透明ボディへの思い

透明ボディへの思い
透明ボディへの思い

私の暑い夏の過ごし方で、一番好きでこれが夏の醍醐味だと思っているのは、最近時間がなくて少なくなったけれど、暑い日中に板の間の床の上に枕だけ置いてズボラな姿で寝そべって本を読むことです。

床の冷たさを背中に感じて本を読む。
子供の頃の記憶で、父もいつもそうやって重そうな本を読んでいました。
しばらくして見ると、寝てしまっていることもあったけれど。
本が好きな人にとって、こんな幸せな時間はないのかもしれません。

本を読んでいるとメモをとらなくてはいけないこともあります。
後で書こうと思っても、絶対に忘れてしまうのですぐに書かなければいけない。
寝転んだ状態で書くのに一番いいのは軽い鉛筆、ではなく、筆圧をかけなくても逆さ向きでも書くことができる万年筆です。

鉛筆は筆圧をかけないと薄くなってしまうし、ボールペンは一部のものを除き、逆さ向きではかくことができません。
万年筆は毛細管現象の働きでペンポイントまでインクが流れてきていますので、ちゃんと調整された万年筆なら、紙に当てるだけで上を向いていても書くことができます。
その体勢で長時間書くとペン芯内のインクがなくなって書けなくなりますが、ペン先を下にするとタンクやカートリッジ内のインクがすぐにペン芯に補充されます。
枕に寝転んで書くことはないけれど、ソファにもたれた上体だけ起こした体勢での書きものは休みのたびにしています。

こんな体勢でものを書くことが多いから、私には立派なノートよりも軽く切り取りができるメモ帳の方が良くて、でも何でもいいわけでなく、罫線はちゃんと書く気持ちを盛り上げてくれるものの方がいい。
そこで原稿用紙罫のサマーオイルメモノートの替紙を原稿用紙罫で作りました。

そういう背景からも分かるように、これはデザイン的な面白さを求めたものではなく、大真面目に実用的な理由があって作っています。

寝転んだ体勢で書くのに適した万年筆の条件は、ボディが軽く、ペン先は硬め。更にインクがペン芯まで降りてくることが確認できる透明ボディであれば最高に条件が整い、M200クラシックデモンストレーターはぴったりだと思います。

そういうズボラな万年筆の使い方にも、ペリカンM200は妙にはまってしまう。
透明のデモンストレーターボディに金の金具は、何となく古臭い印象もあるし、下手をすればチープにさえ見えます。
でもこの古臭さやチープさに味わいが感じられて、何か懐かしい気分にさせてくれます。

全然関係はないけれど、透明のものを見るといつも連想してしまう観覧車の話をしなければいけません。

一昨年の夏、家族で横浜へ行った時に泊まっていたホテルの向かいにあった大きな観覧車に乗りました。
私は岩国の錦帯橋の上で足がすくむほど高所恐怖症であるにも関わらず、45度おきにある透明の部屋に乗ろうと言い出してしまいました。
外壁だけでなく、椅子も床も透明で、高さを忘れるために目を反らすところがありませんし、目をつぶるのはお金がもったいない。

私たちが乗った部屋が地上を離れ始めた時にしまったと思いましたが、もう逃げ道はなく、手に汗を握りなるべく遠くだけを見るようにして、何とか1周を耐え、地上に着いてドアが開いたと同時に、転がり出るように一番最初に外に出ました。
高所恐怖症で高いところに上がることなど考えられない私を惹きつけるほど、透明のものというのは、特別なふうに見えて魅力があります。

観覧車の話はこの万年筆の良さと全く関係がないけれど、ペリカンM200クラシックデモンストレーターには心を動かす趣と私が勝手に見出した実用性を感じます。