
このピストンフィリングの一番良いところはドルチェビータのスタイルを変えず、ピストン吸入機構化を実現しているところです。ボディサイズは以前製造されていたオーバーサイズとほぼ同じで、ミディアムよりひとまわり大きくなっています。
吸入式だから万年筆として優れているということは全くなく、その良さはおもしろいということに尽きると思います。
それは自動巻きの時計とクォーツの時計との違いに近いかもしれません。

万年筆が好きな人で今やドルチェビータを知らない人は少ないと思います。
ドルチェビータミニが女性をターゲットにしたペンとして発売された時、そのとてもインパクトのあるボディカラーとシンプルで分かりやすいコンセプトで、万年筆に興味を持っていた女性たちにすぐに受け入れられた記憶があります。
この万年筆を持つと生活が楽しくなるというドルチェビータのメッセージは、物によってライフスタイルを変えることができると信じられていた当時の世相と重なって大ヒットしました。

確かにドルチェビータは持ってみたいという、「物」としての魅力と生活を変えてくれるのではないかというインパクトを持っていました。
ミニで女性たちの心を捕らえたデルタはすぐにミディアムサイズを発売し、男性たちの心も捕らえました。しかしドルチェビータが商業的に本当に成功し、多くの人に知られることになったのはこのミディアムの発売後しばらく経ってからだったと思います。
このドルチェビータシリーズが注目されよく売れた時、他の万年筆メーカーはきっと大いに悔しがったのではないでしょうか。
特に新しい試みや工夫があるわけではなく、デザイン的にも新たなものがあるわけではないですが、鮮やかなオレンジ色のボディとドルチェビータという今までの万年筆にはなかった印象に残る名前で十分でした。
オレンジ色のボディカラーの万年筆は以前にも存在していましたが、当然ドルチェビータほどの人気は得ていませんでした。
ドルチェビータの成功は、目の付け所を変えた単純な施策によってより大きな効果を得たように感じ、そこにイタリアらしさを感じました。

ドルチェビータはそのデザインばかりが取り上げられていますが、実用的にもとてもまとまった堅実な印象の万年筆だと思っています。
ペン先が柔らかいわけではなく、どちらかというと硬めで、極上の書き味といった味わいではありませんが、しっかりとしていて、ビジネスシーンでも使うことのできる実用性を持っています。
ミディアムの太いボディはデザインにおいても安定感のある印象を与えてくれますが、実用的にも持ちやすく、愛用のペンとしていつもペンケースに入れている方も多くおられます。
それはデザインだけが飛び切り良いイタリア万年筆の代表のように述べられがちですが、M800,146、オプティマなどと並んで、万年筆の定番と言っても恥ずかしくない存在感を身に付けていますし、一本は持っていたい万年筆です。

司法試験の万年筆

司法試験の万年筆
司法試験の万年筆

司法試験を受ける人たちが勉強する、当店からも近い大学の法科大学院で合格した先輩が、後輩たちに「筆記具は万年筆がいい」と語ったという話を学生の方から聞きました。
その大学の法科大学院では万年筆が流行っているようで、受験生の方が来店される機会が多くなりました。
確かに長時間(最長で4時間)ぶっ続けで、しかもすごいスピードで書き続けなければならないという極限の状態は万年筆がその本領を発揮する場面なのかもしれません。
ある人によると、万年筆と普通のゲルインクのボールペンを比べた場合、書くスピードが1.5倍になり、後半になってもそのスピードは落ちないそうです。
そんな司法試験に合った万年筆を実用に徹した国産万年筆の中から、コストパフォーマンスに優れたものをいくつかお勧めしたいと思います。

用途が決まっている場合の万年筆選びで一番重要なのは、字幅の選択です。
答案用紙の罫線高さから考えて、細字から中字あたりが適当だと思います。極細では引っかかりが強くスピードを出して書きにくくなりますし、太字では文字が潰れてしまいます。
細字なら調整はインク出を多めに、中字なら少なめにすると良いと思います。筆圧や好みに合わせて選択しましょう。

軸(ボディ)の太さは、あまり細すぎるものは必要以上に力が入ってしまい、長時間の筆記では疲れてしまいますし、日々の勉強で手が痛くなってしまいます。ある程度の太さが必要だと思いますが、購入時にじっくり試し書きをして自分の手にあったものを選びましょう。

また、インクの問題も重要です。
書いたばかりの時に手が当たってインクが流れてしまうのを防ぐために、それが気になる方は、少しでも乾きの早い顔料インクを選ばれています。
このインクを使うとペン先が乾きやすくなり、使わないときはすぐにキャップを閉める習慣付けが必要ですが、有効な手段だと思います。

万年筆に使うことができる顔料系のインクは、セーラーの極黒(きわぐろ)とプラチナのカーボンインクがあります。
どちらのインクもボトルとカートリッジがあり、経済的にはボトル(別売りのコンバーターが必要)、携帯性ではカートリッジが優れています。
顔料系のインクは普通の染料系のインクと違い、粘度が高いため書いているとインクが降りずに上に残ってしまう「棚吊り」という現象が起こることがあります。インクが出にくくなったら、万年筆を軽く振ってインクを落とすことが必要です。また、プラチナのカートリッジは中に金属の玉が入っていますので、棚吊りを防いでくれます。

顔料インクのボトルとカートリッジ両方を使うことができる万年筆は、セーラーとプラチナですので、司法試験の万年筆として私がお勧めするのはこの2社になります。
プラチナ「3776」のシリーズは、ペン先が硬く、力を入れて、早く書く方に向いています。
その中で、3776バランス18金は今年発売された新製品です。
ペン先の素材を14金から18金にグレードアップされていますが、そのメリットは書き味の良さに尽きます。
長時間使うものですので、より快適に使うことができるものを選んで欲しいと思っています。
「プロフィット21スタンダード」はペン先が21金仕様で、書き味が格段に良くなります。
少し細めのボディですので、重さが気になる女性の方にお勧めの万年筆です。
「プロフィット21」は、スタンダードよりも太めで、大きなボディになりますので、男性の方にお勧めします。
ペン先が大きく、書き味はさらにしなやかになりますので、書くことがより楽しくなると思います。

司法試験にお勧めの万年筆としていくつかの万年筆を選びましたが、インクの出、書き味など好みに合わせた調整を施すことによって、よりご自分の道具として使いこなせるようになると思っています。
万年筆を使うメリットは、他の筆記具に比べ線に抑揚が出て美しく見える、力を入れなくても字が書けるので手が疲れにくい、書き味を楽しめるなどですが、ひたすら字を書かなければならない受験生の方のストレスを軽減し、勉強を楽しくしてくれるものだと思っています。

プラチナ ギャザード(画面中央)

セーラー プロフィットスタンダード
セーラー プロフィット
プラチナ カーボンインク
セーラー 極黒

ビスコンティ オペラ エレメンツ

ビスコンティ オペラ エレメンツ
ビスコンティ オペラ エレメンツ

ビスコンティの定番モデル、オペラがモデルチェンジしました。
単なるレジン素材変更によるカラーリングの変更と思われるかもしれませんが、コンセプトを始めとして全てが変わったモデルチェンジだということを知っていただきたいと思っています。

オペラエレメンツは、古代哲学で地球の構成要素と考えられた、地(ブラック)、水(ブルー)、空気(イエロー)、火(レッド)をそれぞれのボディカラーで表現しているとのことで、そのカラーに絡む白いラインは精気を表しているのかもしれません。
私たちが大切にしなければならない地球、そしてその地球と調和して生きていくべき生命というテーマがオペラエレメンツに込められていると思っています。
シリアスで深遠なテーマを代表するペンに与えたことがとてもビスコンティらしいと思いましたし、このようなテーマを世に問うのがビスコンティに敬意を感じるところでもあります。
このペンを使う人はきっと自分のことだけでなく、世界のこと、この地球のことも考えて生きているのだというビスコンティの思いも感じ取れるペンになっています。
新作オペラエレメンツを見ると、マーブル模様で、イタリアらしい、つかみ所のない美しさを持った前作から一転して、そのカラーリングの力強い美しさにまず目を見張ります。
ボディシェイプは前作同様、スクエアリングサークルフォルムという四角い断面を持つボディになっていて、これがデザインの上の特徴にもなっていますが、実用的にも意外な持ちやすさに作用しています。

キャップの開閉はフックロックセーフ機構という、ワンアクションでキャップを開閉できるとても便利でスマートなシステムを新たに採用しています。
これは以前に開発されていたシステムを名作限定品デヴァインプロポーションで改良して採用し、デヴィーナブラックに継承されているシステムです。
キャップが開閉しやすいという実用以外にも、キャップを短くすることで、バランスの美しいデザインに仕上げるのにとても有効なものです。
インク供給方式はカートリッジ、コンバーター両用式という平凡なものですし、ペン先も柔らかくも硬くもない標準的なもので、太字も設定されていないということでも分かるように、いわゆる万年筆マニアをターゲットにしたものではなく、たくさんの小物の中でのバランスを考えて投資する人のためのペンだと思います。

78,750円という価格は安いものだとは言えませんが、あえてマニアックな仕様に凝ることをせずに一般的なものを採用したことで、この万年筆をどういったものにしたいかという、ビスコンティのメッセージが伝わってきます。

大和出版印刷上製本ノート 第2弾

大和出版印刷上製本ノート 第2弾
大和出版印刷上製本ノート 第2弾

今回は万年筆ではなく、新しいノートが発売になりましたので、ご紹介いたします。
ノートは用途によって使い分けるものだということは、それぞれのノートを使ってみて分かります。このノートは豊かな時間を過ごすために、製作者が心を込めて作ったものだということが手にするだけで分かります。

誰でも日常の生活の中に何らかの楽しみを見出して、その時間を大切にしていると思います。
それは一日の中では、非常に短い時間かもしれませんが、心を落ち着かせることができ、平凡な日常も悪くないと思わせてくれる時間だと思います。
一日の仕事が終わって家に帰り、夕食など全ての用事が終わって寝るまでの間。それはわずかな時間ですが、落ち着いた静かな時間を持つことができます。
この時間に私が楽しみでしていることは、大和出版印刷の厚い製本ノートにゆっくりと書き込むことです。
大和出版印刷が昨年12月に発売したバガス紙の上製本ノートに、私は思考のノートと名前をつけ、その日一日考えたこと、感じたことなどを書き連ねています。
非常に厚いノートにも関わらず、優れた製本技術のおかげでページ開きがよく、比較的フラットになってくれます。
バガス紙は非常にペンの滑りが良く、気持ちよく万年筆を走らせてくれますし、インクが少しだけにじみますので、私の下手な字に魔法をかけてくれます。
そんな最高のノートと過ごす夜の短い時間はとても楽しく、この時間を過ごすために私は一日何かを考え、感じようとしているのかもしれないとさえ思います。
昨年12月に発売したバガス紙の製本ノートは、完売目前でほとんど在庫が残っていませんが、大和出版印刷は今年も私にとっての思考のノートを製作してくれました。

製本ノート第2弾は、在庫がなくなったバガス紙に代えて、Aプランという紙を膨大な紙サンプルの中から、万年筆に適したものとして選び、昨年と同じ優れた製本と活版印刷によって、シンプルで飽きないノートになっています。
Aプラン紙は、優れた印刷用紙といて既によく知られた紙ですが、万年筆との相性も良く、ツルツルと滑り過ぎない自然な書き味とバガス紙よりもにじみが少ないのが特長です。
細字から中字の万年筆で書くと、とても気持ちよく使うことができると思います。
400ページ弱というとても書き応えのあるノートですが、夜の心のゆとりができた時間に開いて、自分の考えを書いたりするのに最適なものだと思います。
毎日に平凡な生活の中に、宝物となるような特別な時間をもたらしてくれるノートだと思っています。

*画像は実際に使用しているノートです。(吉宗使用)

大和出版印刷上製本ノート