万年筆はそれぞれ書き味に特長があって、私はその違いを味わいながら使う楽しみを伝えたいと思っています。
デザインに個性のあるものを見るのも楽しく、それも万年筆のひとつの楽しみだと思いますが、書き味の違いを感じることは大人の楽しみだと思っています。
万年筆の良い書き味、というと柔らかいペン先をイメージしますが、硬いペン先には硬い故の良い書き味があります。
硬い書き味なら金ペンでなくてもいいのではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。
大切に仕舞っておいても勿体無いと思って最近常用している古いシェーファーのライフタイムなどは、分厚い金の地金の硬いペン先の万年筆です。
でも少し手ごたえのある滑らかな書き味があって、安心感を持って書くことができます。その書き味は1930年代、40年代隆盛した極端に柔らかかったイギリス製の万年筆に、パーカーデュオフォールドとともに対抗したものだと思っています。
現代の硬いペン先の万年筆というと、プラチナが挙げられます。
筆圧の強い人は安心して力を入れて書くことができますし、手帳に細かい文字を書く人は、硬いペン先だからこそ筆圧に影響されない安定した濃さの揃った文字を書くことができます。それはパイロットやセーラーにはないプラチナの特長で、事務的に文字を書く道具として、とても使いやすいものだと思います。
万年筆を道具として使っている人は、ペンケースにプラチナセンチュリーを1本入れておいてもいいのではないでしょうか。きっとこういう万年筆もあってよかったと、硬めのペン先の書きやすさを実感してもらえると思います。
しばらく動きのなかったプラチナから、2000本の限定万年筆が発売されました。
シェイプオブハート第二弾「イヴォワール」です。
天冠部が透明のドーム型になっていて、その中にジルコニアとハート形の金片が2枚入っている、きらびやかでゴージャスな仕様になっています。
ハート形の金片はペン先のハート穴を抜いたものです。
ペン先の切り割り根元の穴をハート穴と言いますが、ハート穴と言いながら実際にハート形になっているメーカーは少なく、今ではモンテグラッパの高級品とプラチナくらいではないかと思います。
天冠のドームがこの万年筆のアクセントですが、首軸は艶ありのホワイト、ボディはマットな質感のホワイトになっていて、高級感のある仕上がりになっています。
日本の万年筆は書き味の違いを追究した渋好みのものが多かったけれど、特長ある書き味を大切にしながらもデザインに特長を持たせたシェイプオブハートのようなものも出てくるようになって、より多様な万年筆のあり方を示すようになってきました。
それは今まで万年筆を使ったことがない方が、万年筆に興味を持って使うようになってくれるようになったからだと思います。一過性のブームではなく、趣味のもののあり方として定着して、文化になってくれるものだと思っています。