ペンポイントの美

アウロラ88クラシック F

店の仕事は常に試行錯誤だと言うと、恥ずかしいことなのだろうか。

企画や試みなど、失敗したと思うこともあれば、上手くいくこともあります。もちろん他人事ではなく店がダメになったら生活に困るのだけど。

でも次から次に起るハプニングにどう対処するか、真面目に楽しむしかないと思っています。

今、過去になかったようなことに世の中がなっていて、普通に仕事をすることが難しくて不安も多いけれど、こういう状況の中でどうやって仕事をするか正解はない。どうすれば店を守ることにつながるのかというふうに考えるようにしています。

自分がやりたいこと、楽しいと思うことをやってみて、何が世間の人に反響があるかを聞いてみるのもその一つです。

今取り組んでいるのは、ペンポイントの拡大写真をお見せして、その美しさを感じてもらうというものです。

私がいつも見ている、25倍のペンポイントの景色を皆さまにも見てもらいたいと思いました。どれくらいの人が私と同じようにペンポイントを美しいと思ってくれるのか、これは定着するものなのか見てみたい。

万年筆の仕事を始めた頃からルーペでペンポイントを見て、その書き味を確かめてきました。これが今の自分の仕事をする上での財産になっていると思います。

ルーペで見るペンポイントは美しい。軸の美しさや書き味の良さと同じように、これも万年筆の価値のひとつだと言えます。

メーカーのよって、ペンによって様々な書き味の違いがあるように、ペンポイントの形も本当に様々です。

一度見たペンポイントは記憶のどこかにあって、かなり月日が経って同じペンポイントを見た時に以前に見たことがあると思い出すことがよくあります。

ペン先調整に際して、私はまずルーペで見ているペンポイントが一番美しく見えるようにしたいと考えていて、そこからご希望や書き方に合わせていきます。

ペンポイントの美しさを構成する要素は、「形」「左右の関係」「光沢」の3つだと思います。

その形とは、書きやすそうな形、書き味がよさそうな滑らかな曲線の美しい形であること。

万年筆は書くためのものであるので、その書くという機能を高い次元で実現できそうなペンポイントの形が美しい形だと思っています。

左右の関係とは、切り割りを中心とした左右のペンポイントの関係です。食い違いがないことは当然ですが、開き過ぎていても不格好です。適度に寄っていることがペンポイントの美しさを構成する左右の関係において重要です。

そして光沢も重要です。

必要以上にペンポイントを磨くと光り過ぎて、冷たい感じの光沢になってしまいます。わずかに白みを帯びたような鈍い光沢を持つものが美しいペンポイントの要件として重要だと思っています。

高倍率のルーペを見るのにも慣れが要るし、ペンポイントを見るのもある程度数を見ないと見所が分からないかもしれないけれど、見ているうちに分かっていただけると思います。

写真は先日入荷したアウロラ88クラシック<F>です。アウロラのペンポイントは丸く仕上げてあるのが特長です。筆記角度の許容範囲が広く、使い勝手の良さそうな大らかな使い心地のペン先と言えます。