AURORAアンビエンテ・デゼルト

私たちの仕事は万年筆やステーショナリーを販売することですが、それらの販売を通して伝えたいメッセージをそれぞれの店が持っていると思っています。

逆に言えばそのメッセージに合ったものを選んで品揃えするのがお店で、私たちが何も言わなくても品揃えはその店のメッセージを雄弁に語っています。

当店の品揃えにおいて外せない大切な存在のひとつがアウロラです。

アウロラは自分でも使っていますが、安心して使うことができる機能性と、使っていて楽しい、持っていることが誇らしくなるような程よい華やかさのあるペンだと思っています。

仕事でアウロラのペンを取り扱っているうちに、アウロラをはじめとするイタリアのメーカーは、修理に対する考え方が手厚く、直しながら長く使うことを考えていることが分かりました。

その方がお客様は次もそのメーカーのペンを使いたいと思ってくれるし、本来万年筆とはそういうものだと思いますので、イタリアのメーカーの修理の対応はとてもスマートで、洗練されたものに感じます。

手厚い修理が可能なのは、全ての部品を自社で一貫生産しているからです。それは今のモノ作りからするとあまり効率の良い方法とは言えず、たくさんの種類のペンを作ることができません。だけど自社で全ての部品を作っているからこそ、いつでも修理の対応ができる。

アウロラの自社一貫生産のポリシーは、コロナ禍で流通が止まって他社がモノ作りができなくなった中、変わらずペンを供給し続けていることでひとつの正しさが証明されました。万年筆を通して仕事の教訓になることがよくあるけれど、またひとつ大切な教訓を得たと思いました。これは後世に語り継がれてもいいことで、アウロラはまたひとつ伝説を作った。

アウロラの未来に遺したい地球の自然シリーズアンビエンテの「デゼルト」が発売になりました。

灼熱の砂漠をイメージした少し赤味がかったオレンジ色のボディは、以前発売したマーレアドリアの甘めのオレンジとは違う色で、このペン専用のアクリルレジンが使われています。

この、テーマに沿ったアクリルレジンの色作りがアウロラのペンの真骨頂で、今までにも数々の名品を作ってきました。

軸の美しさがアウロラの万年筆では目立つ部分ですが、私は書き味においてもアウロラは優れていると思っています。

ペン先の寄りが適切に調整されて、エボナイトのペン芯がピッタリとペン先に沿った時のアウロラの深みのあるいい書き味は、現代の万年筆の中でも最もいいもののひとつだと思います。

私はどうしてもアウロラについて語ることが多くなってしまいます。

それはアウロラのペン作りの精神から多くのことを教えられるからで、アウロラは私にとって仕事の教科書になっています。

⇒AURORA アンビエンテ・デゼルト

最後のプラチナブライヤー万年筆

プラチナブライヤーはプラチナ萬年筆らしい、日本の万年筆らしい他にない渋い名品だと思っていました。

硬めのペン先は筆圧の影響を受けにくく、濃さの均一な文字を書くことができます。

勘合式のキャップはこのクラスの万年筆としては珍しいですが、素早くキャップの開け閉めができるので仕事でも使いやすく、少し書いてはキャップを閉じる、会議や打ち合わせでとても重宝するものだと思います。

そして最も特徴的なのはブライヤーのボディです。

ブライヤーはシャクナゲ科の植物の根の瘤部分です。石がたくさん埋まった土の中で根はそれらにぶつかり、ねじれながら伸びることで硬くなり、ブライヤーの特長である複雑な模様になります。

ブライヤーはパイプの素材として有名です。硬くしっかりした質感と、目が詰まっていることで質量が高くなり、適度な重量感があります。長い時間、手の中で感触を楽しみながらタバコを燻らすパイプには適していた素材と、唯一無二の美しい模様が珍重されました。

それらは万年筆の素材としても最適な条件です。

プラチナではこのブライヤーに拭き漆加工を施しています。

拭き漆とは漆を布につけて素材に馴染ませるように塗布する技法です。刷毛を使って何度も重ね塗りして木目を際立たせる漆塗りとは違って、防水、汚れ防止のための技法で、表面に漆の層ができるほどではない、自然な風合いに仕上がります。

木の手触りも残り、使い込むことで色変化や艶が出るエイジングも楽しめます。

私はこの万年筆を、当店の万年筆のあり方を象徴するものだとして販売してきました。

細字は手帳に書く時、細くくっきり書くことができるし、中字と太字はその硬いペン先からダイナミックな書き味を得ることができます。

そして木のボディを味わいながら育てる醍醐味。万年筆はただ書くためだけのものではなく、書くことを楽しみながら、そのものを楽しむこともできます。

この万年筆に海外の万年筆のような華やかさはないけれど、静かな楽しみと他にない唯一無二のものを手にしているという満足感が得られるものだと思って、多くの人に趣味性も感じてもらえる万年筆として伝えてきました。

ブライヤー万年筆は長く欠品していましたが、廃番になるということで、今回最後の製作分が入荷しました。

プラチナの最も特長的な万年筆ブライヤー万年筆がこれで最後だと思うととても残念ですが、気になっておられた方はこの機会に手に入れていただきたいと思います。

⇒プラチナ ブライヤー万年筆

「”&” in 横浜」とビスコンティフェア

今週末5/14(土)15(日)は横浜で590&Co.さんとの共同出張販売「“&” in 横浜」を開催しています。

出張販売には私が一人で行きますので、店は通常通り営業しています。店では5/14(土)~29(日)ビスコンティフェアを開催いたします。

フェアの内容は、ビスコンティヴァンゴッホ以上のペンをお買い上げの方にマイペンシステムでの天冠のオプションをサービスでお付けするというものです。

”マイペンシステム”というのは、天冠のロゴマークの部分に、イニシャルなどのアルファベットや宝石のようなレジンに付け替えて、オリジナル仕様にできるというものです。

ビスコンティが操業して40年が経ちました。

初期の限定万年筆の中には伝説の万年筆工房加藤製作所のものもありました。

加藤製作所は、古くから行われていたセルロイドを轆轤(ろくろ)でひくという製法で万年筆を作っていた、大阪市生野区の万年筆工房です。

若い頃、加藤製作所の加藤清さんを何度も訪ねてお話をうかがって、ビスコンティの話もうかがっていましたので、遠いイタリアの万年筆メーカーでありながら、勝手に親近感を持っていました。

世界で話題になって業界を驚かせたビスコンティの万年筆を、実は日本の大阪にある町工場で一人の職人さんが作っていたというのは痛快な話です。そんな職人さんたちとの交流で、色々な事を教わりました。そして今自分は万年筆の仕事をしています。

加藤清さんは、80年代に入って日本での万年筆需要が下火になった頃、中東での販売に切り替えるなど世界を視野に入れて活動されていました。その姿は今の自分の感覚からすると、かなり先に行っているパイオニアだと思います。

ビスコンティとは、海外での取引を求めて出品していた世界的なステーショナリーの展示会で出会ったそうです。

日本のセルロイド万年筆作りを採用していたビスコンティの万年筆作りは常に進化していると思って見てきました。

ペン先の素材の変遷がそれを象徴していて、最初は14金と18金のペン先でしたが、10年ほど前からより柔らかい書き味を求めて、パラジュウムを採用しています。

パラジュウムペン先はとても柔らかく、この書き味を好むお客様もたくさんおられましたが、近年また18金とステンレスに変わっています。デザインへのチャレンジが目立つビスコンティですが、書き味にもこだわって探究していることが分かります。

ビスコンティの万年筆を大きく3つのシリーズに分けてお話いたします。

ヴァンゴッホに代表される、ゴッホの絵画に着想を得て、カラフルなアクリルレジンをボディにしたシリーズ。

キャップがマグネットでロックするという斬新な構造になっていて、ペン先はステンレス製で手頃な値段になるように設定されています。そして絵画のように美しく、様々なバリエーションのボディカラーがあります。

ホモサンピエンスは、尻軸を引き上げて押し込むことで、一気に大量のインクを吸入するダブルタンクパワーフィラーの吸入方式を採用しています。古くからの万年筆好きにはとても魅力的に感じられるシリーズで、私は一番ビスコンティらしさを感じています。

キャップの開閉もネジをグルグル回す仕様ではなく、軽くひねるだけで開閉ができる画期的なキャップ構造になっていて、スマートに書き始めて書き終えることができます。

黄金比をデザインに取り入れた美しいディビーナシリーズは吸入ノブを引き出し、そのノブを回転させることで、インクを吸入する凝った作りになっています。

ビスコンティの万年筆もイタリアの美と遊びの追究を形にしたもので、オーソドックスな万年筆では物足りなくなった人にも、ぜひ使っていただきたいです。

*準備が出来次第、WEBでもご紹介予定です

ペンを立てる2

ボールペンは気体の圧力でインクを押し続ける加圧式のもの以外、ペン先を上に向けて書き続けることはできません。

上に向けて書き続けると先端から空気が入り、インクを分断してしまうからです。そしてそうなってしまうと、もう二度と書くことはできません。

でも万年筆は、ペン先を上に向けた状態、例えば寝転んだ態勢でも書き続けることができます。

これはペン先とペン芯が適度に密着していて、重力に負けない毛細管現象の働きで、ペン芯で保持しているインクをペン先に押し上げているからです。ソファでテレビを観ながら寛いでいる時にふと思いつくことがありますが、そういう時メモするのにも万年筆は使いやすいです。

もちろんペン芯内のインクがなくなれば上に向けた状態では書けなくなってしまいますが、万年筆を立てて置いておいてもすぐに書けるのは、ペン先とペン芯のこのような働きがあるからです。

もう7、8年作り続けている商品で、店でも私の作業机兼接客テーブルに置いて使っているスモークの「ペンテーブル」があります。

これは5本の万年筆を円状に並べ、飾るように置いておけるペンスタンドですが、私はこれにペンを立てることで、万年筆が道具としてより機能的になると思っています。

数ある万年筆の中でも最も使用頻度の高いものをこのスタンドに立てて机上に置いて、用途によって使い分ける。ペンテーブルに立てておくとペンを選びやすいし、取り出しやすい。ペンが立っているので、省スペースでペンの置場を確保することができます。

万年筆を道具として揃える時、まんべんなく細字から太字や極太まで揃えるか、一番よく使う字幅ばかりを揃えるのか迷うところだと思います。

例えば5本用のペンテーブルにどのように揃えるか、私の場合、用途や自分の文字や書き味の好みからMかBのものが多く、日々使う万年筆はそれらがほとんどなので、太いものばかりを立てて、それらを換えながら使いたいと思います。

ペンを立てて飾るだけでなく、道具として活用するのに使いやすいペンスタンドが、ペンテーブル/ペンカウンターです。

バリエーションとして、5本を円状に立てるペンテーブル、3本を横並びに立てるペンカウンター、10本を横並びに立てるロングペンカウンターがあります。

590&Co.さんとの共同出張販売「“&” in 横浜」に、5本用と3本用をお持ちいたします。

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