綴り屋の「漆黒の森」という万年筆を見て、万年筆のフォルムについて考えました。
綴り屋さんの万年筆の一番の特長は、これ以上ないと思わせる軸のラインの美しさにあると思っています。
キャップやボディの絶妙な膨らみ具合と、キャップトップあるいは尻軸の角から頂点への角度、キャップとボディのわずかな段差など見所が多く、見ていて飽きることがありません。
強いて言えば2000年以前、ルイ・ヴィトンの傘下に入る前の古いオマスがこれに近い姿をしていたかもしれませんが、綴り屋さんの方がより全体的にボリュームがあって、魅力を感じます。
これがたくさんの万年筆を研究して計算して作られたものなら、綴り屋の鈴木さんには何千本という万年筆コレクションがあるに違いないけれど、きっとそんなことはなくて、非常に高い美的感覚を持っているのだと思います。
でもきっと若い頃の私では、綴り屋さんの万年筆の良さが分からなかっただろうと思います。
今までたくさんのペンを見て、触れる機会に恵まれてきました。そして目が養われてきて、このペンの良さに気付けた。今出会えてよかったと思っています。
素材の良さや、デザインの華やかさも万年筆の楽しみですが、フォルムにその美しさを見出すのも製作者の意図を汲むようなところがあり、それがモノを理解するということなのだと思います。
フォルムの美しい万年筆としてはアウロラ88も挙げられます。
キャップトップの丸み、軸の膨らみ方、キャップとボディの段差の少なさなど。個人的な見解ですが、似た形のバランス型(両エンドが丸い万年筆)の万年筆の中で最も美しいフォルムをしていると思っています。
1940年代に生み出されて、今も美しいと思えるフォルムを持つアウロラ88は、万年筆の古典と言えるのかもしれません。
フォルムの美しさとは少し違うかもしれませんが、ドイツの万年筆は直線を基調として堂々としたデザインのものが多いのではないでしょうか。
ファーバーカステルクラシックは、直線的なシャープなデザインの中にクラシックな意匠が盛り込まれていて、独特ないいデザインだと思います。
この万年筆は1990年代に登場した万年筆で、歴史あるモデルではありませんが、クラシックさを感じるのは古いペンシルカバーから着想を得たデザインだからなのだと思います。
オーソドックスに見えますが、ペリカンも直線的な軸とエンド処理に丸みを持たせて温かみのある独自のデザインをしています。
私たちにとってペリカンは多くの人が持っていて、特に目新しいものではないかもしれませんが、そのデザインは飽きのこない深みのあるものと言える。こういうものを日常の道具にしたいと思える万年筆です。
ひとつひとつ挙げたらキリがないけれど、長さ10数センチ、太さ数10ミリの小さな棒なのに、色々な形の違いがあってそれを見るのが楽しい。
様々な万年筆に自分なりの美を見出して使う。万年筆は、それぞれの人の美意識を表すものであって欲しいと思います。