WBCの準決勝が気になって、店ではスマホの文字中継から目が離せませんでした。画像を見られなかったので、決勝戦のあった翌日の定休日は、もちろんテレビにかじりついていました。
どちらかと言うと、まだコロナ禍から抜けきれていない元気のない日本でしたが、WBCの優勝で日本中が勇気づけられて、大きな力をもらったのではないかと思います。
侍ジャパンの選手たちはとてつもなく大きなことを成し遂げた。それはきっと彼ら一人一人が血のにじむような努力を重ねてきて、その力を世界レベルにまで高めてきたから決勝でアメリカに勝つことができたのだろう。
私たちは自分の仕事において、彼らのような大きなことを成し遂げることはないかもしれませんが、頑張ろうと思わせてくれる彼らの活躍でした。
私たちの仕事は今だけ良ければいいわけではなく、長い間立ち続けて、最期まで立っていることを目指すようなものなので、スポーツの世界とはまた違った結果の出し方をするのだろうと思います。
そんな盾やトロフィーのない戦いの中で、密かに手に入れて、自分の記念碑的なものになる万年筆を当店では揃えておきたい。万年筆にはそんな存在でもあると思っています。
いつか手に入れたいと思える万年筆は、目標に思い続けることができる定番万年筆である必要があって、そんなふうに思える定番万年筆はそれほど多くないのではないかと思っています。
そんな特別な定番万年筆のひとつが「アウロラ88クラシック(ゴールドキャップ)」です。
最近では少なくなった、金キャップに黒軸の万年筆。力強い大人の威厳を感じさせてくれるシンプルな万年筆です。
個人的に、黒×金の万年筆が良いと思えるのは40歳を過ぎてからだ、と思っているので、この万年筆の魅力はもしかしたら若い人には伝わらないかもしれません。でもある一定の年齢を超えた人には、どうしようもなく惹かれる万年筆だと思います。
88クラシックには近年、スターリングシルバーキャップがラインナップに復活しています。コーティングされていない銀のキャップは、使ううちに落ち着いた光沢になって、黒ずんできて凄みが出てきます。純銀を証明する刻印が天冠とバレルに打たれていて、ある意味ゴールドキャップよりもよりジュエリー感があって、記念碑的な要素は強いかもしれません。
ゴールドとシルバーのメタルキャップの圧倒的な存在感に目が奪われますが、この万年筆を持ってみると、自然なカーブが手に馴染み、非常に握りやすい持ち心地の良い万年筆であることが分かります。
重そうなキャップですが、尻軸にはめて書くとバランスが良く、決して後ろに引っ張られるようなことはありません。
ゴールドキャップもシルバーキャップも限定品とは違う14金のペン先です。アウロラの18金ペン先は初めから柔らかく良い書き味であることが多いですが、14金ははじめ硬めで、使い込むうちに柔らかい書き味になってくると言われています。
硬めと言われるペン先ですが、ペン先調整で気持ちいい書き味に仕立てて、使い込んでいただくのに相応しいものにしてお渡ししています。
目標にして、何かの記念に手に入れるペンだからこそ最高の書き味にしたい。そのために、もっと腕を磨いて、相棒の調整機も常に良い状態にしておきたいと思っています。
当店は、いつか手に入れたいと思う特別な万年筆を手に入れるのに相応しい場所でありたいと思っています。