今夏の旅行に携えて移動中や宿に帰ってからの時間の楽しみである、自分なりの紀行文を書くための万年筆として、オマスアルテイタリアーナミロード万年筆を選びました。
そして旅に持っていく万年筆やノートと同じくらい大切な携行本が、井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」で、万年筆と関連性を持たせて旅の間オマスについて考えたいと思いました。
オマスは1925年にイタリアボローニャで創業し、今もその地に根付いて活動している万年筆メーカーです。
万年筆の歴史において重要な名品を生み出したりして、海外では根強い人気があるようですが、日本では輸入代理店が何度も変わったりしたため、不当に知名度が低いようでしたが、喫煙具などを中心に扱っている会社インターコンチネンタル商事が扱うようになって、ようやくオマスを日本でも広めていく体制が整ったようです。
昨年オマスの工場を訪ねるためにボローニャを訪れたことで、オマスにもボローニャの街にも強い思い入れを持ちました。
そんな背景もあり、オマスをモンブランやペリカンなどと同じくらい、一般の万年筆に詳しくない人でも知っているブランドにしていきたいと思っています。
まず自分でオマスの万年筆をとことん使ってみようと思い、昨年から最も代表的で一般的だと思う万年筆アルテイタリアーナミロードをかなりの使用頻度で使っています。
ミロードはペリカンM800相当のレギュラーサイズの万年筆で、決して小さくありませんが、コットンレジンという綿由来の天然素材の樹脂を使っているために質量が軽く、手に重さを感じることはありません。
握った感じも他のメーカーが使うアクリルレジンに比べると柔らかさを感じます。
これらの特長はエボナイトに通じるところですが、変色や臭いがきになるエボナイトの欠点を解消した素材だと思っています。
素材の軽さ、柔らかさは使っていて気分が良いし、多くのイタリアの万年筆の特長である多すぎない適度なインク出とペン先のフィーリングの良さもあって、努めて使おうとしなくても自然に手が伸びる万年筆になっています。
井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」を読んでボローニャの街が中央政府とは距離を置いた住民自治によって発展してきた街だと知りました。
1940年代には、イタリアファシスト党やナチスドイツを市民兵であるパルチザンが戦い占領から自治を奪い返した歴史や、社会的弱者の自立を助ける施設を個人が立ち上げて市民の協力によって軌道に乗せたり、市民の声を反映させて古い建物をそのまま利用して会社や文化的な施設として利用したりなどなど、ボローニャ独自の街を良くしようとする活動は住民主導で行われているとのこと。
オマスもそんなボローニャ人気質の中で生まれてきたことは間違いなく、またボローニャの街の発展にも貢献してきたのだと考えると、オマスの万年筆に自分たちの街は自分たちで何とかするという住民自治を貫いてきたボローニャの人たちの大人の精神も感じるのです。
4時間に及ぶ昼休みをとり、夕方になるとスーツでビシッときめて街に出て、友達同士でただおしゃべりしている。そうかと思えばただブラブラと散歩している男たちの姿もまたボローニャ人のそれであり、なかなかおもしろい。
端正で破綻のないフォルムと柔らかな持ち味と書き味のアルテイタリアーナ万年筆は、ボローニャの男たちの姿そのものだと思っています。
*画像は店主愛用のアルテイタリアーナミロード(ブラック)です。