質実剛健という言葉が最も似合う万年筆がカスタム743だと思っています。
万年筆は書くため、あるいは気持ちよく文字を書くためのみにあるのではなく、書くことを楽しむことと同じくらい、その万年筆のデザイを楽しむことも万年筆を使うことの醍醐味です。
しかし、カスタム743はデザイン的な面白みや見て楽しめる要素を持たせようとする努力はされておらず、万年筆の本質の部分だけを追究した結果生まれたように思います。
しかし、この万年筆にはこれで十分という及第点を遙かに超えた性能やフィーリングの良さが備わっています。
まさに書くということに全てが向かっている万年筆だと言えます。
黒いボディに金色の金具というあまりにも万年筆然としたデザインは長く飽きずに使うためのありきたりさを狙ったもの、絞られたキャップトップとボディエンドはバランスを中央に集めるため、さらにキャップの尻軸への入りの深さも有利になり、バランスをより良くするためのものだと解釈しています。
他の万年筆よりも長く感じられるキャップはペン先の保護だけでなく、首軸とボディの接合部(万年筆の中で一番弱い部分)をも守るための仕様になっています。
大きなペン先は、柔軟性よりもしっかりとした耐久性が感じられますし、字幅ごとに溝の太さが最適に調整されている容量十分な大きなペン芯も備わっています。
ここまで書くということにこだわったカスタム743を、2011年は実用的な万年筆求めておられる当店のお客様方におすすめしたいと思い、字幅を揃えてみました。
私は国産の万年筆においては2万円クラスのものが実用的には完璧だと皆様にお勧めしてきました。
2万円クラスの万年筆は、持つ喜び、見る楽しみなどの要素は少ないかもしれませんが実用的に不満を持たれることは少ないものだと思っています。
しかし、そこまでの性能の限界を求めた使い方をしなくても、オーバークオリティであるということは、万年筆を使い慣れた人だけでなく、初めて万年筆を使う人にも、大きな喜びを常にもたらせてくれるものだと思っていますので、平均点を大きく超えた実用万年筆としてカスタム743を選びました。
実用的な万年筆としてお勧めするために、なるべく用途に合ったものを選択していただこうと、多くの字幅を用意しています。
極細、細字は手帳への細かな文字での書き込み専用、中字は手紙用、太字はメモ帳や原稿用紙用として私は使い分けるようにしています。
普通のペン先ではない、特殊な形のものについては、下記の解説をご覧ください。
〇ポスティング(PO)
本来帳簿に細かな数字を明瞭に書くために、そしてなるべく滑らかに書くために考案されたペン先です。
ペンポイントをお辞儀させることでペン先が開きにくくなり、安定して太さが均一な文字を書くことができます。
手帳に小さな文字を書くような用途に向いています。
〇ウェーバリー(WA)
ポスティングとは逆にペンポイントが少しのけぞった格好をしていて、ペン先の腹が開きやすくなり、柔らかな書き味で紙当たりが柔らかくなります。
書き味を楽しめる中字相当のペン先です。
〇スタブ(SU)
明朝体のような、横線が細く、縦線が太い文字を書くことができるペン先です。
ドイツ製の万年筆の中字以上が以前はこれに近い仕上げになっていましたが、最近では丸研ぎになっていますので、スタブは貴重な存在だと言えます。
ペン先をひねらずに紙に正対させるという書き方のコツが少し必要です。
〇ファルカン(FA)
指先の力の入れ加減で、細くも太くも書くことができる大変柔らかいペン先です。
書ける文字は筆のようで、これに代わる使い勝手を持ったペン先はありませんが、使いこなすには少しテクニックが必要です。
ペン先が柔らかくすぐ開くため、筆圧を調整できないとすぐにインクが途切れてしまいます。
筆圧の調整は、シンプルに力を抜くか、ペン先をひねって開きにくくする方法があり、書きながらこれらのテクニックを駆使しなければならないのがフォルカンですが、使いこなせた時の感激は大きいと思います。
特殊ペン先は通常の万年筆のペン先とは仕様が違っていて、文字通り特殊なもので、使う人をかなり限定してしまいますが、実用上大いに意義のある使う理由のあるものだと私は思っています。
国産万年筆最高のタフな性能とフィーリングの良さを持ったカスタム743に用途に応じたペン先をチョイスすることで、最高の実用万年筆になります。