司法試験の万年筆

司法試験の万年筆
司法試験の万年筆

試験が終ったばかりで何ですが、司法試験の受験生の方の使用頻度で1年ほど使われると、必ず自分の書き癖に合ってきて手離せないものになりますので、司法試験のための万年筆のお話をさせていただきます。

司法試験という数時間書きっ放しの過酷な状況に耐え得る万年筆を考えることは、どの万年筆が実用的に優れているかを考えることにも繋がりますので、試験を受けることが絶対にないような私たちにも無関係ではないのかもしれません。

何度も同じことを言っているので飽きてしまうかもしれませんが、司法試験を受験される方にまず候補に入れていただきたいのは国産の2万円クラスのものです。

それぞれのメーカーで書き味などに違いはあるけれど、書き味の良いペン先、適度な太さと良いバランスのボディから長時間の筆記に向いているセーラープロフィット21、パイロットカスタムヘリテイジ912などの万年筆がこれにあたります。
字幅はF(細字)かMF(中細)辺りが7mm罫の答案用紙に合っていると思います。
これらの国産2万円クラスの万年筆は機能的には完璧だと思っていて、日本の万年筆メーカーの良心が感じられます。

さらに上を言うとペリカンM800というものがあります。
値段は5万円もしますので、何か贅沢品のような、見栄えやステイタスで持つもののように思われるかもしれませんが、書くということを突き詰めた、性能を追究した万年筆だと思っています。

太く、重くさえ感じるボディは長時間書くことにおいて最も楽に使うことができるバランスですし、とても硬いペン先はやはり何も気にせず書けて、書くことに集中できる。
ペリカンのペン芯の性能は多くの人が認めるところで、インクによる出方の違いが少なく、いつも潤沢にインクをペン先に送ってくれますので、早いスピードで書いてもついてきてくれます。
字幅はEF(極細)を選択すると司法試験の答案用紙にも使うことができます。

ただ、上記の万年筆は正しい書き方においての話になります。
私は万年筆はただの書く道具なので、使われる方の書きたいように使えばいいと基本的には思っているし、1から10まで決めてしまうようなことは好きではないけれど、万年筆の道理のようなものがありますので、お伝えしようと思っています。

万年筆は紙にペン先を置くだけでインクが出てくれるので、書くのに力が要りません。
力が要らないので、長時間書いても手が疲れが少ないということになります。
力を抜いて書くのにペリカンM800の重さ30gというのは一番適度な重さですし、ボディの直径13mmというのが一番力を抜きやすい。
そういう書き方をすると一番バランスの良い万年筆というのが、上記の万年筆ということになります。

キャップを外して強い筆圧で書く場合、万年筆の黄金バランスはそれほど関係なくなりますので、この正しい持ち方、書き方ができるかで選ぶものが変わってきます。
ボールペンでペンの下の方、非常に紙に近いところを握って書いた方が書きやすいという人がおられますが、そういった紙の近くを持ちたい人はペン先の大きな万年筆は持ちにくく感じることがありますので、ペン先が小さめな万年筆をお勧めします。

パイロットカスタムヘリテイジ91、セーラープロフィットスタンダード21などの国産の1万円クラス、ペリカンM400、M600辺りが良いように思います。
司法試験の受験生の方の中には、乾きの早いインクを好まれる方もいて、その場合顔料系インク(普通のインクは染料系インク)を使うことになります。
乾きが早いということはペン先でも乾くのが早いということになりますので、扱いには注意が必要です。
顔料系インク「極黒」をカートリッジで発売しているのがセーラーで、それを使えるメリットがあるのはセーラーのプロフィット21、プロフィット21スタンダードになります。

万年筆を司法試験やその勉強で使うメリットは、手が疲れにくく、早く書けるというのが一番の理由ですが、書き味が良いので書くのが楽しくなるということもあります。
いずれの万年筆を選ばれても、それぞれの方に合わせた調整をしてお渡ししますので、それで少しでも勉強が楽しくなればと思っています。

⇒パイロット カスタムヘリテイジ912
⇒セーラー プロフィット21
⇒ペリカン M800

胸ポケットに万年筆

胸ポケットに万年筆
胸ポケットに万年筆

靴や時計は、良いものを身につけていると一目でそのこだわりが見る人に伝わるものだと思いますが、万年筆には気付かない人が多いかもしれません。
それは少し寂しいことではあるけれど、でもさりげなく自分の主張を込めた万年筆を胸ポケットに差すことは、書くことを大切にしている私たちにとって最もお洒落なことだと思っています。
また、たまにそれに気付いてくれる同志の人に出会うこともあるかもしれませんので、ぜひ胸ポケットに万年筆1本差して欲しいと思っています。

毎月1回第3木曜日に「コラージュで手帳を彩る」という教室をしています。
その時のために切り抜きを用意しておいたのですが、その中にアインシュタインが椅子に座ってパイプを燻らせている写真がありました。
どの年代に撮られたものかは分かりませんが、上着の胸ポケットには30年代後半から40年代のペリカンが差さっていました。
それはとても自然で、日常の道具としてそこに存在しているようで、アインシュタインはきっと良いアイデアが浮かぶと、ポケットに入っているレシートとか、その辺りにある紙切れに、そのペリカンで乱暴に書きとめたのではないかと思わせてくれる写真でした。

さりげなく、とてもサマになっているアインシュタインのポケットに差したペンはただの筆記具ではなくて、あまりにも雄弁にその人の生き方を表しているようなものに思えました。
自分もこんなふうにペンを使いたい。
たとえ書くものが宇宙の構造を読み解く数式ではなくて、ブログの下書きだったとしても。
アインシュタイが胸ポケットにさしていた万年筆と形が近いM101を紹介する手もありますが、他にも 胸ポケットに差してサマになる万年筆というのがあると私は思っていて、それは本当に私の独断と偏見になってしまいますがお付き合い下さい。

クリップの形とボディの長さ、そして雰囲気などから胸ポケットに差して美しい万年筆の筆頭はアウロラオプティマだと思っています。
クリップはエレガントなカーブを描いて細くなり、先端の丸い部分に自然につながっていく大変色気の感じられるものだし、ボディは太目だけどキャップを閉めると長さは短くなります。
上着の胸ポケットにさして、これほど座りのいい万年筆はないと思っています。
クールビズになっていて、シャツで仕事をしてもいい状況でしたら、ミニオプティマでもいいかもしれません。

シャツのポケットの方が底が浅いし、生地が薄く柔らかいので軽い方がいいのでなるべくならミニペンの方が都合がいい。
アウロラオプティマにもミニオプティマにもリザーブタンクがついていますので、外出時のインク切れでも困らないし、そういうところも胸ポケットに差して持ち出すペンに向いているとも言えます。

ペリカンM400は生まれついての胸ポケットに差すペンで、この万年筆は胸ポケットに差して使ってこそその真価が発揮されると思っています。
書くことだけを考えると適度な重量のあるM800の方が書きやすいに決まっていますが、胸ポケットに差して、出先で不安定な状態で書くなどというシチュエーションの場合、M400のサイズが最も使いやすいのです。
クールビズになると、M400のままでも充分対応できますが、M300というミニペンもありますので、半袖のシャツの胸ポケットにM300を差してみてほしいと思います。

当店が提案する胸ポケットに差す万年筆はお洒落のアイテムというデザインだけのものではなく、実用からそのペンを胸ポケットに差すペンとして選んでいる、万年筆を理解している選択だと思っています。

⇒アウロラ(ページトップへ)cbid=2557105⇒アウロラ(ページトップへ)csid=2″ target=”_blank”>⇒アウロラ(ページトップへ)
⇒ペリカン(ページトップへ)cbid=2557105⇒ペリカン(ページトップへ)csid=6″ target=”_blank”>⇒ペリカン(ページトップへ)

SMOKEペンテーブル/ペンカウンター:万年筆の文化の中にあるもの

SMOKEペンテーブル/ペンカウンター:万年筆の文化の中にあるもの
SMOKEペンテーブル/ペンカウンター:万年筆の文化の中にあるもの

趣味の文具箱vol.29の巻頭で紹介していただいて、華々しく世に出ることができた家具工房SMOKE(スモーク)のペンテーブル(5本用)とペンカウンター(3本用)。
こちらは多くの方にご予約をいただき、お渡しまで長くお待たせしてしまいましたが、SMOKEの加藤亘さんの製作が徐々に早くなったこともあって、やっと安定供給することができるようになりました。
ペンテーブル/ペンカウンターは、ペンを美しく飾るためのものと、その姿から感じられる方もおられるかもしれませんが、私は万年筆を楽しみながらも実用の道具を活用するための用と美を兼ね備えたものであると思っています。

当店で6月8日(日)まで開催の「手帳のある風景」の写真展は、どの写真もこだわりと各人の仕事と生活を支える空間が映し出されていて大変面白い。
必要な道具である、手帳と万年筆がある机上の風景を見ていて、この中にペンテーブルやペンカウンターがあっても全く違和感はなく、大切にしている作業をより快適にしてくれる道具入れになってくれる気がします。

それらの写真の中にある万年筆は、ボディの美しさが目立つ万年筆よりも、質実剛健な万年筆、ペリカンのものや国産の万年筆が多く見られます。
きれいなボディのイタリアの万年筆をペンテーブルに飾るような使い方が、当初販売者である私たちWRITING LAB.がイメージした使い方でしたが、もしかしたら日本製の道具然とした黒いボディの万年筆をこれらに立てて、机上に並べて道具とするのが、製作者であるSMOKEの加藤氏がイメージした使われ方なのかもしれません。

このペンスタンドの原型となるものを見たのは、靴・革小物イル・クアドリフォリオの久内さんの工房でした。

シガーケース型ペンケースSOLOのパティーヌ作業が出来上がったものを並べておくためのスタンドとして、加藤氏が久内夕夏さんのために作ったもので、それは家具作りの技術で装飾が施されていましたが、久内さんの工房で道具として存在していました。

国産の黒ボディの万年筆を私は若い頃、もっとデザインをがんばったらいいのにと思っていました。
しかし、それは若さ故の偏った見方だと最近思うようになりました。
国産の黒万年筆は、初見でのインパクトや一時の楽しさよりも、長く使って飽きないということや、使い手がどの年代になって、もっと年老いていっても気後れせず、さりげなく使うことができる普遍性を考え抜いたものではないのかと今では思っています。

新品の状態よりも、使い手が10年、20年と使っていくことを考えているところが、とても万年筆的だと思いますし、それが万年筆の文化だと思います。
万年筆の仕事をしてきて、万年筆はペンそのものだけでなく、その周辺のものであるインクや革製品、紙製品そして木製品をも巻き込んだ万年筆という文化の中心にあるもので、万年筆という文化には、他の製品にない価値や流儀のようなものが存在していると気付きました。
特に華々しく取り上げられることはないけれど、誰もが1本は持っていて、実は一番よく使っている定番の万年筆、パイロットカスタム、セーラープロフィットなどを機能的に、でも少し楽しむ要素を加えて使うことができるものが、スモークのペンテーブル/ペンカウンターだと思います。

⇒SMOKEペンテーブル
⇒SMOKEペンカウンター

WRITING LAB.オールドバーガンディインク

WRITING LAB.オールドバーガンディインク
WRITING LAB.オールドバーガンディインク

WRITING LAB.で今年のインクとして、オールドバーガンディを発売しました。
オールデンの靴の代表的な素材として有名なコードバンの革のバーガンディ(No.8)をモチーフとしたインクです。

No.8は黒っぽい茶色ですが、その中に赤色があるなかなか複雑な色で、コードバンのこの色を好まれる方は多いのだと思います。
新品の状態よりも履き込むほどに味わいを増し、履きシワがこんなに美しい革は他にないのではないかという人もいます。
オールデンの靴は不思議な魅力を持っていると、一度履いたことのある人の多くは思うようで、何人かの方と同じような話をしたことがあります。

ステッチが多少不揃いだったり、ストームウェルトが途中で切れていたりと、細部を見ると適当だったりするけれど、履いてみると柔らかで裸足で歩いているように感じられるソールや足を包み込むようなアッパーのフィット感、そして靴そのものの佇まい。
魅力に溢れた靴で、それはもしかしたら他のものでは代わりがきかないのではないかと思ったりします。

私自身は万年筆のインクの色には実はほとんどこだわりがなくて、それは万年筆を気持ち良く書かせてくれるためのオイルのようなものくらいにしか思っていませんでした。
日常使いの色はブルーブラックばかりで、それはこだわっているように見えるかもしれません。
でもそれは手帳をいろんな色で書きたくないというだけで、ブルーブラックが特別好きというわけでもなく、黒ではつまらないし、でも派手な色は使いたくないということで使っていただけでした。

お客様に手紙を書くことも多いのですが、それもやはり常識的な色と自分で勝手に決めてブルーブラックを使っていました。
しかし、デルタコサックの派手な1KSを使うようになって、ボディの色とインクの色を合わせてみたい衝動にかられました。
コサックの赤色に合わせてインクを使ってみたいと思った時、気に入っているオールデンのコードバンの色、ライティングラボのオールドバーガンディを使いたいと思いました。

オールドバーガンディでお客様に手紙も書くようになりました。
最初、失礼ではないのか?となかなか勇気が要りましたが、お送りしたお客様にはなかなか好評で、良い色なので何のインクか教えて欲しいと問い合わせをいただき、気を良くしています。

年をとると派手な色を好むようになるというわけではないと思いますが、こういう色を使いこなす大人に、何となく憧れていたことを思い出しました。
でも以前の私では、まだまだ若造が粋がっていると思われるのがオチだったと思うので、やはり年をとったということなのかもしれません。

⇒WRITING LAB.オリジナルインク「オールドバーガンディ」

ラミーサファリ2014限定色 ネオンコーラル

ラミーサファリ2014限定色 ネオンコーラル
ラミーサファリ2014限定色 ネオンコーラル

万年筆は書く楽しみを教えてくれるものでもありますが、万年筆の物作りを知ると、それだけではないのだと思います。

例えばパイロットの万年筆はどれもペン先の寄りが強い。
ペン先の寄りというのは、切り割りを中心としたペン先の左右の寄り添い加減のことで、これが離れていると毛細管現象が働きにくく、インクがペンポイントに達しようとする力が弱くなって、書いているうちにインクが途切れたり、書き出しが出なかったりします。
逆に寄りが強すぎてもインクの出が悪く、ペン先が硬く感じられます。
パイロットの万年筆はこの状態のものが多いですが、パイロットインクはサラサラした性質なので、ある程度寄りを強くしてもインクが出てくれるし、多少インクの出に不満を持っていたとしても使い込むと気持ちよくインクが出てくれるようになります。

近年書く人の筆圧がボールペンに慣れているせいか、以前よりも強くなっていて、寄りが弱いとペン先が開いてインクが途切れたり、強い引っかかりを感じたりすることが多い。それを防止するために、パイロットは敢えて寄りを強くしています。

筆圧軽く書く人が他社のインクを使って書く場合は、寄りを弱くするというペン先調整が必要になりますが、こういう人が多い事を想定してペン先をセッティグしていることを知ると、信念のようなものを感じました。
狙い(ビジョン)があって、初めてもの作りをする。信念が貫かれるのだと思いました。

万年筆の物作りには、わりと明確にこういったポリシーのようなものがあって、誰にでも売れればいいというものにせず、信念が貫徹されている。
ラミーサファリにもそれがあって、比較的安い価格の中に、万年筆を使い始めた子供たちでも簡単に扱えるような工夫が色々盛り込まれています。

正しく握ることで、ペン先の書きやすいところが紙に当たるようになっている、持ち方を教えてくれるグリップ。
インク残量やインクの色を確認することができる、ボディに空けられた窓。
キャップを付けずにボディだけを机に置いても転がらないように配慮された、平面のあるボディ。
鞄のストラップにも挟むことができる頑丈なクリップ。
カートリッジは首軸に置いて、ボディを閉めるだけで差さるようになっているなど、その機能の全てが、万年筆の使い方を覚えようとしている子供たちというターゲットに向かっている。

その仕事に美しさを感じるし、茶道の全ての所作、道具などの設えはお客様に美味しいお茶を飲んでもらうことという目的に向かっているという、長く続くものにある筋の通った気持ちよさをサファリにも感じます。

万年筆を初めて使う人に勧める万年筆として、金ペン先の万年筆を勧めたいといつも思うのは、万年筆らしい柔らかい書き味を味わったら、その人は万年筆を好きになってくれてこれからも使い続けてくれるのではないかと思うからです。
しかしサファリも、初めて使った人が万年筆のことを好きになって、これからも万年筆を使うように仕向けてくれるものだと思います。
私たち、ある程度万年筆を使っている者は、自分がそうであったように、万年筆を使うことで人生が良くなる人を増やすことに貢献しないといけないと思うし、そこまで言わなくても、万年筆を使うように勧めることで、その人の毎日の中に書くという張り合いを持ってもらうことができます。

万年筆を使う人を増やすための私は店をやっていて、サファリはその目的のために外すことのできない、当店の貴重な定番商品になっています。
毎年発売される限定色はサファリを勧めやすいものにしてくれています。

*画像は2013年の限定色ネオン(蛍光イエロー)とネオンコーラル(蛍光ピンク)です