神戸ステーショナリー

9月23日に、原宿で開催された「趣味の文具祭」に参加しました。

当日7時半前に集合して準備、10時に開場、18時閉場後に撤収作業をして新幹線で神戸に帰る、というハードなもので、凝縮された1日はあっという間に過ぎて、一息ついたのは品川駅待合室の椅子の上でした。

もうこんなハードな仕事はしない、と思いながらも、しばらく経つと忘れてしまって、またスケジュールに入れてしまうのだろうな。

趣味の文具祭では他のイベントでは売れているオリジナルインクはあまり売れませんでした。綴り屋さんの万年筆はやはり人気がありましたが、神戸の職人さんが作った商品がよく売れていました。

中でもSMOKEさんのチェスの駒のようなペーパーウェイトは人気があって、やはり他所では買えないものが売れるのだと思いました。

神戸家具発祥の地に工房を持つSMOKEの加藤さんの木製品は、神戸の洋館をイメージさせるものだと思っています。独特なモノの雰囲気があって、個人的にも好きな商品です。

元町の革職人藤原さんの1本用のレザーケースやミネルヴァリスシオの正方形カバーも人気で、たくさんのお客様が手に取っておられました。

細かく正確なステッチの革製品は端正な佇まいで、キレのある、腕の良い職人仕事が感じられます。10月開催の神戸ペンショーでは、レザーケースMをリザードとクードゥーで製作して下さいます。

万年筆をメインに16年前に始めた当店でしたが、上質な革の絞りペンケースをル・ボナーの松本さんが開発されて、当店の売れ筋商品になりました。そして気が付いたら神戸の良い職人さんの質の良いものが集まっていて、それが当店の特長になっていました。

当店の開店合わせて、ペンケースを開発されたのかは分からないけれど、直感的に当店にそういうものが必要だと思われて開発して下さったと思っています。

当店よりずっと前に六甲アイランドに鞄屋さんを開業していた松本さんだからこそ、万年筆店の当店に何が必要なのか、そして1つの良い商品の存在がどれだけ大きな価値があるかをご存知だったのだと思います。

松本さんが示してくれたことで間違いなく道が開けて、当店は神戸という場所の恩恵を存分に受けている店になれたのかもしれません。

元町の街を少し歩けば職人さんたちの店があって、様々な商品を作っています。

何のツテもなく飛び込んでお願いした帆布バックのclueto(クルート)さんも昨年は神戸ペンショーに間に合わせて正方形ダイアリーのカバーを製作してくれましたし、今年は正方形ダイアリー用のバックを作ってくれました。

それぞれ個人が何にも縛られずに、自分の思うままにやって、自分の仕事を成り立たせているような自由な雰囲気が神戸のモノ作りにはあります。

そんな横のつながりに当店は大いに助けられている、と外に出て仕事をするたび改めて思います。

3代目のペン先調整機

3月に名古屋まで行って依頼してきた、3代目のペン先調整機が完成したとのことで、機械製作会社の尾崎さんが納品に来て下さいました。

3代目の納品と一緒に、前回の整備の時に交換できなかった2代目調整機のパーツも交換して下さり、森脇の愛機となる予定の2代目も調子よく動くようになりました。

こんな風にメンテナンスして下さる尾崎さんの存在は本当に有難く、尾崎さんを紹介して下さった名古屋の高木雅且さんには本当に感謝しています。

2代目の調整機は、携帯性と複数のヤスリを取り付けることができることを目指して作っていただきましたが、3代目ではさらに静粛性とヤスリのレイアウトの見直し、軽量化、小型化を目指しました。

分厚いアルミのブロックの土台を強化プラスチック製にすることで、劇的に静かになり、軽くなりました。更にヤスリ類も耐久性の高いものが取り付けられるようになりました。

調整時に手を置く台も取り外すとフタのように調整機のヤスリを保護するように設計されていて、出張販売などで持ち運ぶことが少し楽になりそうです。

毎日使う仕事道具へのこだわりを、尾崎さんの手を借りて実現することができるのは、本当に恵まれたことだと思います。

当店のペン先調整機の歴史について振り返ってみると、1代目は2009年から2016年まで使いました。

創業当時は機械がなく、手で調整していました。だから今でも停電などで機械が動かなくなっても、困ることはありません。

しかし、手で調整するうちに時間を短縮したいということと、もっと美しく仕上げたいと思うようになって、機械を作ることにしました。

当店の機械の製作を知り合いの大阪の機械製作会社に頼んで下さった、お客様のHさんのおかげで初代調整機が出来上がりました。

初代の調整機は、2代目、3代目と比べるととてもシンプルなものでしたが、当店が万年筆店としての真剣さを表明するものでしたし、この調整機で私は仕事としての万年筆の調整を覚えました。

大きくて重いので、車がないと運搬することができず、外に持って出たのは代官山蔦屋書店さんでのイベントだけでしたが、ただそれは当店がそれまで店から出ずに仕事をしてきたからでもあります。

2代目は2016年から2023年まで使いましたので、偶然ですがそれぞれの機械を7年ずつ使ってきたことになります。

使ううちに様々な要求が出てきて、その時々で完璧なものを求めてきました。

3代目もこれから長く使って、色々なところに持って行きたいと思っています。

ペン先調整はやればやるほど「気付き」があって、気付きの数だけ良い仕事ができるようになります。機械へのこだわりはその表れで、自分のペン先調整に求めるものがより高度になっていくからなのだと思っています。

革を纏わせる~ミネルヴァリスシオの正方形カバー~

オリジナルダイアリーを発売して10年以上経ちますが、この数年でやっと認知されてきたような気がしています。

このダイアリーを愛用している人が、ご自分の使いこなしについて語れる情報交換ができたらきっともっと楽しい。でも完成したものだということに安堵せず、皆様に使っていただく努力をし続けなければいけないと思っています。

それは店の仕事も同じで、何もしなければすぐ忘れられてしまう。

新しいものを作ったり、ペンショーや出張販売でどんどん外に出たり、自分たちにできることをやり続けていく。その活動に終わりはなく、止まった時はやめなければならない時なのだと思います。

でもそれはそれほど悲壮感のあることではなく、好きであれば誰でも続けられることだと思う。

9月8日~10日に開催された京都手書道具市に参加してきました。

たくさんの人がいるのにどこか優しい雰囲気に満ちていて、京都らしいイベントだと思いました。

きっとこういうイベントにしたいというイメージが主催者の人たちにはあって、そのための気配りがされていたのだと思っています。参加者にとっても快適で気持ちの良いイベントでした。

京都手書道具市に限らず、参加しているどのイベントでもこちらからは何も言っていないのに、よく一緒に出張販売をしている590&Co.さんと毎回隣同士にしてくれているのが面白い。どのイベントでも配慮していてくれていることがよく伝わってきて、感謝しています。

京都手書道具市の主催者のTAGステーショナリーさんが集めたイベントの参加者さんたちは皆さん自分の感性を信じて、それで勝負しているのだと思います。

きっと皆さんご自分の扱っているものが好きで、その世界観に共感してくれる人を増やしたくてその仕事を続けているのだろう。

個性豊かな鋭い感性を持つ人たちの中で、当店はどうやって存在をアピールしたらいいのかと、イベントに参加する時はいつも思います。

当店は自分たちがステーショナリーや万年筆に求めていること、仕事に持ち込める趣味性というものを追究していると思っています。

仕事というのはビジネスもそうですが、家事もそこに入ります。

お客様方の生涯続けて行く仕事を楽しくしてくれるようなステーショナリーを提案して、作っていきたい。

そのひとつの柱が正方形のオリジナルダイアリーだと思っています。

予定やToDoの管理ができて、書く楽しみを感じながら記録できる。きっと多くのダイアリーもそう思って作られているけれど、それに上質な革で作ったカバーを掛けて使うことができるのは、当店の文化だと思っています。

正方形の革カバーは当店近くの革工房の藤原進二さんが作ってくれていて、正確で細かく美しいステッチは彼の腕の良さと手間を惜しまない仕事ぶりが表れています。

プエブロで有名なタンナー、イタリアバタラッシィ社のミネルヴァリスシオを使ったカバーは使ううちに艶が出て、色変化もあり、新品の時よりも時間が経ったときの方が美しいとさえ思えるものになります。

ミネルヴァリスシオの銀面をペーパーなどで擦って艶を取ったものがプエブロです。同じ革なので、そのエージングもプエブロと同様劇的なものです。

仕事をするための楽しみながら書くダイアリーに、触れて、見て、香りを嗅ぐ楽しみを纏った上質な革カバーが今年も完成しました。

⇒2024年正方形ダイアリーカバー・正方形ノート

不良っぽさへの憧れ〜バゲラの革巻きボールペン〜

父が教師、母が専業主婦の平凡な家庭のお坊ちゃん育ちなので、怒れる反抗期もなく、普通の人生を生きてきました。

語れるような、若い頃の無茶をしたような話もなく、それが何となく負い目のように感じていたけれど、そんな気持ちも長い間忘れていた。

きっと自分らしさに折り合いがついて、普通の大人しい人間である自分が恥ずかしくなくなったのだと思います。

それでもある種の不良っぽさに憧れることはあって、そういうかっこいい人を見ると自分はそうはなれないけれど、そうありたかったと思うこともあります。

不良と言っても学生時代に学年に何人かいたような不良と、大人のそれとは違う。

子供の頃の不良はつるんで徒党を組まないと生きていけない弱い人たちだったけれど、不良っぽい大人は自分を周りに合わせることを嫌う、一人で生きていける人で、そんな姿勢から他者を無言で黙らせる存在感のある人だと思います。

バゲラさんの革製品は、そんな私にはない不良っぽさをなぜが感じさせるもので、かっこいいなといつも思っています。

高田さんご夫妻が納品のために当店を訪れてくれて、その作品を見せてくれるたびに、こういうものが似合う人間になりたかったと、自分の不良への憧れを思い出させます。

今回Pineconeも納品してくれて、あのモノのあり方、ただ持って出掛けたいと思わせるところが不良っぽいけれど、他に高田さんが提案してくれた革巻のボールペンもあり、これも不良っぽいカッコイイものです。

キャップを外すのがナイフの鞘を外すような所作にも思えるキャップ式のボールペンで、これで書き始める時相手は一瞬身構えるのではないだろうか。

中身のボールペンはBICで、この選択もバゲラさんらしいものだと思いました。

文房具に知識があって、いろんなものを知っている文具オタクの自分たちなら絶対にBICは選ばない。

でも高田さんは日本のメーカーの軽くスルスル書けるボールペンを選ばず、レトロスタンダードなペンとも思えるBICを選んだ。

高田さんは他に良いものがあるかもしれませんねと言っていたけれど、こだわっていないようで考え抜いてBICを選んだのだと思いました。

その理由について上手く論理的に説明できないけれど、BICを入れるのが一番不良っぽくて、バゲラさんらしい選択だったと私にも理解できます。

自分に一番欠けている不良っぽさはきっと自分たちの仕事においてあってもいい性質だと分かっている。

でも自分はそのカケラも持ち合わせていない。

こういうものを使うことで、自分にも少しは不良性が備わって、いい仕事ができるかもしれないと思わせてくれる、バゲラの革巻ボールペンです。

革巻ボールペンケース 机上用品 – Pen and message. (p-n-m.net)

Pinecone  カードケース・財布 – Pen and message. (p-n-m.net)

代わりのないもの〜2024年版オリジナルダイアリー〜

システム手帳は自分で項目を作って、その分類に従って情報を分けて記録することができるので、工夫して使うことができて楽しく、便利なものでもあります。

分類することやページを作ることが好きな人なら、システム手帳をより楽しく使うことができると思います。

でも時にはそのオリジナルの分類が何かの都合で崩れたり、思ったより使わない項目があったりして、気を付けて管理しておかないと情報が散逸する危険があります。

浅田次郎の「蒼穹の昴」にある、”龍玉を天命を戴いていないものが手にすると、五体がこなごなに千切れてしまう”という伝説のように、システム手帳はその手帳の真の使用者でなければ、情報がバラバラに散逸してしまう。と言うとふざけすぎだろうか。

それはともかく、散逸をふせぐためには、時間の経過という厳然としたものを基準にする方が自然なのかもしれません。ページの進行、分類を日付順にした方が情報は散逸することはなく、後から探し出すことも時間の感覚を頼りにできる。

私はダイアリーを万年筆で書くことも好きで楽しんでいるけれど、結局は自分の好きな仕事がそのダイアリーを使うことでより効率的に進めることができたり、情報を漏らさず記録できるからこそ、使っています。

オリジナルダイアリーの各ページには当然このように使ってほしいというイメージがありますが、結局自分はそのイメージ通りではない、自分の仕事に合わせた使い方になっていきました。

自分のことになって恐縮ですが、私がダイアリーに書き込むことは、予定やToDoはもちろん、毎日の仕入額や売上、来店されたお客様のことまでかなりの情報量があります。

店というのはやはり華やかな場所であると思います。店で繰り広げられているのは、そのお客様が主人公である万年筆をめぐる物語だと思う。

それに居合わせた証人としてその出来事を記録しておきたいと思っています。

この店で起こった素晴らしい出来事を、思い出せる形でちゃんと書いておかないと、それらは過ぎ去っていく時間とともに自分の記憶から消えて行ってしまう。せめて私だけでもそのことをいつまでも覚えている者でいたい。

そしてお客様から聞いた情報やアイデアなどの多岐にわたる情報をダイアリーに書くことで、時間という分類の中で引き出せるようになっています。

自分の店がオリジナルで発売しているから使わなくてはいけないとは思わないので、自由に色々なものを使ってきました。

でも結局、自分の仕事の全てを書き込むことができるこのダイアリーから、違うものに換えることは考えられないと思っています。

このオリジナルダイアリーを使う人それぞれが、ご自分の使い方に合うように自由に使っていただけたら、そんな素晴らしいことはないと思っています。

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